この記事シリーズでは、航空機を質点とみなした場合の運動方程式を導出し、なぜそのような方程式になるのか?方程式の各部分の意味はどんなものか?について説明します。
この記事を書こうと思った動機や背景は、こちらの記事に書いてあります。また、この記事シリーズ全体の構成や、各記事へのリンクも、こちらの記事から確認することができます。
質点としての航空機の運動方程式 Part 0 - 航空交通や軌道最適化に用いられる飛行ダイナミクス
この記事シリーズは、私の博士論文の Appendix B: Derivation of the Aircraft EoM を英語から日本語に翻訳し、加筆を加えたものです。元論文はここから読めます。もしご自身の論文等でこの記事を参照される場合は、この博士論文を参照してください。
逆回転による基底の変換
更に、逆回転による基底の変換についても知っておくと、航空機の運動方程式の導出のために便利です。
1回の回転における逆回転
例えば、回転行列R_z \, (\Theta)で表される回転の逆回転とは、\bm{e}_z 軸の周りに角度 -\Theta だけ回転することを指します。これに対応する変換式は、式(1.3)において \Thetaを-\Thetaに置き換えれば得ることができます。すなわち、
\begin{aligned}
R_z \, (-\Theta) \; &= \;
\begin{bmatrix}
\cos \, ({-\Theta}) & \sin \, ({-\Theta}) & 0\\
- \, \sin \, ({-\Theta}) & \cos \, ({-\Theta}) & 0\\
0 & 0 & 1
\end{bmatrix}\\\\
&= \;
\begin{bmatrix}
\cos{\Theta} & - \, \sin{\Theta} & 0\\
\sin{\Theta} & \cos{\Theta} & 0\\
0 & 0 & 1
\end{bmatrix}\\\\
&= \; R_z^T \, (\Theta) \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.9)
\end{aligned}
結果として、この逆回転を表す回転行列は、元々の回転を表す回転行列である R_z \, (\Theta) の逆行列であることが分かります。同じことは、他の2つの回転行列 R_x と R_y についても成り立ちます。
複数の回転における逆回転
例として、上で私たちが見てきた、2回の回転の逆回転について考えてみます。つまり、
\displaystyle \bm{e}^{''''}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{''''}_z \, \overset{-\Theta_y}{\longrightarrow} \, \bm{e}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{'}_z \, \overset{-\Theta_x}{\longrightarrow} \, \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z
のように、基底 \bm{e}^{''''}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{''''}_z を 基底 \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z に変換させるような回転です。式 (1.8) と (1.9) をふまえると、これは次のように表されます。
\begin{aligned}
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}_y\\
\bm{e}_z
\end{bmatrix}
&= \;
R_x \, (-\Theta_x) \; R_y \, (-\Theta_y)
\begin{bmatrix}
\bm{e}^{''''}_x\\
\bm{e}^{'}_y\\
\bm{e}^{''''}_z
\end{bmatrix}\\\\
&= \; R_x^T \, (\Theta_x) \; R_y^T \, (\Theta_y)
\begin{bmatrix}
\bm{e}^{''''}_x\\
\bm{e}^{'}_y\\
\bm{e}^{''''}_z
\end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.10)
\end{aligned}
ここで、R_x^T \, (\Theta_x) \; R_y^T \, (\Theta_y)の部分について補足します。この「2つの逆行列の積」は、次のように「行列の積の逆行列」と一致します。
R_x^T \, (\Theta_x) \; R_y^T \, (\Theta_y) = \Big( R_y \, (\Theta_y) \; R_x \, (\Theta_x) \Big)^T \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.11)
ここで、R_xとR_yの順番が、左辺と右辺で逆になっていることに注意してください。
式 (1.10) と (1.11) より、最終的に以下の表式が得られます。
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}_y\\
\bm{e}_z
\end{bmatrix}
= \;
\underbrace{
\Big( R_y \, (\Theta_y) \; R_x \, (\Theta_x) \Big)^T
}_{\displaystyle = \bm{\Phi}_{y, x}^T}
\begin{bmatrix}
\bm{e}^{''''}_x\\
\bm{e}^{'}_y\\
\bm{e}^{''''}_z
\end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.12)
したがって、「連続した複数の回転」の逆回転は、元々の回転行列の逆行列で表されます。この「元々の回転行列の逆行列」を、\bm{\Phi}_{y, x}^Tなどのように表すことにします。
この事実は、2回ではなく、さらに多くの回転についても同じように成り立ちます。
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