数学オリンピック2018 1次予選解説 その4 ( 最後 )
はじめに
※本記事は、2018/2/9にHatenaBlogに投稿した記事を移行したものです
ここまで続けてきました、数学オリンピック国内1次予選 ( JMO ) の解説、いよいよ最後です。オリジナルの問題、解答 ( 答えの数値だけ ) は、こちらに公開されています。
問題と解説
問題文の詳細については、冒頭のリンクよりご参照ください。以下では要約した問題文で説明していきます。
問12
問題・答え
次の条件を満たす整数列
任意の正の整数m,nに対し、m,n\ge 30 かつ |n-m|\ge 2018 \Rightarrow a_{m+n}=a_m+n または a_{m+n}=a_n+m a_{N+1}-a_{N}\neq 1
答え: 4065
解説
数列からのすり替え
流石最終問題、訳が分かりません。条件を提示されても、じゃあどんな数列を調べれば良いのか、皆目見当がつきません。
しかし、ちょっとしたことに気付けば、実はこの問題は数列の問題ではないことが分かります。
いや、単に差の形にしただけじゃないか? と思われるかも知れません。が、ここでおもむろに、正の整数同士の関係
- 正の整数
に対して、関係u,v を\equiv と定義する。u\equiv v\Leftrightarrow a_u-a_v=u-v
そうすると、最初に挙げた条件は更に次のように変形できます。
このように、数列の条件が関係の条件にすり替わりました。
ところで、関係適切な記号が思いつかなかったからというのもありますがちゃんと意図があります。それは、この関係
実際、今回作った関係
- 反射律:
x\equiv x
\because a_{x}-a_{x}=0=x-x - 対称律:
x\equiv y\Rightarrow y\equiv x
\because a_{x}-a_{y}=x-y\Rightarrow a_{y}-a_{x}=-(a_{x}-a_{y})=-(x-y)=y-x - 推移律:
x\equiv yかつy\equiv z\Rightarrow x\equiv z
\because a_{x}-a_{y}=x-y かつ a_{y}-a_{z}=y-z \Rightarrow a_{x}-a_{z}=(a_{x}-a_{y})+(a_{y}-a_{z})=(x-y)+(y-z)=x-z
一般に同値関係というのは、お仲間グループを幾つか ( 無限の場合も含む ) 作って各要素をそのグループに割り当てる場合の、同じグループであることを示すものです。
つまり、この関係
※この関係
問題再考
それでは、問題を変形して見直してみましょう。
- 次の条件を満たす正の整数に対する同値関係
・正の整数\equiv に対して、N の取り得る最大値を求めよ。N 任意の正の整数 m,n に対し、m\ge 30 かつ n\ge m+2018\Rightarrow m+n\equiv m または m+n\equiv n N+1\not\equiv N
この第一の条件を見ると、
任意の x に対して x\ge 30\Rightarrow ある p ( 30\le p\le 2077 ) に対して x\equiv p
つまり、この
※もちろん30~2077が全てバラバラのグループを構成するとは限りません。
更に一歩進めると、無限にある正の整数を有限のグループに分割していることから、次のことも分かります。
-
無限個の x と\equivの関係にある c ( 30\le c\le 2077 ) が存在する
正確には、ある c ( 30\le c\le 2077 ) が存在し、任意の m に対して x\ge m かつ x\equiv c となる x が存在する
といったところで、第二の条件に視線を移します。
ある c ( c\not\equiv N_{max} ) に対して、N_{max}より大きい x は全て x\equiv c になるはずだ
と、ある程度大きくなると正の整数は全て同じグループに所属することになる、という主張です。で、そのグループに属さない最後の整数を見つけてみせろ、と。…本当なのでしょうか? ですが、そのあたりを突っ込んで検証していくことが、この問題の突破口になりそうです。
問題攻略前半
ということで、ここから本格的な攻略になります。
まずは同じグループに属する数を作り出す方法はないか? と探してみます。
そうすると、目に着くのは
更にここから発展させて、次のように帰納的に幾つも同じグループの数も作れるはずです。
-
( 証明は割愛 )p\ge 30 かつ x\ge p+2018 かつ x\equiv p \Rightarrow 任意の j ( j\ge 0 ) に対して x+jp\equiv p
つまり、
では続いて、今度は2次元的に同じグループの数を広げられないでしょうか?
単純には
しかし、先ほどの結果を活かして
つまりこういうことです。
p\ge 30 かつ x\ge p+2018 かつ x\equiv p \Rightarrow u=\lceil \frac{2018}{p} \rceil, 任意のi,j ( i\ge 1, j\ge u ) に対して ix+jp\equiv p
…ここで魔法を使います。
p\ge 30 かつ x\ge p+2018 かつ x\equiv p かつ q\ge 30 かつ y\ge q+2018 かつ y\equiv q なる p,x,q,y に対して u=\lceil \frac{2018}{p}\rceil, v=\lceil \frac{2018}{q}\rceil とした時 u,v\ge 1 であり、 任意の i,j ( i\ge 1, j\ge u ) に対して ix+jp\equiv p が成立するため、yx+uvqp\equiv p~ ~\because y\ge 1, uvq\ge u 任意の i,j ( i\ge 1, j\ge v ) に対して iy+jq\equiv q が成立するため、xy+uvpq\equiv q~ ~\because x\ge 1, uvp\ge v \therefore p\equiv yx+uvqp=xy+uvpq\equiv q すなわち x\equiv p\equiv q\equiv y
なんと、2018以上の差がある同一グループの
しかも思い出してみると、30以上の整数は、30~2077のいずれかと同一グループにある上、無限個の整数を含むグループもあるのでした。すなわち、
x\ge 30\Rightarrow ある p ( 30\le p\le 2077 ) が存在し、x\equiv p ある c ( 30\le c \le 2077 ) が存在し、任意の m に対して、x\ge m かつ x\equiv c となる x が存在する
この2番目の条件の
p\ge 30 かつ x\ge p+2018 かつ x\equiv p\Rightarrow x\equiv p\equiv c
また、
-
x\ge 2077+2018\Rightarrow ある p ( 30\le p \le 2077 ) が存在し、x\equiv p
そのような x,p に関しては x\ge p+2018 なので x\equiv p\equiv c
つまり、4095以上の整数は全て
問題攻略後半
前半で分かったことを整理します。
ある c ( 30\le c\le 2077 ) が存在し、p\ge 30 かつ x\ge p+2018 かつ x\equiv p\Rightarrow x\equiv p\equiv c 4095以上の任意の整数 x は、前項 c に対して x\equiv c
そして問題で求められているのは、この
何故かというと、例えば
ここで良く見ると、「または」の選択肢の内、小さい数字の方は実は選べません。もし
しかもこれは30だけに留まる話ではありません。
つまり、4094が答えであるならば、
しかもまだまだ伝染は止まりません。
4094\equiv 4064\equiv 4034\equiv 4033\equiv\cdots\equiv 3041 4094\equiv 4062\equiv \cdots \equiv 3040 - …
4094\equiv 3056\equiv \cdots \equiv 2037
どこまで行けば止まるのでしょうか? それは、
それならば、4094より若干小さいところはどうだろうとなるのですが、結局は同じ理屈で2048まで伝染しますから、
では、「4065が
- 2048以上4065以下の整数はお互いに
の関係にある。\equiv -
とし、前項以外の整数、すなわち 30以上2047以下の整数、および4066以上の整数は全てc=30 とc の関係にある\equiv - 前2項の所属するグループは異なる
そうすると、2048~4065 からは差が2018以上の組み合わせが取れませんから、
ということで、ウラが取れたのでめでたく4065が答えとなりました。
補足
ということで、解説のボリュームがエラいことになってしまいましたが…。お気付きの方もいらっしゃると思いますが、実は答えを出すだけなら、ここまでしなくても構わなかったりします。
というのは、上の解説では「ある程度大きくなると正の整数は全て同じグループに所属することになる」が本当かどうか検証しているわけですが、これは問題の前提だとすれば、後半部分の考察だけで済むわけです。具体的には次の通りです。
- 問題で「最大値」が求められている、つまり「上限」があるのが前提だ
- → その上限を超えると、正の整数は全て同じグループに所属すると判断できる
- 一方、2018以上の差を持った同一グループのペアからは、少なくとも飛び飛びに同一グループの数が無限に作れる
- → もしそれが「全て同じグループ」と異なると「無限に作れる」が「上限」があることと矛盾する
- → ということは、答えは2018の差を持った2数のないグループに所属するはずだ
でも、放っておくと気持ち悪い部分もあったので、この解説では検証するところから始めているのです。
終わりに
ということで、全12問解説してきました。特に後ろの方になればなるほど、考えをまとめるのが難しくなりますね。ともあれ、導出過程を書く必要がないとは言え、そう長くない制限時間で本番に臨む現役の方は大変だなあ、と、改めて思った次第です。ただ、もう現役ではない人も含めて、じっくり考えて解くことでも、なかなか良い頭の体操になるのではないでしょうか。というところで終わりにしたいと思います。
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