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生成AIの登場による知識との関係の再構築 Technology Vision 2024 Trend1

2024/07/16に公開

はじめに

2024年5月27日にアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京にて"Technology Vision 2024 日本版"が発表されました。
テーマは「Human by Design」(人間性を組み込む)
「AIと人間の共進化」というワードと共に、AIがいかに人間の可能性を切り開くかが4つの最新トレンドと共に語られました。
今回は、「Trend1: A Match Made in AI(AIによる出会い)」に焦点を当てて説明します。このTrendでは、生成AIの登場による知識との関係の再構築について語られています。

ライブラリアンモデルからアドバイザーモデルへの進化

生成AIの登場により、情報の取り扱い方法が大きく変わり、ヒトと情報の関係が「ライブラリアン」モデルから「アドバイザー」モデルへと進化しています。
従来の「ライブラリアン」モデルでは、検索エンジンにキーワードを入力すると、適切な情報が含まれていそうなウェブページや資料へのリンクが提供されるだけで、実際の情報収集と意思決定はユーザー自身に任されていました。例えば、Googleで「最新のスマートフォン」を検索すると、多数のリンクが提示され、ユーザーはそれらをクリックし、必要な情報を探し出さねばなりません。
一方、「アドバイザー」モデルでは、生成AIが利用者との対話を通じて具体的な解答やアクションプランを提供します。ユーザーが「最新のスマートフォンのおすすめを教えて」と生成AIに尋ねると、個々のニーズや好みに基づいた具体的なスマートフォンの提案や分析結果を提示することができます。 実際に、CRM企業の生成AIは営業社員に次に取るべき行動をレコメンドしたり、人材企業の生成AIはユーザーの履歴書作成をサポートしてスカウトされる確率を高めたりしています。このように、生成AIが「アドバイザー」として意思決定に直接関与することで、人間と情報の関わり方が根本的に変わりつつあります。

独自LLM開発の重要性とアプローチ

自社のナレッジを最大限に活用しつつ、企業が生成AIを導入するためには、LLM(大規模言語モデル)を差別化するためのアプローチが必要です。以下の三つの主要なアプローチが考えられます。

  1. 独自LLM開発: 自社リソースを用いて独自のLLMを開発することで、高いカスタマイズ性と用途最適化が可能です。データ流出のリスクを低減できる反面、大量の開発リソースを必要とします。高度なセキュリティ性が求められる場合や、独自の製品を提供したい場合に有用です。
  2. ファインチューニング: 既存のLLMに学習データを追加し特定のタスクに最適化する方法です。少量の学習データで高精度なパフォーマンスを得られますが、過剰適合への対策が必要です。少ない学習データしか用意できない場合や、費用・時間が限定される場合に有用です。
  3. RAG(Retrieval-Augmented Generation): 既存のLLMを利用し、社内外のデータソースから情報を検索する、現在の主流アプローチです。少量の開発リソースで実現可能で、リアルタイムに最新情報を利用できますが、検索結果の正確性についての注意が必要です。最新の情報が必要な場合や、多様な専門領域の情報を取得したい場合に有用です。

アドバイザーモデルは企業のデータ主権を取り戻す

この新たなアドバイザーモデルは、企業が自社データの主権を取り戻すチャンスともなります。従来、ユーザーは検索エンジンを介して情報を検索し、多くの企業は検索エンジンにデータを提供していました。しかし、今後は企業が自社のAIエージェントを通じて情報を直接提供することが可能になります。これにより、企業は自社データや知識に対する主権を回復し、優れたAIエージェントを持つ企業がより多くのユーザーデータを取得できる時代が到来します。
データ主権を回復するためには、企業がハルシネーション(誤情報の生成)、入力情報の漏洩、倫理違反(不適切表現)、著作権侵害といった様々なリスクに目を向ける必要が生じます。実際に、企業のチャットボットが誤った割引情報を提供し訴訟に発展するケースや、エンジニアが社内の機密情報を生成AIに漏洩するケースが報告されています。 AIエージェントが真に信頼できる「アドバイザー」として機能するためには、これらのリスクに対する包括的な対策が必要です。

未来に向けたビジョン

生成AIはこれまでにない方法で人間の知識と結びつき、人間と知識の関係を再構築します。これらは単にテクノロジーの進化を示すだけでなく、人間とAIが共進化し、可能性を広げるための重要なステップと言えるでしょう。
次回は、人間と知識の関係が再構築された上で、生成AIと人間の新しい向き合い方について語るTrend2: Meet my Agent -自分専用エージェントとの出会いを説明します。


文責:Toshiki, Ohtsuka & PeerWorker

Accenture Japan (有志)

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