Chapter 33

12.1 自然同型としての極限

さのたけと
さのたけと
2021.05.23に更新

極限の定義についてはまだ不満なことがある.というのは,一応うまく行ってはいるけれども,任意の2つの錐を繋ぐ三角形について可換性条件が残っているのである.この可換性条件を何らかの自然性条件で置き換えたらもっとずっとエレガントになるだろう.でもどうやって?

我々はもはや1つの錐だけではなく,錐全体のコレクション(実は圏をなしている)を扱っている.もし極限が存在するなら(はっきりさせておこう,存在する保証はない),それら錐のうち1つが普遍錐である.その他の錐には,ただ1つの分解射であって,その頂点(cとよぼう)を普遍錐の頂点(\mathrm{Lim}[D]と名付けたのだった)に写すものが存在するのだった(実は,「その他の」という但し書きは落とすことができる.というのは,普遍錐からそれ自身に写す恒等射は自明にそれ自身を通る分解射だからである.).重要な部分を繰り返させてほしい: 任意の錐について,ただ1つのある特殊な射が存在する.錐たちから特殊な射たちへの写像があり,それは1対1対応である.

この特殊な射はHom集合\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D])の元である.このHom集合の他の元はそれら2つの錐の射を分解しないという点で比較的つまらないものである.いまやりたいことは,任意のcについて集合\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D])から1つ射 --- ある特定の可換性条件を満たすような射 --- を選べるようにすることだ.これは自然変換のように聞こえないだろうか?そうに違いない!

しかしこの自然変換で関連付けられる関手はなんだろう?

1つの関手はc\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D])に写す写像である.これは\mathbf{C}から\mathrm{Set}への関手である --- これは対象を集合に写す.これは反変関手である.写像についての作用はこのように定義する: c'からcへの射fを取ろう:

f \mathtt{::}\ c' \to c

この関手はc'\mathbf{C}(c', \mathrm{Lim}[D])に写す.この関手のfへの作用を定義するために(言い換えるなら,fを持ち上げるために),\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D])\mathbf{C}(c', \mathrm{Lim}[D])との間の対応する写像を定義しなければいけない.\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D])から1つの元uを取り,それを\mathbf{C}(c', \mathrm{Lim}[D])の何らかの元に写せるかを見てみよう.Hom集合の元は射なので,次が成り立つ:

u \mathtt{::}\ c\to \mathrm{Lim}[D]

次を得るために,uの前にfを合成することができる:

u.f \mathtt{::}\ c' \to \mathrm{Lim}[D]

すると,これは\mathbf{C}(c', \mathrm{Lim}[D])の元である --- つまり実際,射たちの写像を見つけることができたことになる:

contramap :: (c' -> c) -> (c -> Lim D) -> (c' -> Lim D)
contramap f u = u . f

cc'の順序が入れ替わっており,これが 反変 関手の特徴であることに注意しよう.

自然変換を定義するには,\mathbf{C}から\mathrm{Set}への写像[1]となる別の関手が必要だ.今回は錐の集合を考えることにしよう.錐はただの自然変換なので,\mathrm{Nat}(\Delta_c, D)に注目しよう.cからこの自然変換たちの特別の集合への写像は(反変)関手である.そのことをどうやったら示せるだろう?再び,射への作用を定義しよう:

f \mathtt{::}\ c' \to c

fの持ち上げは\mathbf{I}から\mathbf{C}への2つの関手の間の自然変換たちの写像でなければならない:

\mathrm{Nat}(\Delta_c, D) \to \mathrm{Nat}(\Delta_{c'}, D)

どうやったら自然変換たちを写せるだろう?全ての自然変換は射たちを --- その成分を --- \mathbf{I}の元ごとに1つ選ぶことである.\alpha(\mathrm{Nat}(\Delta_c, D)の元)のa(\mathbf{I}の対象)での成分は射:

\alpha_a \mathtt{::}\ \Delta_c a \to D a

あるいは,定数関手\Deltaの定義を使って,

\alpha_a \mathtt{::}\ c \to D a

である.

与えられたf\alphaについて,\mathrm{Nat}(\Delta_{c'}, D)の元\betaを構成しなければいけない.そのaでの成分は射

\beta_a \mathtt{::}\ c' \to D a

でなければならない.後者(\beta_a)は前者(\alpha_a)から,fを手前に合成することによって簡単に作ることができる:

\beta_a = \alpha_a . f

これらの成分が実際自然変換になっていることを示すのは比較的簡単である.

fについて,2つの自然変換たちの間の写像を成分ごとに構成してきた.この写像は関手

c \to \mathrm{Nat}(\Delta_c, D)

版のcontramapを定義している.ここまでやってきたのは,\mathbf{C}から\mathrm{Set}への2つの(反変)関手があることを見せることだった.そして,それにあたって何も仮定を置いてこなかった --- これらの関手は常に存在するのである.

ちなみに,1つ目の関手は圏論で重要な役割を果たし,この関手を米田の補題の話をするときに再び見ることになる.任意の圏\mathbf{C}から\mathrm{Set}への反変関手には名前がある: これらは「前層(presheaf)」とよばれる.この関手は 表現可能前層(representable presheaf) とよばれる.2つめの関手もまた前層とよばれる.

いま,2つの関手があるのでそれらの間の自然変換の話をすることができる.これ以上の面倒なことなしに,結論を述べよう: \mathbf{I}から\mathbf{C}への関手Dが極限\mathrm{Lim}[D]を持つのは,さっき定義した2つの関手の間に自然同型

\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D]) \simeq \mathrm{Nat}(\Delta_c, D)

が存在するときであり,かつそのときに限る.自然同型がなんだったかを思い出させてほしい.自然同型は全ての成分が同型射(つまり可逆射)であるものだ.

この主張の証明に進むつもりはない.証明の手続きは退屈ではないとしても極めて素直である.自然変換を扱うときは,成分たちに普通注目することになり,成分というのは射である.この場合,2つの関手の行き先は\mathrm{Set}なので,この自然変換の成分たちは関数となる.これらは高階関数である,なぜなら,これらの関数はHom集合から自然変換たちの集合へのものだからである.もう一度言うと,関数を調べるにはその関数が引数に何をするかを調べればよい: ここでは引数は射(\mathbf{C}(c, \mathrm{Lim}[D])の元)であり,結果は自然変換(\mathrm{Nat}(\Delta_c, D)の元,あるいはさっき我々が錐とよんだもの)である.一方,この自然変換は自分自身の成分を持っており,それらは射である.なので,大事なのは上から下まで射であり,それらを追い掛けることができればこの主張は証明できるのである.

一番大事な結果は,この同型のための自然性条件ははぴったり錐の射のための可換性条件であるということである.

次の出し物の次回予告として,集合\mathrm{Nat}(\Delta_c, D)は関手圏のHom集合と思えるということを言っておこう.なので,先程の自然変換は2つのHom集合を結び付ている.この自然変換は,随伴とよばれるより一般的な関係につながっていく.

(和訳:@ashiato45

脚注
  1. 訳注: 3章で触れられている通り,圏\mathbf{C}の対象たちが集合より大きい可能性がありますし,集合の圏\mathrm{Set}は集合にはなりえませんが,このあたりの議論は"just one little nit for mathematicians"と言ってしまっているので,mappingは全部「写像」と訳しています. ↩︎