AZIKから始めるローマ字入力のカスタマイズ
この記事は何?
ローマ字入力で日本語を入力していて、「ローマ字入力はずっと同じ入力方式が使われているけど、もっと効率の良い入力方式が発明されたりはしないのだろうか?」と考えたことがある人は多いと思います。
この記事では、AZIKと呼ばれるカスタムローマ字テーブルを紹介しつつ、ローマ字テーブルのカスタマイズポイントについて解説します。
この記事の対象読者
- キーボードを使った日本語入力をもっと効率的にしたいと思っている人
- ローマ字入力のカスタマイズに興味がある人
- AZIKを使ってみて便利だと感じたが、物足りない部分がある人
- SKKを使っているがAZIKとの相性が悪く、通常のローマ字入力に戻ろうとしている人
筆者の日本語入力環境
名称 | 内容 |
---|---|
OS | Windows11 |
IME | CorvusSKK |
TL;DR
- AZIKでカスタムローマ字テーブルに入門してみよう
- 既存のローマ字テーブルを残さなければもっと柔軟にローマ字入力ルールを決められる
- AZIKでは "単打キー" や "母音拡張" というテクニックによって効率的なカスタムローマ字テーブルを作っている
- AZIKのテクニックを使ってオリジナルのカスタムローマ字テーブルを作ってみよう
- 筆者は あかならべ配列 というカスタムローマ字テーブルを使っている。おすすめ!
AZIKについて
AZIKは既存のローマ字テーブルに入力ルールを追加することでタイプ数を減らすことを目的としたカスタムローマ字テーブルです。
AZIKについて初めて知ったという人は、まずは作成者のホームページをご覧ください。
AZIK総合解説書
また、文章での説明だと今一つピンと来ないと思うので実際に試してみましょう。
AZIKはGoogle日本語入力の設定を変更することで試すことができます。
AZIKをGoogle日本語入力で利用する方法
Google日本語入力にAZIKを設定するために必要なファイルが以下のリポジトリにあるため、READMEを読んで設定してください。
AZIKの便利なところ
AZIKを使ってみた方は、通常のローマ字と比較して以下のような便利なポイントに気付いたはずです。
- 通常ローマ字で2文字のひらがなを入力するには4キー必要だが、よく使うひらがな2文字であれば2キーで入力できる
- 日本語によく含まれる2文字だけが短縮入力可能になっていて、新しいキー配置をそこまで大量に覚える必要がない
通常のローマ字入力よりも効率的に入力できるケースがある、ということが分かったら次に行きましょう。
AZIKの不便なところ
一方AZIKでは "っ" の入力が ; (セミコロン) キーに割り当てられています。
そのため元々のローマ字テーブルで可能だった、子音キー(k, s, t, n, h, m, y, r, wなど)の連打で "っ" を入力できる機能がなくなっています。
AZIKを使ってみて、どうしても "っ" の入力に戸惑う人が居るのではないでしょうか?
こうした気になる点は、AZIKを更にカスタマイズすることで解消していくことができます。
AZIKとカスタムローマ字テーブルについて
AZIKを使ってみて分かったと思いますが、私たちが使っているローマ字入力は必ずしもローマ字で入力できる必要はありません。
AZIKのように "kz" で "かん" が入力できても良いのです。
「なんらかのアルファベット → 変換先のひらがな」
という条件さえ満たしていれば、どのような入力ルールになっていても構いません。
このようなアルファベットとひらがなの入力ルールのことを ローマ字テーブル と呼びます。
つまり、AZIKはデフォルトのローマ字テーブルをカスタマイズしたローマ字テーブルということになります。
AZIKをカスタマイズしたい場合、このローマ字テーブルを変更していけば良い訳です。
Google日本語入力では任意のローマ字テーブルをテキストファイルで読み込ませることができます。
各自が好きなカスタムローマ字テーブルを作って設定することができます。
ローマ字テーブルをもっとカスタマイズする
AZIKには「元々のローマ字テーブルを維持する」という条件がありました。
この条件をなくしてしまえば、かなり柔軟にローマ字テーブルを変更することができます。
AZIKに使われているローマ字テーブルのテクニック
AZIKで効率化できたポイントはカスタマイズ後も使いたいです。
そのため、カスタマイズの前にAZIKで使われていたローマ字テーブルのテクニックについて確認しておきましょう。
AZIKで使われていたテクニックは、大きく分けて 単打キー と 母音拡張 の2つです。
この2つについて解説しておきます。
テクニックその1:単打キー
日本語入力でよく使われる割に、ローマ字入力では入力しにくい文字がいくつかあります。
入力しにくい文字 | 面倒なポイント |
---|---|
促音(っ) | 子音の連打もしくは "xtu" で入力する必要がある |
撥音(ん) | "nn" で入力する必要がある |
長音(ー) | "-" で入力する必要があり、通常のキーボードでは指を数字キーの段まで動かす必要がある |
こうした文字をホームポジションから近いキーで直接入力できるようにすれば、かなり日本語入力が効率化できます。
AZIKでは上記の文字が入力しやすい1キーのみで入力できるようになっています。
テクニックその2-1:母音拡張
っローマ字入力は 子音 + 母音 の組み合わせでひらがなを入力します。
たとえば "か" は 子音k + 母音a で入力することになります。
通常のローマ字入力においてひらがなの母音は "a, i, u, e, o" の5つしかありません。
そのままだと1つのひらがなを入力する際に 必ず 母音1つを入力する必要があります。
ここで、日本語でよく使われる音をまとめて入力できる母音キーを追加するのが母音拡張です。
テクニックその2-2:撥音母音拡張
母音拡張の例として "an, in, un, en, on" を入力可能なキーを追加してみます。
撥音母音キーが存在すると "かん" を 子音k + 母音an という組み合わせで入力できることになります。
実際、AZIKでは "kz" で "かん" が入力できました。
つまりAZIKでは z が 母音an の役目を果たしていたことになります。
このように、2文字のひらがなをまとめて入力できる母音を追加するのが母音拡張という概念です。
キーボードにおける入力しやすいキーの組み合わせは限られているため、こうした母音拡張は際限なく追加できる訳ではありません。
したがって、母音拡張を導入するのは日本語の単語に頻出する音に限定する必要があります。
AZIKで使われている撥音母音のように「母音+ん」で終わるような音は日本語の単語に頻出します。
日本語に頻出する音を撥音母音拡張によって短縮入力できると、通常よりも少ないキー数でひらがなを入力できるので効率化につながります。
テクニックその2-3:二重母音拡張
撥音母音拡張と同様に "ai, uu, ei, ou" といった 二重母音 も日本語の文章に頻出する音です。
二重母音キーが存在すると、たとえば "かい" を 子音k + 母音ai で入力できることになります。
実際、AZIKでは "kq" で "かい" が入力できました。
つまりAZIKでは q が 母音ai の役目を果たしていたことになります。
原形を留めないローマ字テーブルとは
AZIKに使われていたローマ字テーブルのテクニックが分かったところで、既存のローマ字テーブルを 維持しない カスタムローマ字テーブルについて考えていきましょう。
既存のローマ字テーブルを維持しなくて良くなると、以下の3つが自由になります。
自由になるポイント | できること |
---|---|
子音と母音の配置 | 日本語に頻出する子音と母音をキーボード上で打ちやすい場所に再配置できます。 |
母音拡張の導入 | 日本語に頻出する音をまとめて入力できる拡張母音キーを追加できます。 |
単打キーの配置 | 日本語に頻出する割に1打鍵で入力できない音を1キーで入力できるようにします。 |
上記の3点を踏まえてどのようなローマ字テーブルにカスタマイズするべきかを考えていきます。
カスタマイズその1:子音の配置
日本語で頻出する子音はホームポジションに近いところに配置する方が入力が楽になります。
どういう子音が頻出するのかについては
- http://mobitan.org/kb/romaji/kanafreq.shtml
- http://61degc.seesaa.net/article/33618150.html
- https://ameblo.jp/asuka-layout/entry-11421831908.html
このあたりが参考になりそうです。
上記を元にすると、頻出する子音は概ね以下のように分類できます。
グループ | 子音 |
---|---|
とてもよく使う | K, S, T, N |
よく使う | M, R, D |
たまに使う | H, G, Z |
稀に使う | W, B, P |
これを元にキーボードを眺めてみると、とてもよく使う子音であるT, Nがホームポジション外にあることが分かります。
普段通常のローマ字入力で日本語を入力しているシーンを思い出してください。T, Nに指を伸ばす回数が多かった記憶がないでしょうか?
つまりT, Nがホームポジション近くにあればもっと楽に入力ができるはずです。
逆に、たまに使う子音・稀に使う子音は多少遠い位置に移動させても良いでしょう。
キーボードを眺めてみるとホームポジション行の F, G, H, J, L は軒並み使用頻度が低いか、通常の子音としては使われていません。
こんな一等地を遊ばせていては勿体ないので、もっとよく使う子音に置き換えても良さそうです。
たとえばホームポジション近辺の子音を以下のように配置してみます。
段 | 左小指 | 左薬指 | 左中指 | 左人差し指 | 左人差指 |
---|---|---|---|---|---|
Qの段 | Z | D | G | P | |
Aの段 | N | S | T | K | H |
Zの段 | M | W | R | B |
とてもよく使う K, S, T, N は全てホームポジションのまま入力可能にしてみましょう。
T, Nがかなり入力しやすい位置に決ました。
その他の子音は覚えやすいように、カ行とガ行、サ行とザ行、タ行とダ行、ハ行とバ行とパ行を同じ指で入力できるように配置してみます。
元々のローマ字入力からかけ離れた配置にはなりましたが、清音の子音キーだけ覚えれば割と何とかなりそうです。
また、子音を連打することで "っ" が入力できる仕組みもローマ字と同様にできるようにしておきましょう。
カスタマイズその2:母音の配置
母音はデフォルトのローマ字テーブルでもホームポジションで入力可能な位置にあるためそれほど不便ではありません。
しかし母音の配置を工夫することで、日本語によく出てくる音をより入力しやすい状態にすることが可能です。
AZIKでは日本語に頻出する音を入力しやすくする 二重母音 という概念がありました。
この二重母音(ai, uu, ei, ou)を入力しやすい母音の配置はないでしょうか?
たとえば ai, ei, ou 全ての二重母音が入力しやすいように、隣り合った配置にしてみます。
段 | 右人差し指 | 右中指 | 右薬指 |
---|---|---|---|
Qの段 | i | e | |
Aの段 | a | u | o |
このように配置すると、ホームポジションに手を置いたまま ai, ei, ou を一息に入力できるようになります。
隣り合ったキーであれば1キーでの入力とほとんど変わらない速度で入力ができるので、二重母音キーをわざわざ配置する必要がなくなります。
また、この配置では母音キーが右手側に固まることになります。
したがって 子音 → 母音の順で入力していくと必ず左右の指で交互に打鍵することになり、指が絡まるケースを減らすことができます。
たとえば通常のローマ字入力で "組(kumi)" と入力しようとすると右手の人差し指と中指がちょっと忙しいはずです。
子音と母音が完全に分かれていれば、どんなひらがなでも左右交互打鍵できるようになります。
カスタマイズその3:単打キーの配置
AZIKでは日本語に頻出する音を入力しやすくする 撥音母音 という概念がありました。
この撥音母音(an, in, un, en, on)を入力しやすくすることはできないでしょうか?
たとえば先程配置した母音の隣に「ん」を配置してみましょう。
段 | 右人差し指 | 右中指 | 右薬指 | 右小指 |
---|---|---|---|---|
Qの段 | # | i | e | # |
Aの段 | a | u | o | ん |
このように配置すると、ホームポジションに手を置いたまま an, in, un, en, on を一息に入力できるようになります。
ホームポジションだと小指の位置は変化しないので、1キーでの入力とほとんど変わらない速度で入力できます。
つまり、撥音母音キーをわざわざ配置する必要がなくなります。
この際なので、他によく使う 促音(っ) や 長音(ー) も入力しやすい位置に持ってきましょう。
段 | 右人差し指 | 右中指 | 右薬指 | 右小指 |
---|---|---|---|---|
Qの段 | # | i | e | ー |
Aの段 | a | u | o | ん |
Zの段 | っ | 、 | 。 | # |
カスタマイズその4:拗音母音拡張と拗音単打の追加
二重母音、撥音母音はキーの配置だけで入力しやすくなったので、他にも母音拡張を追加する余裕ができました。
二重母音、撥音の次に日本語によく出てくる音と言えば……?
そう、拗音です。元々ローマ字では拗音はどうしても3キーで入力が必要でした。
たとえば "きゃ" を入力するのに "kya" の3キーを必要としていました。
では "きゃ" を 子音k + 母音ya で入力できるようにしてはどうでしょうか?
段 | 右人差し指 | 右人差し指 | 右中指 | 右薬指 | 右小指 |
---|---|---|---|---|---|
Qの段 | ya | # | i | e | ー |
Aの段 | yu | a | u | o | ん |
Zの段 | yo | っ | 、 | 。 | # |
このように拗音を1キーで入力できるようにしてしまえば入力キー数を減らすことができます。
通常の母音キーと同じく、子音キーなしで拗音母音キーを入力したときには "や, ゆ, よ" が入力されることにしておきましょう。
こうしておけば子音のYも不要になります。
カスタマイズその5:長音母音拡張の追加
カタカナ語を入力する機会が多いと、地味に長音(ー)を入力する機会が多いのではないでしょうか?
"カード" や "ケース" など、長音入力がショートカットできると便利なことが多いと思います。
そこで "a-, i-, u-, e-, o-" といった母音+長音の組み合わせを長音母音として追加してみます。
段 | 右人差し指 | 右人差し指 | 右中指 | 右薬指 | 右小指 |
---|---|---|---|---|---|
Qの段 | ya | i- | i | e | e- |
Aの段 | yu | a | u | o | o- |
Zの段 | yo | a- | u- | # | # |
右手側にかなり母音拡張を増やすことができました。
母音拡張はカスタマイズしがいのある概念です。
長音母音拡張に限らず、よく入力する母音の組み合わせがあれば導入してみても良いかもしれません。
カスタマイズその6:小文字やカタカナ語に対応する
ここまでで大体の文字が入力可能なローマ字テーブルが出来上がりましたが、まだ対応できていない文字があります。
"ぁ, ぃ, ぅ, ぇ, ぉ, ゃ, ゅ, ょ" などの小文字や"ちぇ, しぇ, ふぇ, うぇ, ヴぇ"といったカタカナ語でよく使うひらがなが未対応です。
ローマ字入力では以下のようなルールで入力できるようになっていました。
文字種別 | 入力方法 | 例 |
---|---|---|
小文字 | l + 子音 + 母音 | la: ぁ lya: ゃ |
カタカナ語 | カタカナ語子音 + 母音 | sye: しぇ tye: ちぇ fe: ふぇ we: うぇ ve: ヴぇ |
ここで大事なのは小文字の入力方法です。
通常の子音+母音の前に "l" を入力することで小文字入力が可能になっています。
つまり、小文字入力用の特殊なキーを用意すれば良い訳です。
上記の "l" のようなキーのことを 前置シフトキー と呼びます。
特定文字入力の 前 に入力することで、別の文字を入力できるようなキーのことを意味します。
ここまでに使っていないキーのうち1つを小文字入力用の前置シフトキーにします。
カタカナ語についても同様に、カタカナ語入力用の前置シフトキーを用意します。
カタカナ語の子音はそこまで頻出しないため、通常のローマ字入力と同じような組み合わせで入力できるようにしてしまうと思い出すのに時間がかからなくて良いと思います。
たとえば 子音sy の代わりに 子音as を、 子音w の代わりに子音aw を、といったように定義します。
入力しやすいa + ローマ字入力同様の子音 で入力できるようにしてしまいます。
あかならべ配列の紹介
さて、ここまでのカスタマイズを適用して作られたのが以下のカスタムローマ字テーブルです。
このカスタムローマ字テーブルは あかならべ配列 と言います。
清音の子音 + 母音の位置だけ覚えれば大体入力できるようになるので、AZIKに慣れることができた方なら割とすぐに習熟できると思います。
また、筆者はCorvusSKKを使用しています。
したがってSKKでも利用できるようにいくつかのキーをSKKのモード切り替え用に空けてあります。
SKKとAZIKの相性が悪いと感じている人にもおすすめです。
SKKやCorvusSKKについては以下の記事をご覧ください。
自分でもカスタマイズしてみよう
この記事ではローマ字テーブルをカスタマイズする際の考え方について記載しているため、
あかならべ配列を使わずとも自分で少しずつ理想のカスタムローマ字テーブルを作っていくことができます。
より良いローマ字テーブルを目指して、どんどん改良を重ねてみましょう!
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