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八木作戦 — 三射

に公開

八木作戦 — 三射

電波を集めて圏外を殲滅せよ


🌒️ 序

前回、八木作戦 — 二射 ( Zenn, Qiita ) では、 au band 18 向けに設計した八木アンテナを試したが、良い結果が得られなかった。今回は、その原因を探り、新たな補完計画へと進む。

🌕️ 破

良い道具

前回の反省会では、ホームルーターそのものに関わる疑問が示された。

  • 外部アンテナへの疑問
  • 表示された電波強度への疑問

実は最初の設置段階で、外部アンテナ有りと無しで大差がないという疑惑が出ていた。アンテナをどこに置くのがいいかを探っている時に、「どこに置いても同じ」というか、どこに置いても安定しないという現象で設置場所を決めかねていた。思い切ってアンテナそのものを外してみても同じ結果だったので、「アンテナ大丈夫か?」という疑惑が出ていたのだが、その時点では大きな障害もなかったので、そのまま放置した。

説明書によると、外部アンテナを接続すれば内蔵アンテナから自動で切り替わる回路を持っているらしい。こいつが動作していないとか外部アンテナ自身の接触不良とかケーブル切断の可能性がある。

信号強度表示には次の問題点がある。

  • 受信している周波数帯とか基地局に関する情報が無い
  • 表示している情報の最終更新日時が無い

この表示は、web 画面側が passive で受動的なのはもちろんだが、移動体通信の仕組み上、ホームルーターのハードウェア上でもやはり passive な情報だ。最新情報の日時が必ずしも今とは限らない。

不安の残る道具で測定しても意味がないので、良い測定器を用意したい。受信機としては android 端末が優れている。測定用のアプリを作って、スマホを測定器にすることにした。

基地局のおさらい

反省会では、基地局の方角に対する疑惑も出ていた。そこで、あらためて周辺の基地局を再確認した。使用した道具は、 Google map の写真とストリートビューだ。

近隣の電波塔として、4つの塔を特定した。ストリートビューでアンテナ形状も把握できる。市内側に2基、市外側に2基。これまで想定したとおりだ。部屋から目視できない塔も含め、正確な位置を掌握できた。

あらためて、基地局を結ぶ四角形の、対角線の交点上に居ることがわかった。唯一無二の悪立地だ。これは引っ越すのが一番手っ取り早いのでは?

ストリートビューは新たな事実も提供してくれた。市外側の基地局では、アンテナが周囲に一律ではなく、私に背を向けるように配置されていた。市街地があって人口が多い地域だけに向いている。この国のエリア指標は人口カバー率95%だ。辺境に棲む少数民族など切り捨てるのが、国家戦略的には正義なのだ。

カオス

まず、外に出て、室外での受信状況を計測する。

sniper.png

白昼堂々と、こんなものを小脇にかかえて、いきなり彼方の空に向かって照準を合わせ、スナイパーのようにじっと佇む。どうみても不審者なのだが、通報はされなかったようなので、ヨシ。

  • 市内A塔: 強度4
  • 市内B塔: 最大強度2 たまに受信するが狙って受信はできない
  • 市外C塔: 強度4
  • 市外D塔: 最大強度2 たまに受信するが狙って受信はできない

A塔とC塔は、外に出れば目視できる。やはり障害物がなく直接届く電波が強い。最も強く安定受信可能なのは、市内A塔だった。A塔のアンテナは私の方にも向いて配置されている。次いで市外C塔も十分な強さだ。波長が長い分、建物等での反射波でも十分な強度を持っており、塔に背を向けて反射角をイメージして構えてみたらしっかり受信する。おかげで受信可能な方位角が広く、B塔やD塔の方角と被ってしまう。

室内に入ると、この状況が一変する。

A塔だが、窓の方角との相性が悪い。室内からは目視できない方向になるし、外に障害物もある。それでも反射波が使える方角で最大強度3を記録した。C塔も室内では最大強度3だ。いずれも安定した3ではない。窓際でさえ、すぐ2に落ちる。

窓際の良い場所を離れた途端、わらわらと基地局が湧いてくる。絶対強者の不在で、 level 1 の雑魚どもが闊歩し始める。室外では受信機会が少なかった B塔とD塔が勢力を伸ばしてくる。窓際以外では、市内側も市外側も関係ない。さらに、電波は受かるものの信号が取れない幽霊基地局が次々と湧いては消える。反射波によるゴーストか。基地局が目まぐるしく入れ替わっていることを目の当たりにできた。これこそが安定しない理由だ。ここでは band 18 の電波があらゆる方角から飛んでくるのだ。

浴室は、入口以外の全方向をステンレスで覆われた、理想的な電波遮断装置だ。決まった方角(入口)から来る電波だけを選別できる。この中に入ると、市内A塔とB塔のみになる。浴室の入口が市内側を向いているからだ。

部屋の中は電波が届かないのではなく、電波のゴミを集めたカオスな空間だった。

chaos.png

左: スマホ単体 | 右: 八木アンテナ有り

画面に表示されているカードは、基地局ごと band ごとに区別したものだ。識別でき、利用可能な基地局のカードには色が塗られている。したがって、白いカードは電波を認識するものの、役に立たないノイズだ。カードには秒程度の単位で受信強度 dBm などを羅列している。こういう単純なアプリは便利なのだが、手抜きに見えるとか映えないとかの理由であまり出回らない。

色の塗られたカードが多いということは、それだけ頻繁に基地局の切り替えが行われたことを示す。一方で、八木アンテナを使用した場合は、たまに白カードが登場するがすぐに消え、基地局の切り替えが発生しない。

band 3

これが思ったより蔓延っている。波長は band 18 の半分。使ってみるか。

au band 3 設計

  • down link: 1805 - 1825 MHz
  • up link: 1710 - 1730 MHz

down link の中心をターゲットにする。設計に使う \frac{λ}{4} は、

  • 4.125cm ← 16.5cm = 1.815GHz

全長37cm 最大幅11cm。
余ったアルミ棒と、廃材の60cm長角材で作れそうだ。

band3_1815
*
1815.0
*** ワイヤ ***
10
0.0,	0.03415,	0.0,	0.0,	-0.03415,	0.0,	0.0015,	-1
-0.0424,	0.03615,	0.0,	-0.0424,	-0.03615,	0.0,	0.0015,	-1
0.0516,	0.0354,	0.0,	0.0516,	-0.0354,	0.0,	0.0015,	-1
0.0676,	0.0548,	0.0,	0.0676,	-0.0548,	0.0,	0.0015,	-1
0.1664,	0.0352,	0.0,	0.1664,	-0.0352,	0.0,	0.0015,	-1
0.1772,	0.04505,	0.0,	0.1772,	-0.04505,	0.0,	0.0015,	-1
0.206,	0.0331,	0.0,	0.206,	-0.0331,	0.0,	0.0015,	-1
0.2496,	0.04165,	0.0,	0.2496,	-0.04165,	0.0,	0.0015,	-1
0.2796,	0.03355,	0.0,	0.2796,	-0.03355,	0.0,	0.0015,	-1
0.3202,	0.0382,	0.0,	0.3202,	-0.0382,	0.0,	0.0015,	-1
*** 給電点 ***
1,	1
w1c,	0.0,	1.0
*** 集中定数 ***
0,	1
*** 自動分割 ***
800,	80,	2.0,	1
*** 計算環境 ***
2,	3.0,	3,	50.0,	120,	60,	0

optimized.png

instruction.png

realized.png

使用済み木材なので、既存の穴を避けるように設計する。 9×29×600mm をそのまま使う。

kidori.png

wood.png

setup.png

実戦

band 18 をそのままコピーしたような結果となった。作戦は失敗したのか?

問題ない。

求めるものは調和と秩序だ。八木アンテナは方角と周波数を絞り込む。 band 3 は指向性の確保とノイズ除去という点で band 18 より安定した秩序が期待できる。同じ信号強度でもノイズが減れば相対強度は増す。さらに帯域確保という点で band 3 は有利だ。

あとは、そう。音楽をかけてみればいい。

給電素子の設計が 7cm と短いこともあり、信頼できない外部アンテナを外して、ホームルーター本体を八木アンテナと直接つなげた。 web 画面に表示される信号強度は -87 dBm だ。これは決して優等生の数値ではないが、これが維持されるのなら十分だ。

必要なのは信号を増幅することではなかった。市外C塔に発する band 3 のみに集中し、他の電波を極力排除する。ノイズを下げることで、余計な基地局変更をさせない。 band 3 で安定接続すれば、帯域は十分に確保できるはず。

working.png

歌は心を潤してくれる。

🌖️ 急

顛末

au回線があまりにも使えないので、 7月で解約しようかなどと考えていた。 au、ギリ命拾いしたな。

今回の八木作戦で、得たものが2つある。

アナログとデジタルは相反するものではない

百年前に発明された八木アンテナが、現代のデジタル通信における局所的な問題を解決した。ただ塔を建てて電波の力で押すだけでなく、アナログ技術も活かして、電波の性質を上手に使うことも有効だ。

やはり好立地

日本の住宅といえば南向きの窓だが、その概念を変える時が来たのかもしれない。電波塔が窓の鉛直方向にある部屋こそが好立地だ。あるいはスターリンクを受信しやすい北側に大きな窓やバルコニーのある部屋とか。

八木作戦の戦果

Zenn

Qiita

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