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アジャイル開発の「人的側面」の課題を解決する「システムコーチング」 

2023/10/02に公開

はじめに

アジャイル開発では、技術やビジネスといった側面だけでなく、開発を担う人々の「人的側面」への取り組みが欠かせません。この記事では、その「人的側面」を強化する効果的なアプローチとして、「システムコーチング®」を紹介します。

特に「アジャイル・フルーエンシーモデル(アジャイルのプラクティスを包括的にまとめるモデル)」とシステムコーチングとの相互補完性に焦点をあて、ログラスの事例を交えて具体的な効果を探ります。システムコーチングを導入することで、チームや組織にどのようなインパクトがあるのか、そのポイントをお伝えします。

アジャイル開発とは

アジャイル開発は、顧客の要求に迅速に対応するためのソフトウェア開発手法の総称です。短期間のイテレーションを通じて、開発チームは頻繁に製品のリリースを行い、顧客のフィードバックをすばやく取り入れることができます。

このアプローチはその柔軟性と迅速性により、高い価値を生み出すことが期待されます。しかし、その成功はチームメンバー同士のコミュニケーションと協力の質に強く依存 しています。

システムコーチングとは

システムコーチングは、正式名称では「組織と関係性のシステムコーチング(ORSC®: Organization & Relationship Systems Coaching)」といい、組織やチームにおける効果的なコミュニケーションを促進し、人間同士の関係性を強化するコーチング手法です

「システム」とは、「特定の目的を達成するために複数の要素が組み合わさったもの」を指し、例としては社会システムや循環器系システム、コンピューターシステムなどが挙げられます。
その中でもシステムコーチングの対象となる「関係性システム」(以下、システム)とは、「共通の目的やアイデンティティを持ち、相互に依存し合う(お互いを必要としている)存在」 を指します。

システムコーチングでは、メンバー個々の行動や考え方だけでなく、 メンバーが形成するシステム全体との相互作用に着目し、行動を促します。
これにより、アジャイル開発の「人的側面」の強化、つまり、コミュニケーションの改善、信頼関係の構築、そして効果的なな意思決定の促進などを実現します。

なお、システムコーチングはアジャイルに限らず、家族や友人といったプライベートな関係性にも応用が可能で、人間関係全般の質を高めるのに役立ちます。しかし、本記事ではアジャイルの文脈での適用に注目して紹介します。

※システムコーチング®︎、ORSC®はいずれもCRR Global Japan 合同会社の登録商標です
https://crrglobaljapan.com/

アジャイルとシステムコーチングの相互補完性

アジャイル開発において、アジャイルプラクティスとシステムコーチングは非常に相性がよく、二つのアプローチを連携することで、プロダクト開発の成果を大きく引き上げることができます。

具体的には、アジャイルプラクティスを体系化した「アジャイル・フルーエンシーモデル(以下、フルーエンシーモデル)」との関連性を整理するとわかりやすいでしょう。
フルーエンシーモデルは、アジャイルの思想とプラクティスを最大限に活用し、大きな価値創出を目指すフレームワークです。その中心として「ビジネス価値の追求、技術的卓越性、市場に関する深い理解」という3つの柱があります。

詳細については、下記の記事で具体的に解説していますので、よろしければご参照ください。
https://zenn.dev/loglass/articles/cefa77e65aa6ce

フルーエンシーモデルが具体的な戦略や技術的な側面にフォーカスを当てているのに対し、システムコーチングはこれらの基盤となる人間同士の関係性を強化・改善します。

この人間関係の強化は、フルーエンシーモデルの実践をさらに効果的にする土台となり、アジャイルチーム全体が生み出す価値を向上させます。

海外におけるアジャイルとシステムコーチング

海外では、アジャイルとシステムコーチングの結びつきが非常に強まってきています。

システムコーチングを展開しているCRR Globalでは「ORSC™ とアジャイル コーチングの相乗効果」、CRR Global USAではORSCとアジャイルという記事がWebサイトの主要な導線上に掲載されています。
また、アジャイルリーダーシップと言う書籍の著者、アジャイルコーチのZuzana Sochova氏はシステムコーチングの認定コーチとしても知られ、アジャイルにおけるシステムコーチングの適用を積極的に推進しています。

適用事例 - ログラスにおける実践事例

システムコーチングでは、30以上の「ツール」(確立された手順やワークショップのようなもの)が用意されています。これらのツールは、それぞれ異なる課題や目的に応じて設計されており、コーチはこれらを組み合わせることで、クライアントのニーズに応じた最適なコーチングを実施します。

このセクションでは、ログラスでの実践例を紹介します。

なお、以下のツールの紹介の一部は、「人と組織の進化を加速させる システム・インスパイアード・リーダーシップ」(以下、SIL)という書籍を参照しています。
興味を持たれた方は、ぜひこちらもお手にとってみてください。

事例1. OKRの質向上

ログラスでは、組織の目標管理にOKR(Objectives and Key Results)採用しています。しかし、単に目標を設定するだけでは不十分で、その目標が持つ意義や質が大切です。そこで、より質の高いOKRを設定・実現するために、「ハイドリーム・ロードリーム」というツールを使用しました。

このツールの特徴は、まずチームが最も避けたい最悪の状態を具体的にイメージすることから始まります。このイメージを通じて、組織やチームが本当に大切にしたい価値観や、恐れるリスクなどを明確にします。その後、理想とする最高の状態を具体的にイメージし、その状態を達成するためのOKRを設定します。
このプロセスを通じて、チームは納得し、情熱をもって目指すことができるOKRにブラッシュアップすることができました。
(なお、最悪の状態と最良の状態を描く順序は逆転する場合もあります)
 
参考:ハイドリーム・ロードリームについて

事例2. プロダクトビジョンの浸透

ログラスで新しくプロダクトビジョンを策定 後、現場の理解を深めるために、「インフォーマルコンステレーション」というツール(SIL第7章参照)を使用しました。

具体的には、会議室にビジョンを示す紙を床に置き、参加者はそれに対する距離で自らの認識や行動度合いを示します。これにより、暗黙的な距離感が可視化され、現状の共感度や認識のズレ、必要な行動変化が明確になりました。

事例3. 組織コンセプトの体感

ログラスで組織コンセプトを策定した際、そのコンセプトを単なる文書や言葉以上に実感してもらうための取り組みを実施しました。「メタスキル」(SIL第6章参照)、つまり仕事の場に意図的に持ち込む特定の振る舞いやスタンスを体感するワークを行いました。

参加者たちは、「組織コンセプトを具体的な動きやジェスチャーでどのように表現するか」を考案し、その動きを相互に交換して体感しました。このアプローチを通じて、コンセプトへの理解が深まり、言葉だけの伝達よりも実感を伴ったて組織コンセプトを理解することができました。

事例4. プロジェクトにおける言い出せない悩みの解消

あるプロジェクト中、課題感を口に出せずに悩んでいたメンバーがおり、この状態がプロジェクトの進行に影響を与えていました。そこで、「ベンチレーション」というツール(SIL第8章参照)を活用したコーチングを実施。コーチングセッションの中で、メンバーはそれぞれの悩みをコーチに向けて率直に話し、前向きに取り組む意思をお互いに確認しました。

コーチが中立の第三者として立ち会い、確立されたプロセスを通じて対応することで、短時間のセッションでメンバーの心理的負担は軽減。プロジェクトは再び順調に進められるようになりました。

事例5. マネジメントの引き継ぎの関係性強化

2人のマネージャーがチームの担当の引き継ぎをする際、単なる業務の引き継ぎを超えて、関係性の強化を目的にコーチングを実施しました。

このセッションでは、チームの進行するフェーズの変遷にしっかりと向き合うことを重視しました。その上で、「過去のフェーズで得た成果や学びをどのように新しいフェーズに活かすべきか」というテーマについて考え、同時に「何を過去に置いていくか」という観点から対話を行いました。
この対話を通じて、マネージャー同士が以前から感じていた遠慮や踏み込めていなかった部分に自覚的になりき、それを具体的なアクションとして明確化することができました。

事例6. マネージャー間の連携強化

エンジニアリングマネージャー(EM)が4人になったタイミングで、CTOとEMを1つのマネジメントチームとして捉え、連携を強化するための取り組みを行いました。

ここではDTA(Designig Team Alliance:意図的な共同関係の構築。SIL第6章参照)というツールを使用。マネージャー同士で「どんな雰囲気や文化にしたいか」「困難な事態になったらお互いどのようにありたいか」という想いや価値観を共有し、これをもとに「割と一枚岩」という行動指針を打ち出しました。
このコンセプトは非常によくフィットし、マネージャー間の連携は強固かつ柔軟になり、組織全体の運営に大きく貢献しました。

詳細は下記ブログでも紹介されているのでよろしければご覧ください。
https://note.com/ysk_118/n/n3c8d3510704f#e9572d51-2141-476a-b151-dda28d9b72a4

具体的なワークの内容紹介

以前に具体的なコーチングの内容を紹介した記事があります、こちらの方が少し詳しいのでよろしければごらんください!
https://note.com/majackyy/n/ne4bcbd2957a2

まとめ

以上の事例からも分かるように、システムコーチングのツールや手法は、チームの課題やニーズに合わせて柔軟に組み合わせることができます。OKRの質向上、プロダクトビジョンの浸透、組織コンセプトの体感など、さまざまな状況での実践例が示す通り、システムコーチングはアジャイル開発を成功へと導く強力なサポートツールとして大きな可能性を秘めています。

システムコーチングに興味を持った方へ

システムコーチングに関する情報は日本ではあまり多くはありません。書籍としては「人と組織の進化を加速させる システム・インスパイアード・リーダーシップ」が唯一です。
もし実際に講義を受けて習得したい、と言う方はCRR Global Japanの研修を受けるのが一番です。無料説明会があるので、まずはそれを受けてみるのがいいと思います。(私もここで現在プロフェッショナル実践コースを受講中です。)

もし、ログラスにおけるシステムコーチングやアジャイルの実践に興味がある方は、ぜひTwitter @little_hand_sのリプライやDM、もしくはFacebookなどでご連絡ください!色々お話しさせていだければと思います。

ログラスでは採用も第募集中です!ぜひご興味持ってもらえたら嬉しいです。

https://job.loglass.jp/

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