チームが成長するために必要だと思うリーダー・マネジャーの振る舞い
はじめに
最初は一人の開発者としてスタートしても、ある時、技術面に責任を持つリーダーになったり、プロジェクトをうまく進める責任を持つマネージャーになったり、ピープルマネジメントをする存在になったり、あるいはそれらを兼任するというシーンがあると思う。
システム開発者の組織を率いる上で、こういうことが大事だというコンセプトや、それらを表現したキーワードは色々なところ耳にする事が多い一方で、それらの『実装』として具体的にどのように振る舞うかということについては多くの人が悩んでいると思った。
ソフトウェアで、色々な設計論などは知っているけど具体的な実装がどうなるかというところで悩むのと同じだなーと思い、年末年始という切りが良いタイミングなのもあり、チームが成長するために必要だと考えるリーダー・マネジャーの振る舞いについて思うところを書き出してみたいと思った。
前提となること
必要だと思う振る舞いを書くにあたって前提としている認識や考えを書く。
この考えに共感ができなければ、残念ながらこのあとに書く振る舞いなどは参考にならないと思う。
重要なのはチームが成果を出すこと・出し続けること
リーダーやマネジャー自身がそれなりに開発経験をもつ場合は、自身も積極的に実装などに関与していきたくなることがある。
もちろんそれが適切であるシーンもあると思うが、チームをリードする人間が実装や開発に積極的に関与することは、チームが成長する機会を奪う結果になってしまう事もある。
逆に、チームが成果を出し続けることができれば、開発の方針や実装の方向性はリードする人間からもたらされるものでなくても良い。
他人を自分の意志で変えることはできない
自身の方針のもとで他の人と仕事をするときには、自分の思ったとおりに他人に動いてもらいたいと思うことがある。
例えば、『こういう実装をしてほしい』とか、『こういう考え方をしてほしい』とか、そういうことをメンバーに対して感じることがある。
このような欲求はメンバーに対する期待なので、こう感じることは必要だと思う。
一方で、メンバーにそのような欲求を突きつけたとしても、その言葉でメンバーの意思を変えることはできない。
もしも、自分の言葉でメンバーが意思や行動を変えたと感じたとしても、それはメンバーが自分の頭で判断をして自分の意志を変えたに過ぎない。
人は間違える
人は間違えるので、間違えることを無くせると期待してはいけない。
意図的に間違えているわけではないので、間違えたことを非難しても意味はない。
気をつけることはスケールしない
人は間違えるが、本当は間違えたくはないので、間違えないように気をつけようとする。
一方で、人が気をつける事ができる量にも限りがあるので、いつか限界が来る。
色々なことを気をつけながら難しいことができる人もいるが、それはその人が優れているだけで、チーム全体で見ると脆弱な状態にある。
必要だと思う振る舞い
以降で、チームが成長するために必要だと思う具体的な振る舞いとそう思う理由を記載する
不適切と感じた点を指摘するのではなく質問をする
例えば、ある機能を実装するに当たっての実装方針の相談を行うとしよう。メンバーは要求を満たすつ思われる実装の方針をまとめ、それが適当かどうかをリーダであるあなたに確認しに来ている。
あなたはそこに不備を発見した。提案してもらった方針だと、特定の要求に応えられないと思われる。
そのような時には、不適切な点を指摘するのではなく、質問をすることが有効だと考える。
単に、あなたが不備があると思ったシーンについて聞いてみればいい。
『〇〇の場合はどのように動きますか?』とか、『〇〇の場合にはどのような流れで対応されますか?』のように、『おそらく対応できるだろうけど、私には具体的にどのように対応されるのか理解できなかった』というスタンスで聞くのがいいと思う。
なぜか
まず、あなた自身が間違えている可能性がある。そこに不備があると思っただけで実際は、メンバーは適切に考慮し問題ないかもしれない。
次に、その不備以外は適切に対応できているという事実に目を向けるべき。メンバーは完全に要求に応えることはできなかったが、ほとんど応えることができたわけだから、あともう少しで自分の力で完全に要求に応えることができるかもしれない。そのチャンスを潰すべきではない。
質問に対して、問題なく対応できることをメンバーが説明してくれればそれで問題ない。
もしも、メンバーがそのケースについて考慮をしていなかった場合は、質問によって自分の考慮が漏れていたことに気がつくと思う。
考慮が漏れていたとき、どうやったらその問題に対応できるかあなたにはわかっているかもしれない。
だが、『どうするとうまくいくと思う?』と質問しよう。自分の力で解決方法を考えることができれば、メンバーにとっての経験は、『不完全な提案をしてしまった』ではなく『リーダによって気づきを得て自分の力でやり遂げることができた』になる。この差は大きいと考えている。
手段は指示するのではなく提案する
メンバーが手段や方針などを思いつかない場合や、メンバーが思いついた手段や方針などよりも自身も考えている手段や方針などの方が明らかに優れていると感じたときには、『〇〇の方法でやってください』と指示したくなってしまう事がある。
このような時は、『〇〇の方法はどうだろうか?』と提案するのにとどめたほうが良いと考えている。
このときに注意すべきなのは、自分の提案が採用されるように『説得』をしてはいけないということだ。自分の提案にメリットがあるなら、それを提示するのはよいが押し付けてはいけない。
特に、メンバーと自分の間に役職などの上下関係がある場合は、説得するつもりがなくとも忖度されてしまう可能性がある。
なぜか
自分が一番気持ちよく仕事ができるのは、自分が納得した方法で仕事をするときだと考えている。
そのためには、自分で方法を選択しなくてはいけない。
したがって、メンバーには手段や理由を提案するにとどめ、自分で選択して貰う必要がある。
結果としてあなたが提案した手段が採用されなかったとしても文句を言ってはいけないし、説得して自分の案を採用させようとしてはいけない。
あなたができるのは、メンバーに気づきの機会を提供することまでで、メンバーの意思や行動を変えることはできない。
メンバーが提案を採用しなかったのは、あなたが重視した観点や手段がメンバーにとっては重要でなかったか、別の方法でその観点を満たすことができるというだけのことだ。
メンバーが重要視していなかった観点が、あなたにとっては明らかに重要であるものだと感じたなら、その観点を軽視する理由をメンバーに質問すればいい。
例えば、あなたからメンバーに対してのコンセプトの共有が不十分だったり、あなた自身の認識に誤りがあったり、考えられる原因には色々な種類があると思う。
とにかく、これはメンバー自体に問題があるわけではなく、それ以外の部分に不備があったということが示唆される重要な情報であるため、気付きの機会をくれたメンバーに感謝すべきだ。
また、メンバーが提案した手段に欠点があることが理由で提案をしたいなら、前述のように『質問』をして、メンバー自身が考えて欠点を克服する手段を検討するほうがメンバーのためになると考える。
自分の誤りはできるだけ早く認めて謝罪する
メンバーが間違えることがあるように、自分が間違えることがある。
そういう状態に気がついたら、間違いを認めてメンバーに共有する。
間違いの原因がわかり、対策があるならそれも合わせて説明する。
間違いのせいでメンバーに余計な手間をかけさせていたことがあれば、謝罪と感謝をする。
なぜか
間違えて他人に迷惑をかけたりそれの対応をしてくれたら、謝罪や感謝をするのは当たり前のことだと思うので、その点については特に言うことはない。
一般に、自分の誤りを他人に晒すのはとても心理的に苦しいことだと思う。
一方で、他者からすれば誤りがあればそれに対応するために、すぐ認知したいという要求がある。
そのため、誤りがあってもそれを早く共有し、原因や解決方法を検討すべきという空気を作るために、自身の誤りを含めて積極的に必要な情報を共有したり、解決案の検討をすることが有効だと思う。
誤りの原因について知りたい時は何故かではなく何かを問う
メンバーが何かの誤りをしたとき、改善や再発の防止のために原因が知りたくなる。
そのようなとき、自然と「何故、今回のような事象が発生したか?」と質問したくなるが、「今回の事象の原因はなにか?」と、『何』に重きを置いて質問する。
なぜか
『何故か』という質問は、回答の多くを相手に委ねているため、責任の追求を受けていると感じることがある。一方で、『何か』という質問は、質問相手ではなく原因に重きが置かれていることが明らかであるため、客観的に考えやすく、比較的責任の追求を受けていると感じにくい。
また、あくまでも、事実を理解して必要な対策を検討することが目的なので、原因を明らかにしたあとで相手を追求するようなことをしてはいけない。
振る舞うために必要なこと
先に記載したとおり、気をつけることはスケールしない。
したがって、ここに記載したようなことを一つ一つ気をつけようとしても無理がある。
そのため、これらが実現できるような一貫する価値観を持って、それに基づいて行動することで結果的に実現できるようにするというのが無理ないと思っている。
この、一貫する価値観がどのようなものかは人によって変わるところもあると思うが、私は『謙虚で素直』という価値観が適当だと思っている。
謙虚に振る舞えば、自身の方針がいつでも正しいという思考に陥りにくく、ほかメンバーからの意見を受け入れやすい。素直に振る舞えば、自身に誤りがあったときに率直にそれらの共有を行うだろうし、速やかに謝罪を行うはずだ。
謙虚で素直な振る舞いをしていれば、こちらの提案などに対して余計な事情を介入させずにメンバーが判断しやすくなると思う。
このような振る舞いによって良い関係性を築くことができれば、メンバーに対して適切な気づきを提供しやすくなり、結果としてメンバーやチームをより良い方向へ導きやすくなると思う。
おわりに
チームが強くなるという観点で、主にメンバーとの関わり方について必要だと思う振る舞いについての考えを示した。
実際はそれ以外の観点を含めてどのように振る舞うかを決定しないといけないのが難しい。
とはいえ、チーム開発の成功はチームメンバーに依存するところが大きいのは間違いないので、重要なポイントになると思う。
色々書いたけど、結局の所、謙虚さと素直さを胸に誠実にメンバーと向き合うだけということなのだと思った。
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