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技術成長を支えるための「スキルメンター」制度を始めました

2023/08/04に公開

制度を作って始めてみました

この記事は、VPoEを務めておりますきんじょう(@o0h_)が執筆しています。

掲題の通りで、つい最近「スキルメンター」という仕組みを立ち上げました。
どういう課題があって、どういうアプローチをする仕組みなのか?を整理して紹介しようという記事になります。

どんな制度?

「ITエンジニア職域を大将に、スキル向上を目的として、チーム・部署を問わず、定期的に1on1を実施するメンタリングを提供するよ」というものになります。

ここでいう「スキル」については、プログラミングやクラウドインフラに関わるものに限らず、プロジェクトマネジメントやチームビルディング、ファシリテーションといったものを含みます。
NEでは「能力定義表」を策定し、能力開発・評価にも組み込んでいますので、今回の文脈でも、その範疇に含まれる広範なものを「スキル」として扱っています。
※もう少し詳しい話は次の記事をご覧ください
https://zenn.dev/neinc_tech/articles/kaisya-no-kojin-mokuhyo

制度の利用は任意で、「希望する人は申し込んでね」というフローとしました。
元よりEM等によるメンタリング(1on1の機械の提供)を実施していますので、そこでニーズ=個人の成長や目標達成に必要なリソース提供が満たされる場合には、スキルメンターを敢えて利用する旨味もないためです。

メンター候補(申し込める相手)についても、能力定義表をベースに、「シニア」のランクに該当する人を候補として提供しました。

なぜ「スキルメンター」なのか

メンティー(1on1を申し込む側)・メンター(1on1をする側)の両者に対して、期待すること・解決したい課題と実践があります。
それぞれの観点から整理してみます。

メンティーにとって

まず大前提として、「EMが必ずしも技術者としてスキルフルであるべき、という要求は現実的ではない」という考えがあります。
「技術力で評価を得たら、どこかのタイミングでマネジメントをやらなければいけない」というキャリアラダーの設計をしたくないのです。それと同時に、「会社や事業をよく理解していて、貢献能力・実績もあるが、プログラミングには強くない」からといって「他者に影響を与えるポジションにつけない」のは、会社と当人の双方にとって大きな損失に繋がるはずです。

そのために、今のNEでは「狭義でのエンジニアリング能力」と「EMになれる資質」を分離しています。
(強いEMの登場・開発を待つのをひとまずは諦めて、組織にとっての「柔軟な選択肢」と働き手にとって「チャレンジしやすい可能性」を重んじた方が、誰にとっても効果的であろうという判断です)

その一方で、ピープルマネジメントの文脈で「メンバーと1on1する」のはEMの責務としています。
ここで、「メンバーに対して深く・多く相談に乗れる立場の人が、技術的にはそこまで優れていない」という状況が発生し得ます。あるいは、「伸ばしたい力と、EMが得意としている領域にギャップがある」なども、十分に問題となるわけです。

この構造的な問題をカバーするために、今回の「スキルメンター」を用意しました。
「社歴が長く、比較的長期・安定的なプロジェクト運営が得意なEM」の元で働くメンバーに対して「流動的なプロジェクトの運営に長けているシニアに、アジャイル思考についてコーチングを提供する」こともできますし、「bizからdevまで薄く広くこなせるタイプのEM」だと補えないような「データベースのスペシャリストに指導を受ける」といった支援も可能です。

すなわち、

  • "マネージャーガチャ"で能力開発やキャリアについての可能性を潰すリスクを減らす
  • "マネジメント"と"テックリード"の分離を実践しやすくする

というのがポイントになります。

これがあれば、EMの登用に柔軟性をもたせやすくなるはずです。[1]

メンターにとって

先述の通り、スペシャリストやIC的なキャリアを実現・支援したいと考えているため、「シニア=(ピープル)マネジメント」という構図は否定しています。
ただし、これは「組織に対して貢献をして欲しい、レバレッジを効かせて欲しい」という期待を否定するものではありません。
組織における問題発見と課題解決や、全体的な生産能力の向上に対して貢献してもらいたいのです。

各シニアにとっては、スキルメンターの実施は「メンバーと(継続的に)接する」「自分の思考や経験を伝える、教える」という機会となります。
これを上手く活用することで、「今この組織において、どんな問題が埋もれているのか?」を考えるヒントを手に入れやすくなるのではないか?
そして、「良い課題」を発見して、その解決に向けて提案的に動けたとなれば・・その時には、シニアメンバーの「実績」となりますし、シニア級の人材が実績を上げるということは即ち組織にとっての「儲け」になります。

幸いにも、あるいは会社の文化として、今のNE社内では「人の助けになる」「求めに応じる」というのを苦手としていない人が多いです。とりわけ、シニアメンバーにおいては、自然とそれを実践できています。
そのため、本質的に「自分に期待して、教えを乞いに来てくれる人」と一緒に、自身の得意とする領域を話題にコミュニケーションをする時間は、そんなに苦ではなさそうかな?と考えています。
時間的な負担や責任面での重さ・煩わしさの発生は免れないので、その点は上手くケアしていきたいですね。

細かいこと

なぜ「制度」にして「(定期の)1on1」なのか?

「助けたり教えたりする文化」について言及しましたが、それがあってなお「仕組みを設けたのか」ことには、矛盾している印象もあるかと思います。
実際、具体の問題で「こんな状況になっているので助けてください!」と声をかけたり、「これについてもっと知りたいので教えてください」というやりとりは、チラホラと目にします。

やりたかったのは、「機会の公平化」と「伴走型の支援」の実現でした。

前者について言えば、「割と気兼ねなく誰にでも話掛けやすい空気がある」といっても「全く知らない人に話しかける」のには一定のハードルがあります。あるいは、単純に「誰が詳しいのか、誰に聞けば良いのかわからない」という場合もあるでしょう。
そのために、オフィシャルに「この人に話しかけていいよ」という姿勢を、組織の方から示してみようという試みになっています。

後者について言えば、「今困っていること(例えばタスクを進める上で詰まっていること)」については話し掛けやすくても、「データベースに詳しくなって、仕事にもっと活かしたい」といった漠然としていたり大きな話題については、気軽に持ちかけるのが難しい・・という問題への対処です。
教える側としても、「相手のレベル感や意欲(やる気)がどんなものかわからない」という難しさがありますし、それによって教える側の労力・教わる側の満足感や吸収できるものがアンバランスになりかねません。

そうした状況については、点ではなく線での支援が必要になると考えました。
実際に、この制度の開始前に全体への説明をした際にも、「伴走型である」点に言及しています。

説明時に使った資料から抜粋

逆に言えば、「同じチームで日常的に関わる中で学べる・アプレンティスシップが実現できる」というメンバーについては、制度を利用する必要はないと言えます。

結局「IC的なキャリアパスを実現する」といっても「メンバーを教育すること」を求めているのでは?

やや繰り返しっぽくはなりますが、「組織に対して大きく貢献すること」を求めているという点は大前提です。
それを「技術力」や「自分のパフォーマンス」だけで実現できる、というのもあり得るかと思います。

「教育者的なミッションを負うことになる」ことは否定できませんが、これが「ピープルマネジメントとは違う」と捉えている要素としては、

  • 「キャリア」「目標達成」といった総合的な責任は負わない
  • 自分の「出来ると分かっている」領域に限定して期待に応えれば良い
  • 組織・事業貢献、文化や働き方、パフォーマンスの上げ方といった「会社のためになるように育てる」ものではない
  • 比率の問題。せいぜい、多くて2〜3人程度のメンティーを持つだけに抑えている

などの「EMとの違い」があります。

また、実際問題として「教えるよりも手を動かす方が合っている」というメンバーが現れた場合には、スキルメンター(メンター側))を矯正することはないと思います。
(実際、今回もプロジェクトetcの繁忙期と被るシニアメンバーについては、スキルメンター候補から除外しています))

「誰でも申し込めるように」するための情報のオープン化

制度の実施に向けては、以下のようなステップを踏みました

  1. CTO/EM陣への企画提案
  2. メンター候補の人たちへのヒアリング、参加意思 の確認
  3. 全体への制度の周知
  4. メンター候補の「(自己)紹介資料」の作成、展開
  5. (メンティー向け)申込みフォームの展開
  6. マッチング作業
  7. 運用開始

とりわけ、情報のオープン化という意味では紹介資料を用意したことが工夫ポイントかな?と思います。
Googleスライドでテンプレートを用意して、それに各自記入して貰う形で情報を用意しました。

  • 強みとするスキル(※能力定義表の項目)
  • 関連トピック(上記「スキル」について具体化・補足するもの)
  • 対応できそうな人数

といった項目を、テンプレート内に埋め込んでいます。

申込みフォームについては、

  • 向上させたいと考えている自身のスキル・領域や、メンターを希望する理由
  • 候補者の中から名指しをするとしたら、誰に依頼したいですか?

を聞くようにしました。

どういう風に実施・運用されるの?

1on1の方法については、各々に完全に任せています。
1ヵ月に1回少し長めに話すのもいいと思いますし、隔週などの頻度で話すのも良いかと思いますし、事前に課題を提供して毎回フィードバックをするもよし、目の前の業務で発生している事柄について相談するもよし・・・・と、フリースタイルになっています。

自分がメンターとしてついている相手でも、「課題を用意してディスカッションする時間にする」人も「直近の業務についてのふりかえり的なスタイルをベースに、自由に話す」人もいます。
他のやり方をしている人もいます。

課題の内容・性質や、お互いの関係性、そして当然ながらどういうゴールを目指すかによっても適切な形は変わってきますので、この辺りは縛りを設けないようにしました。

おわりに

いかがでしたでしょうか?
「組織全体の技術力をどう伸ばすか」については、本当に難しい問題だと思います。各社、多種多様な取り組みもしているのではないでしょうか。

そうした中でも、NEにおいては「そんなに業務でカツカツになりにくい環境」「割と人と話すのが好きな雰囲気」「出る杭は伸ばすし、全員に同じやり方を強いなくて良い」という土壌を踏まえて、今回のような制度を作ってみました。

結果がどうなるのか・・・?については、まだまだ先の話になるかと思います。
これについては、半期末の個々人の成果・成長の結果を見て判断していくことになると考えています。
もし「明確な成長を得られた」と自己・他者評価がくだり、かつ「成長の要因として、メンターやそこで教わった内容の影響が認められる」となれば、成功なのでしょう。

走りながら考えるスタイルでリリースした制度なので、個人的には(まだまだ目を光らせる必要を感じつつも)楽しみにしているところでございます。

脚注
  1. 言うまでもなく、どんなタイプのEMでも一定の技術力は必要になりますし、技術力の高いEMの存在を否定する訳では無いです。「適切な判断ができる」「周囲からの信頼を勝ち取れる」ことがマネージャーにとっては最重要だと考えているので、EMにおいては、それを支えるためのツールとして技術力があるべきだと考えています。 ↩︎

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