スタートアップでゼロからマネジメント文化を作ってきた話

ログラスの飯田です。
この記事では、EMConf 2026のプロポーザルに出した内容の補強として具体的な話をお伝えできればと思います。
プロポーザルは以下。
背景
このプロポーザルではスタートアップの中で組織が拡大していく中で私自身が一人目のマネージャーとして経験してきたことをN=1の事例としてお伝えできればと思ったという背景があります。
私自身過去の経験も踏まえて、マネジメントがスケールしない会社はスケールするのが難しいという考えを持っていますが、一方でそもそもマネジメントのスケール自体がとてつもなく難しいことです。
何かの参考になれば幸いです。
前提
筆者はエンジニアバックグラウンドのマネージャーであり、全社のことを考えつつも開発組織に軸足があります。
創業フェーズ(〜10人規模)
ログラスは2019年の創業で私は2020年に入社しました。
入社した頃は五反田のマンションの一室がオフィスとなっており、非常にスタートアップらしい空気感の中で仕事をしていました。(創業期のオフィスの様子はこちらの記事をご覧ください。)
このフェーズでは想像の通りマネジメントという概念を持ち出すことはほぼなく、ほとんどの時間を開発に費やしていました。
しかしながら、代表の布川やCTOの坂本との1on1は定期的に開催されており、メンバー視点ではそこが唯一マネジメント的取り組みの時間となっていました。
一方、私は当時経営の議論には全く関わっていませんが、経営陣の視点では文化構築や採用など組織をどう作っていくかという議論は多くなされていたと感じています。
- バリュー策定の議論
- 感謝を伝えるKAMI会の運用
など、組織に対する熱量は非常に高く、個人的にもこのスタンスに共感して入社したことを覚えています。
KAMI会については当時の空気感がわかるnoteがありましたので参考まで。
※現在はこの取り組みはHeytacoというSlack上で利用できるピアボーナスのサービスで代替されています。
まとめ
- 経営陣による1on1
- 経営陣中心の組織文化構築・運用
- 人事評価などはなし
- 採用は全員でやる
権限委譲フェーズ(〜30人規模)
いわゆる30人の壁ですが、このフェーズになると経営陣の2人だけで組織全体のマネジメントをすることは難しいフェーズになります。(組織運営としてはこの時期でもまだ全社員でのふりかえりMTGは実施していましたが、人事的な細かいオペレーションは難しくなる)
ここで開発サイド(私)とBizサイド(浅見 / 現VP of Product Growth)それぞれで1名ずつ最初のマネージャーが立つことになりました。
このフェーズでは元々経営陣の頭の中にあった価値観・基準を一人目のマネージャーに正しくSyncすることが重要となります。
このフェーズから人事評価の仕組みなど徐々に整えていくフェーズとなるため、言語化された基準によって判断が人によってずれることを避けなければいけません。
取り組んだことの大きなものは以下です。
- 等級制度の策定(モノサシの言語化)
- マネージャー研修の受講(共通言語を作る)
等級制度については、初期フェーズでまず数年走れるレベルのものを作るという期待値で担当しました。私自身は人事の専門的バックグラウンドがあるわけではないのですが、前職時代に人事部に兼務していたことや、そのつながりでジンジニアというエンジニア出身の人事コミュニティとのつながりもあったことから、SaaSスタートアップの人事制度の設計について情報収集がしやすい状況にありました。
オープンになっている資料だと金田宏之さんの資料が非常に参考になります。
マネージャー研修の受講については、株式会社EVeMのマネジメント研修を経営陣と新マネージャー陣の計4名で受けました。
私が入社当初から経営陣にお伝えしていたことは「今後マネジメントを権限移譲していくことになると思うが、権限移譲したからと言ってマネジメントから逃れられるわけではない。だからこそ実務としてのマネジメントの経験は失敗も含めて向き合うべきである。」ということを言っていました。
一般的にスタートアップではマネジメントの経験をしっかり積んでから起業するケースは少ないと思います。また創業期に起業家が最優先にするケイパビリティでもないと思います。
しかしながらマネジメントが課題になる会社は少なくなく、そのギャップが私は経営陣のマネジメントに対する肌感覚だと感じていました。
したがってEVeMの研修はただ権限を委譲してもらうために目線を合わせるだけでなく、実務をスケールさせるという目線で受講しました。
結果としてここでの議論がその後の組織のスケールにおいても共通言語になりましたし、何よりマネジメントの難しさを経営陣が理解してくれているという安心感にも繋がっています。
まとめ
- 等級などの基準で組織・人に対するモノサシの目線合わせを行う
- マネジメントの共通言語化と、そこに向き合い続けるスタンスを合意することでスケールさせるための経営的な後押しを醸成する
試行錯誤フェーズ(〜100人規模)
初期のマネージャーの立ち上がり以降は、2人目のマネージャー登用や、部長、執行役員などスケールのための枠組みと拡張が同時並行で進んでいきました。
この中で私のラインでも新しいEMの登用を実施しましたし、私の上にVPoEに立ってもらうというイベントもありました。
このスケールの過程においては各ラインで多くの細かいマネジメント課題が発生するため、ファーストライン[1]の経験をいかに積んでもらい、その対処に対してサポートができるか?だったと思います。
上のZennの記事でも触れられていますが、マネジメント課題の対処の中で今の組織基盤に大きく貢献していると感じているものがシステムコーチングの存在です。
ログラスではDDDで有名な松岡が今後組織にとって必要になるだろうということで個人で資格を取り、時間をかけて社内で実践してきた結果全社的に浸透しているものになっています。
これのすごいポイントは経営陣がシステムコーチングの威力を体感しており、マネージャーたちにも受けた方がいいシーンにおいてはコーチングを受けることを進言するようなやりとりがあることです。コーチングは時間がかかりますし、短期で確実に何かがよりよくなるということを言い切れるものではありません。しかし、短期課題解消のためにもその土台となるきちんと対話ができる状態を作ることが実は最短であるという経験があるからこそ、そういった取り組みにまず時間を取る選択ができることがこの組織の強みだなと感じています。
まとめ
- ファーストラインマネジメントの拡大
- セカンドラインマネジメントの仕組みの整備
- マネジメント課題のシューティング体制の強化
- システムコーチングによる対話の土台の構築
仕組みによるスケールフェーズ(〜300人規模)
このフェーズではある程度組織の構造化が進みますが、事業状況に対してはまだ柔軟性を持っているため大きな組織改変がまだ実施できます。
その中で向き合う必要のあるイベントがサクセッションです。サクセッションと呼んでいるのは主に後継者育成を指していますが、単に自らがミッションを変えて引き継ぐというよりかは、スタートアップにおいては組織の成長が個人の成長を追い越すようなシーンがあり、それを想定して後継者を探す必要があるというニュアンスです。例えば、事業の成長に伴い採用を加速させた結果自身が2チームのEMを兼務していくようなケースです。
組織構造が型になってくるとその枠のなかで考えるという限定合理性が働きます。自分の役割を大きく変えてでも組織を動かすという思考が働きにくくなります。
そこで、単に兼務を増やすだけでなく、自身のポジションを後任に明け渡し、引き上げることで組織成長の非連続を作っていくことが重要となります。
このサクセッションも非常に難しいもので、ファーストラインの人はセカンドラインの視点で捉えて後任育成をしなくてはいけないですし、ボードメンバーのサクセッションとなるともはや想像できないほどのコンテキストを受け止めて最後は覚悟を決めるということが必要になります。
少なくともこのサクセッションで組織の持続性を作っていくフェーズに来れたことは喜ばしいことなのですが、まだまだ苦戦しているところではあり、さらに第2世代第3世代が立ち上がっていくためには何が必要なのか、ということを常々考えています。
まとめ
- サクセッションの再現性の強化
- セカンドライン以上の強化
まとめ
ここまでフェーズごとにマネジメントとして意識して取り組んできたことを振り返ってみました。
より詳しい話を聞きたい方はX等でもお気軽にお声がけください。
また今後はよりスケールしていくためにファーストラインもそうですがセカンドラインをいかに作っていくかが重要だと感じています。足元ではエンジニア採用に注力している状況ですが、マネジメント領域に関心のある方もぜひお声がけください!
-
メンバーを直接もつマネージャーのことをファーストラインマネージャー、マネージャーのマネージャーをセカンドラインマネージャーといいます。 ↩︎
Discussion