自分で立ち上げたチームから、自ら卒業した話
この記事はスクラムマスター Advent Calendar 2024の7日目の記事です。
はじめに
あらためましてナイバンです。
この記事では2024年をふりかえります。
2024年もいろんなことがありましたが、一言で表すと「自分で立ち上げたチームから、自ら卒業した」に尽きます。構想2年ほど、それを今年実行できました。
卒業といっても退職ではなく現職での主務異動ですが、弊社の社内異動は転職に近いとか言われているとかなんとか。それなりに気合入れてやりました。
どんなチームだったか
異動元のチームは、CDPデータ基盤のETLと内製トラッキングプロダクトの運用チームとして各プロダクトからメンバーを集めて作られた、まったくド新規のチームでした。Slackを見返すと2021年2月に立ち上げており、約4年近く携わったようです。
いちからチームビルディングに関われるチャンスもそうそうありません。チームリーダーとSMとPO(!)をやりながら、メンバーそれぞれの考えを丁寧に聞き、それらをひとつに束ねていく作業は大変時間のかかる作業でしたが、チームとして徐々にまとまっていく時間を一緒に共有できたことはとても貴重な経験でした。
チームメンバーも何人か入れ替わり、チームミッションも変わり[1]ながらも、チームとしては継続してきました。
同じチームだから次のミッションにもなんとか取り組めた感じです。メンバーもチームに協力的で、このチームが存在することに感謝してくれたりしました。大変だったり良くないこともありましたが、総じてがんばるところはちゃんと頑張るし、言いたいことも言い合える、居心地のよい愛着のあるチームでした。
どうして自ら卒業したのか
卒業を決めた理由は、前述主務チームのスキマ時間で、私は自チーム以外へのアジャイルコーチ活動(→出張スクラムマスターと呼んでいます)を行っていましたが、徐々にもう少し踏み込んでコーチ活動したいと思うようになってきたからです。
のちにコーチ業を、スキマ時間ではなく兼務として正式にやれることになりました。以前と比べてしっかりと時間を割ける状況になったものの、まとまった時間が必要な方[2]への支援はまだ難しいままでした(去年のSMアドカレ参照)。
現状が、兼務の範囲でやれることをやる、あくまで主務チームの成果をメインにコミットするべきなのですが、若干の歯がゆさがあったのもまた事実です。この時期の支援は主に支援先チームのSMやPOとの1on1、ふりかえり等スクラムイベントの見学&フィードバックという形た中心でした。線ではなく点の支援活動が中心となっていました。
ただ、当時の上司との1on1で「あなたはやりたいことが明確なので、早くコーチ業を主務にできるよう取り組むほうがいい」と背中を押してくれたのもあり、自分の狙いは卒業に向けて定まっていきました。
卒業にむけてどんなことをやったか
もちろん普通の引き継ぎ資料を作るとかはちゃんとやったうえで、他にどんなことをやったか、というお話です。順不同で書いていきます。
自分の気配を消す
卒業に向け、スクラムマスターとして特にがんばったのはチーム内で自分の気配を消すことです。
この狙いは、先行して自分の存在しないチームを体験してもらい、引き継ぎをソフトランディングさせることです。
チームのデイリースクラムでも致命傷以外は成り行きにまかせ、発言を必要最低限に絞ってチームの意思決定になるべく介在しないようにしていました。見ていて気になったことはあとでフィードバックして、直接相談されたときはすぐに答えるようにしました。
このやり方は、いわば擬似的に流行り病で1週間休みのようなものです。いなきゃいないでみんな割とどうにかするもんですよね。このチームにはこのやり方がうまくハマったように思います。
ちゃんとロールを分ける
前述の通り、私はチームリーダー兼PO兼SMという三足のわらじマンというバッドプラクティスの権化だったので、今回の引き継ぎのタイミングでPOとSMを分けたいと思っていました。そのため、後任のチームリーダーにはPOをお願いすることにし、SMは最悪私がチーム外部からSM代行として入ればいいと考えていました(これは最後の手段ですが)。
チーム発足当時はまだロールを分けるのは難しそうと、私が勝手にビビってしまいメンバーに委譲してこなかったことがずっと尾を引いていただけに、この異動は適正な形に戻すいいタイミングでした。
不安を減らす
新しいことは、やり始めるまでは不安なものです。
この引き継ぎにあたり、引き継ぎ先の不安削減を目的に以下を実施しました。
- 引き継ぎ先として早めに周囲に紹介する
- 引き継ぎドキュメントを読んだうえで、不安の残る箇所を表明してもらう
- 不安箇所を重点的に、どうなれたら安心できるか、を決めてしばらく週次1on1でフォロー
早めの紹介
POは半年前、SMも1ヶ月前には「XX月からXXロールをやってもらうことになったので、皆さんも引き継ぎとオンボーディングにご協力おねがいしますね!」とチーム内に宣言しました。これはいわば名著Fearless Changeでいう「正式な推進担当者」パターン[3]のようなものだったと思います。引き継ぎに対してのチーム全体の当事者意識が上がったように感じました。
POの不安すりあわせと伴走
引き継ぎ後のPOの不安箇所はPBIづくりにありました。
私のPBIづくりは、チームのリファインメント前に「ひとりリファインメント」の時間でやっていましたが、いきなりひとりでPBIを作らず、まずはペアワークで「ふたりリファインメント」をやってみることにしました。
ふたりリファインメントでは、ストーリーにおける価値の定義・優先順の考え方・数スプリント先の見立て方・プロジェクト計画と幅の見積もりの考え方、等を都度会話しました。このあたりはFearless Changeの「ステップバイステップ」「体験談の共有」「小さな成功」でしょうか。
あまり短時間にガッツリ引き継ぐといっぱいいっぱいになっちゃうので、実際に直面して疑問に思ったところに必要十分なだけ答えたり、考える余地を残しながら会話したりすることを心がけました。このあたりはFearless Changeの「適切な時期」「ちょうど十分」だったと思います。
また今回は、チームリーダー/POとして自律自走できる目安として見極め含めて半年[4]とりましたが、ケースバイケースだとは思います。
SM伴走は高頻度・短時間で
TL兼POの立ち上げに目処がたった頃、改めてチームからはスクラムを続けたいとのことだったので、スクラムマスターを立ててもらうようお願いしました。
SMへの支援は私の卒業後から開始したのですが、月〜木30分、課題書を1章読み質疑応答&SMあるあるを話す雑談タイムと、週1の1on1でフォローすることにしました。本を読んでいると不思議と直近あった出来事とリンクした内容に遭遇することが多く、あるある話には事欠きません。このあたりも「体験談の共有」「ちょうど十分」だったと感じています。
ちなみに、週4日の読書&雑談タイムは基礎体力獲得もそうですが、SMの日々の不安を高頻度&短時間会話することで不安や負担が軽減されるのでは、と考えてのことでした。
その後
つい先日、支援ふりかえりをやりました。そこではPOもSMも目標と現状から次の1ヶ月どうしたいか自分の考えをきちんと表明してくれたので、それなら私はこんな支援ができると思うよ、というアドバイスだけですみました。このやりとり自体が一番の収穫だったかもしれません。
いろいろな評価軸はあるかもしれませんが、チームとしては大きくベロシティを落とすこともなく、致命的なケガもせずに済んでいるので、無事にソフトランディングできた、と言えるのでは?とひとり胸をなでおろすことができました。
まとめ
この記事では、稼働中のチームで発生したPO・SMの引き継ぎをソフトランディングさせる工夫について、Fearless Changeを引き合いにしながら書いてみました。
(実際やっているときにはパターンのことまで頭に回っていませんでした)
こんな状況にはなかなか遭遇しないかもしれませんが、皆さんの何らかの参考になれば幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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