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質点としての航空機の運動方程式 Part 1.3: 数学の準備 - 逆回転による基底の変換

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この記事シリーズでは、航空機を質点とみなした場合の運動方程式を導出し、なぜそのような方程式になるのか?方程式の各部分の意味はどんなものか?について説明します。

この記事を書こうと思った動機や背景は、こちらの記事に書いてあります。また、この記事シリーズ全体の構成や、各記事へのリンクも、こちらの記事から確認することができます。
質点としての航空機の運動方程式 Part 0 - 航空交通や軌道最適化に用いられる飛行ダイナミクス

この記事シリーズは、私の博士論文の Appendix B: Derivation of the Aircraft EoM を英語から日本語に翻訳し、加筆を加えたものです。元論文はここから読めます。もしご自身の論文等でこの記事を参照される場合は、この博士論文を参照してください。


逆回転による基底の変換

更に、逆回転による基底の変換についても知っておくと、航空機の運動方程式の導出のために便利です。

1回の回転における逆回転

例えば、回転行列R_z \, (\Theta)で表される回転[1]の逆回転とは、\bm{e}_z 軸の周りに角度 -\Theta だけ回転することを指します。これに対応する変換式は、式(1.3)において \Theta-\Thetaに置き換えれば得ることができます。すなわち、

\begin{aligned} R_z \, (-\Theta) \; &= \; \begin{bmatrix} \cos \, ({-\Theta}) & \sin \, ({-\Theta}) & 0\\ - \, \sin \, ({-\Theta}) & \cos \, ({-\Theta}) & 0\\ 0 & 0 & 1 \end{bmatrix}\\\\ &= \; \begin{bmatrix} \cos{\Theta} & - \, \sin{\Theta} & 0\\ \sin{\Theta} & \cos{\Theta} & 0\\ 0 & 0 & 1 \end{bmatrix}\\\\ &= \; R_z^T \, (\Theta) \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.9) \end{aligned}

結果として、この逆回転を表す回転行列は、元々の回転を表す回転行列である R_z \, (\Theta)逆行列であることが分かります。同じことは、他の2つの回転行列 R_xR_y についても成り立ちます。

複数の回転における逆回転

例として、上で私たちが見てきた、2回の回転の逆回転について考えてみます。つまり、

\displaystyle \bm{e}^{''''}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{''''}_z \, \overset{-\Theta_y}{\longrightarrow} \, \bm{e}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{'}_z \, \overset{-\Theta_x}{\longrightarrow} \, \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z

のように、基底 \bm{e}^{''''}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}^{''''}_z を 基底 \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z に変換させるような回転です。式 (1.8) と (1.9) をふまえると、これは次のように表されます。

\begin{aligned} \begin{bmatrix} \bm{e}_x\\ \bm{e}_y\\ \bm{e}_z \end{bmatrix} &= \; R_x \, (-\Theta_x) \; R_y \, (-\Theta_y) \begin{bmatrix} \bm{e}^{''''}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{''''}_z \end{bmatrix}\\\\ &= \; R_x^T \, (\Theta_x) \; R_y^T \, (\Theta_y) \begin{bmatrix} \bm{e}^{''''}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{''''}_z \end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.10) \end{aligned}

ここで、R_x^T \, (\Theta_x) \; R_y^T \, (\Theta_y)の部分について補足します。この「2つの逆行列の積」は、次のように「行列の積の逆行列」と一致します[2]

R_x^T \, (\Theta_x) \; R_y^T \, (\Theta_y) = \Big( R_y \, (\Theta_y) \; R_x \, (\Theta_x) \Big)^T \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.11)

ここで、R_xR_yの順番が、左辺と右辺で逆になっていることに注意してください。

式 (1.10) と (1.11) より、最終的に以下の表式が得られます。

\begin{bmatrix} \bm{e}_x\\ \bm{e}_y\\ \bm{e}_z \end{bmatrix} = \; \underbrace{ \Big( R_y \, (\Theta_y) \; R_x \, (\Theta_x) \Big)^T }_{\displaystyle = \bm{\Phi}_{y, x}^T} \begin{bmatrix} \bm{e}^{''''}_x\\ \bm{e}^{'}_y\\ \bm{e}^{''''}_z \end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.12)

したがって、「連続した複数の回転」の逆回転は、元々の回転行列の逆行列で表されます。この「元々の回転行列の逆行列」を、\bm{\Phi}_{y, x}^Tなどのように表すことにします。

この事実は、2回ではなく、さらに多くの回転についても同じように成り立ちます。

次の記事
Part 2: 無限に水平な地面を仮定した場合の運動方程式 - 前書き

脚注
  1. すなわち\bm{e}_z軸の周りに角度\Thetaだけ行う回転) ↩︎

  2. 証明は、例えば金沢工業大学のこのページの「(AB)^{-1} = B^{-1}A^{-1}の証明」の章を参照してください(リンク先のページでは、逆行列が^Tではなく^{-1}で表されていることに注意してください。)。 ↩︎

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