継読動機の分類体系② ──「面白い」を作る8つの要素
読者が「この物語は面白い」と感じるとき、その物語には、どのような要素が含まれているのか。
本記事では、「面白い」を生み出す要素を、創作者が意図的に設計・制御できるレベルまで分解し、体系的に整理する。
📘 前回
「最後まで読みたくなる物語」を支える2系統16要素
はじめに
本記事が扱うのは、「面白いから読む」という継読動機──すなわち実績型の動機である。
ただし、実績型の動機の核は、正確には“面白さ”そのものではない。
読者が感じる“快”のかたちは多様であり、そのすべてを「面白い」という言葉で括るのは難しい。
そこで本記事では、より包括的な概念として “満足感” を核に据える。
つまり厳密に言えば、本記事が扱うのは 「“満足感”を作る8つの要素」 である。
1. 「満足感」を生み出す8要素
満足感を生み出す要素は、以下の8要素として整理できる。
1.1 ユーモア
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概要
言葉遊びや軽妙なやりとり、状況の滑稽さなどによって笑いや微笑みが生まれ、読者が快さを感じる。
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例
- キャラクター同士の軽妙な掛け合い(ボケとツッコミなど)
- 真面目な場面での気の抜けるセリフ
- ウィットに富んだ皮肉
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備考
- シリアスな場面でも自然なユーモアを挟むと読者のストレスを軽減できる
- 成立させるには、読者がユーモアとして認知できるような最低限の明快さが必要
1.2 迫力
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概要
壮大さや激しさ、臨場感や緊張感によって圧倒され、思わず息をのむような体験をする。
読者はその強い刺激や没入感を通して満足感を得る。 -
例
- 圧巻のアクションシーン
- 息をのむような情景描写
- 緊迫した対話
-
備考
- 過度な残酷、性的、恐怖、不潔などの描写も迫力を生むが、
読者層を狭めやすく、物語全体の印象を損ねる可能性があるため注意が必要
- 過度な残酷、性的、恐怖、不潔などの描写も迫力を生むが、
1.3 納得
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概要
展開や設定、キャラクターの行動・心情に自然さや必然性を感じ、腑に落ちる感覚が満足感へとつながる。
最低限の納得が得られないと、読者にリアリティの欠如・ご都合主義などとして受け取られ、物語への没入を妨げる。
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例
- 伏線回収によって「なるほど!」と思える展開
- キャラクターの思想・心情に「わかる」と共感する
-
備考
- 特に伏線回収の場面では、納得感を高めること自体が面白さに直結する
- 特に、アハ体験に代表される「読者の気づきを伴うようなケース」は、それ単体でも面白いと感じられやすい
1.4 愛着
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概要
キャラクター・語り口・世界観などに魅力を感じ、読者がその世界や人物に親しみを覚える。
最低限の愛着が形成されないと、物語への関心が生まれづらい。
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例
- キャラクターの性格に好感を抱く
- キャラクター同士の関係性に魅力を感じる
- 世界観や設定に惚れ込む
-
備考
- 意外な一面(ギャップ)があると、個性や魅力のあるキャラクターになりやすい
- 何かしらの独自性がないと読者が魅力を感じにくい
1.5 誇らしさ
-
概要
キャラクターが活躍したり周囲に認められたりすることで、読者が自分のことのように誇らしさや優越感を感じる。
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例
- 大きな手柄をあげ、周囲がそれに感服する
- 誰も気づかないところで良い行いをしている
- 主人公よりも社会的地位が高い相手が、主人公の実力などを認め、敬意を払ってくる
-
備考
- 努力の末に活躍するような、解放との複合ケースは狙いやすく効果的
- 単に主人公の活躍を描くだけでなく、周囲のキャラクターが感服する様子なども描くことで、誇らしさや優越感を増しやすい
1.6 解放
-
概要
キャラクターが苦難や抑圧、閉塞から抜け出し、自由や安堵を得る瞬間に、
読者も緊張がほどける心地よさや解放感を得る。 -
例
- 絶望的な状況から生還する
- 虐げられていたキャラクターが自由を手に入れる
-
備考
- なし
1.7 名残惜しさ
-
概要
大切な人や場所との別れに直面したとき、失う切なさや惜しさを通して、それがどれほど大切なものだったかが浮かび上がる。
読者はその「尊さの再確認」に心を打たれる。 -
例
- 共に旅をしてきた仲間と死別する
- 状況に引き裂かれ、家族が離れ離れになる
- 長年暮らしてきた故郷を後にする
-
備考
- 別れを単なる「終わり」ではなく「大切なものだった証明・再確認」として描く
- 感情移入している対象(主人公など)が周囲から惜しまれるケースは、特に大きな満足感を生みやすい
- 別れのシーンは、そのものが感動的な再会シーンへの布石にもなる
1.8 意外性
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概要
予測を裏切る展開や情報の提示によって、読者が驚きや新鮮さを感じる。
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例
- 殺人事件の意外な真犯人
- 計画を狂わせる予想外の出来事
-
備考
- 意外性を付加することに意識を取られ、期待を下回る展開にならないよう注意が必要
2. 満足感を生み出す要素の3分類
満足感を生み出す要素は、大きく、以下の3種類に分けることができる。
2.1 自立要素
他の要素の支えを必要とせず、単体で満足感を成立させる要素。
該当要素:ユーモア・迫力
以下のような作品では、自立要素のみで継読動機が成り立ちうる。
- 不条理ギャグマンガ(ユーモア)
- アクションや映像美重視の映画(迫力)
2.2 土台要素
他の要素の働きを支える基盤となる要素。
土台要素は同時に自立要素であり、単体で満足感を成立させることもできる。
該当要素:納得・愛着
以下のような作品では、土台要素のみで継読動機が成り立ちうる。
- 寓話(納得)
- 日常系アニメ(愛着)
2.3 装飾要素
満足感を生み出すために、土台要素による支えを必要とする要素。
該当要素:誇らしさ・解放・名残惜しさ・意外性
これらの要素は、ある程度の納得・愛着が成立していないと継読動機へつながりにくい。
3. 満足感の構造式
ここまでの内容を踏まえると、満足感は次のような構造式で捉えることができる:
満足感 = 自立要素+ 土台要素 + 装飾要素 × IF(土台要素 ≥ 0, 1, 0)
※IF部分はExcel関数の書式にのっとったもので、「土台要素が成立している(=0以上)場合は1、それ以外なら0」を意味する。
もちろん、現実の読者体験には個人差や文脈による揺らぎがあるため、
中には「土台要素がなくても、装飾要素が効いてしまう」というような例外的ケースもあると思われる。
この構造式は、多くの作品・多くの読者に通用する原則的な構造を捉えたものとして、各要素の働き方をイメージする補助としてのみ機能する。
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