汎用ケースで自作キーボードを作る
これは、GO Inc. Advent Calendar 2023の1日目の記事です。
本記事は、仕事に使っている道具であるキーボードに関する趣味の記事です。
私74thはGO株式会社の社員ですが、本記事の内容は会社の事業に関わるものではありません。
社員が、こんな感じにこだわり持って、仕事道具を楽しんでいるのを伝えられればと記事にしています。
tl;dr
- リニアスイッチで底打ちを楽しもうと思ったら、今まで作っていた硬い自作キーボードだと限界を感じたよ
- 60%サイズキーボードとして、GH60、Pokerというキーボードがあり、それらに対応しているケースが販売漁れているよ
- Durock BlackLotusスイッチが凄く気に入っているよ
自作キーボードとは
自作キーボードとは、PC用キーボードをDIYで作成したキーボードのことです。
仕事でも趣味でも常に触れているキーボードを、こだわりを持ってDIYすることが流行っています。
私自身、2019年から、かれこれ4年近くはまっています。
自作キーボードとは何か、どうやって始めれば良いのかを去年記事にしていますので、良ければ是非見てみてください。
自分のキーボードで、リニアスイッチで指を痛めたことから、ケースに興味が出る
自作キーボードでは様々スイッチが発売されていますが、主に「メカニカルスイッチ」と呼ばれるスイッチが利用されます。メカニカルスイッチでは、可動域が3~4mmと広めにとられており、垂直バネでスイッチの重さを制御したり、板バネへのコンタクトに山をつけてメンブレンスイッチのようなクリック感を表現したりすることが行われます。このことから、主に3種類のスイッチに分けられます。
- リニア: スイッチを押してから押しきるまで均一の重さであるもの
- タクタイル: 重さに山をつけて、クリック感を表現しているもの(山を越えると、スイッチとして押された状態になる)
- クリッキー: タクタイルに更に音が鳴る機構を持ったもの
タクタイルスイッチでは、板バネで表現された重さの山が、スイッチが押された判定を行う部分となっており、私の場合は山を越えたぐらいまで押し、スイッチの可動域の底までは押さないような打ち方をしていました。
もともとタクタイルスイッチのDurock T1(Normal)/Durock T1 Sunflowerを愛用していたのですが、より種類の豊富なリニアスイッチにもトライしてみたくなりました。
リニアスイッチでは、重さが均一であり、私自身が打鍵が強い方なのもあり、スイッチの可動域を全部押すようにバシバシ入力するようになっていました。この押し方を「底打ち」と呼ばれます。
ここで私にとって問題が生じました。リニアスイッチで指を痛めてしまいました。
この理由は、自分の作っていた自作キーボードであるSparrow62v2は「机と一体化して安定性を増すこと」を目指して作っていたため、「底打ち」による机からのダイレクトな反動が指に返ってしまっていることでした。
リニアスイッチで指を痛めたSparrow62v2
これを軽減させるためには、机とスイッチの間に緩衝材を設けることが求められます。
この部分がケースの役割なのだと気づきました。
ケースの作り方
自作キーボードの基板であれば、プリント基板の名の通り印刷して作られるため、平面に自在な配置を行うことができます。
一方ケースは、3次元形状を持っているため、平面の配置以上に、設計して製造する必要があります。
意外に思われるかもしれませんが、自作キーボードにおいては、回路基板よりもケースの方が設計、製造コストが高いことが多いです。
そのため、ケースの製造方法としては以下が挙げられます。
- プリント基板を重ね合わせることでケースの代わりとする(プレートサンドイッチと呼ばれる)
- 3Dプリンタで印刷する
- 金属CNC加工で削り出しを行う
2023年夏コミにて、サリチル酸さんが「自作キーボード設計ガイド Vol2 ケース設計編」という書籍を出されています。キーボードケースを作るために、3D形状を設計するためのノウハウ、CNC削り出しのための設計ノウハウが惜しみなく掲載されているため、非常にためになります。
GH60、Poker対応の汎用ケースを使う
KBC Pokerというキーボードが発売され、これに互換したケースが多く作られています。
このPoker互換という性質を保ったまま、GH60など、複数のキーボードが作られています。
ケース日本国内でも販売されています。
豊富なケースについては、下記の記事でtechmechさんがまとめてくれています。
現在では、Aliexpressでは"GH60 Case"で検索した方が見つかりやすいようです。
分割キーボードではありませんが、Sparrow62v2の格子配列をもつケースを使ったキーボードが欲しくなり、作ってみることにしました。安価に高品質なキーボードが手軽に作れる手段として良いと思ったためです。
GH60互換キーボードを作る時に気にするべき所
主に作る時に気にするべき所は以下の点であると思っています。
- ケース底面へのネジ止めの位置
- USBの穴の位置と、実装方法
- マイコンボードを使う場合、その高さと格納場所
- スイッチソケットとの干渉
ケース底面へのネジ止めの位置
ネジ位置についての情報が欲しくなり、データを探していたところ、JP60というGH60互換のキーボードのKiCadファイルをオープンソース(MIT)にしてくれているのを見つけました。制作者は有名なai03さんです。
MITで公開されているため、こちらから位置等のデータを収集させていただきました。
USBの穴の位置と、実装方法
USBの穴の位置も前述のJP60からデータを収集させていただきました。
位置に加えて「USBは下面に表面実装にすること」が必要です。ケースのソケットの穴がこのようになっています。
最初、誤って上面に実装してしまい、スイッチと干渉してしまい、作り直しを行いました。
マイコンボードを使う場合、その高さと格納場所
ケースの内部は空洞でありがならも、場所によって仕切りが入っていたり、底面に膨らんでいる部分があります。
このため、その場所に適切になるようにマイコンボードを収める必要があります。
高さを抑える工夫として、去年書いた「コンスルーピンヘッダの代わりを探して」という記事を書きました。
この記事では、ロープロファイルソケットにピンヘッダの足だけ使って実装したことを記事にしています。引き続きこのピンソケットを利用し、ロープロファイルピンヘッダを使ってもスペースに収まることを確認し、それを実践することにしました。
一方、この格納空間の解釈が、キーボードケースによって異なることがあるようです。
プラスチックケースであれば収まったのですが、別に買った金属ケースの場合は高さ、位置ともに異なっており、収まりませんでした。金属ケースには、直接マイコンを実装することにトライしようとしています。
また、マイコンボードのUSBソケットは利用できないため、ドーターボードによって配線を伸ばすか、マイコンのD+/-を配線し直す必要があります。RaspberryPiPicoであれば、TP2、3というパッドにD+/-が出ており、こちら引き延ばして使えるようにしました。
USBは作動回路ですが、LowSpeedで使う分には雑に実装しても割と動いてくれます。
スイッチソケットとの干渉
自作キーボードでは、多種多様なスイッチを楽しむために、スイッチソケットを使ってスイッチを交換可能にすることが行われます。
このソケットと、ネジ位置、USBソケット、マイコンボードが干渉します。本来のPoker、GH60であればスイッチの隙間に入るようにネジ位置が決まっているのですが、好みの配列に仕様とするとそのようには行きません。
私の場合は、スイッチの方向を犠牲にしました。薄いキーキャップの場合、スイッチが正しい方向でなければ干渉することがあります。それを承知の上で方向を変更しました。
これに関しては、特に私の使うキーキャップで問題になったことはありません。
Sparrow60Cを作った
ジョイスティックモジュール付きキーボードを作りました!
分割キーボードではないですが、通常のキーボードよりも、左右の位置が離れているため、それほど使いづらいと思ったことはありません。
そして期待していた「リニアスイッチを楽しむ」というのは、大成功しています。ケース全体で打鍵を抑えてくれ、さらにゴム足やスイッチフォームを導入して、打鍵感を抑える仕組みを整えています。
静音スイッチを使っていないため、打鍵音はかなり大きいですが、自宅で使う分には本当に気持ちの良いキーボードができました。
このキーボードを、天キーVol.5で展示していたところ、打鍵感が気持ちよいと言っていただくこともありました。汎用ケースだからこそプラスチックでもよい形成がされていて、この結果を得られたのではないかと思っています。
このSparrow60Cは、当初はリニアスイッチを一時的に楽しんだら元の分割キーボードSparrow62v2に戻ろうと考えていたのですが、リニアスイッチが凄く良く、既に使用を開始して1年が経過してしまいました。
なお、キーボード中央のトラックポイントもどきモジュールについては以下で記事にしています。
Durock Black Lotusスイッチに出会う
左から
- Durock POM Piano: リニアで、自己潤滑性のあるPOM素材だけでできたスイッチ。押すときの擦る感じがほとんど感じないほどに滑らか。
- Durock POM T1 Sunflower: T1のように強めのタクタイルで、同様にPOM素材だけでできたスイッチ。同様に擦る感じがなく、タクタイルの山が大きめで楽しめる。ただ、若干タクタイルの山が大きすぎる様な気もする。
- Durock Black Lotus: リニアで新設計のスイッチ。トップハウジングにPCとUPEの混合材、ステムにPOMを採用。新設計の金型なのか、本当にブレ感がすくなく、素直なスイッチ。
- Durock Blue Lotus: Black Lotusの仕様で、T1を作ったスイッチ。T1のタクタイルの強さが健在。Sunflowerより若干タクタイルは弱めなのも良い。
- Durock White Lotus: Blue Lotusよりさらに弱いタクタイルスイッチ。軽いタッチのタクタイルを求める人にはとても良いと思われる。
私は高級めなDurockのスイッチが好きで、1年近くDurock POM T1 Sunflowerを使っていました。
Durockから新設計のリニアスイッチDurock Black Lotusが発売されました。日本国内でも取り扱われています。
本当に滑らかで、軸を擦る雑味がが少なく、スイッチの打鍵に集中できる素直なスイッチになっていると思っています。スイッチの個体差も少ないように感じます。このスイッチに変えてから、よりキーボードの打鍵が楽しくなったように感じています!
あとは、これの静音タイプが出るか期待したいところです。
これからトライしたいこと
天キーVol.5では、多くのケースに収められたキーボードに触れることができました。また、HHKB Studioにも触りました。金属ケースをつかって、カチャカチャ感を超えて、コトコト感に到達しているキーボードが多数あり、非常に感銘を受けました。
現在、金属ケースに収めるためにマイコンを直接実装した基板を発注中です。ここにフォームなどを入れたり、静音スイッチを導入したりして、コトコト感に近いキーボードが作れないかをやってみようとしています。
金属CNCケースでも、USD 35からあり、こちらに手を出してみることにしました(途中の金属ケースの写真です)。
この上は、基板のマウント方式を変更し、ガスケットマウントなどが可能なケースを探してみたいと思います。
最後に
汎用ケースを使って、自作キーボードを作った記事をお送りしました!
是非汎用ケースを使って安価に好みの配列のキーボードを作ってみていただければと思います。
自作キーボードを初めて設計してみたい方には、サリチル酸さんの「自作キーボード設計ガイド Vol1 設計入門編」が非常に網羅的に書かれています。これ1冊で、概ね自分の好みの配列の自作キーボードを設計するところまでは到達できるのではないかと思います。
また、私は過去の会社のアドベントカレンダーを自作キーボードネタにしているため、これを見返すとこれまでの過程が見えてきます。良ければ見てみてください。
2022年
2021年
2020年
本記事はGO Inc. Advent Calendar 2023の1日目の記事でした。
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