HCI 設計 — Mapping the Prompt (MTP) — ノードラベルに依存しない AI 対話のための論理設計
Mapping the Prompt (MTP) の設計思想を解説するシリーズ記事の第二弾です。
はじめに
デザイナーがロゴを提案する時、「なぜここが赤なのか」「なぜ白を選んだのか」を論理的に説明しなければなりません。
クライアントが「なぜこの色を選んだのか」と尋ねるのは、単なる好奇心ではなく、ビジネス上の合理性を確認するためです。
色や形は感覚だけではなく、意味や機能を持つ選択だからです。
MTP も同じです。
普遍語ノードの色や配置は「なんとなく」ではなく、HCI(Human-Computer Interaction)の視点から学術的に検証しうる根拠を持った設計思想です。
そのため MTP では、ノードラベルを覚える必要はありません。
ユーザーは色と座標の直感的な操作を通じて、一貫性のある方法で意図を表現できます。
色はなぜ論理的に選ばれるべきか
ロゴや UI デザインは感覚的なものである一方、ビジネスの世界では**「なぜこの色なのか」**を説明する責任があります。
「なんとなく良い感じだから」では承認を得られません。
赤いボタンが緊急性を、青い配色が安心感を示すのは、単なる偶然ではなく、心理学や文化的背景を踏まえた論理的選択です。
色彩心理学と文化的コード
赤は情熱・エネルギー・緊急性を喚起します。マクドナルドやコカ・コーラが赤を多用するのは、食欲を刺激し、即座の行動を促すためです。
青や緑は安心感・信頼性を連想させ、医療や金融業界で好まれます。
デジタル領域ではさらに標準化が進みました。
- 青:情報やリンク
- 緑:成功・完了
- 紫:重要・注目
- 黄:警告
- 赤:危険・エラー
GitHub、Stack Overflow、各種開発ツールがこの配色を採用し、世界中の開発者が無意識に理解できる文化的コードを形成しています。
身分別色彩階層と禁色
色は古くから社会的意味を持ってきました。
日本の宮廷文化では、身分によって着用が制限される**禁色(きんじき)という制度が存在しました。
その中でも黄櫨染(こうろぜん)**は特別で、天皇のみが着用を許された最上位の色です。
赤みを帯びた濃い橙褐色であり、最高権威を象徴する色とされました。
このように、色は単なる装飾ではなく、社会的階層や権威の象徴として厳格な意味づけをされてきた歴史があります。
MTP の色設計も、単なる「デザイナーの感覚」ではなく、意味と機能を持つ座標として設計されています。
論理設計と直感的 UX
優れたデザインは直感的な使いやすさを提供しますが、その背後には綿密な論理設計があります。
「赤いボタン=危険」や「緑=進行」は長年の文化的蓄積の上に成り立ち、ユーザーは説明を受けなくても理解できます。
これは認知負荷を減らすことで UX を向上させる典型例です。
MTP のノードラベルは「便宜上の表現」
MTP も同じ発想です。
「Start」「Open」「Flow」「Void」といった 20 の普遍語ノードを定義していますが、これを暗記することは目的ではありません。
ラベルは便宜的な識別子に過ぎず、MTP の本質は 意図を座標として扱えるようにすること にあります。
導入先のシステムや組織に合わせて、名称を変えたり、ユーザーがリネームできる柔軟性も想定しています。
言葉ではなく 空間で意図を共有する —— これが MTP の根本的なデザイン思想です。
MTP の UI では、図のような表が「感性の地図」として機能します
MTP が人間ファースト設計な理由 — 南面思想
古代中国では、皇帝は北に座し南を向いて政務を行う「南面思想」がありました。
太陽に擬えられた皇帝が、万物を照らす存在として世界を俯瞰する構造です。
この構造では中央の皇帝(ユーザー)の左側(東)から太陽が昇ることになります。
これは「座向」(ざこう)という概念で、立場によって方位認識が 180 度変わる現象です。
皇帝(ユーザー)の左手に青龍として、木、成長、生命力、春が、東から訪れる考えに基づいています。
この思想は日本の朝廷や建築にも受け継がれ、色や方位の意味づけと密接に結びつきました。
この思想は「四神相応」の配置と密接に結びついています。
MTP では、この古代の智慧を現代の AI 対話インターフェースに応用しています。
中央の「人間」(ユーザー)の位置から、四方の「特徴」(普遍的で感覚的な機能)を調和的にコントロールする試みです。
| | 朱雀 | |
| 青龍 | 人間 | 白虎 |
| | 玄武 | |
「背後に『北辰』(北極星)」
MTP A 面の 9 つ(3x3)のノードラベル
MTP の UI にも、方向と意味を結びつける伝統が取り入れられています。
「左上=始まりと明るさ(Yellow)」「下=沈静や深み(Blue)」といった空間メタファは、こうした文化的な知恵と HCI の知見を組み合わせたものです。
| Open | Power | Return |
| Grow | Helix | Focus |
| Enter | Flow | Close |
HCI の原則 — 覚えなくていい UI
人間–コンピュータ相互作用(HCI)では、ユーザーにコマンドや記号を暗記させないことが基本原則です。
- マウスやタッチ操作は「覚える」より「感じる」
- アイコンやジェスチャーは、言語化しなくても直感的に使える
MTP もこの系譜にあり、記憶コストを下げ、感覚ベースで意図を操作できる UI を目指しています。
認知科学からの裏付け
認知科学では、人間は抽象ラベルよりも 色彩や空間的な手がかりを素早く処理できるとされています。
- 「左上=黄色」「上=赤」という空間的メタファ
- 「下に行くほど沈む」「右は軽快」といった感覚的理解
- 色や位置は文化的差があっても、比較的普遍的に共有されやすい
MTP が「覚える」より「感じる」UI を志向するのは、これらの研究知見と合致します。
MTP の色彩配置は「感性座標」
MTP の UI では、以下のような表が「感性の地図」として機能します。
| Yellow | Red | Magenta |
| Green | Transparent | White |
| Cyan | Blue | Purple |
これは「暗記リスト」ではなく、配置そのものが意味を持つナビゲーションです。
左上の「Yellow」は始まりや明るさ、下段の「Blue」は深さや沈静を連想させます。
ユーザーは言葉ではなく 位置と色によって意図を座標化し、AI との対話をコントロールできるのです。
設計思想の拡張
この発想は次のように広がります。
- 忘れていい UI:ユーザーに暗記を強いない
- 感じる UI:操作を感覚に委ねる
- 普遍的な UI:文化や専門知識の差を越えて使える
MTP は専門家だけでなく、一般ユーザーでも直感的に使える開かれた対話インターフェースを志向しています。
研究への接続
この設計思想は学術的に検証可能です。
- 操作効率:ラベル暗記型 vs 空間座標型を比較
- 主観的負荷:NASA-TLX や UEQ-S で評価
- 文化的再現性:異なる文化圏でも同じ直感が通用するかを調査
こうした研究により、MTP の「感性座標」は単なる概念ではなく、科学的に裏付けられた UI パラダイムへ進化します。
まとめ
「ノードラベルを覚える必要はない」という思想は、HCI と認知科学、そして文化的な歴史背景に基づいた合理的な設計原則です。
MTP は、記憶ではなく感覚を媒介にすることで、AI との対話に新しいレイヤーを加えます。
それは、直感的で普遍的な UX を実現し、AI とのコミュニケーションをより人間らしくするための重要な一歩です。
Discussion
この記事の英語版は Medium (Bootcamp) で公開しています。