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質点としての航空機の運動方程式 Part 1.2: 数学の準備 - 複数の回転が組み合わさった場合の基底の変換

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この記事シリーズでは、航空機を質点とみなした場合の運動方程式を導出し、なぜそのような方程式になるのか?方程式の各部分の意味はどんなものか?について説明します。

この記事を書こうと思った動機や背景は、こちらの記事に書いてあります。また、この記事シリーズ全体の構成や、各記事へのリンクも、こちらの記事から確認することができます。
質点としての航空機の運動方程式 Part 0 - 航空交通や軌道最適化に用いられる飛行ダイナミクス

この記事シリーズは、私の博士論文の Appendix B: Derivation of the Aircraft EoM を英語から日本語に翻訳し、加筆を加えたものです。元論文はここから読めます。もしご自身の論文等でこの記事を参照される場合は、この博士論文を参照してください。


複数の回転が組み合わさった場合の基底の変換

航空機の運動方程式を導出するためには、x, y, z の各軸のうち、2つ以上の軸周りの回転を連続して行った場合、最終的に基底がどのように変換されるのかについても理解しておくと便利です。例えば、次のような2段階の回転を考えてみます。

  1. \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z 座標系を、\bm{e}_x 軸の周りに \Theta_x だけ回転させます。
    回転後の基底を \bm{e}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{'}_z とします。(この回転によって、回転軸である \bm{e}_x は変換されないので、「変換前の基底と同じ」という気持ちを込めるため、あえて \bm{e}_x^{'}はつけません。)

その次に、

  1. \bm{e}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{'}_z 座標系を、\bm{e}^{'}_y 軸の周りに \Theta_y だけ回転させます。
    回転後の基底を \bm{e}^{''''}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{''''}_z とします。(この回転によって、回転軸である \bm{e}^{'}_y は変換されないので、「変換前の基底と同じ」という気持ちを込めるため、あえて \bm{e}^{'}_x^{''''}はつけません。)

このような回転を行った場合、元の基底 \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z は最終的にどのように変換されるでしょうか?

まず1の回転を行うと、基底は次のように変換されます。[1]

\begin{bmatrix} \bm{e}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{'}_z \end{bmatrix} \; = \; R_x \, (\Theta_x) \begin{bmatrix} \bm{e}_x\\ \bm{e}_y\\ \bm{e}_z \end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.6)

次に、\bm{e}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{'}_z に対して、上記2の回転を行います。すると、この基底は次のように変換されます。[2]

\begin{bmatrix} \bm{e}^{''''}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{''''}_z \end{bmatrix} \; = \; R_y \, (\Theta_y) \begin{bmatrix} \bm{e}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{'}_z \end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.7)

式(1.7)に式(1.6)を代入すると、次のような式が得られます。

\begin{bmatrix} \bm{e}^{''''}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{''''}_z \end{bmatrix} \; = \; \underbrace{ R_y \, (\Theta_y) \; R_x \, (\Theta_x) }_{\displaystyle \bm{\Phi}_{y, x}} \begin{bmatrix} \bm{e}_x\\ \bm{e}_y\\ \bm{e}_z \end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.8)

この式は、基底 \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z がこの連続した2つの回転によりどのように変換されるか?を表したものだと理解できます。あるいは、変換後の基底 \bm{e}^{''''}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{''''}_z と変換前の基底 \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z との関係を表す式である、とも捉えられます。

ここで、2つの回転行列の積を \bm{\Phi}_{y, x} と表すことにします。式(1.8) を見ると、この2回の回転では、元の基底に \bm{\Phi}_{y, x} をかけたものが新しい基底となることが分かります。[3]

回転の数が2回ではなくもっと増えても、同じルールが成り立ちます。

重要な注

ここで1つ重要な注意があります。私たちが今ここで考えている「複数の回転」とは、2回目以降の回転は、それ以前の回転によって変換された基底について行うものである、というものです。上の例では、2回目の回転は\bm{e}_y軸を中心として行うのではなく、1回目の回転によって得られた \bm{e}_y^{'}軸を中心に行います

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逆回転による基底の変換

脚注
  1. ここで、R_x \, (\Theta_x) は、式(1.5) における R_x \, (\Theta)\Theta\Theta_x に置き換えたものです。 ↩︎

  2. ここで、R_y \, (\Theta_y) は、式(1.4) における R_y \, (\Theta)\Theta\Theta_y に置き換えたものです ↩︎

  3. 回転行列をかけ合わせる順番に注意してください。回転の順番が早い順に、回転行列は右側に来ます。 ↩︎

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