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ラボオートメーション関連の論文3本紹介
初めに
「ラボオートメーション」という言葉に触れる機会がありました。
範囲がとても広いビッグワードですが、大まかには以下の内容が含まれそうです。
- AI創薬 / 合成する化合物の設計を、コンピュータ上で自動で行う
- 画像認識 / 手作業で行っている実験に、コンピュータを使った情報を付加する
- RPA / 手で行っている作業を、ロボットや機械を使って自動で行う
今回の記事では、それぞれについて論文を1本ずつ、軽く紹介してみたいと思います。
ほぼ自分用です、ご了承ください。要望があれば別途まとめ直します。
【AI創薬】ベイズ最適化を用いた抗微生物ペプチド設計の推薦システムの構築
著者情報
- 横浜市立大学 / 生命情報系 / 寺山慧研究室 / 村上優貴 氏
目的
- 抗微生物ペプチドの設計は、「抗菌作用」と「毒性(副作用)」などの複数のパラメータを同時に最適化する必要のあるMulti-objective optimization problemであり、難しい。
- Multi-objective optimization problemを解く手法の一つであるベイズ最適化と、実験によるフィードバックを組み合わせ、効率よく抗微生物ペプチドの設計を行うことを目指す。
手法
- 本プラットフォーム「MODAN」は、3つの層からなる。
- 第一層「surrogate model」では、SMILIES表記のシーケンスから、活性(6つの抗菌作用と1つの毒性)を予測するモデルを学習させる。なお、新しいペプチドにも対応しやすいよう、入力はSMILES表記のシーケンスのみで良いようにしている。学習には、PHYSBOというベイズ最適化のためのライブラリを使用した。
- 続いて第二層「recommendation」では、リードペプチドの1つまたは2つのアミノ酸や残基を置換した候補ペプチド群を生成し、第一層で学習したモデルに入力して出力された活性予測値をもとに、「Probability of Improvement」という評価関数を計算して、その値でソートする。
- 第三層「experimentation」では、スコアが良かったペプチドを合成し、実際の活性を評価する。
結果
- 抗菌ペプチドMagainin 2をリードペプチドとして、より活性の高いペプチドを、MODANを2ラウンド回して探索した。
- 第一ラウンドでは、123390種類の候補化合物から、活性が高いと予測された7つのペプチドが抽出され、それを合成したところ、もとのリードペプチドよりも作用は向上しつつ副作用は軽減したペプチド「Peptide 1-7」が得られた。
- 第二ラウンドでは、合成した7つのペプチドの情報を第一層のデータセットに追加して再学習させたうえで、もとのペプチドと「Peptide 1-7」をリードペプチドとして候補をさらに探索した。予測された9つのペプチドを合成したところ、「Peptide 1-7」と同様の抗菌作用を持つペプチドが3つ得られた。
- それら高評価のペプチドの構造を評価したところ、α-Helix構造が抗菌作用に影響しているという、先行研究を支持する結果が得られた。
考察
- わずか2回の最適化ラウンドで、リードペプチドよりも活性の強く副作用の小さいペプチドが4つ得られた。各層の改良によってより効果的にできる可能性がある。
- 計算量の都合でアミノ酸置換箇所を2か所に制限しており、ドメイン知識と組み合わせて置換可能場所をうまく設計するのが望ましい。
- 設計したペプチドを検証する実験は、まだ手作業が必須。
【画像認識】化学実験を画像認識してみた
著者情報
- 早稲田大学 / 化学系 / 中井浩巳研究室 / 佐々木良輔 氏
目的
- 深層学習に基づく画像認識・行動認識技術を化学実験に適用し、化学実験内容の自動認識への道を拓くこと。
手法
- 「手・ビーカー・フラスコ・三角フラスコ・ピペット・試薬瓶・分液ロート」の7つの画像認識用のラベルと、「添加・攪拌・移動」の3つの行動認識用のラベルを、手動でアノテーションしたデータセットを用意。
- 画像認識に使った手法は、YOLOというライブラリ。
- 行動認識に使った手法は、3D ResNetというライブラリ。
結果
- 化学実験の動作・対象を、高精度に認識できた。
考察
- 画像認識と組み合わせることで、自動記録・危険の警告・初心者向け教材としての活用など、手動実験にも優位性を与えることができる。
- 外のデータセットを使うと正答率が下がり、実験室ごとに過学習している。
【RPA】イオンチャネル計測をより強靭に ~異常検知とロボット制御の統合~
著者情報
- 東京大学 / 機械系 / 竹内昌治研究室 / 大岸憲人 (私)
目的
- イオンチャネルの信号解析は従来から手作業で行われており、その結果、計測結果に基づいて装置をリアルタイムにフィードバック制御する応用もできていなかった。
- そこで、イオンチャネル計測をより強靭にするべく、信号計測~解析~フィードバック制御を統合した自動化システムの構築を目指す。
手法
- システムは、以下の4つのモジュールからなる。
- 1つ目の「Segmenter」では、計測器のAPIを使用して、イオンチャネルの1秒間の時系列開閉データ5000点をPC上に取り込む。
- 2つ目「Idealizer」では、信号に乗っているノイズを除去し、信号を矩形波状に復元する。
- 3つ目「Characterizer」では、得られた時系列信号から、その1秒間における細胞膜上のイオンチャネルの開確率を推定する。また、イオンチャネルとその阻害剤の容量反応曲線が既知であるなら、溶液中の阻害剤濃度も同時に推定する。
- 最後の「Responder」では、Characterizerの解析結果に基づいて、外部装置をリアルタイムにフィードバック制御する。
結果
- Segmenter~Characterizerを通して、イオンチャネルの時系列信号を、計測しながらリアルタイムに解析できるようになった。
- 応用例1として、電気刺激・化学刺激に応答する性質のあるイオンチャネルhBKをロボットに搭載し、イオンチャネルを外部刺激のセンサとして利用しながら、毎秒ロボットの動きを制御できた。
- 応用例2として、イオンチャネル計測用の人工細胞膜の異常検知と再生を行った。計測信号がオーバーフローした場合、すなわち膜に異常が発生して計測がうまくできなくなった場合に、自動で外部のシリンジポンプを駆動して人工細胞膜を張り直すことで、ナノポアイオンチャネルαHLのデータ2288点の、2時間にわたる収集実験を無人で行えた。
考察
- 人工細胞膜+イオンチャネルの系を、ロボットセンサへの応用やスケールアップなどより実践的な方向へ進めていくにあたって、有効な技術となる。
- Idealizerでの信号の復元は、BEADSなどより一般的で高性能な手法にする余地がある。
Discussion