チームの混乱期を乗り越えるために『ダイアローグ』を導入しようとしたら失敗した話
これはなに
ども、レバテック開発部のもりたです。
もりたはこの4月から新しいチームに配属になっています。折しもチームは再編成の時期であり、コミュニケーション改善・チームビルディングについて取り組むことも多くなってきました。
今回はもりたのトライした取り組みの内容について、企画から提案、そして反省会までを記事にしました。この活動自体は最終的に取りやめになっていますが、ひとつの区切り/ログとして残します。
書くこと書かないこと
- 書くこと
- どんなチームでなぜコミュニケーションを課題に挙げて、そこに対してどんな対策を考え、どうやって実施していくか
- 心理的安全性の獲得をゴールに取り組みを紹介しています
- 反省点も書きました
- どんなチームでなぜコミュニケーションを課題に挙げて、そこに対してどんな対策を考え、どうやって実施していくか
- 書かない
- 網羅的な情報
- チームビルディングの網羅的な情報は書きません、調べてる時間がないから、、
- スクラム
- スクラム文脈ではないです、ではないとまでは言えないだろうけど
- 網羅的な情報
前提
ことの始まり:チームの状況と課題
最初に、もりたの状況や課題について軽く触れておきます。
もりたの状況
まずはもりたの状況ですが、2023年9月〜2024年3月末まで育児休業をとっており、この4月から復職しています。休業前のチームからは離れ、お隣さん的なチームに配属となりました。
新しいチームの状況
新しく入ったチームでは、もりたの加入前からリプレースプロジェクトをやっており、それが2024年5月に完了したところでした。チームはプロジェクトの目標に向かって進む形態から、その後始末や改善活動を主な活動とする形に変化しました。
また、メンバーという観点でも大きな変化がありました。3月末でそれまでのチームリーダーが離職し、代わりに別チームから2名が加入、そして6月には中途入社で新しいメンバーが加わっています。
課題
このようにチームに求められるものが大きく変わり、同時にメンバー構成も変化したことで、以下の課題が持ち上がってきました。
ひとつ目が使用技術やプロダクトの知識/習熟度の差が大きいことによるレビュー滞留やタスク調整の難化です。特定のメンバーにばかり負荷がかかり、逆に手隙になるメンバーが現れました。
ふたつ目がコミュニケーションの混乱です。チーム内での議論が発散してしまい収集がつかなくなったり、多様な意見から対立につながるケースが散見されました。いろんな意見があること自体は良いのですが、もりたの主観で殺伐としてるなと感じることが増えました。
こういった課題はタックマンモデルにおけるチームの混乱期にはよくあると思うのですが、小心者のもりたにとっては特に後者の問題が厳しく、新規参画者にとってもキャッチアップの遅れなどより大きな問題になりがちと感じました。また、長期的に考えて、前提の違いをチームの力にできる方がポジティブと考え、コミュニケーション改善/チームビルディングに取り組んでいくことにしました。
偶然出会った対策
ただ、具体的にこれをどうすればいいのかはしばらく分かりませんでした。人間的な問題でもあるし、なんとなく仕事やりにくいな、チーム改善の余地はありそうだけどどうやって取り組めばいいのか分からんなあと思っていました。そんな折に自宅の本棚を眺めていると、以前に弊開発部のEM(@kstk)から勧められていた書籍が目に入りました。
ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術』熊平美香
『「多様な人間が対立を起こさずに価値を創出するには対話が必要」というようなことを書いたのがこの書籍です。ピッタリですよね。じゃあやるかと思ってこれを導入することにしました。
取り組み: 対話の5つの基礎力
『ダイアローグ』概要
取り組みについて記述する前に、『ダイアローグ』の概要を先にかるく説明しておきます。
本書は前提の違う多様なメンバーが対立せずうまくコラボレーションするための対話の技術を解説したものです。ここにはミクロの視点とマクロの視点があり、まずミクロの視点では「対話の5つの基礎力」を通してA or B的な討論スタイルとなりがちなコミュニケーションを対話にすることを目指しています。そしてマクロの視点では、そのような対話を通じて組織の心理的安全性や信頼関係を構築し、ビジョンの共有や組織としての学習、そしてより高度な創造的対話を目標に置きます。
今回は『ダイアローグ』で解説される「対話の5つの基礎力」の一部をツールとして使い、心理的安全性と信頼関係の構築までをスコープとして取り組みました。
対話の5つの基礎力
0. メンタルモデル
5つの基礎力を説明する前に、その前提となるメンタルモデルという考え方について解説します。
メンタルモデルとは1990年にピーター・センゲ氏が『学習する組織』の中で提唱した考え方で、人が物事を捉える際の前提のことです。人の意見にはその前提となる体験や感情、価値観があり、そこから影響を受けています。
たとえば、会議の場では年上の上長が話し年下の部下はそれを聞くのが良いと考える人がいたとしましょう。この人は知識の更新がなく、経験年数がそのまま意見の正しさに直結するような業界で生きてきたのかもしれません。
このメンタルモデルの面白さは、経験や感情が違えば意見も異なるという点です。また、この枠組みを知っていれば、自分と異なる意見に触れた際も、瞬間的にそれが間違いだと考えることはあまりないでしょう。何か自分の体験したことのないような背景があると考えることができるはずです。
余談 - 認知行動療法
臨床心理学の分野にはABC理論という理論があります。これはActivating events(出来事), Belief(信念), Consequences(結論)の頭文字をとったもので、ある出来事にどう結論を出すかは信念次第だというものです。また臨床心理学ではこれを逆手に取り、出来事に対して不合理な結論を出してしまう際、間に挟まる信念を変えるようなトレーニングを積むことで不合理な結論を導かずに済むようにしています。
メンタルモデルの考え方はCの背後にはBがあるとしているわけですからABC理論と近いものがありますね。[1]ちなみにもりたは大学でここら辺を学んだのち、何かやめたい習慣や行動を見つけると軒並みABC理論で片付けてきた経験があります。めっちゃ便利です。
1. メタ認知
最初の基礎力は「メタ認知」です。
メタ認知とは、自分のメンタルモデルを自分で認知することです。人の意見の背後にはメンタルモデルが隠れています。メタ認知とは、それを自ら認知することを指しています。
またダイアローグでは、メタ認知のためのツールとして認知の4点セットを紹介しています。認知の4点セットとは「意見」とその背後にある「経験」「感情」「価値観」のことで、このフレームワークに沿って自分のメンタルモデルを理解しようとしてます。(詳しくは『リフレクション』『ダイアローグ』参照)
対話の5つのツールの中で、このメタ認知が最も大切で、他のツールの土台となります。これができると、いくつかの嬉しいことがあります。
まずは自分の意見がより深くなることです。どういう背景があったか知れることで、根拠が明らかになります。
次に意見の隠された前提と限界がわかります。これによってどんな枠組みの中でこの意見が有効なのかわかります。
最後にメタ認知をすることで、他人の意見を受け入れる準備ができます。メタ認知ができると、意見の前提になるメンタルモデルが違えば意見も違ってくることは必然的に分かるでしょう。
2. 評価判断の保留
次の基礎力は「評価判断の保留」です。
これは、対話の相手が自分と異なる意見を持っていても、一旦間違っているなどの評価を下さず、中立的に耳を傾けることです。
メンタルモデルの考え方を理解し、メタ認知ができていると、自分の意見は自分の経験・感情・価値観からきていると考えられます。
評価判断の保留を行うことは時に意味のない時間を過ごしているようで苦痛でしょう。しかし、一見意味のないような意見こそ自分の枠外から出てきた、学びのある意見です。意味がないと思えばその意見から得られるはずだったものも少なくなります。「評価判断の保留」を通じて相手の意見を一旦受け止め、次の「傾聴」に繋げましょう。
3. 傾聴
3つ目の基礎力は「傾聴」です。
これはただ人の意見に耳を傾けるだけではなく、他人のメンタルモデルに意識を向けて共感することです。この共感とは相手の意見に賛同することでも、感情移入することでもありません。相手の前提に立ってみて、その意見を深く知ることです。
またこのときに認知の4点セットが役立ちます。相手の意見を聞く際、その背後にある「経験」「感情」「価値観」がなんなのかを引き出す質問をしてみましょう。そうすることで相手のメンタルモデルを引き出し、相手の意見をより深く理解することが可能になります。
4. 学習と変容
続いての基礎力は「学習と変容」です。
3つ目の基礎力で相手のメンタルモデルの理解ができました。この新しい経験により、自分のメンタルモデルにも変化が訪れるはずです。
この時重要なのは学習し、変容することです。そのため、相手の意見に賛同することは重要ではありません。相手の世界や見えている景色を想像し、共感、学習することで、一部でも自分のものにして変容することが大切です。
5. リアルタイム・リフレクション
さて、最後に挙げるのが「リアルタイム・リフレクション」です。
これは対話に参加しながら自分の言動や内面をメタ認知することです。人と人との対話では、意識せずにいると瞬間的な思考からの言動が表に出ます。他人と会話しながら、自分の言動や気持ちを点検し、より良い対話のために自身に反映させていきます。
補記
以上で5つの基礎力は終わりです。初見でこれを見ると、いや抽象的だししんどいだろと感じるかもしれませんが、これを全て同時にできるようになる必要はありません。これらはメタ認知を基礎として段階的に取り組めるようになっています。馴染みのない方はまずはメタ認知から、なんとなく実践している人は適当な基礎力から取り組んでいくのが良いでしょう。
また、繰り返しますが、これらは単に険悪な会話を避けるための技法ではありません。メタ認知を通して自分の意見の前提を明らかにし、相手のメンタルモデルをしり、それらを通して議論を豊かにするために行います。価値ある対話によってチームの関係性や心理的安全性は向上しますが、あくまで効能のひとつ。今回もりたは安全なコミュニケーションを目標としていますが、その達成の先にはよりよいチームや学習できる組織を目指しています。
具体例
さて、抽象的な話が続いたので、一旦具体例でどのように日常に活かせるかを考えてみましょう。もりたはこの書籍を読みながら以下の体験を思い出したので、ここでご紹介します。
通勤快速3駅間で隣の席の人と喧嘩して仲直りまで持って行った話
状況
電車の座席で、両側の人が足を開いていて0.5人分だけ空いている席ありますよね。そこにに割り込んで座りました。(もりたは一時期片道2時間くらいかけて通勤していたので絶対に座りたかった)
どうなった?
隣の席の人に新聞をめっちゃぶつけられました。
どうした?
- 森田「当たってて痛いです」
- 隣の人「お前がぶつけてきたんじゃねえか」
- 森田(なんか怒っててやだな…俺は座る権利があるって思って割って入ったけど、これってそもそもは俺が座ることにマジで執着してるからなんだよな。通勤が2時間くらいあるとマジで座れるかどうかって一日の生産性に関わるからな…。けどこれって別に他人にはわかんないよな)←メタ認知
- 森田、言い返すのをやめる←評価判断の保留
- 森田(隣の人もそんな悪気なく足広げてたんだろうな、なんか足痛いとかだったかもしれないし。そこにグイグイ来られたら嫌かもしれないなあ)←傾聴
- 森田(そういう人もいるよな。てかまあ、一声掛ければいいかもしれんね)←学習と変容
- 森田「一声かけて座れば良かったすか?」
- 隣の人「オン…そうだね、一声かければ」
- 森田「うん…いきなり座ってごめん」
- 隣の人「俺も朝早くてさ、イライラしててごめんな、いっつもみんなにすぐ怒るって言われるんだ」
- 森田「そっかあ」
- その後山登りに行くという話を聞き、お水ちゃんと飲んでねと言って手を振って別れた
その後の気持ち
朝から喧嘩しちゃったけど、隣の人と仲直りできたので嬉しかったです。あと、ひとこと座りますねって言ってから割り込むほうがいいなと学びました。相手も無言で割り込まれたら嫌ですからね。
どうチームに導入にするか?
続いて、「コミュニケーションの混乱」の解決策として、『ダイアローグ』のコミュニケーションスタイルをチームメンバーに受け入れてもらうためにどのような工夫をしたのか? について説明します。3つの方策を取っています。
1)事前の相談
この手の問題は抽象度が高く、納得感も得づらいです。突然チームにこの話を持っていっても、個々人の疑問を解決できず導入に至らないだろうと思いました。
まずは何人かに軽く提案して同意を取り付けたり、チーム外のメンバーにも相談して意見をもらうなどしました。
2)丁寧な説明
とにかくプレゼンテーション資料の作成を頑張りました。
同時に一方向な説明だけでは納得感が得られないだろうと考え、説明した『ダイアローグ』の内容について、認知の4点セットで捉えてみて、どのようにコミュニケーションが深まるかを体感してもらいました。
3)効果を測定する
チームで何かするときは、その活動に意味があるのだとメンバーに納得してもらう必要があります。今回の活動は一般的な解決方法ではなく、また抽象度も高いため、その点がネックになるだろうと考えました。
そこで、心理的安全性に関する7つの質問をサーベイし、値を定点観測することで効果があるのだと実感できるようにしました。
結果と反省
取り組みの結果
以上のことを考えて提案の場に挑みました。結果、一定の理解は得られたのですが、まだメンバーの納得感を得られていないと判断して提案を取り下げ、方向性を調整しました。
反省点
この結果を受け、個人でポストモーテムを開催して反省点をあげてみました。出てきたのは以下の点です。
心理的安全性の施策にならない
この取り組みの狙いは心理的安全性の確保でした。これは『ダイアローグ』にも対話の効果として挙げられている内容です。
ただ、実際に取り組みを提案してみて分かったのですが、チームが混乱期にありお互いに対して信頼関係が築けていない状態で対話を求めるのはハードルが高いです。心理的安全性が高いから対話が可能なのであって、その信頼関係の構築を無視して対話を導入するのは単なるゴリ押しです。[2]
そのため、本来チームの混乱期に導入するべきだったのは別にあったのではないかと考えています。例えば、もう少し心理的安全性にフォーカスした施策をすることも良いでしょう。また、バリューズカードなどの気軽なゲームを通してお互いの大切にしている要素を明らかにして、そこを軸に信頼関係を築けるよう投資することも有用だと考えます。
実際のところ『ダイアローグ』を取り下げたのちは、技術的な側面で信頼関係を築けるよう方向性を切り替えて取り組んでいます。
論の筋が通っていない
この取り組みで本来解決したかったのはコミュニケーションの殺伐感です。そこにやりづらさを感じたものの、正面から指摘するのも対立になりそうだったため、文化の違いと表現し、その違いを乗り越えるために何ができるのか? を考えました。
「殺伐感」を「文化の違い」と言い換えた意図は、ポジティブなリフレーミングを通して自分やメンバーにとって提案を受け入れやすくすることでした。しかしその一方で問題点をぼやけさせることにもなります。今回はそのぼやけた問題意識の上に対話という抽象的な解決策を持ってきており、論の展開が理解しずらいものになってしまいました。
フィードバックを受け取れていない
この取り組みを進めるにあたって、いろんな人に相談をしています。それにも関わらず、上記の「筋が通っていない」という大きな問題が見過ごされてしまいました。意識的にフィードバックを求めていたのに、フィードバックが機能しなかったのです。
なぜこうなってしまったのでしょうか? 考えてみると、実は分かりにくいという指摘は複数の相談相手から受けており、自分がそれに気づけていないだけでした。「わかりにくい」という指摘を解釈する過程で問題は表現にあると考え、提案内容自体が論理的におかしいのだとは思っていませんでした。
いくらフィードバックを受けようと思っても、指摘をうまく受け止められていなければ意味がありません。
フィードバックの受け方についてあまりちゃんと学んだことがなかったなと思い、『みんなのフィードバック大全』という書籍を購入してフィードバックの受け方についてまとめました。
『みんなのフィードバック大全』でフィードバックの受け方を学ぶ
最後に
以上、もりたが最近やっているコミュニケーション改善・チームビルディングの取り組みでした。
大成功とはいかなかったのですが、一ヶ月間頭を悩ませ、途中で諦めることなく前のめりに倒れることができたのはよかったなと思います。またこの提案を経てチームのあり方を考えようという風向きになっており、議論の前提を作ることはできたかなと感じています。
良いチームを作るための施策はまだまだ続きますが、これからもより良いチームのためにメンバーと一緒に頑張っていきたいです。
参考文献
- 『ダイアローグ-価値を生み出す組織に変わる対話の技術』熊平美香
- 『リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』熊平美香
- 『心理的安全性の作り方』石井遼介
- 『学習する組織――システム思考で未来を創造する』ピーター・M・センゲ
- Google re:Work - ガイド「効果的なチームとは何か」を知る
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