Chapter 02

雑談AIを構築する意義

maKunugi
maKunugi
2021.07.31に更新

雑談AIを作ってみる前に

本書をお読みいただいている方の雑談AIへの興味は様々だと思いますが、雑談AIを実際に作ってみる前に、「雑談AIを構築する意義」について少しご紹介します。「雑談AIはそもそもニーズがあるのか?」「雑談AIはビジネスになるのか?」といった疑問が挙がることも多く、まだまだ開発の意義が広く知られていません。雑談AIの作る意義について考えてから実際の作業に進むと、そうでない場合と比べてイメージが変わってくると思いますので簡単に紹介をさせていただきます。

対話システムがもたらすこと

雑談AIは、「雑談」にフォーカスした対話システムです。対話システムとは、人間とコンピュータが会話を行うことができるシステムのことです。対話システムの注目すべき特徴は、コンピュータ(あるいはAI)と人間のインターフェースとして活用が期待される点です。人間とコンピュータのインターフェースはまだまだ扱える人を限定し、尚且つ一定の学習を必要とします。人間間コミュニケーションで自然と利用される「対話」というインターフェースが人間とコンピュータに適用されることで、人間とコンピュータの距離を縮め、社会の様々な問題の解決に応用が可能だと期待されています。

「タスク指向型」と「非タスク指向型」の対話システム

対話システムとして多くの方がイメージするのは、「対話を通じてフライト予約をするシステム」や「対話形式で郵便の配達状況を照会できるシステム」といったシステムだと思います。対話システムでは、このようにある特定のタスクを遂行するためのシステムを「タスク指向型対話システム」と呼びます。タスク指向型対話システムはすでに社会の様々な場面で活用されています。
一方、本書で扱う「雑談AI」は人間と雑談を行う対話システムで、上記のような特定のタスクを持ちません。そういった対話システムは「非タスク指向型対話システム」と呼ばれます。主にビジネスで多く取り上げられたり、ニーズがわかりやすいのは「タスク指向型」であり、実際に多くの成功事例が存在するため発達が先行してきました。それに対し「非タスク指向型」への期待は後発で、活用しているプロダクトはまだまだ多くありません。

「タスク指向型」とは切り離せない「雑談」

「タスク指向型対話システム」といっても、ある特定のタスクを遂行するだけでは不十分です。「メディアの等式」という有名な心理学では、「人間は情報メディアに対して、あたかも現実に接するのと同じように接してしまう」という現象を定義しています。つまり、コンピュータが「対話」ができる以上、ユーザは人間に対してであるかのように話しかけます。人間に接するように、挨拶やお礼をすることもあれば、唐突な世間話をすることもあります。タスクに関係ない話題は一切話せないようにしているシステムも存在しますが、これからはそれだけでは不十分です。この分野の第一人者である東中竜一郎先生が書かれた「AIの雑談力」という書籍の中では、上述したメディアの等式にまつわる様々な事例が紹介されています。

AIの雑談力 (角川新書)

https://www.kadokawa.co.jp/product/321902000134/

上記の書籍では、マイクロソフトのパーソナルアシスタント「コルタナ」は、話しかけられる言葉の約30%が雑談表現であると紹介されています。SiriやDocomoのしゃべってコンシェルでも同様の現象がみられたとのことでです。筆者もAndroid向けに音声対話アシスタントアプリを公開しているのですが、ユーザの話しかける言葉の大半は雑談表現でした。当初、Siriのように「音声でスマートフォンを操作するためのアプリ」を開発していたはずが、ユーザのそういった状況を踏まえ、「AIと雑談をするアプリ」に主軸を切り替えたほどでした。

おしゃべりAIアシスタント (Google Play)

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.droidchan&hl=ja&gl=US

つまり、タスクを遂行する対話システムにおいても雑談ができることは不可欠であり、「タスク指向型」と「非タスク指向型」の対話システムは共に開発をしていく必要があります。

雑談AIの意義

雑談AI単体で考えた場合でも大きな意義があります。先述した書籍の中では、

AIが雑談をする最大のメリットは、人間同士が雑談で得ているメリットを享受できる

という表現がありました。雑談ができることは人間との関係性を強めることに有効で、AIが信頼を勝ち取りやすくなるというものです。人間同士のコミュニケーションも信頼で成り立つように、AIも信頼をされないと安心して利用してもらうことはできません。雑談はその信頼を得るのに有効な手段であり、一度信頼を得ることができれば会話の内容から貴重な情報を取得することにつながります。信頼を勝ち取る → 会話から情報が得られるようになる → AIがより的確なサービスを提供できる という好循環を生むことができます。
 Siriやコルタナといった音声アシスタント、スマートスピーカー、LINEなどで動作するAIチャットボットなど、少しずつ雑談可能なAIが増え、私たちの生活に自然と溶け込みはじめています。AI技術がより身近になり私たちの生活を便利にするために、雑談AIは大きな可能性を秘めているのです。