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継読動機の分類体系④ ── 理論を創作現場で活かすための指針

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継読動機の分類体系は、どのような形で物語創作に活用できるのか。
本記事では、理論を単なる知識に留めず、“書くためのツール”として使うための具体的な指針を示す。

📘 前回
「続きが気になる」を作る8つの要素


はじめに

第1~3回では、継読動機(読者がなぜ続きを読みたくなるのか)を、
実績型(面白いから読む)好奇心型(どうなるのか気になるから読む) の2系統、
計16の要素として整理してきた。

最終回である今回は、それらを実際の創作過程でどのように活用できるか──すなわち、継読動機の分類体系を“使える理論”として運用するための具体的な指針をまとめる。


1. 基本的な活用方法──抽象から具体への変換

本体系の主な効用は、感覚的・抽象的な概念を、創作現場で共有・操作可能な要素へと変換できる点にある。

以下のように思考を切り替えることで、発想のハードルがいくらか下がると考えられる。

  • 「面白くしたい」
    →「ユーモア・迫力・納得・愛着・誇らしさ・解放・名残惜しさ・意外性のうち、どれかを入れることはできないか?」
  • 「続きが気になるようにしたい」
    →「予告・進行・謎・不幸・秘密・因果・関係性・能力のうち、どれかを入れることはできないか?」

また、意味の広い“面白さ”や“引き”といった言葉を、より意味の狭い要素名に置き換えることで、
創作チーム内の議論や添削時のすれ違いを減らすことも期待できる。


2. ケースごとの活用指針

2.1 シーン設計

対象となるシーンが生み出す継読動機を強化するには、以下のような手順が有効と思われる。

  1. シーン内に継読動機を生む要素(本体系の16要素)が含まれているかを確認する。
  2. 不足していると感じた場合は、追加できる要素がないか検討する。
  3. 無理に追加すると不自然になる場合は、無理に強化せず、そもそもシーンの必要性自体を見直す選択肢も考慮する。

2.2 プロット・展開設計

プロット単位で継読動機を強化するには、以下のような方針が有効と思われる。

  • 物語全体を通じて、常に何らかの好奇心型要素が作用している状態を目指す
  • 好奇心型要素の「設置→維持→回収」のタイミングに注意する
    • 進展や回収がなさ過ぎて、興味が薄れてしまわないか
    • 回収が早すぎて、ご都合主義的に見えてしまわないか

2.3 他作品分析・自己分析

他作品を分析する際には、

  • 「面白い」と感じた場面で、どのような実績型要素が活用されていたか
  • 「続きが気になる」と感じた場面で、どのような好奇心型要素が活用されていたか
    を観察する。

他作品の良さを言語化することで、その知見を自作品に活かしやすくなる。


3. AI活用の指針

本体系は、人間の創作者だけでなく、AIによる物語生成や評価にも応用できる可能性がある。

3.1 AI開発への応用

「読者がなぜ読み続けるのか」という観点をモデル設計や評価基準に取り入れることで、
生成結果をより人間的な“読ませる物語”へ近づけるための理論的補助線として機能しうる。

3.2 既存AIでの利用

既存のAIチャットモデルを創作支援のパートナーとして使う場合でも、本連載の内容をまとめてプロンプトやアップロードファイルとして与えることで、ある程度は本体系の文脈に沿った対話が可能となる。

プロンプトとして最適化された記事ではないが、以下のURLを貼るだけでも本体系を手軽に共有できる。

継読動機の分類体系シリーズ
① 「最後まで読みたくなる物語」を支える2系統16要素
https://zenn.dev/hitsuji/articles/2166d223428fc1
② 「面白い」を作る8つの要素
https://zenn.dev/hitsuji/articles/42bb01be3d3fdf
③ 「続きが気になる」を作る8つの要素
https://zenn.dev/hitsuji/articles/25b76a8b91df24
④ 理論を創作現場で活かすための指針
https://zenn.dev/hitsuji/articles/3602a3b5b3b650

AIが強化学習などを通じて本体系を理解するわけではないため効果は限定的だが、
「継読動機の分類体系を参考に~」といったプロンプト指定を行うことで、継読動機を意識した生成を誘導することができる。


4. 注意点

  • この分類体系は「発想の網を広げるための地図」であり、「物語の魅力をすべて包含するリスト」ではない。
    「16要素のどれにも当てはまらないから、これは間違い・弱い」といった安易な判断は避けるべきである。

  • この分類体系は、各要素の実装方法までは深く踏み込んでいない。
    そのため、実際に16要素のいずれかを物語に取り入れようとした際、具体的な方法がわからずに頓挫する可能性がある。
    そのような場合、多くの既存理論が参考になる可能性が高い。
    これまで各要素が横断的にまとめられては来なかったが、個々の要素を深掘りする形で展開された理論は少なくない。
    本体系は、「今どの要素を強化したいのか」「そのためにどの理論が役立つか」を見定めるための地図として機能しうる。
    すなわち、漠然と創作論を読み漁る代わりに、「この要素を強化するために役立つ理論はないだろうか?」という目的意識をもって理論を探せるようになる。

  • この分類体系は「ある程度の反証可能性を持つ」ことを志向しているが、発想の起点としての実用性を優先しており、厳密な心理学的分析や統計的裏付けを意図したものではない。
    ただし、本理論は既存の抽象的理論(ナラトロジー・心理学・構造主義など)と実践的経験則(三幕構成・脚本メソッド・編集知など) の中間に位置しており、以下のように、それらの間をつなぐ“翻訳層”として機能しうる。

    • 学術理論で示された知見を、創作現場で扱える言葉に変換する足掛かりとなる
    • 現場で蓄積された感覚的ノウハウを、理論的に整理・体系化する足掛かりとなる

5. 最後に

継読動機の分類体系は、“面白さ”や“引きの強さ”を理屈で説明するためだけでなく、
それらを創作現場で共有・再現するための補助線として設計されている。

また、この体系は、創作の「正解」を定めるためのものではなく、
物語を構築し、読み解き、語り合うための共通の足場として機能することを目的としている。

本体系は完成された理論ではなく、実際の創作の中で検証・修正されていくことを前提としたものである。


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