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Human by Design(人間性を組み込む)Technology Vision 2024 Intro/Conlu

2024/07/16に公開

はじめに

2024年5月27日にアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京にて"Technology Vision 2024 日本版"が発表されました。テーマは「Human by Design」(人間性を組み込む)、「AIと人間の共進化」というワードと共に、AIがいかに人間の可能性を切り開くかが語られています。

"Technology Vision 2024 日本版"は、グローバルの内容に日本独自の視点で事例やコンセプトを導入しながら編集したレポートです。

Human+から”人間性”を獲得したAIバディへ

2019年に発表されたTechVisionのテーマは「HUMAN+ WORKER」でした。この概念を導入しながら、人間とテクノロジーの融合が急速に進行し、人間がデジタルテクノロジーと共存することで生まれる価値にフォーカスしました。それから5年経った2024年、AIの能力は飛躍的に向上し、生成AI技術がブレークスルーを迎えました。この結果、AIエージェントは人間のような“人間性”を獲得する段階にまで達しました。2019年時点では、人間がテクノロジーの力をプラスアルファとして用いるという視点での議論が主流でしたが、2024年現在では、AIエージェントと人間が相互に補完し合う、新たな共生関係が見受けられています。

テクノロジーの進化がもたらす"人間性"の具体的な変化はどのようなものなのでしょうか。
例えば生成AIの登場によりテクノロジーが人間らしい感情を模倣する能力を持つようになったことと、空間コンピューティングやヒューマンマシンインターフェースの進化により、人間の能力が前例のない形で拡張されることと考えています。こうした変化は、単に機能や性能が向上するだけでなく、新しい形の“人間性”がデザインされることを意味しています。

「”人間性”を組み込む」と「新たにデザインされた”人間性”」

“Human by Design”というテーマで表される変革は二つの方向性を持つと考えられます。一つは「人間性を組み込む」。テクノロジーがより人間らしくなることです。生成AIにより、テクノロジーに知性のみならず感情や意識といった「人間性」を持たせることが可能になりました。もう一つは、「新たにデザインされた人間性」で、人間の能力がテクノロジーを通じて拡張され、これまでの人間性を超えた新たな形が生まれることです。

このトレンドは、単なる業務効率化を超え、人間の感情や意識にまでAIが介入することを示しています。空間コンピューティングやヒューマンマシンインターフェースの進化によって、人間の能力が新たな次元へ広がる可能性が高まっています。デバイスの進化によって、リアリティや精度が向上し、五感がデジタル化されることで、物理空間とデジタル空間の境界が曖昧になるのも時間の問題です。

空間コンピューティングや最新の生成AIがもたらす変化は、従来の物理的な制限を超えた新たな“人間性”を創出します。AIが生成する空間やキャラクターは、よりリアリティを持ち、人間と自然な形で相互作用できる能力を持つようになります。したがって、これらの技術進化は“共進化”という言葉で表現されるべきでしょう。

AIと人間の共進化、それはまるでジャズセッションのようなものです。ジャズセッションでは、奏者それぞれが即興的にフレーズを繰り出し、互いに応答し合います。その瞬間瞬間の創造性が、新しい音楽を生み出すのです。AIも同様に、人間と一体となり、共に新しい価値を創り出すパートナーとなります。

人間とAIの”共進化”:企業に与える影響を理解するための4つのトレンド

テクノロジーが人間らしさを増し、人間がデジタル技術から新たな能力を獲得することで、私たちの生活や働き方がどのように変わるのかを予測することは、もはやSFの域を超えた現実的な課題です。私たちは、この新しい形のAIバディと人間の共進化が、企業に与える影響を理解しやすくするための4つのトレンドについて掘り下げました。

人間とAIが共進化する骨子を理解するためには、以下の4つのトレンドを考察する必要があります。

Trend1: A Match Made in AI(AIによる出会い)で、人と情報の関係が再構築されました。生成AIは単なる“ライブラリアン”モデルから“アドバイザー”モデルへと進化し、情報提供の質が劇的に向上しました。この変化は、企業のデータ主権の回復にもつながり、自社独自のLLMを利用する企業が増加しています。

Trend2: Meet my Agent(自分専用エージェントとの出会い)では、AIエージェントが人間の時間を創出し、能力を強化・拡張する役割を担います。ジェネレーティブAIは、タスクの段取りから情報収集、アウトプット作成までを担当し、人間の可能性を広げることが可能です。しかし、この強力なツールを効果的に活用するためには、AIの能力を最大限に引き出すための使い方が求められています。

Trend3: The space we need(私たちが必要とする空間)では、空間コンピューティングがあらゆる場所をパーソナルな作業環境として活用可能にします。空間コンピューティング技術の進歩により、人間がリアルタイムで五感を使って仮想空間と相互作用することが可能となり、特に若年層においてスタンダードな技術として位置付けられつつあります。

Trend4: Our bodies electronic(デジタル化された私たちの身体)では、次世代のヒューマンインターフェースが人間とテクノロジーの境界を曖昧にし、Brain Computer Interface (BCI)技術によって直接脳波を読み取ることで、新たな次元でのユーザー体験が実現します。これにより、人間の行動や意思決定がより高度に精緻化され、様々なフィールドで活用が進むことが予想されます。

人間とAIが共進化することで、企業、ヒト、モノに対する影響は計り知れません。たとえば企業のビジネスモデルがAPIエコシステムから双方向AIエージェントエコシステムへ変化することで、従業員や顧客との関係性が根本から変わるでしょう。新しい時代において、生成AIをバディとしながら働くことがスタンダードとなりつつある今、企業はその適応力を求められています。

生成AIネイティブ世代(BYOAI世代)の働き方

AIが人間の可能性を広げ、協働する時代には、BYOAI(Bring Your Own AI)世代が登場します。この世代は、人間とAIの共進化を前提とした新しい働き方を身につけています。AIエージェントを個人のバディとして、自身の知識やスキルを補完し、さらなる高みを目指します。

生成AIは、単に作業を効率化するツールではなく、人間の創造性を引き出し、広げる存在です。考えうる選択肢を豊富に提示し、新しい着想を生み出すAIと人間の相互学習は、まさに共進化の象徴です。AIは人間からフィードバックを受け、逆に人間はAIから学びます。さらに複数のAIエージェントが連携し、シームレスに高度なタスクをこなすフレームワークも登場しています。

例えば、アクセンチュアは生成AIアプリの「PeerWorker Platform」を社員に提供し、業務効率化を促進しています。また、生成AIを使ったプログラミング指導AIも導入し、社員のスキル向上に貢献しています。これにより、生成AIネイティブ世代の育成が進み、AIと共に働く新しい風景が「日常化」しています。

しかしながら、企業はAIエージェントとの共進化を円滑に進めるために、情報セキュリティやBYOAIルールの整備が必要です。特に、AIエージェントが個人の能力を補完するためには、企業側の秘匿情報と個人のAIエージェントが学習する情報を明確に切り分ける必要があります。企業がこれに対応できなければ、BYOAI世代の従業員は離れていってしまう可能性があります。

あらゆる人にAIバディが随伴する世界における企業と人との関係

未来の企業と従業員、顧客の関係は、AIエージェントがその中心に位置する世界に変わりつつあります。AIエージェントは、単なるツールではなく、人間のバディやパートナーとして、その存在感を増しています。

まず、従業員は、自身のAIエージェントと共に企業に入社し、そのエージェントを利用して業務を遂行します。企業は、従業員が持ち込むAIエージェントと共に成長し、それらに合わせたルールや働き方を整備する必要があります。情報セキュリティを確保しつつ、個人のAIエージェントが充分に活用できる環境を提供することが求められます。

また、顧客も自身のAIエージェントを持ち、そのエージェントが企業とのインターフェース役を担います。企業は顧客のエージェントとコミュニケーションを取ることで、よりパーソナライズされたサービスを提供することが可能になります。顧客のエージェントが企業のサービスや商品を評価し、購入のアドバイスをする未来が見えてきます。

一方で、AIエージェントが人間の意思決定を支配するディストピアになるのではないかとの懸念もあるでしょう。しかし、AIエージェントの進化は、人間が能動的にAIと関わり合うことではじめて実現するものです。自らの考えや気付きをAIエージェントに問いかけ、そのアウトプットを精査・修正することで、人間とAIが互いに学び合います。これにより、人間の能動性が維持され、ディストピア化を防ぐことができます。

企業や教育機関は、AIエージェントと共に成長できる人材の育成に注力する必要があります。そうした人材が新しい世界を切り開き、人間性を変えつつ、新たなテクノロジーを自然と受け入れる社会を築きます。

まとめ

“Human by Design”のテーマは、「AIが人間性を、 人間が新たな人間性を、ともに獲得する世界」を描き出しました。このレポートが示したように、AIと人間の共進化は、自分専用のAIエージェントとともに成長することで、これまで考えもしなかったような新しい地平を切り開くことが可能です。企業、ヒト、モノのそれぞれが、AIと共に歩むジャズセッションのような創造的な相互作用を重ねることで、さらなるイノベーションが生まれることでしょう。

AIエージェントがもたらす変革は、単に業務効率化にとどまらず、人間の潜在能力を引き出し、より複雑で高次な問題解決に寄与するようになります。このAIと人間の共進化が企業や社会全体に与えるインパクトは非常に大きいと考えられます。それがデータ主権の回復、パーソナルエージェントとの連携、空間コンピューティングの進化、人間の身体のデジタル化へと発展し、共進化する未来が到来するのです。

アクセンチュアが示したこの未来図は、単なるSF的な空想ではなく、現在進行形で実現されつつある現実です。テクノロジーの進化がもたらす共進化の世界観を理解し、それを如何に活用していくかが、これからの競争優位の鍵となるでしょう。ぜひ、あなた自身もこの共進化の波をキャッチし、新たな可能性を探求してみてください。



文責:Sato, Kiwamu & PeerWorker

Accenture Japan (有志)

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