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ピープルマネジメントの仕事とは何か

2024/10/21に公開

はじめに

こんにちは。PharmaXでエンジニアリングマネージャーをしている古家(@enzerubank)です。
最近エンジニアリングマネージャーの仕事を整理している中で、ピープルマネジメントの解像度を高めておく必要があるなと思い、調べた内容をまとめてみました。

ピープルマネジメントとは

ピープルマネジメントとは従業員と向き合い、潜在能力や可能性を最大限発揮することで、組織全体の成果を最大化することを目的にしたマネジメント手法です。

従来型のマネジメントとの違い

ピープルマネジメントと従来型のマネジメントは「組織全体の成果を最大化する」という目的は同じものの、そのための手法が異なります。

ピープルマネジメント 従来型のマネジメント
特徴 従業員と向き合い、伴走しながら個々の可能性を引き出す手法 従業員を管理・評価することにより、個々のパフォーマンス向上や組織の成果の最大化を図る手法
重視点 仕事の成果やパフォーマンスに加え、一人一人のエンゲージメント向上を重視 仕事の成果やパフォーマンス向上を重視
目標達成までの考え方 一人一人の成功に積極的に関わり、従業員の自主性を高め、組織の成果の最大化を目指す 「ヒト・モノ・カネ」の経営資源を適切に管理することで、組織の成果の最大化を目指す
従業員と向き合う頻度 目標設定や評価・フィードバックを高頻度(隔週〜毎月1回程度)で行う 目標設定や評価・フィードバックは半年〜年に1回程度

従来型のマネジメントは「上司が一番物事を知っている」という思想がまず前提にあり、上司がやりたいことを遂行してくれるかどうかだけを求めるようなマネジメントになります。

一方でピープルマネジメントは、「部下の方が優れている分野が必ずある」という前提の元、部下一人一人からもっと良いやり方はないかを引き出して、今まで上司だけでは出来なかったことを実現していくことを目指すマネジメントです。そのため、部下との信頼関係の構築をまず第一にしますし、コミュニケーションの頻度も当然増やす必要があります。

なぜピープルマネジメントが求められているのか

ピープルマネジメントが重要視されてきた背景には現代特有の様々な要因があります。

ビジネス環境の変化

現代は先行きが不透明で将来の予測が困難なVUCA(ブーカ)の時代に突入しており、トップダウン型の従来のマネジメントでは変化に対応しにくくなってきています。トップが得意な今までのやり方で対応できるような問題なら上手くいくものの、全く経験のない分野や何が正しいのかわからない複雑な問題にチャレンジしようとする状況では、トップダウンのマネジメントでは組織が変化についていけません。

今まで社内にはなかった高度なスキルを持つ人材を集め、マネジメントしていく必要がありますが、そのためにはピープルマネジメントで各々と向き合い、主体性を引き出し、より良いやり方を見つけていく必要があります。

雇用の流動化

年功序列や終身雇用を重視されてきた時代は終わり、現在は転職が当たり前です。優秀な人材ほどより良い条件・環境で、自分のスキルや経験を高く評価してくれる企業へ転職していきます。

部下をただの経営リソースとしてしか見ない従来のマネジメント手法では、組織の成果さえ出ていればいいので、部下の成長や人生の成功は二の次になるため、エンゲージメントは下がり、定着率は下がります。定着率が下がれば余計な採用コスト・初期教育コストがかかり、その間チームの生産性は落ちますし、人材を育成する意味もないので、優れた人材を育てるために必要な優れた能力を組織に身につけさせようという文化も育ちません。

結果、優秀な人を採用してもその能力が組織に定着することはなく、その人が疲弊して退職すればまた元の状態と対して変わらない状態に戻るということを繰り返すことになります。

クルト・レヴィンの法則とピープルマネジメント

ピープルマネジメントにおいて基本となる考え方がクルト・レヴィンの法則です。

クルト・レヴィンの法則とは、社会心理学者のクルト・レヴィンによって提唱されたもので、人間の振る舞いと本人の特性、周囲の環境の関係は下記のような関数で表すことができるとするものです。

B=f(P,E)
- B : Behavior 振る舞い
- f : function 関数
- P : Personality 本人の特性
- E : Environment 周囲の環境

クルト・レヴィンの法則は、人の行動は、本人の特性や価値観だけでなく周囲の環境や人間関係の作用の影響を受けて変わることを示したものです。同じ人間だったとしても、周りの環境が変わればパフォーマンスは大きく変わるということです。

一人一人のパフォーマンスを最大限に引き出すには、本人の強みや価値観の理解だけでなく、成長できる環境や心理的安全性の確保、上司側の意識改革といったことも重要になってくるというわけです。

ピープルマネジメントの仕事

ピープルマネジメントとは「一人一人の潜在能力や可能性を最大限発揮することで、組織全体の成果を最大化することを目的としたマネジメント手法」のことを指します。

エンジニアのピープルマネジメントについては エンジニアリングマネージャーのしごとが詳しいです。

エンジニアのマネジメント職であるエンジニアリングマネージャーのマネジメント領域には以下の4つがありますが、本の中ではプロジェクトマネジメントとピープルマネジメントを兼任するのはアンチパターンとされています。

  • ピープル
  • テクノロジー
  • プロジェクト
  • プロダクト

プロジェクトマネジメントはデリバリーの責任(納期・予算・品質・スコープ)を負いますが、ピープルマネジメントはメンバーの成長・働きがい・組織の持続可能性について責任を負います。利害が相反しますし、時間的にも余裕がなくなるので、デリバリーの強い外圧に負けると、チームを犠牲にしてしまいがちになります。

さてピープルマネジメントは「メンバーの成長・働きがい・組織の持続可能性」の責任を負うものとすると、仕事内容は何になるでしょうか?

前提としてそれぞれの従業員に合った仕事をうまく割り当てられるのが理想です。本人のモチベーション・スキルの向上につながり、チームのアウトプットも向上するためです。そのため、チームメンバーの特性に合わせて、仕事の割り当て、委譲の方法などを調整する必要があります。

スキルの向上には発達の近接領域の考えに従い、助けがあれば取り組めるような領域にどんどん取り組めるような環境や支援ができる仕組みを整えます。AS-IS(現在地)とTO-BE(理想)の段階を刻み、発達の近接領域アプローチで順番に達成して、理想に近づいていけるようにします。

その上での仕事内容は例えば、以下のような内容があります。

  • 役割設定(権限委譲)
  • チーム/個人のOKR策定・トラッキング
  • 1on1
  • メンバーのスキル発達の支援
  • プロダクトチームの状況把握(各メンバーからの情報キャッチアップ)
  • 相談・雑談
  • エンジニア採用

ピープルマネジメントの目標設定の例

ピープルマネジメントの仕事のパフォーマンス評価を行う際の目標設定の一例です。
弊社では以前の記事で書いた通り、Findy Team+のチームサーベイ機能でエンジニア満足度を計測しているのですが、その内のスコアの一部をxx%向上するみたいな目標はありかもなと思いました。

そのための活動として、役割設定(権限移譲)・チーム/個人のOKR策定・トラッキング・1on1によるメンバーの状況キャッチアップ・スキル発達支援の仕組み作りなどをやっていくと良さそうです。

* 目標(O): 従業員エンゲージメントの向上
* 主要な結果(KR):
    * 従業員満足度調査のスコアを10%向上させる
    * 自発的な離職率を20%削減する
    * 1on1ミーティングの実施率を95%に引き上げる
* 目標(O): リーダーシップ能力の強化
* 主要な結果(KR):
    * マネージャー向けリーダーシップトレーニングの受講率を100%にする
    * 360度フィードバックでのリーダーシップスコアを15%向上させる
    * チームメンバーの昇進率を前年比10%増加させる
* 目標(O): 生産性と効率性の向上
* 主要な結果(KR):
    * チーム全体の目標達成率を90%以上にする
    * プロジェクト完了までの平均時間を15%短縮する
* 目標(O): 多様性と包括性の促進
* 主要な結果(KR):
    * 採用における多様性(性別、年齢、文化的背景など)を25%向上させる
    * 従業員の多様性に関する満足度調査のスコアを20%向上させる
* 目標(O): 人材育成とキャリア開発の強化
* 主要な結果(KR):
    * 個人開発計画の策定率を95%に引き上げる
    * 社内研修プログラムの受講率を30%向上させる
    * 内部昇進率を15%増加させる

さいごに

今回ピープルマネジメントについて学習してみて、ピープルマネジメントはそれ一つで専門分野だし奥が深いなと感じました。

エンジニアリングマネジメントの分野ではピープル/テクノロジー/プロジェクト/プロダクトを全てできるのが強い(広い)EMと言ったりしますが、この4つの専門領域を高いレベルで本当の意味で両立できている人はほとんどいないだろうなと。逆に言うと本当にそれが両立できるような人なら有名企業でCTO/VPoEをやれるくらいのレベルな気がします。本当に強い人じゃないと無理ですね笑

大抵は仕方なく兼務になっていて、兼務になっている分野はあまり機能していないというケースだと思います。エンジニアリングでいうと、プロジェクトマネジメントはスクラム等でチームでマネジメントする方針にして、プロダクトはPdMに見てもらい、テックリードがテクノロジーによるデリバリーのマネジメント、EMはピープルマネジメントを主に持つくらいの分け方がいいだろうなと思いました。

チームの状況によって一時的に兼務になるのは仕方ないとして、それを「一時的」で済ませられるように誰かが理想形を描いてそちらに持っていくのが大事ですね。

またあえて、本記事ではピープルマネージャーという言葉は使いませんでした。これはピープルマネジメントは特定のマネージャーがやっていればよいというものでもないからです。マネージャーだけではできるピープルマネジメントは限られるので、必要に応じて他のエンジニアや経営者も巻き込んで、一緒に取り組んでいくことが重要だなと思います。

あと、ピープルマネジメントの職域とスクラムマスターは被る部分があるので、そのあたりについてもまた別の記事でまとめる予定です。

ピープルマネジメントについて悩んでいる方の参考に少しでもなれば幸いです。

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