出張スクラムマスターのつまづきとアジャイルコーチング
こちらはスクラムマスター Advent Calendar 2023の8日目の記事です。
概要
出張スクラムマスターなる試みをやり始めたものの壁にぶち当たり、そこから得られた学びをもとに、アジャイル支援活動への心構えがどう変化したか、という話です。
出張スクラムマスターが壁にぶち当たるまで
出張スクラムマスターとは
私は社内で「出張スクラムマスター」なる活動を細々とやっています。
要は 自チーム以外にも自らのSM知識と経験が活かせるのでは?と思って始めた野良SM活動
です。なぜ出張スクラムマスターを始めることになったかにご興味ある方は以前作ったスライドをご笑覧くださいませ。
はじめての長期支援とぶち当たった壁
出張スクラムマスターを始めてしばらくした頃、長期的に支援させてもらえるチームからご相談いただけました。私はたいへんワクワクしました。社内で別の仲間にも協力してもらい、2名体制でチーム支援にあたることになりました。支援の方向性をめちゃくちゃざっくり意訳すると、イカしたスクラムチームになること。かっこいい。
今回、専任スクラムマスターをチームの外から支援する立て付け、つまりコーチとして振る舞うことに初挑戦しました。私の主務の時間制約から、支援メニューは毎朝15分の支援デイリーミーティングをベースとして、適宜SMからの相談ベースで回していこうとなりました。(今思えばここは日和った決断でした)
支援開始当初は双方理想に燃え、あれこれ問うたり提案したりレクチャーしたりしました。ですが狙ったような効果がなかなか得られず、支援側もSMもチーム自体も少しずつ疲れと焦りを感じるようになってきました。結果、いくつかの面で成果が得られたものの決定だとはならず9ヶ月ほどで支援終了となりました。終了決定はいくつか組織方針変更があったためと聞いていますが、個人的には何より成果が期待値に届かなかったのだろうと考えています。終了時のふりかえりではいくらかポジティブなフィードバックもいただいたものの、ここで私はしっかり目に壁にぶつかり、つまづいてしまいました。
立ち直るためにやったこと
はじめての長期支援:ふりかえり
当時もふりかえりを行いましたが、今あらためて思い出すと、当時の私のアプローチはどこか形式主義的でした。特に、コーチがSMを飛び越してチームに介入するべきではない、といった思考の制約が強かったように思います。また、支援先チームのSMがスクラム初心者であることをどこか楽観視し、成長を自主性に委ねすぎていたところもありました。このSMはSL理論でいうS1だったことをもっと理解し、もっとティーチングや伴走することを検討できたはずでした。本来、イカしたスクラムチームになることが目的であるならば、私はロールに囚われ過ぎずに、もっと当事者意識高く主体的にチームに介入することもできたはずです。これは私の中で、SMに対する遠慮と甘えがあったと考えています。
本を読む
少々しょんぼりしてしまった自分の気持ちをアゲるため、先人たちの知恵の結晶である本に救いを求めました。その中の一冊が昔読んだ本、「アジャイルコーチング」です。
この本の中、レイチェル先生の言葉に 「言葉で伝えるんじゃない、見せるのよ」
という一文があります。ここでは、カナヅチの柄で釘を打つ人がいたら、反対側を持つんだよ、とやって見せることの重要性が例示されています。私に不足していたのはまさにこれでした! 当時の私は口先介入ばかりで、やって見せることの重要性を分かっていながら気づかないフリをしていました!正直グサリと来ました。
また、物理的にチームの外にいるコーチは、特にチームに対してWe(私たち)メッセージを出す必要がありました。思えば前述の形式主義的振る舞いがWeメッセージではなくYouメッセージとして伝わっていたかもしれません。「問題vs私たち」という言葉もありますが、自分にとって不慣れな、チーム外からの支援というスタンスは、必要以上にWe感の醸成を損なっていたようでした。
そして、現在〜今後へ
見直したこと
リズ先生の言葉 自分にも優しくなりなさい
は今読んでも全俺が泣きそうになります。自分が完璧でないことを、頭では分かっていても腹の底からきちんと受け止めることが必要でした。その上で、最初からかっちり正しくやろう、ちゃんとやろう、とし過ぎないようにしました。そもそも「最初から」とか「正しく」とはこちら側の勝手な思い込みであり、支援希望者は「今、目の前にある課題の解消」を期待しています。忙しく苦しい状況のチームにとって腹落ちしにくいことに費やす時間はありません。となると、私のできることとは、もっと共感すること、観察すること、伴走すること、フィードバックすること。大きな問題を小さくほぐし、決めるための考え方を支援し、目的を持ってチームに問いかけ、時にやって見せることに注力しよう! これが私のできることだと改めて考えた次第です。
具体的に変えたのは支援の始め方です。今までは相談があったら、まずはヒアリングした後に観察から始め、その後スクラムガイドの読み合わせといった基礎知識のインプットからはじめていました。最近では、ヒアリング→観察→観察結果フィードバックののち、支援として協力できることを提案します。これがチームに刺さったら、今後の支援について具体的な相談に入る、という、まずは目の前の課題解決を優先させる、スモールスタートの形を取るように変更しました。何かがうまくいくようになったが、それは後でわかったが実はアジャイルプラクティスだった、というような形を目指しています。
リズ先生の言葉 チームと一緒に取り組む問題をひとつだけ選んで、それを全力で解決するのよ。
の通り、今目指すことはスクラムを正しくやることではなく、チームの課題がひとつでも減ることで、その結果、イカしたスクラムチームに一歩でも近づくことが目的だと考えています。
見直し後〜今後
その後いくつかの支援を経て、現在も数チームを支援中です。それぞれ全く別の事業本部に属したチームです。それぞれ持ち込んでいただいた課題は別でしたが、紐解いていくと割と似たような問題を抱えていることに気付かされました。その似たような問題とは「チームになっていない問題」もしくは「チームが目指すことへの合意できていない問題」です。とあるチームはバックログの見積もりもままならず、自転車操業的な苦しさがあるとの相談でしたが、紐解いていくと、見積もり方法が悪いのではなく、チームの最優先事項や第一顧客が誰なのか、という力の向け先不揃いから多くのことに時間を溶かされている、非エッセンシャル思考な状態でした。幸いこのチームは、いくつかのセッションを通じて自らのミッションを再確認し、取り組むべき課題を緊急x重要マトリックスで整理したことで徐々にフロー効率が改善し、プロジェクトの完了目処も立ってきた、と嬉しい報告を聞くことができました。今後は、そういったチームへのヒアリングや自律自走的に改善を模索できるナレッジ整理ができたら、と考えています。
最後に
このように、日々試行錯誤の連続であり、しばしば自らのやらかしに後悔することもありますが、出張スクラムマスターとしての自分自身への評価と介在価値をそれなりに感じつつ日々過ごせることは大変ありがたいことだな、と感じています。この私の失敗談が、皆さんの何らかの支えや励ましや反面教師に少しでもなったなら幸いです。私も引き続き頑張ります。
最後にレイチェル先生の別の言葉を。
誰かに何かを促すときは、素直にこんなふうな言い方をすればいいのよ。「ストーリーテストをいくつか書いたわ。次はあなたの番よ。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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