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KiCadの使い方 その2(基板設計を学ぼう)

2022/09/30に公開

こんにちは、Ideagearの鈴木陽介です。

前回は、KiCadを使った回路設計についてご紹介しました。

今回はその続きとして、KiCadを使った基板設計から、基板を発注できるデータをつくるところまでをご紹介します。

もしKiCadの使い方をゼロから学びたいと思っている方が本記事をご覧になった場合は、まずは下記前回の記事からご覧ください。
https://zenn.dev/suzuky/articles/e2a745c5aeb2fc

繰り返しになりますが、プリント基板を設計する場合は、まずはその概念をまとめた回路図を作成し、それに対して実装予定の電子部品のサイズなどを紐づけ(シンボルにフットプリントを割り当て)たうえで、基板設計で物理的なレイアウト構築や配線などをします。

つまり、ゼロから設計する場合は、回路設計→基板設計の順番でないと設計できません。

では、前置きはこれくらいにして実際に進めてみましょう!

基板設計の下準備をする

では、前回の続きで回路図エディターの
ツール -> 回路図から基板を更新
をクリックすると、PCBエディターが開きます。


PCBエディターが立ち上がると、この画面が出ます。
基板の更新をクリックします。


すると、ちょっとわかりにくいですが、回路図エディターでシンボルに割り当てたフットプリントの一群が白い線(ネット)付きでまとまって出てきます。

邪魔なので(笑)、「回路図から基板を更新」を閉じます。


すると、フットプリントのまとまりだけ画面に残ります。
これらを任意の位置に移動してください。


レイアウトしやすいよう、図面の中央に移動させてクリックします。

と、ここまでしたら一旦作業をストップします。

左上の保存をクリックして、PCBエディターを含めたプロジェクト内のすべてのエディターを一旦閉じてください。

KiCadを一旦閉じる

なぜKiCadを一旦閉じたか?

実は、回路図エディターとPCBエディターを同時に立ち上げたままPCBエディターでガシャガシャやると、PCBエディターが頻繁にフリーズするからです。しかも質の悪いことに、右上の×ボタンも使えなくなるので、閉じることもできません。

こうなったら、タスクマネージャーから強制終了するかPCを再起動するしかありません。
一方で、PCBエディター単独で使う分にはこのようなトラブルは発生しません。

まぁ私のPCのスペックの問題かもしれませんが(笑)、

プロセッサ:AMD Ryzen 5 4500U with Radeon Graphics GHz
実装RAM:16.0GB
OS:Windows 10 64ビット

上記の通り、決して低いスペックでは無いと思います。

いずれにせよ、PCBエディターで作業している間は、回路図エディターは必要ないので、こちらは閉じておくに越したことはないでしょう。

PCBエディターを使って基板を設計する

気を取り直して、PCBエディターだけを開きます。


PCBエディターを開く方法は2つあり、

1.kicad_pcbファイルをダブルクリックする
2.kicad_prgファイルを開いた後、PCBエディターをクリックする

前者の方がより軽いと思われますが、どちらでも構いません。


先ほど見たフットプリントのまとまりが出てきます。
これを、これからつくりたい基板のサイズや形状に合わせてレイアウトします。

フットプリントを移動する


マウスポインタを任意のフットプリントに合わせてクリックします。
すると、白く反転して動かせるようになります。


各フットプリントを任意の位置に移動します。
フットプリントを回転させたい場合は、フットプリント上で右クリックすると「左回転」、「右回転」が出てきます。


このようなにフットプリントを配置しました。
LED(発光ダイオード)とコネクタ用のフットプリントは90°回転させました。

スルーホール状態を変更する


次に、余計なスルーホールを消します。

今回使う電子部品の内、抵抗とブザーは4pinのPinHeaderの両端のスルーホールだけ使いますので、真中の2つのスルーホールを消します。

ただ、今回の場合は消したいスルーホールにネット(配線用の補助線)が付いていますので、まずはそのネットを消さないスルーホールへ移動させます。


消したく、かつネットが付いているスルーホールをダブルクリックします。
対象のスルーホールだけをダイレクトにダブルクリックしてください。
フットプリント全体をクリックしてしまわないよう注意してください。


すると、「パッドのプロパティ」が開きます。
「ネット名」のプルダウンをクリックします。


「ネットなし」を選びます。


「ネットなし」になったのを確認して閉じます。


ネットの移動先のスルーホールの「パッドのプロパティ」を開き、「ネット名」を選びます。


元々のネットは、LED(発光ダイオード)とつながっていたため、「Net-(D1-Pad1)」を選択します。


変更されたことを確認し、閉じます。


ネットの位置が、抵抗のフットプリントの下から二番目から一番上に移動されました。


次に、不要な真ん中二つのスルーホールを潰します。


パッドのプロパティを開き、パッドサイズの数字と図の現状を確認します。


パッドサイズをXとY共に0mmにすると、それに合わせて右の図も変化します。


OKをクリックすると、「パッドプロパティ警告」が表示されますが、無視してOKします。


すると、図面上はスルーホールが消えます。


同じ要領で、隣のスルーホールも消します。


同じ要領で、ブザーのネットも移動し、真ん中2つのスルーホールも消します。

フットプリント間を配線する

では、基板設計をするうえで一番大事な配線をします。

ただ、配線は実はカンタンです。
というのもその前のレイアウト(フットプリントの配置・回転など)をしっかり行っておけば、8割方終了しているからです。

ごたくはこれくらいにして(笑)、実際に配線してみましょう!


右側のメニューバーの上から4番目に「配線」があります。
さらに、右側のレイヤーで赤■の「F:Cu」が選択されていることを確認します。


配線モードの状態で任意のスルーホールをクリックすると、周りが暗くなって、そのスルーホールとネットでつながっているスルーホールだけが明るく表示されます。

ですので、配線を間違えることはまずありません。
2点間を接続すると図の通りになります。


何ヵ所か配線しました。

なお、F:Cuは基板のフロント面を配線するためのものです。
せっかくなので、バック面も配線してみましょう。

レイヤーを青■の「B:Uc」に変えます。


同じように配線します。
今度は青色の配線になります。


すべてのスルーホールを配線するとこのようになります。

3Dビューアーで基板の状態を確認する

一旦ここまでで基板の状態を確認してみましょう。


表示 -> 3Dビューアー
をクリックします。


すると基板が現れます。

赤枠のところに配線が無いのが見て取れます。
現在は基板のフロント面なので見えません。


マウスでドラッグして基板を回転させます。


裏返すと、先ほどB:Cuで配線した部分が見て取れます。


もう一つ、現在の状態は部品が実装されていない状態ですが、部品が実装されたのも見てみたいですよね?

この3Dビューアーの
設定 -> スルーホールの3Dモデル表示を切り替え
を選択します。


この通り、スルーホールに覆いかぶさるように部品が表示されます。
※デフォルトはこの設定になっています。

3Dビューアーを閉じます。

基板外形(エッジカット)を定義する

さきほどの3Dビューアーで基板を見ることができましたが、これは現在のフットプリントの配置からKiCadが自動で割り出した、いわば適当な外形です。

基板というものは、基本は筐体のサイズや留め穴に合わせて外形と穴位置や寸法を決めます。

よって、今回も自分で外形を指定してみましょう!


PCBエディターの一番右端にある灰色■Edge.Cuts(基板外形の定義)を選択します。


次に、今回はシンプルに正方形の外形にしますので、右側メニューバーの四角を選択します。


すべてのフットプリントを包み込むように外形を指定します。


3Dビューアーでも確認します。

エッジカット(基板外形)を追加する。


続いて、実はPCBエディターにもデザインツールチェッカーがあるので、しっかり配線できているか確認します。

この辺の、配線、配線チェック、外形定義をどの順番でやるかは、案件ごとや本人の好みによって変わってきますので、柔軟に変更してください。


検査 -> デザインツールチェッカー
と進み、DRCを実行します。


エラーが発生していますね。
上側タブの「未配線のアイテム」を確認します。


エラーとなっている場所が、図面上で白く反転するので確認します。


よく見ると、ブザーの消したスルーホールにネットが残っているのが原因のようです。
先程ブザーのスルーホールを消す時に横着したのが災いしました。


難しいですが、何度かクリックして、「配線とビアのプロパティ」を開きました。


「ネットなし」を選択して閉じます。

ただ、これでもエラーが解消されませんでした。
この後もいろいろと試しましたがエラーが解消されなかったため、仕方なく戻るボタンを何度も押して、ブザーのスルーホールを消すところまで戻り、改めてネットを移動してからスルーホールを消しました。

横着するとロクなことないですね。。。

配線についてさらに学ぶ

今回はフットプリントの数は少ないですし、レイアウトもカンタンです。
よって、フロント面だけで配線が完了しますが、実際の案件はスペースの制約があり、部品がひしめいているため、たとえレイヤーが一層でも、最低でもフロントとバックの両面で配線する必要があります。


ですので、場合によっては、スルーホール間を最短距離で配線せず、このように迂回して配線しなければならないケースも出てきます。


こちらは青い配線が赤い配線を跨いでいますが、これは図面上は跨いでいるように見えても、実際はフロント面とバック面で面が異なるため問題ありません。


逆に、このように同じ面上の線を跨ごうとしても跨げません。

このような場合はどうするのでしょうか?

ビアを使って線を跨ぐ

ビアとは、同じ面上の他の配線と交差してしまい通せないときに追加するもので、電気的にフロント面とバック面を接続して配線します。


右側メニューバーの「独立したビアを追加」を選択します。


先ほどの青線の先端にビアを配置します。


配線をフロント側変更して青線の上を通過します。


最後まで赤線のままで接続しました。

基板レイアウトを仕上げる

発注用のデーターをつくる前に細かなところを修正します。


まず、4つの留め穴を外形の四隅に移動させます。
※何度もやり直ている間にブザー中央の2つのスルーホールが復活していたため、このタイミングで消しました。

次に、念のためデザインツールチェッカーでチェックします。


警告:ハンダマスクでシルクスクリーンが切り取られている

というわけのわからないエラーが発生しています。
図面上を見ると、H1とH2のところに矢印があります。

3Dビューアーでも確認してみましょう。


H1とH2のリファレンス番号が見切れています。これが原因ですね。


実は、フットプリントだけでなく、リファレンス番号もドラッグすれば移動できます。


D1やJ1も向きを変えて再配置しました。

再度デザインツールチェッカーでチェックし、異常が無いことを確認しました。

基板の寸法を確認する

基板を発注するにあたって、基板の縦横の寸法が必要になります。
基板の大きさによって値段が変わってくるからです。

では、基板寸法の確認方法を見ていきましょう!


配置 -> 寸法線を追加
をクリックします。


すると、寸法線モードになるので、任意の2点間をクリックします。


2つ目、つまり終点側をクリックすると、寸法がスライドできますので、邪魔にならない位置に移動します。


もう一方も寸法を追加します。
今回の基板の寸法は、50㎜×45㎜ですね。

基板に文字を追加する

基板のバージョン管理のためにも、基板自体に日付やプロジェクト名、バージョンなどを入れておきましょう。


配置 -> テキストを追加
をクリックします。


「テキストのプロパティ」が出てきます。


テキストのところに任意の文字を入れましょう。


次にレイヤーですが、今回はシルクを使いましょう。
フロント面だけに文字を入れるので、「F:Silkscreen」を選択します。


今のままだと文字が大きすぎるため、幅と高さを変更します。


警告が出ましたが、無視します。


出てきたテキストを任意の位置に配置します。
通常は基板の端など、他の部品や配線等に重ならないところに配置します。


3Dビューアーでも確認します。
文字がハッキリと見えますね。


回路図エディターと同様に、ページ設定で図面情報も入れておきましょう。


こちらが最終図です。これで基板設計は完了しました。

基板データを出力する

基板設計が終わったら、データを出力して基板業者に送り、プリント基板を発注しましょう!


ファイル -> プロット
を選択します。


すると、「製造ファイル出力」の画面が出てきます。

含めるレイヤーを含めて、必要な項目はデフォルトで選択されているため、そのまま「製造ファイル出力」をクリックします。


「完了」と出たら、「ドリルファイルを生成」をクリックします。


「ドリルファイルを生成」の画面が出てきますが、こちらも特に何も考えずに、「ドリルファイルを生成」をクリックします。


出力先のパスが表示されたら完了です。

すべてのWindowを閉じてください。

出力された基板データを確認する

出力されたファイルは、一般的にはkicad_pcbファイルと同じフォルダ内に出力されています。


このように、ガーバーファイル(.gbr)とドリルファイル(.drl)が併せて計12個のファイルが出力されていることを確認してください。

ガーバーデータとドリルデータとは聞きなれない言葉だと思いますが、カンタンに言えば、前者はフットプリントや配線データーなどの基板の中身のデータで、後者は穴位置や外形など基板の外身のデータです。

これらのファイルを基板業者に渡すことで基板が出来上がってきます。


別にフォルダをつくって、12個の出力ファイルを格納します。


基板業者に渡しやすいようzipなどに圧縮したら完了です。

ここまででかなりの文量になってしまいましたので、基板の発注方法はまた次回ご案内します。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

PCBエディターも回路図エディターに負けず劣らず奥が深いですね。

特に、回路図はたとえ見栄えがよくなくても(とは言え、キレイにつくらないと後で見返すのが大変なので、グチャグチャでよいことは一つもありませんが、、、)設計者とその関係者しか見ませんが、PCBエディターの結果は実物にダイレクトに反映されます。

・基板の穴ピッチと部品のピッチが合わず、部品を取り付けられない。
・スルーホール通りにはんだ付けすると部品同士が干渉してしまう。
・留め穴がズレていて筐体に固定できない。

などなど、実際に基板をつくり、はんだづけしてみてようやくわかる問題も少なくありません。

また、プロトタイプをつくる場合は、基板だけでなく構造やデザインなどが変わることも少なくないため、基板は一回作って終わりということはほぼあり得ません。何回もバージョンを重ねて作り直すことが多いです。

だからではありませんが、今回読んでよくわからなかった方も、プロトタイプ用の基板をつくる場合は嫌でも何度もKiCadにお世話になることになります。なのでご心配なく(笑)!

では、次回は番外編として、実際の基板の発注方法をご説明します。

関連記事

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https://zenn.dev/suzuky/articles/f1bad1913faf06

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