Chapter 32

12.0 極限と余極限

さのたけと
さのたけと
2021.05.23に更新

原文:2. Limits and Colimits

圏論においては,全ては全てと関連しており,全てのものは沢山の角度から見ることができるように思われる.例えば,積の普遍的構成を見てみよう.今,我々は関手と自然変換を知っているわけだが,ひょっとしたら積の構成を簡単にしたり,一般化したりできるだろうか?やってみよう.

積の構成は2つの対象abを選ぶところから始まり,それらの積を構成したい.しかし,対象を選ぶとはどういうことだろう?この操作をもっと圏論的な言葉で言い換えられないだろうか?2つの対象はあるパターン --- とても単純なパターン --- をなす.このパターンを圏 --- とても単純な圏 --- に抽象化することができる.単純とは言ってもやはり圏である.この圏を我々は\bf 2と呼ぶ.この圏は2つの対象12だけを含み,2つの不可欠の恒等射の他に射を持たない.すると,\mathbf{C}からの対象を2つ選ぶことを,圏\bf 2から\mathbf{C}への関手Dを定義するという操作に言い換えることができる.関手は対象を対象に写すので,この関手の像はただ2つの対象である(あるいは,この関手が対象をつぶすのなら1つかもしれないが,それはそれで良い).さらに射も写すが,この場合は単に恒等射を恒等射に写すことになる.

このアプローチのいいところは,圏論的な言葉の上に成り立っているところであり,我々の先祖の狩猟採集社会の辞書から引っ張ってきたような「対象を選ぶ」といった不正確な記述を避けることができるところだ.さらに偶然にも,これは簡単に一般化することもできてしまうのだ.なぜなら,パターンを定義するのに\mathrm{2}より複雑な圏を選ぶのをやめておく理由は何もないからである.

でも積の話を続けよう.積を定義するための次のステップは,候補となる対象cを選ぶことである.ここで再び,この選択はシングルトン圏からの関手という言葉で言い換えることができる.実際,カン拡張を知っていればこれが正しいやりかただということがわかる.でも我々はまだカン拡張の準備はできていないので,今使える別の技法を使おう: 同じ圏\bf 2から\mathbf{C}への定数関手\Deltaである.圏\mathbf{C}からcを選ぶのは,\Delta_cでできる.思いだそう.\Delta_cは全ての対象をcに写し,全ての射を\mathrm{id}_cに写すものだった.

今,\bf 2から\mathbf{C}への関手\Delta_cDがあるのだから,それらの間の自然変換について考えるのはごく自然なことだろう.\bf 2に2つしか対象がないのだから,自然変換は2つの成分を持つことになる.圏\bf 2の対象1\Delta_cによってcに写され,Dによってaに写される.なので,\Delta_cからDへの自然変換の1での成分はcからaへの射である.それをpとよぼう.同様に,2つ目の成分はcからb(圏\bf 2の対象2Dでの像)への射qである.

すると,これはまさに積の元の定義で使った射影2つである.よって,対象と射影を選ぶ話をする代わりに,関手と自然変換を選ぶ話をすることができる.今回はこの変換の自然性の条件は自明に満されている,というのは,\bf 2には(恒等射以外に)射がないからである.

この構成を\bf 2の他の圏 --- 例えば非自明な射を含むような圏 --- に拡張するには,\Delta_cDとの間の変換に自然性の条件を課さなければいけなくなるだろう.そのような変換を 錐(cone) と呼ぶ.なぜなら,\Deltaの像が,自然変換の要素によって側面をなすような錐(あるいはピラミッド)の頂点になっているからである.

一般に,錐を作るには,パターンを定義するための圏\mathbf{I}から始める.これは小さい圏で,しばしば有限圏である.次に,\mathbf{I}から\bf Cへの関手Dを選び,それ(あるいはその像)を 図式(diagram) とよぶ.次に,\mathbf{C}から何かcを錐の頂点として選ぶ.それを使って,\mathbf{I}から\mathbf{C}への定数関手\Delta_cを定義する.すると,\Delta_cからDへの自然変換が錐である.有限の\mathbf{I}については,錐は単にcと図式(IDでの像)を繋ぐ射を集めたものに過ぎない.

自然性はこの図式の全ての三角形(ピラミッドの壁)を可換にすることを要請する.\mathbf{I}の射fを取る.関手Dはこの射を圏\mathbf{C}の射D fに写し,それは三角形の底辺をなす.定数関手\Delta_cfcの恒等射に写す.\Deltaはこの射の両端を1つの対象につぶし,自然性でできる四角形は可換な三角形となる.この三角形の両腕は自然変換の成分となる.

これで錐が1つできた.すると, 普遍錐(universal cone) に興味が出てくる --- ちょうど積の定義で普遍対象を取ったように.

これに取り組むにはたくさん方法がある.例えば,所与の関手Dに基いて錐の圏を定義することができる.この圏の対象は錐たちである.けれども,\mathbf{C}の全ての対象cが錐の頂点になれるわけではない.というのは,\Delta_cからDへの自然変換が存在しないかもしれないからである.

これを圏にするために,錐の間の射を定義する必要もある.これらは,頂点の間の射で完全に決定される.しかし,全ての射が役目を果せるわけではない.積の構成のときには,候補対象たち(頂点たち)の間の射は射影たちの共通の分解因子でなければならないという条件を課していたことを思い出してほしい.具体的には:

p' = p . m
q' = q . m

一般の場合でこの条件を翻訳すると,分解射を側面とするような三角形は全て可換であるという条件になる[1]

2つの錐を繋ぐ可換な三角形と,分解射h(ここで,低い錐が普遍的なもので,\mathrm{Lim}[D]がその頂点である)

これら分解射を錐の圏での射ということにしよう.これらの射がちゃんと合成でき,さらに恒等射もやはり分解射であるということは簡単に確かめられる.そういうわけで,錐たちは圏をなすのである.

今,普遍錐を錐の圏での 終対象(terminal object) として定める.終対象の定義は,どの他の対象からもその対象にただ1つの射があるということである.今回の場合,他のどの錐からも普遍錐にただ1つの分解射があるという意味になる.この普遍錐を図式D極限(limit) とよび,\mathrm{Lim}[D]と書く(文献では,\mathrm{Lim}記号の下にIを指す左向きの矢印で書かれたものもよく見るだろう).しばしば手短に,この錐の頂点のことを極限(あるいは極限対象)とよぶ.

直観的には,極限は図式全体の性質を1つの対象に具現化したものである.例えば,例の2つ対象のある図式の極限は2つの対象の積である.その積(と2つの射影)は両方の対象についての情報を持っている.さらに,それが普遍的であるということは,余計なゴミが混ざっていないということを意味している.

(和訳:@ashiato45

脚注
  1. 訳注: ↩︎