価値を創出する、ということ
仕事をすることとは、「他の人に対して価値を生み出す過程において何らかの貢献をする」ということです。この、価値を生み出す過程について、価値を創出するとはどういうことなのか、ということを作業精度と自発性の2軸で掘り下げて考えていきます。
抽象化された価値創出の段階、「レベル」
価値創出できる人の貢献度合には「レベル」のような概念があることを示したいと思います。
次の図を見てください。
左上、右上、左下、右下の4つのそれぞれの図で、各人が価値創出を行っています。システム開発で直接説明しようとすると、アプリケーションやらサーバーやらネットワークやらの概念をそれなりに丁寧に説明する必要があり、また図解で示すことが難しそうだったので、ここでは「家を建てる」ということをテーマにしています。
「家を建てる」という例について違和感がある場合
え?家を建てるには設計から工事まで必要だし、工事にしても家自体を建てる人から電気やガスの工事をする人まで様々必要であり、本当はシステム開発よりも複雑な可能性がある?こんな一人の人がひょいひょいと作れるものではない?
確かにそうなのですが、そういった細かいことは一旦忘れて、童話「三匹の子豚」のレベルで家を建てることを想像してください。童話では豚が家を建てることを想像できるのですから、家を建てるということはそれなりにはイメージができることでしょう。少なくとも、物理的実体を見いだしにくいシステム開発よりは。
左上:指示されたことを実現できる
この図は、家を建てるときに、その図面(外観、間取り図など)を詳細に指示されることで、実際に家を建てることができる、つまり詳細に指示されたことについて遂行できるという状態を示しています。
この状態が、「価値を創出する」ということの基準となる状態、スタートラインであると思います。実際には、言われたことを正確に言われた通りに遂行するというのは難しいのですが、概念的なスタートラインはこの状態です。
この状態から、「一つ進んだ」状態が右上または左下の図です。それぞれ説明します。
右上:細かく指示をしなくても精度高く実現できる
この図は、家の外観だけを示された場合に、間取り図を想像・提案して仕事を進められる状態を示しています。もちろん、間取り図を勝手に決めるという意味ではなくて、提案をしたうえで精度高く実現ができる、ということを意味しています。ただし、この図においては、起点となるのは指示です。
この状態は、指示の量がある程度減っているという点において左上の状態よりも価値創出の段階が進んでいます。つまり、指示する人の仕事が減り、作業をする人の仕事が増えました。一方で、指示を受けての行動である、ということもポイントです。
ここで注意しておきたいのは、指示を受けてなにかをするということは決して間違っていることではなく、また組織的に物事を為すには指示通りにのみ動く体制をつくることが必要な場合もある、ということです。この記事で示している価値創出の段階には役割という側面もあるため、組織的に役割を超えてはいけない場合もあるので、そうした場合には指示があるまで行動しないというのは正しいです。ただ、一般論としてこの価値創出の段階が進んでいる人ほど個人としての評価が高くなる・市場に不足している(=価値の高い人材である)という傾向があるので、考慮しておきましょう。
左下:指示をされなくても必要な事をやろうとする(精度は低い)
この図は、先程の例とは対照的に、明確な指示を受けていなくても、自分で必要と判断したことを進んで実施できる状態のことを示しています。
この状態は実はかなりセンシティブな部分もあり、というのは自分で必要と思って判断したことが、実際には必要なことではなかったり、やりたかったこと自体は必要であったとしても実力が不足していて正しいことができなかったり、といった場合があり得ます。
そのような状態について、どう評価をするかということは組織の価値観によって大きく変わります。失敗が許されない場合には逆に評価が下がるといったこともあると思いますが、一方でこのような試みが許されることで個人として成長できるケースもあります。
必要な事だと思ったら進んで提案して、承認されれば実際にやる、という方法を取ると比較的安全だと思いますが、その場合にもやはり失敗するリスクは生じます。個人的には、このリスクを取って成長に向かえるかどうかは、組織の成長にも影響するように思います。
ビジョナリーなCEOなどは、個人としてはこの領域に属する人もいるかもしれません。ただ、多くの場合日本のCEOは泥臭いこともやらないといけないので、結果的に個人としての遂行能力も高くなりがちだとは思います。
右下:指示をされなくても必要とされる事を精度高くやれる
右上と左下の良いとこどり、完全上位互換です。つまり、(指示があればそれに合わせて動くのは当然として)指示をされなくても自分で判断して必要な事を的確に実施できる状態を示しています。
この状態になると、自律的に価値創出ができる ということが大きな強みになります。言われなくても精度高くできる、この状態の人に対しては指示のコストが大きく下がります。もちろん、戦略的な指示や認識共有自体は必要ですが、例えば作業を事細かく説明したり、細かい戦術を説明したり、といったことが不要になるということです。
他の状態と比較すると、この状態は最も評価されます。部下に対して指示をする・しないといったことは別として、どのような職種であっても、原則としては右下の状態を目指すことが一般的であると思います。
価値創出を作業精度と自発性の二軸で捉える
この図の左上の状態を起点として、右方向を作業精度、下方向を自発性と解釈すると、右下は作業精度が高く自発的な状態です。この右下の状態を目指すことで、創出できる価値が増えることになります。この2つの軸において求められるものは違っているので、それぞれを深めていく必要があります。
作業精度の複雑さ
ただし、システム開発の業務においては、作業精度の軸も「単純に技術的な知識を持っていればよい」ということではなく、
- そもそも価値を創出しようとしているか
- 価値の創出に必要となる技術以外の知識(典型的にはドメイン知識)を保有しているか
といった知識や精神性が作業精度に影響します。これについては、知的な仕事の量と深さ - 10倍の成果とIQ、執念、知識、認知やシステム開発と教育におけるアンラーンの重要性などの記事で詳しく説明していますが、これらの記事で「認知が合っているか」と表現しているようなことが作業精度に大きく影響します。
自発性とリスク
そのうえで、さらに自発性を持つことが、価値創出において重要になります。左下の図の説明でも言及していますが、自発性を持つとは、リスクを持つということに他なりません。このリスクを端的に示したのが次の図です。(家を建てたかったのに、テントになってしまった)
このような場合には、リカバリーすることが必要になります。テントを理想に近づけるのか、気合で家を作り直すのか。もちろん、すべての作業を自分で実施する必要はないと思いますが、リカバリーすることへの責任を持つことは自発性と表裏一体です。一般論としてリスクを取れば評価されますが、その評価に耐えられるか?相応の責務を果たせるか?ということでもあります。
この自発性というのは、私が思うには、勇気を出してエイヤで飛び込むしかなく、またそこそこ想像していないことも発生して苦しいことはあるが、乗り切れば苦しみに見合ったものは得られるし、きちんと環境を選んでいれば自発性を発揮した時に裏切られることはない、というものです。そして、そういう体験を積み重ねると自発性はどんどん育っていって、自然に価値が増し続ける状態に至ります。
※なお、本当に致命的な状態になる前に、関係者と認識合わせを行って根本的な認識のずれのような事が起こらないようできる限り注意しましょう。
さらなる価値の創出に向けて
ここまで、主に一人の人の作業を中心に、作業精度と自発性の概念を説明しました。実際には一人では家を建てる「三匹の子豚」みたいなことはできないように、現実の価値創出においては人を動かして価値の創出を加速していく必要があります。右下の次の状態、ということですね。
直接的に人を動かす立場になるか、そうではなくて作業精度を一層高める方向に進むかは、その人の価値観・やりたい仕事に応じて自由に選択すればよいと思います。
参考まで、私個人は、「ざしきわらし」になりたいと思っています。
自分がそこにいるだけで、必要なことが周囲で勝手に自然と為される。かつ、その過程で幸福感を供給する。できれば、特に何もしなくても。やらざるを得ないならやってもいいけど。
ざしきわらしになりたいと言い出して10年ほど経過して、ようやくたどり着いたところはギリギリトラック係数が1でない世界というポンコツ具合ですが、それでも言っておかないとなれない気がするので、言っておきます。ざしきわらしになりたい。
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