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Juliaによる水素原子の可視化

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Juliaで可視化シリーズ第3段, 水素原子のSchrödinger方程式の解を可視化する.


l=0
l=1
l=2

パッケージ

事前に次のパッケージモードで次の6つのパッケージをインストールする必要がある. ノート上ではusing Plots, using Printf, using LaTeXStrings, using Polynomials, using SpecialPolynomialsを宣言する. なお, Plots.jlとGR.jlは干渉することが多いので, 後で宣言する.

パッケージ
# using Pkg
# Pkg.add("GR")
# Pkg.add("Plots")
# Pkg.add("Printf")
# Pkg.add("LaTeXStrings")
# Pkg.add("Polynomials")
# Pkg.add("SpecialPolynomials")
# using GR
using Plots
using Printf
using LaTeXStrings
using Polynomials
using SpecialPolynomials

Schrödinger方程式

水素様原子の時間に依存しないSchrödinger方程式は

\left[ -\frac{\hbar^2}{2m_\mathrm{e}}\nabla_\mathrm{e}^2 -\frac{\hbar^2}{2M}\nabla_\mathrm{n}^2 - \frac{Ze^2}{4\pi\varepsilon_0 r} \right] \psi_\mathrm{tot}(\pmb{r}_\mathrm{e},\pmb{r}_\mathrm{n}) = E_\mathrm{tot} \psi_\mathrm{tot}(\pmb{r}_\mathrm{e},\pmb{r}_\mathrm{n})

である. ただし, 電子と原子核について, それぞれの質量はm_\mathrm{e}M, 位置は\pmb{r}_\mathrm{e}\pmb{r}_\mathrm{n}, ラプラシアンは\nabla_\mathrm{e}^2\nabla_\mathrm{n}^2, 電荷は-eZeとする. これを換算質量\frac{1}{\mu}:=\frac{1}{m_\mathrm{e}}+\frac{1}{M}と相対運動\pmb{r}:=\pmb{r}_\mathrm{e}-\pmb{r}_\mathrm{n}を用いて並進運動の自由度を分離すると

\left[ -\frac{\hbar^2}{2\mu}\nabla^2 - \frac{Ze^2}{4\pi\varepsilon_0 r} \right] \psi(\pmb{r}) = E \psi(\pmb{r})

が得られる. 分離の詳細は原田(2007), 高柳(2000), 河合(2002), Jensen(2007)などを参照されたい. さらにM\rightarrow\inftyと近似すれば\mu\rightarrow m_\mathrm{e}であるから

\left[ -\frac{\hbar^2}{2m_\mathrm{e}}\nabla^2 - \frac{Ze^2}{4\pi\varepsilon_0 r} \right] \psi(\pmb{r}) = E \psi(\pmb{r})

となる. よく知られている通り, このSchrödinger方程式に対する固有値は

E_n = -\frac{m_\mathrm{e} e^4 Z^2}{2n^2(4\pi\varepsilon_0)^2\hbar^2} = -\frac{Z^2}{2n^2} E_\mathrm{h} \tag{2.29'}

である(高柳(2000)を元に一部変更). ただし, E_\mathrm{h} = \frac{m_\mathrm{e} e^4}{(4\pi\varepsilon_0)^2 \hbar^2}はHartreeエネルギーで原子単位の一つである. 原子単位についての解説はIUPAC GreenBook 3.9.2が最も分かりやすく正確なので一度は読むことを薦める. また, 固有関数は

\psi_{nlm}(\pmb{r}) = R_{nl}(r) Y_{lm}(\theta,\varphi) \tag{2.10}
R_{nl}(r) = -\sqrt{\frac{(n-l-1)!}{2n[(n+l)!]^3} \left(\frac{2Z}{n a_0}\right)^3} \left(\frac{2Zr}{n a_0}\right)^l \exp \left(-\frac{Zr}{n a_0}\right) L_{n+l}^{2l+1} \left(\frac{2Zr}{n a_0}\right) \tag{2.25'}
Y_{lm}(\theta,\varphi) = i^{|m|+m} \sqrt{\frac{(2l+1)(l-|m|)!}{2(l+|m|)!}} P_l^{|m|} (\cos\theta) \frac{e^{im\varphi}}{\sqrt{2\pi}} \tag{2.15'}

である(高柳(2000)を元に一部変更). ただし, 上記はラゲール多項式をL_n(x)=\mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right), ラゲールの陪多項式をL_n^{k}(x) = \frac{\mathrm{d}^k}{\mathrm{d}x^k} L_n(x)と定義した場合の表式なので注意されたい. また, ルジャンドルの陪多項式P_k^m(t)の定義は概ね統一されているようだが, 球面調和関数Y_{lm}(\theta,\varphi)の位相については動径関数よりも文献ごとの揺らぎが大きいので更に注意されたい.

ポテンシャル
V(r;Z=1) = -Z/abs(r)
固有値
E(n;Z=1) = -Z^2/(2*n^2)
動径関数
function R(n,l,r;Z=1)
    a0 = 1
    ρ = 2*Z*abs(r)/(n*a0)
    N = -sqrt( factorial(n-l-1)/(2*n*factorial(n+l)^3) * (2*Z/(n*a0))^3 )
    return N*ρ^l * exp(-ρ/2) * L(n+l,2*l+1,ρ)
end
球面調和関数
function Y(l,m,θ,φ)
    N = (im)^(m+abs(m)) * sqrt( (2*l+1)*factorial(l-Int(abs(m))) / (2*factorial(l+Int(abs(m)))) )
    return N * P(l,Int(abs(m)),cos(θ)) * exp(im*m*φ) / sqrt(2*π)
end
全波動関数
# ψ(n,l,m,r,θ,φ) = R(n,l,r)*Y(m,l,θ,φ)
ψ(n,l,m,x,y,z) = R(n,l,r(x,y,z))*Y(l,m,θ(x,y,z),φ(x,y,z))

補足

いくつかの関数が必要になるので, 補足しておく.

動径関数についての注意点

日本語・英語圏, 数学者・物理学者, 新旧の違いなどによって採用される定義に偏りがあるようで, ライブラリの実装にも関係してくるため, この件については把握しておいた方がよい. まず表を示すと, 動径関数R_{nl}(r)には少なく見積もって4パターンある.

パターン ラゲール多項式L_n(x)の定義 L_n^{k}(x) = L_{n-k}^{(k)}(x)またはL_n^{(\alpha)}(x)の採用 規格化因子の分母 文献
1
\frac{1}{n!} \mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right)
L_{n+l}^{2l+1}(\rho)
2n(n+l)!
2
\frac{1}{n!} \mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right)
L_{n-l-1}^{(2l+1)}(\rho)
2n(n+l)!
1, 2
3
\mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right)
L_{n+l}^{2l+1}(\rho)
2n[(n+l)!]^3
多数
4
\mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right)
L_{n-l-1}^{(2l+1)}(\rho)
2n[(n+l)!]^3

まず第一にラゲール多項式L_n(x)の定義に1/n!の含むか否か, 第二にラゲールの陪多項式L_n^{k}(x)と一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)のどちらを採用するかという計4パターンに(大まかに)分類できる.

パターン3が多く, 『マッカーリ・サイモン物理化学 上』p.224, 『アトキンス 物理化学(上)第10版』p.381, 原田義也『量子化学 上巻』(第2版, 2019, 裳華房)p.123, 高柳和夫『原子分子物理学』(2000, 朝倉書店)p.16, 国広悌二『基幹講座物理学 量子力学』(東京図書, 2018)p.125, Wikipedia(日本語)などがこれに該当する.

しかし, SpecialPolynomials.jlで最も自然な実装になるのはパターン2である. そもそもラゲール多項式L_n(x)の定義には1/n!を含む定義が採用されており, ラゲールの陪多項式L_n^{k}(x)はサポートされておらず, 一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)がサポートされている. 一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)については日本語の文献が少ないようなので説明する.

多項式 満たすべき方程式 参考
ラゲール多項式L_n(x)
xy'' + (1-x)y' + ny = 0
ラゲールの陪多項式L_n^k(x)
xy'' + (k+1-x)y' + (n-k)y = 0
日本語のWikipedia
Generalized Laguerre polynomials
一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)
xy'' + (\alpha+1-x)y' + ny = 0
英語のWikipedia

上表のように, ラゲール多項式L_n(x), ラゲールの陪多項式L_n^{k}(x), 一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)は満たすべき方程式がいずれも異なる. 第一の問題であるラゲール多項式L_n(x)の定義に1/n!の含むか否かという点については, 結局は線形微分方程式の解である以上, 定数倍の差は好みの問題で片付けられてしまうものの, 多くのライブラリでは1/n!を含む定義が採用されていると思われる. 第二の問題であるラゲールの陪多項式L_n^{k}(x) = L_{n-k}^{(k)}(x)と一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)のどちらを採用するかという問題については, k\in\mathbb{N}の範囲ではL_n^{k}(x) = L_{n-k}^{(k)}(x)という関係で結ばれるので, どちらを選んでも良く, 規格化因子にも違いが現れない. (モースポテンシャルではそもそもk\in\mathbb{R}を考えなければならないので, 一般化ラゲール多項式を採用するのが普通だと思われる). SpecialPolynomials.jlでサポートされているのは一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}(x)である.

ラゲールの陪多項式L_n^k(x)

ラゲールの陪多項式L_n^k(x)についてはSpecialPolynomials.jlではサポートされていないものの, 一般化ラゲール多項式L_n^{(\alpha)}がサポートされている.

L_n^{k}(x) = L_{n-k}^{(k)}(x)

という関係を利用してラゲールの陪多項式を生成する. また, SpecialPolynomials.jlはそもそものラゲール多項式L_n(x)の定義が

L_n(x) = \frac{1}{n!}\mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right)

であるので, 最初に説明した動径関数で利用するためにはn!をかけて

L_n(x) = \mathrm{e}^x \frac{\mathrm{d}^n}{\mathrm{d}x ^n} \left( \mathrm{e}^{-x} x^n \right)

の定義になるように調整する必要がある.

ラゲールの陪多項式L_n^k(x)
# ただしラゲール多項式L_n(x)が1/n!を含まない場合
# using SpecialPolynomials

L(n,k,x) = factorial(n) * basis(Laguerre{k}, n-k)(x)

球面調和関数についての注意点

ルジャンドルの陪多項式P_k^m(t)の定義は統一されているらしく, その定義に由来する差はまだ観測していない. しかし, 球面調和関数そのものの位相因子の定義には実に豊かな変異種が生息しており, 動径関数よりもさらに注意が必要である.

位相因子 文献
i^{\|m\|+m}
高柳和夫『原子分子物理学』(2000, 朝倉書店) p.16
(-1)^{(m+\|m\|)/2}
多数派?上村洸『基礎からの量子力学』(裳華房, 2016), Wikipedia
(-1)^m~(m>0), 1~(m\leq0)
こちらのページ
(-1)^m
Wikipedia - 球面調和関数(英語版)

など多数ある. けっこう頑張ったと思うので, その他の生態系の調査は読者に任せる. もし自分が使うときになったら慎重に性質を確認する必要があるということだけはおわかりいただけただろうか.

ルジャンドルの陪多項式P_k^m(t)

ルジャンドルの陪多項式P_k^m(t)についてもSpecialPolynomials.jlではサポートされていないようなので, Polynomials.jlと連携して多項式の微分を使って関数を作成した. しかし, 呼び出しのたびに多項式の微分を行っていると非常に遅いので, 今回はk=7までを予めメモリに格納しておくことにした.

ルジャンドルの陪多項式P_k^m(t)
# using SpecialPolynomials
# using Polynomials
function P(k,m)
    #if m<0
    #    return (-1)^m * factorial(l-m) / factorial(l+m) * P(k,m,x)
    #end
    p = basis(Legendre, k)
    q = convert(Polynomial, p)
    r = derivative(q, m)
    return x -> (1-x^2)^(m/2) * r(x)
end

LegendreArray = Dict()

for k in 0:7 # 今回はk=7までを予めメモリに格納しておく.
    for m in 0:k
        LegendreArray[k,m] = P(k,m)
    end
end

P(k,m,x) = LegendreArray[k,m](x)

球面座標

直交座標と球面座標の変換はWikipediaに書いてある通り

\begin{cases} x = r\sin\theta\cos\varphi\\ y = r\sin\theta\sin\varphi\\ z = r\cos\theta \end{cases}
\begin{cases} r = \sqrt{x^2+y^2+z^2}\\ \theta = \arccos(z/\sqrt{x^2+y^2+z^2})\\ \varphi = \mathrm{sgn}(y)\arccos(x/\sqrt{x^2+y^2}) \end{cases}

であるが, 実装してみると問題に気付く. まず, \arccos(x)の定義域が-1\leq x<1であるから, 定義域を超えてしまいエラーを食らう. これはJuliaに限らず, 他のプログラミング言語でも概ね同じような問題が生じると思われる. 定義域をうまく拡張して, 周期性を持たせてやるとよい. また, 定義域の拡張と他にも, 発散しないようにx^2+y^2\sim0のときは\theta\sim\arccos(1)=0, y\sim0のときは\varphi\sim\arccos(1)=0としてやるなどの工夫が必要である.

x(r,θ,φ) = r*sin(θ)*cos(φ)
y(r,θ,φ) = r*sin(θ)*sin(φ)
z(r,θ,φ) = r*cos(θ)
r(x,y,z)  = sqrt(x^2+y^2+z^2)
θ(x,y,z) = x^2+y^2<1e-9 ? 0.0 : myacos(z/r(x,y,z)) 
φ(x,y,z) = y^2<1e-9 ? 0.0 : sign(y)*myacos(x/sqrt(x^2+y^2))
# θ(x,y,z) = acos(z/r(x,y,z))
# φ(x,y,z) = sign(y)*acos(x/sqrt(x^2+y^2))

上記のmyacos(x)acos(x)に対して周期性を持たせた関数である.

acos(x)の拡張
loop(x) = x<-1 ? loop(x+2) : (1<x ? loop(x-2) : x)
myacos(x) = acos(loop(x))

# テスト
println("x\tloop(x)\tacos(x)\tmyacos(x)")
for x in -3:0.2:3
    @printf("%.2f\t%.2f\t%.2f\t%.2f\n", x, loop(x), (try; acos(x); catch; NaN; end), myacos(x) )
end
出力
    x	loop(x)	acos(x)	myacos(x)
    -3.00	-1.00	NaN	3.14
    -2.80	-0.80	NaN	2.50
    -2.60	-0.60	NaN	2.21
    -2.40	-0.40	NaN	1.98
    -2.20	-0.20	NaN	1.77
    -2.00	0.00	NaN	1.57
    -1.80	0.20	NaN	1.37
    -1.60	0.40	NaN	1.16
    -1.40	0.60	NaN	0.93
    -1.20	0.80	NaN	0.64
    -1.00	-1.00	3.14	3.14
    -0.80	-0.80	2.50	2.50
    -0.60	-0.60	2.21	2.21
    -0.40	-0.40	1.98	1.98
    -0.20	-0.20	1.77	1.77
    0.00	0.00	1.57	1.57
    0.20	0.20	1.37	1.37
    0.40	0.40	1.16	1.16
    0.60	0.60	0.93	0.93
    0.80	0.80	0.64	0.64
    1.00	1.00	0.00	0.00
    1.20	-0.80	NaN	2.50
    1.40	-0.60	NaN	2.21
    1.60	-0.40	NaN	1.98
    1.80	-0.20	NaN	1.77
    2.00	0.00	NaN	1.57
    2.20	0.20	NaN	1.37
    2.40	0.40	NaN	1.16
    2.60	0.60	NaN	0.93
    2.80	0.80	NaN	0.64
    3.00	1.00	NaN	0.00

軌道の名前

最後に, 量子数と軌道の名前を対応させる関数を作ったが, これが意外と便利だった.

# 軌道の名前
orbital_name(n,l) = "$n$(["s","p","d","f","g","h"][l+1])"

期待値の確認

各種の期待値を計算するため, 簡単な数値積分のルーチンを用意し, ガウス積分を計算してテストを行った.

数値積分のルーチン(1次元)
integral(func, x_min, x_max, dx) = sum(func.(x_min:dx:x_max))*dx
# テスト(ガウス積分)
integral(x->exp(-x^2)/sqrt(pi), -10,10,0.1) |> display
出力
    1.0
数値積分のルーチン(2次元)
function integral2D(func, x_min, x_max, dx, y_min, y_max, dy)
    sum = 0.0
    for x in x_min:dx:x_max
        for y in y_min:dy:y_max
            sum += func(x,y)*dx*dy
        end
    end
    return sum
end
# テスト(ガウス積分)
integral2D((x,y)->exp(-x^2-y^2)/sqrt(pi^2), -10,10,0.1, -10,10,0.1) |> display
出力
    0.9999999999999957

規格化条件

固有関数が正しく宣言できているのか見た目だけでは判断できないことが多いので, ライブラリの使い方が正しいか, バグが無いか, 文献に誤りがないか等を確認する意味も含め, まず最初に規格化条件を満足するか簡単に計算する. 数値積分なので完全に1にはならないが, 概ね1なら問題ない.

動径部分について次式が成り立つはずである.

\int_0^\infty |R_{nl}(r)|^2 r^2 \mathrm{d}r = 1
動径関数の規格化条件
println("\t∫r^2R^2(r)dr")
for n in 1:5
    for l in 0:n-1
       @printf("%s\t%.17f\n", orbital_name(n,l), integral(r->r^2*abs(R(n,l,r))^2, 0, 100, 0.01))
    end
end
出力
    	∫r^2R^2(r)dr
    1s	0.99999999933335459
    2s	0.99999999991666833
    2p	0.99999999999999989
    3s	0.99999999997530897
    3p	1.00000000000000000
    3d	1.00000000000000000
    4s	0.99999999998488820
    4p	0.99999999999693834
    4d	0.99999999999879452
    4f	0.99999999999977918
    5s	0.99999930806578163
    5p	0.99999948583752063
    5d	0.99999972631969702
    5f	0.99999990537286676
    5g	0.99999998382258726

角度部分について次式が成り立つはずである.

\int_0^\pi \int_0^{2\pi} |Y_{lm}(\theta,\varphi)|^2 \sin(\theta) \mathrm{d}\theta \mathrm{d}\varphi = 1
球面調和関数の規格化条件
println("l\tm\t∫|Y(θ,φ)|^2sinθdθdφ")
for l in 1:3
    for m in -l:l
       @printf("%d\t%d\t%.17f\n", l, m, integral2D((θ,φ)->abs(Y(l,m,θ,φ))^2*sin(θ), 0,π,0.01, 0,2*π,0.01))
    end
end
出力
    l	m	∫|Y(θ,φ)|^2sinθdθdφ
    1	-1	1.00108459213941758
    1	0	1.00106961810439521
    1	1	1.00108459213941758
    2	-2	1.00108459204766698
    2	-1	1.00108459250535242
    2	0	1.00105963486609806
    2	1	1.00108459250535242
    2	2	1.00108459204766698
    3	-3	1.00108459204825762
    3	-2	1.00108459204782041
    3	-1	1.00108459332884259
    3	0	1.00104965071179763
    3	1	1.00108459332884259
    3	2	1.00108459204782041
    3	3	1.00108459204825762

わりと誤差が大きい点が気になるが, 恐らく積分領域の末端の記述がかなり悪いせいであると思われる. 次に確認する通り, 一応は規格直交性も満足しているようなので今回はよしとする.

直交性

規格化条件のついでに直交性も確認しておく.

\int_0^\pi \int_0^{2\pi} Y^\ast_{lm}(\theta,\varphi) Y_{l'm'}(\theta,\varphi) \sin(\theta) \mathrm{d}\theta \mathrm{d}\varphi = \delta_{ll'} \delta_{mm'} \tag{2.38}
球面調和関数の規格直交性
println("l\tl'\t∫Y*(θ,φ)Y(θ,φ)sinθdθdφ")
m = 0
for l in 1:4
    for ll in 1:4
       @printf("%d\t%d\t%.17f\n", l, ll, integral2D((θ,φ)->conj(Y(l,m,θ,φ))*Y(ll,m,θ,φ)*sin(θ), 0,π,0.01, 0,2*π,0.01))
    end
end
出力
    l	l'	∫Y*(θ,φ)Y(θ,φ)sinθdθdφ
    1	1	1.00106961810439521
    1	2	-0.00001297905216095
    1	3	-0.00002287377512273
    1	4	-0.00001741363401505
    2	1	-0.00001297905216095
    2	2	1.00105963486609806
    2	3	-0.00001982616166688
    2	4	-0.00003348500577979
    3	1	-0.00002287377512273
    3	2	-0.00001982616166688
    3	3	1.00104965071179763
    3	4	-0.00002660021073039
    4	1	-0.00001741363401505
    4	2	-0.00003348500577979
    4	3	-0.00002660021073039
    4	4	1.00103966527685562

ビリアル定理

クーロンポテンシャルでは2\langle T \rangle = -\langle V \rangleが成り立つため, E = \langle T \rangle + \langle V \rangle = \langle V \rangle/2が直ちに導かれる. \langle V \rangleを次式で計算し, ビリアル定理を検証する.

\langle V \rangle = \int_0^\infty V(r) |R_{nl}(r)|^2 r^2 \mathrm{d}r
ビリアル定理の確認
println("\tE\t\t\t<V>/2")
for n in 1:5
    for l in 0:n-1
        @printf("%s\t%.17f\t%.17f\n", orbital_name(n,l), E(n), integral(r->V(r)*r^2*abs(R(n,l,r))^2, 0.01, 100, 0.01)/2)
    end
end
出力
    	E			<V>/2
    1s	-0.50000000000000000	-0.49998333366666148
    2s	-0.12500000000000000	-0.12499791670312468
    2p	-0.12500000000000000	-0.12500000000173608
    3s	-0.05555555555555555	-0.05555493828212155
    3p	-0.05555555555555555	-0.05555555555616521
    3d	-0.05555555555555555	-0.05555555555555557
    4s	-0.03125000000000000	-0.03124973958770489
    4p	-0.03125000000000000	-0.03125000000025629
    4d	-0.03125000000000000	-0.03124999999999411
    4f	-0.03125000000000000	-0.03124999999999892
    5s	-0.02000000000000000	-0.01999986331948914
    5p	-0.02000000000000000	-0.01999999751095307
    5d	-0.02000000000000000	-0.01999999867474622
    5f	-0.02000000000000000	-0.01999999954163147
    5g	-0.02000000000000000	-0.01999999992160406

期待値\langle r\rangle

いろいろな期待値がこちらのサイト高柳(2000)p.20などで紹介されている.

期待値<r>
r(n,l;Z=1) = (3*n^2-l*(l+1))/2
println("\texact\t\t\t<r>")
for n in 1:6
    for l in 0:n-1
        @printf("%s\t%2.17f\t%2.17f\n", orbital_name(n,l), r(n,l), integral(r->r^3*abs(R(n,l,r))^2, 0.1, 1000, 0.01))
    end
end
出力
    	exact			<r>
    1s	1.50000000000000000	1.49993035023037469
    2s	6.00000000000000000	5.99999130697251903
    2p	5.00000000000000000	4.99999999535692119
    3s	13.50000000000000000	13.49999742501150735
    3p	12.50000000000000000	12.49999999836981246
    3d	10.50000000000000000	10.49999999999993605
    4s	24.00000000000000000	23.99999891378351080
    4p	23.00000000000000000	22.99999999927470284
    4d	21.00000000000000000	20.99999999999996803
    4f	18.00000000000000000	18.00000000000000355
    5s	37.50000000000000000	37.49999944388246575
    5p	36.50000000000000000	36.49999999961975305
    5d	34.50000000000000000	34.49999999999998579
    5f	31.50000000000000000	31.50000000000001066
    5g	27.50000000000000000	27.50000000000000000
    6s	54.00000000000000000	53.99999967818066438
    6p	53.00000000000000000	52.99999999977713117
    6d	51.00000000000000000	50.99999999999999289
    6f	48.00000000000000000	48.00000000000000711
    6g	44.00000000000000000	16094.43124042773706606
    6h	39.00000000000000000	14506950.32743391394615173

可視化

エネルギー固有値

まず, ポテンシャルと固有値を図示する.

ポテンシャルと固有値
# using Plots

plot(xlabel="\$r\$", ylabel="\$V(r)\$", xlims=(-20,20), ylims=(-0.55,0.05), legend=:bottomright) #, xticks=-15:1:15)
plot!(-50:0.1:50, r->V(r), label="V(r)", lc="#000000", lw=2)
for n in 1:10
    plot!([1/E(n), -1/E(n)], fill(E(n),2), lc=n, lw=2, label="n = $n")
end
plot!()

スペクトル系列

エネルギー固有値の差からスペクトルを導出でき, 実験と直接的に比較できる. こちらを確認されたい.

波長の計算
# https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/CCValue?hrminv
Eh2m1 = 2.1947463136320*1e7
Eh2cm1 = 2.1947463136320*1e5
Eh2nm1 = 2.1947463136320*1e-2

frequency(n,m;Z=1) = (E(n,Z=Z) - E(m,Z=Z))*Eh2cm1
wavelength(n,m;Z=1) = 1/((E(n,Z=Z) - E(m,Z=Z))*Eh2nm1)

println("\tLymann\t\tBalmer\t\tPaschen")
println("n -> m\tm=1\t\tm=2\t\tm=3")
@printf("n = %-3d\t%.2f\tnm\n", 2, wavelength(2,1))
@printf("n = %-3d\t%.2f\tnm\t%.2f\tnm\n", 3, wavelength(3,1), wavelength(3,2))
for i in [4,5,6,7,8,9,10,Inf]
    @printf("n = %-3d\t%.2f\tnm\t%.2f\tnm\t%.2f\tnm\n", i, wavelength(i,1), wavelength(i,2), wavelength(i,3))
end
出力
    		Lymann		Balmer		Paschen
    n -> m	m=1		m=2		m=3
    n = 2  	121.50	nm
    n = 3  	102.52	nm	656.11	nm
    n = 4  	97.20	nm	486.01	nm	1874.61	nm
    n = 5  	94.92	nm	433.94	nm	1281.47	nm
    n = 6  	93.73	nm	410.07	nm	1093.52	nm
    n = 7  	93.03	nm	396.91	nm	1004.67	nm
    n = 8  	92.57	nm	388.81	nm	954.35	nm
    n = 9  	92.27	nm	383.44	nm	922.66	nm
    n = 10 	92.05	nm	379.69	nm	901.25	nm
    n = Inf	91.13	nm	364.51	nm	820.14	nm
# using Plots

Plots.plot(size=(800, 150), yshowaxis=false, grid=false, xscale=:log10, ylims=(0,3))
xticks!([100,1000,10000], ["100nm", "1000nm", "10000nm"])

for j in 1:6
    plot!(annotations=(wavelength(j+1,j), 2.9, (["Lyman", "Balmer ", "Paschen ", "Brackett ", "Pfund ", "Humphreys "][j], 8, 0.0, :right)))
    plot!(annotations=(wavelength(j+1,j), 2.5, (@sprintf("~%.2f", wavelength(j+1,j)), 8, 0.0, :right)))
    for i in j+1:15
        if i==j+1
            plot!(fill(wavelength(i,j),2), [0,2.3], label="", lc=j)
        else    
            plot!(fill(wavelength(i,j),2), [0,2], label="", lc=j)
        end
    end
end

plot!()

動径関数

動径密度関数を描写した. こちらのページまたはWikipedia等と見比べて, 節や腹の位置を確認して頂きたい.

動径密度関数の描写
# using Plots

plot(xlabel="\$r\$", ylabel="\$r^2|R_{nl}(r)|^2\$", ylims=(-0.01,0.55), xticks=0:1:21)
for n in 1:3
    for l in 0:n-1
        plot!(0:0.1:21, r->r^2*R(n,l,r)^2, label=orbital_name(n,l), lc=n, lw=2, ls=[:solid,:dash,:dot,:dashdot,:dashdotdot][l+1])
    end
end
plot!()

球面調和関数

球面調和関数は複素数値であるので, よく目にする2p_{xy}とか3d_{xy}のような実数値の関数を作るには工夫が必要になる. 具体的な表式や描写方法についてはこちらの解説が非常に参考になった. 具体的な描写ライブラリについてはPlots.jlのPyPlotバックエンドによって簡単に実現できた. 位相の色分けはこちらの記事を参考にfill_z=Cを指定した.

球面調和関数の描写
pyplot()

function my_surface(N, M, f; xlims=(-0.2,0.2), ylims=(-0.2,0.2), zlims=(-0.2,0.2), clims=(-0.5,0.5), title="")
    
    Θ = range(0, stop=π,   length=N)
    Φ = range(0, stop=2*π, length=M)

    p(θ,φ) = abs(f(θ,φ))^2
    
    X = zeros(N, M)
    Y = zeros(N, M)
    Z = zeros(N, M)
    C = zeros(N, M)

    for j in 1:M
        for i in 1:N
            X[i,j] = p(Θ[i],Φ[j]) * sin(Θ[i])*cos(Φ[j])
            Y[i,j] = p(Θ[i],Φ[j]) * sin(Θ[i])*sin(Φ[j])
            Z[i,j] = p(Θ[i],Φ[j]) * cos(Θ[i])
            C[i,j] = real(f(Θ[i],Φ[j]))
        end
    end
    
    plt = surface(X, Y, Z, fill_z=C, xlims=xlims, ylims=ylims, zlims=zlims, clims=clims, title=title, c=:Spectral)
    plot(plt) |> display
    return plt
end
f(θ,φ) = Y(0,0,θ,φ)
my_surface(100, 200, f, title=L"1s")

f(θ,φ) = (Y(1,-1,θ,φ) - Y(1,1,θ,φ)) / sqrt(2)
my_surface(100, 200, f, title=L"2p_x")

f(θ,φ) = (Y(1,-1,θ,φ) + Y(1,1,θ,φ)) * im / sqrt(2)
my_surface(100, 200, f, title=L"2p_y")

f(θ,φ) = Y(1,0,θ,φ)
my_surface(100, 200, f, title=L"2p_z")

f(θ,φ) = (Y(2,-2,θ,φ) - Y(2,2,θ,φ)) * im / sqrt(2)
my_surface(100, 200, f, title=L"d_{xy}")

f(θ,φ) = (Y(2,-1,θ,φ) + Y(2,1,θ,φ)) * im / sqrt(2)
my_surface(100, 200, f, title=L"d_{yz}")

f(θ,φ) = (Y(2,-1,θ,φ) - Y(2,1,θ,φ)) / sqrt(2)
my_surface(100, 200, f, title=L"d_{zx}")

f(θ,φ) = (Y(2,-2,θ,φ) + Y(2,2,θ,φ)) / sqrt(2)
my_surface(100, 200, f, title=L"d_{x^2-y^2}")

f(θ,φ) = Y(2,0,θ,φ)
my_surface(100, 200, f, title=L"d_{3z-r^2}")









軌道の可視化

上記の球面調和関数の図は飽くまでも角度\theta,\varphiへの依存性を表したに過ぎない. うまく動径部分の寄与を含めた等値面を描写する方法を思いつかなったので, GR.jlを用いて三次元配列A[:,:,:]から等値面を描写する. Plots.jlとGR.jlは干渉することが多いので, モジュールの中でusing GRを宣言する方がよい.

関数を配列に変換する
module Orbital
    using GR
    GR.__init__()

    function isosurface(x_min, x_max, dx, func; isovalue=NaN, rotation=180 , tilt=150)
        s = x_min:dx:x_max # 3軸方向に共通してx_min≦x≦x_x_mmaxの点をdx刻みでサンプリングする
        N = length(s)
        array = zeros(N,N,N)
        for k in 1:N
            for j in 1:N
                for i in 1:N
                    array[i,j,k] = func(s[i],s[j],s[k])
                end
            end
        end
        if isnan(isovalue) || isovalue<minimum(array) || maximum(array)<isovalue
            isovalue = sum(array)/length(array)
        end
        GR.isosurface(array, isovalue=isovalue, rotation=rotation , tilt=tilt) |> display
    end
end

# # テスト(d型ガウス軌道の描写)
# f(x,y,z) = (x*y*exp(-(x^2+y^2+z^2)))^2
# Orbital.isosurface(-2, 2, 0.1, f)
L"1s" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(1,0,0,x,y,z))^2
Orbital.isosurface(-10, 10, 0.5, f)

L"2p_x" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(2,1,1,x,y,z) + ψ(2,1,-1,x,y,z))^2 / 2
Orbital.isosurface(-10, 10, 0.5, f)

L"2p_y" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(2,1,1,x,y,z) - ψ(2,1,-1,x,y,z))^2 / 2
Orbital.isosurface(-10, 10, 0.5, f)

L"2p_z" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(2,1,0,x,y,z))^2
Orbital.isosurface(-10, 10, 0.5, f)

L"3d_{xy}" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(3,2,-2,x,y,z) - ψ(3,2,2,x,y,z))^2 / 2
Orbital.isosurface(-20, 20, 1.0, f)

L"3d_{yz}" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(3,2,-1,x,y,z) + ψ(3,2,1,x,y,z))^2 / 2
Orbital.isosurface(-20, 20, 1.0, f)

L"3d_{zx}" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(3,2,-1,x,y,z) - ψ(3,2,1,x,y,z))^2 / 2
Orbital.isosurface(-20, 20, 1.0, f)

L"3d_{x^2-y^2}" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(3,2,-2,x,y,z) + ψ(3,2,2,x,y,z))^2 / 2
Orbital.isosurface(-20, 20, 1.0, f)

L"3d_{3z^2-r^2}" |> display
f(x,y,z) = abs(ψ(3,2,0,x,y,z))^2
Orbital.isosurface(-20, 20, 1.0, f)

1s

2p_x

2p_y

2p_z

d_{xy}

d_{yz}

d_{zx}

d_{x^2-y^2}

d_{3z^2-r^2}

もちろん2sや3sもあるが, 断面を見たり透明度を表現できるライブラリでないと差がわからないので省略した.

おわりに

特殊関数を取り巻く複雑な事情を垣間見た. 先人の定義に従いたい物理学者と, より一般化した概念に置き換えたい数学者のせめぎ合いという構図もあるのだろう. Juliaでの特殊関数の使い方については別の記事でまとめることにする.

水素原子という最も簡単な原子・分子でさえ, 等値面の描写にここまで苦労するとは思わなかった. 等値面を気軽に描けるライブラリを開発すれば, 計算物理・計算化学でのJuliaの利用が進みそうだ.

動作環境

versioninfo()
出力
    Julia Version 1.6.2
    Commit 1b93d53fc4 (2021-07-14 15:36 UTC)
    Platform Info:
      OS: Windows (x86_64-w64-mingw32)
      CPU: Intel(R) Core(TM) i7-4650U CPU @ 1.70GHz
      WORD_SIZE: 64
      LIBM: libopenlibm
      LLVM: libLLVM-11.0.1 (ORCJIT, haswell)

参考文献

この記事の元になったJupyter Notebookのデータは下記のリンクにある.

https://gist.github.com/ohno/44943b4873bb365c93e0da2a58fbc8e3

Juliaで可視化シリーズ

https://zenn.dev/ohno/articles/3101433fbe9231
https://zenn.dev/ohno/articles/870b0c2a0af590
https://zenn.dev/ohno/articles/f849d98a7f58a9
https://zenn.dev/ohno/articles/e1103bc0d58ceb

Discussion

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