継読動機の分類体系③ ──「続きが気になる」を作る8つの要素
読者が「物語の続きが気になる」と感じるとき、その物語には、どのような要素が含まれているのか。
本記事では、「続きが気になる」を生み出す要素を、創作者が意図的に設計・制御できるレベルまで分解し、体系的に整理する。
📘 前回
「面白い」を作る8つの要素
はじめに
本記事が扱うのは、「どうなるのか気になるから読む」という継読動機──すなわち好奇心型の動機である。
実績型が「満足を一つひとつ積み重ねることで継読動機を生み出す型」だとすれば、
好奇心型は「(限界はあるものの)一つの起点から継読動機を持続させる型」である。
1. 「気になる」を生み出す8要素
好奇心を生み出す要素は、以下の8つとして整理できる。
1.1 予告
-
概要
キャラクターの目的・予定・選択肢・行動方針などが示されることで、
読者はその行方(予告通りになるのか、ならないのかなど)を見届けたくなる。 -
例
- 敵地に攻め込む計画を立てる
- 不吉な予言を告げられる
- 重大な選択肢が提示される
-
備考
- 読者が未来を予測するよう誘導する構造
- キャラクターの目的や行動を阻む障壁を設けると、「どのようにその障壁を突破するのか」という具体的な関心を引きやすい
- 予告によって抱かせた予測を裏切ることで、比較的容易に意外性を生み出すこともできる
- 例:キャラクターが何らかの予定を立てる → 突発的なトラブルなどによって予定とは異なる未来が訪れる
1.2 進行
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概要
「既に進行している出来事」または「たった今起こった出来事」が提示されることで、
読者は「それがどのように収束するのか」を見届けたくなる。 -
例
- 戦闘の真っ最中から物語が始まる
- 重要な試験・作戦・儀式などが今まさに始まった場面
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備考
- 「始まってしまった以上、結果を見届けたい」という心理を利用する。
予告に近いが、予告よりも即効性の高い引きとなる。
- 「始まってしまった以上、結果を見届けたい」という心理を利用する。
1.3 謎
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概要
物語中に「正体不明の人物」や「答えの分からない問題」が提示されることで、
読者は正体・解答・真相が開示されることを期待する。 -
例
- 仮面の人物の正体が伏せられている
- 記憶喪失の主人公が自分の正体を探る
- 世界そのものの成り立ちが謎に包まれている
-
備考
- “なぜ”や“誰が”を提示するだけで即座に成立する。
1.4 不幸
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概要
キャラクターが不遇・孤独・抑圧などの不幸な状況に置かれることで、
読者は、そのキャラクターが救済される展開を期待する。 -
例
- 社会的に虐げられているキャラクター
- 家族や仲間を失ったキャラクター
- 傷病や貧困(飢餓)に苦しむキャラクター
-
備考
- 不幸が過剰だと、読者が耐えられず途中で脱落する可能性がある
- 苦しみの中に「救済の可能性」をほのめかすことで、期待が継続しやすい
- 読者の同情心を誘いにくくなる要素(自業自得など)があると成立しづらい
1.5 秘密
-
概要
読者、あるいは読者と一部のキャラクターだけが知る情報が存在することで、
読者は「それが明るみに出る瞬間」を期待する。 -
例
- 主人公が身分や立場を偽って行動している
- 読者だけが犯人を知っている
-
備考
-
“いつ・どのように露見するか”を焦点化することで、長期的な引きになる。
露見の瞬間に「誇らしさ」や「意外性」が生まれるケースも多い。
-
1.6 因果
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概要
キャラクターの行為(善行・悪行・努力など)が描かれることで、
読者は「その行いに見合う報いが訪れること」(因果応報)を期待する。 -
例
- お人好しなキャラクター
- 裏で悪事を働くキャラクター
-
備考
- なし
1.7 関係性
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概要
二人以上のキャラクターの間に「関係が生まれる/進展するかもしれない」と感じたとき、
読者はその未来を見届けたくなる。 -
例
- 片想いをしているキャラクターがいる
- 敵対勢力の中に、主人公と分かり合えそうな人物がいる
-
備考
- 恋愛・友情・対立など、多様な関係性が対象となる
- 実際に関係が始まっていなくても、「関わるかもしれない」と思えた時点で成立する
- 極端な場合、何の「ほのめかし」もない状態──読者が自発的にカップリングを意識した瞬間など──でも成立することがある
- 複数候補が提示される場合、さらに「誰が選ばれるのか」という好奇心が生まれる
- 例:恋愛物語でヒロインが2人以上いる場合など
1.8 能力
-
概要
キャラクター・組織・道具などに、注目に値する特性(実力・性質・背景など)があると示されることで、
読者はそれが発揮されるのを期待する。 -
例
- 特別な血筋
- 並外れた力や頭脳
- 優れた人脈
-
備考
- 能力の発揮そのものだけでなく、発揮された際に周囲から得られるリアクションに期待できるよう設計することで、継読動機を高めやすくなる
2. 典型的な複合ケース
好奇心型の要素は単体でも成立するが、複合させることで期待を高めやすい。
-
因果+不幸:不幸な境遇の中で努力するキャラクター
- 努力が報われ、幸せになることを期待する
-
不幸+秘密:キャラクターが置かれている理不尽な現状を周囲が知らない
- 実態が明るみに出て、キャラクターが救済されることを期待する
-
能力+秘密:キャラクターが周囲に実力を隠している
- 実力を発揮し、周囲の肝を抜くような場面を期待する
-
予告+他要素:他要素に関する予告をする
- 予告内容の行方を見届けたくなる
- 例:
- 片想い相手に告白する決意をする(関係性との複合)
- 悪人を制裁する計画を立てる(因果との複合)
- この作戦を実行すると周囲に正体が露見する(秘密との複合)
3. 実績型との関係
好奇心型の要素によって生まれた期待は、回収された際に満足感(実績型の動機)へと転化する。
「謎の解明」は納得へ、「能力の発揮」は誇らしさへ、「不幸の救済」は解放へ──。
この転化がうまくいかない(展開が読者の期待を下回ってしまう・いつまで経っても進展や回収がないなど)と、期待が“肩透かし”に変わり、逆に満足度の低下を招きかねない。
「伏線によって結末の納得感を強化する」「想定外の出来事が起こすことで読者の予想外の結末にする」などの工夫が求められる。
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