質点としての航空機の運動方程式 Part 1: 数学の準備 - 前書き
この記事シリーズでは、航空機を質点とみなした場合の運動方程式を導出し、なぜそのような方程式になるのか?方程式の各部分の意味はどんなものか?について説明します。
この記事を書こうと思った動機や背景は、こちらの記事に書いてあります。また、この記事シリーズ全体の構成や、各記事へのリンクも、こちらの記事から確認することができます。
質点としての航空機の運動方程式 Part 0 - 航空交通や軌道最適化に用いられる飛行ダイナミクス
この記事シリーズは、私の博士論文の Appendix B: Derivation of the Aircraft EoM を英語から日本語に翻訳し、加筆を加えたものです。元論文はここから読めます。もしご自身の論文等でこの記事を参照される場合は、この博士論文を参照してください。
航空機の運動方程式は座標系がややこしい
この記事シリーズの Part1 では、質点としての航空機の運動方程式を導出するのに必要な、数学的テクニックについて説明します。具体的には、3次元直交座標系の基底の回転について述べます。
航空交通の観点から航空機の3次元の運動を数学的に記述するには、航空機の様々な速度、航空機に働く力、航空機がとる角度などを、適切に記述する必要がありますが、これが非常に複雑です。というのも、これらの物理量は通常、単一の座標系ではなく、異なる複数の座標系で定義されるからです。ここで言う「異なる座標系」とは、座標系の原点の位置、座標系の向き(
例えば、航空機に働く重力は、地球に固定された座標系の、鉛直下方向のベクトルとして定義されます。一方で航空機の速度の一種である対気速度は、航空機に固定され、航空機と共に動く座標系を用いて定義されます。つまり、航空機の運動方程式を立式するには、「異なる座標系で定義された物理量(ベクトルや角度)同士の関係を記述する」というプロセスが必要不可欠です。私は、複数の座標系が入り混じっているというこの事実が、航空機の運動方程式をややこしく、理解を難しくさせている大きな原因だと思っています。私も学生時代はずいぶん悩みました。
ところで、上で書いた「異なる座標系で定義された物理量(ベクトルや角度)同士の関係を記述する」とは具体的には、「座標系 A で定義された物理量 a を別の座標系 B で記述するとどうなるかを考える」ということです。こうすることにより、例えば物理量 a と座標系 B で定義された別の物理量 b を比較したり、両者を足し合わせたりすることが可能になります。別々の座標系で定義された物理量同士を、単純に比較したり演算に用いたりすることは、普通はできません。
この「座標系 A で定義された物理量 a を別の座標系 B で記述するとどうなるかを考える」ということは、「座標系 A を座標系 B に変換する」という数学的なプロセスを踏むことで実現できます。より具体的には、「3次元空間における座標系の基底を変換する」ということを行います。文字で書くと仰々しく感じますが、実際にやることはなんてことありません。要するに、座標系 A の
この Part 1 記事では、この
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