Generative AIがもたらす恩恵
会話AIにとって、Generative AIの要素技術がもたらせた恩恵は言うまでもなく、「自然な会話能力」と「説得力のある精度」です。今まで、人間は「コンピュータ」と様々なインターフェースで対話を試みてきました。
ex.
キーボード => CUI (Character User Interface)
マウス & キーボード => GUI (Graphical User Interface)
音声認識 => VUI (Voice User Interface)
上記インターフェースは、コンピューターに話しかけ、的確な応答を得るために考案された仕組みだと考えると、全て「対話」だと捉えることができます。コンピューターに話しかけるには、キーボードやマウスといった「ツール」の使い方を学習しなければなりませんでした。また、Google検索も、「情報検索システムとの対話」だととらえることができます。Google検索を行う際も、意図通りのGoogleの検索結果が出るよう、検索文字列を工夫します。「ググる」際の検索窓に入れる文字列と、会話で利用する文字列は大きく異なります。このように、コンピュータと正確なコミュニケーションを図るために、ある種の「気遣い」や「工夫」を人間はしてきたと捉えることができます。
Generative AIの到来によって、会話AIは人間同士が取り交わしているような自然な発話でやり取りができます。「自然言語処理」という領域が昔からありますが、本当の意味で「自然言語」を処理できるようになりました。「会話」とは、人間が図りしきれない期間を超えてアップデートをしてきた、最強のコミュニケーションインターフェースです。AIがこのコミュニケーションインターフェースの上で、人間と接点を持つことが明確にできるようになったと言えます。これによって、AIの恩恵を人間はダイレクトに享受できるようになります。今までは、部分的にしか恩恵を得られていなかったAIの力を、存分に受けられるようになったと言えます。
例えば、仕事をしながら、こんな風にAIの恩恵を享受できます。
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作成している資料の骨組みがまとまらない
▷ AIに壁打ちをしてもらう。伝わりやすいストーリーを一緒に考えてもらう。 -
今自分が提案しようと思っているアイデアがあるが、発表するのが不安
▷ AIにメリデメを挙げてもらい、どのようなリスクがあるのかを考えてもらう。 -
自分のキャリアについて漠然と不安がある
▷ AIにコーチングをしてもらい、思考を整理してもらう。
まさに、人間を拡張する、AIアシスタントが身近になる世界観です。
新たな課題
前のChapterで、従来の会話AIとの差分を下記のように表現しました。
従来の会話AI:
「人間の管理下において会話をするAI」
これからの会話AI:
「人間の管理外で会話をするAI」
これは、「コントローラブル」だった会話AIが「アンコントローラブル」になっていくということです。つまり、会話AIを実用化し、応用しようとする際に立ちはだかるのが、「何を言うかわからない」という課題です。
ChatGPTには、下記のような課題があります。
- 事実と異なる内容を、あたかも真実のように語ってしまうことがある
- 学習データが過去の内容のため、最新の情報に基づいた発言ができない
Generative AIは、語弊を恐れずに表現するのであれば、「確率的に、前の文に続く文章を生成する」だけです。ベースとなっているGPTシリーズの技術は、そういったシンプルなモデルです。「今日の天気は、」という文章があれば、その後に続く可能性が高い(確率が高い)のは、「晴れ」や「曇り」といった天気の表現です。つまりAIは「今日の天気は、」という文章を与えれば、「今日の天気は、晴れです。」という文章を生成するでしょう。(ChatGPTは天気を答えないような制御を入れていますが、基本的な仕組みは同じです。)
この確率に基づいた文章生成を膨大な学習データやモデルの創意工夫によって圧倒的な精度に押し上げられたのが、近年のGenerative AIです。良くも悪くも、こういったシンプルな仕組みである点が重要です。確率的に生成しているだけなので、上記のような課題が生じます。AIは悪気なく文章を連ねているだけなので、本当のことを言っているのか、言っていないのかはAI自身は気にしていません。ただシンプルに、「確率的に正しそう」な文字列を並べています。
また、AIは学習データに基づいて、その確率判断を下していきます。学習データは数年前のものであることが多く、エンドユーザーが利用する頃には、時勢とズレてしまっていることも多々あります。そういった場合は、会話AIの応答内容に誤りが生まれてしまう可能性も高いです。そして、学習データも全て正しい情報かどうかはわかりません。専門的な領域に慣ればなるほど、情報は世間に出回りません。そういった情報はAIも多く学習をできていません。専門的な内容は、AIが間違った応答をしている可能性がとても高いです。
今後の展望
上記の課題をきちんと考慮した上で、これからの会話AIは構築していかなければなりません。しかし、ChatGPTがもたらせた会話AIブーム以降、すでにこの課題の解決の流れが加速しています。本書でも、課題を補うためのアプローチをいくつか紹介していきますが、近い将来、こういった課題はかなり緩和されるでしょう。この流れで進めば、必ずGenerative AIによる会話AIがさらに実用化し、従来の会話AIは置き換わると思います。すでに一部のユースケースでは実用化ができるレベルに到達しています。上記の課題は認識しつつも悲観はせず、Generative AI時代に実現できそうなアイデアの妄想に、思いを馳せていきましょう。