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私たちが必要とする空間 Technology Vision 2024 Trend3

2024/07/18に公開

はじめに

2024年5月27日にアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京にて"Technology Vision 2024"が発表されました。
テーマは「Human by Design」(人間性を組み込む)
本シリーズでは、この新しい概念を4つのトレンドに分解して語っていきます。

前回のTrend2: Meet my Agent - 自分専用エージェントとの出会いでは、人間性が組み込まれたAIエージェントにより、生成AIと人間との関係性を変えていく将来像を描きました。
今回のTrend3では、デジタルとフィジカルが溶けあった新たな空間がどのようなものなのか、インターフェースを担う空間コンピューティングの視点から未来を描きます。

空間コンピューティング(Spatial Computing)

サイモン・グリーンウォルドによって "機械が実際のオブジェクトや空間への参照を保持し、操作する機械との人間の相互作用" と定義されました(2003)。本章では、空間コンピューティングを仮想現実(VR)・拡張現実(AR)を包含した "人間が作用することができる空間の拡張" と定義します。仮想現実でも拡張現実でもない、その間をいかようにでもスイッチできるようなものであると考えています。

空間コンピューティングは “人間が作用することができる空間の拡張”

かつて、パーソナルコンピューターが "モバイルコンピューター" へ進化し、我々の手のひらで情報を操ることが可能になりました。そして次に待ち受けるパラダイムシフトは "空間コンピューター" の到来です。パーソナルコンピューターの延長線上に位置する空間が、持ち運べるかのように拡張されます。どこにいても、どの環境でも、空間自体がインタフェースとして機能する時代がやってくるでしょう。空間コンピューティングによってもたらされた空間は現実空間と見分けが付かず、現実空間と融合して一体不可分になり、それが新たな現実空間として受け入れられるようになると考えています。

圧倒的な没入感と体験の拡張

米国ではすでに、若年層がVR機器を所有し、日常的に使用する割合が急増しています。この成長は、特にGen Z世代において顕著で、彼らは「普通に使うもの」としてXR/VR技術を受け入れ始めていることを示しています[1]。また、Apple Vision Proの登場は、空間コンピューティングの潮目を大きく変えようとしています。その高感度・高解像度は、NVIDIAの3Dフォトリアリスティックな環境との融合により、ユーザーに前例のない没入感を提供できるでしょう[2]。医療分野では、eXeXとCromwell Hospitalがタッチフリーの技術を用いた外科手術支援を行い、従来の限界を超える手術が実現されています[3]

物理シミュレーションを踏まえた空間生成

最新の生成AI技術のおかげで、誰でも物理シミュレーションに基づいた精密な空間生成が可能となりました。OpenAIのSoraでは、日本風の都市再現から、人流、天候、情景までが再現されています[4]。かつてデジタル世界を構築するのは大変な作業でしたが、今やプロンプトひとつで物理的に正確なデジタル世界を生成できるのです。
デジタル空間におけるコンテンツ生成も自動化が進んでおり、InworldのAI Non-Player Characters (NPC)は、大規模言語モデル(LLM)を応用して簡単に作成できます[5]。これにより、膨大なスクリプトや学習データが不要となり、個性豊かなNPCを生成し、仮想世界が過疎にならず、活気あふれる状態を維持することが可能になります。

すべてが"いま・ここ"になる

空間コンピューティングの進化は、サービスが画面から解放され、物理空間とシームレスに溶け合う未来を予感させます。例えば、Afference Inc.の "The Phantom" では、指レベルの触覚フィードバックを提供し、空間コンピューティングデバイスの没入感をさらに高めます[6]。各国の医療機関においても医療分野での外科研修生の習熟度を飛躍的に向上させています[7][8]

これが可能となる背景には、生成AIの高速化とデバイスの進化があります。これにより、物理空間および仮想空間の両方において、新たな知覚と体験が創出される環境が整っているのです。

今後、空間にサービスが解き放たれることで、ヒトが安心して没入できる環境をいかに担保するかが課題となります。ストレス性の面も含め、事故や視覚/精神疲労を防ぐためのUX設計が重要となり、物理空間と統合的に体験を設計することが求められます。

結論

このように、空間コンピューティングは、新たな現実の中で価値を創出し、私たちが必要とする空間を大きく進化させるものです。テクノロジーは、人間の感覚や行動とシームレスに融合し、さらなる没入感と体験の拡張を提供します。その結果、人間の可能性が広がり、これまで以上に豊かな未来が待っているでしょう。人間の空間との作用がどこまで進化するのか、その全貌はまだ明らかになっていませんが、「Human by Design」というテーマの下、次なるステージへと踏み出す準備が整いつつあります。
次回、Trend4: Our bodies electronic - デジタル化された私たちの身体では、このデジタル空間を作り出すテクノロジーと人間との間をつなぐインターフェースの未来を描いていきましょう。



文責:Sato, Kiwamu & PeerWorker

脚注
  1. The Piper Sandler Taking Stock With Teens(2024.04) ↩︎

  2. NVIDIA(2024.03) ↩︎

  3. Cromwell Hospital(2024.03) ↩︎

  4. OpenAI ↩︎

  5. Inworld AI ↩︎

  6. Blumstein G, Zukotynski B, Cevallos N, et al. Randomized Trial of a Virtual Reality Tool to Teach Surgical Technique for Tibial Shaft Fracture Intramedullary Nailing. J Surg Educ. 2020;77(4):969-977. doi:10.1016/j.jsurg.2020.01.002 ↩︎

  7. Ba-Hattab R, Helvacioglu-Yigit D, Anweigi L, Alhadeethi T, Raja M, Atique S, Daas H, Glanville R, Celikten B, Orhan K, et al. Impact of Virtual Reality Simulation in Endodontics on the Learning Experiences of Undergraduate Dental Students. Applied Sciences. 2023; 13(2):981. doi:10.3390/app13020981 ↩︎

  8. Afference Inc. ↩︎

Accenture Japan (有志)

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