🦐

AI 時代 — デザイナーの私が何故 Zenn に記事を投稿するのか

に公開1

本記事を含め全ての記事は iOS Safari の読み上げ機能 で聞きやすいように最適化しています。


はじめに — 問いから始める

生成 AI の進化によって、UI やビジュアルを即座に生成することが当たり前になりつつあります。たとえば「Nano Banana」のようなサービスは、デザイナーが長年担ってきた「初期案をつくる」役割を一瞬で肩代わりします。

こうした環境の変化のなかで、デザイナーとエンジニアの境界は急速に曖昧になり、役割そのものが再定義されつつあります。

その状況で、なぜ「Zenn」という場に記事を投稿するのか。
なぜ「デザイナー」が AI や学術的研究を語るのか。
この記事は、その問いに応える試みです。


デザイナーとして — 背景と環境の変化

これまで 20 年以上、DTP、ブランディング、ウェブ開発といった領域でデザインに携わってきました。デザインは常に「環境」とともに変化します。印刷からウェブ、そしてモバイルアプリケーションへと移るなかで、新しい道具を使い、新しい表現方法を模索してきました。

そして現在、最も大きな環境変化は AI です。
AI が「人間の思考と出会う場所」をつくり出しつつある今、デザイナーは単に「見た目を整える人」ではなく、「人と AI の関わりを設計する人」として役割を広げる必要があります。


アプローチ — 言語と文化を AI に橋渡しする

一般的な研究アプローチは、大規模言語モデル(LLM)を観察対象とし、言語学的理論の妥当性を検証することです。
語順の普遍性を確認したり、統語構造をモデルがどこまで再現できるかを調べたりする研究がその典型です。安全で正統であり、学術的にも評価されやすい道筋といえます。

一方で、ここでのアプローチは少し異なります。
「人間の言語や文化の知見を、AI 設計そのものに応用する」ことを重視しています。たとえば:

  • 日本語特有の「の」連鎖や敬語体系がもたらす曖昧さ
    例:「会社の企画の明日の資料の作成」といった「の」連鎖が、AI に意図しない解釈を生む

  • 暗黙的な文脈共有を前提とする文化での補完の難しさ
    例:確率的に前後で「威勢(専門家調)→ 謝罪(僕・ジェンダー問題)」といった切り替えが生じ、内容や印象に影響

  • プロンプトを単なる入力文ではなく UI として構造化する視点
    例:「Mapping the Prompt (MTP)」を提案。色彩や哲学的配置を活用し、複雑なプロンプトを直感的に整理するフレームワーク

こうした視点から「Mapping the Prompt (MTP)」を研究テーマとして位置づけています。
これは、プロンプトをただのテキストではなく、人間と AI をつなぐインターフェースとして設計し直す試みです。


主要テーマ — AI 時代のデザインとインターフェース

扱うテーマの中心には次の領域があります。

  1. 言語のギャップ
    英語中心の AI 開発と、日本語をはじめとする多言語環境との間には大きな差があります。この差を埋める設計指針が求められています。

  2. プロンプトの構造化
    プロンプトをただの文章ではなく、UI の一部と見なすことで、ユーザーの思考を整理し、AI の応答の一貫性を高めることができます。MTP はその具体例です。

  3. 東西思想の統合
    西洋の分析的枠組みと、東洋の関係性重視の思想。両者を行き来しながら、AI との協働をより人間的なものにする方法を探っています。


方法 — どのように語るか

文章の特徴を振り返ると、いくつかのパターンが見えてきます。

  • 階層的開示
    観察できる現象から始め、技術的な分析へ進み、さらに文化的・哲学的背景へと広げ、最後に実践的な解決策を提示します。段階的に理解を深めやすい構造です。

  • 足場技法
    比喩や具体例を使って難しい概念を橋渡しします。二重スリット実験を例にプロンプトの効果を説明したり、建築のメタファーで構造化の重要性を示したりします。

  • 学術性と実用性のバランス
    認知科学やデザイン理論を参照しつつ、実際の UI 実装やプロンプト操作に結びつけています。学術と産業界の両方に開かれた形を意識しています。


なぜ論文にするのか

記事や OSS として公開するだけでは「面白いアイデア」に留まってしまう可能性があります。しかし、論文という形式を通じて体系化すれば、知識資産として残り、国際的な学術コミュニティや産業界から参照される基盤となります。

特に MTP が扱う「文化的文脈」「多言語対応」「UI 設計」は、今後の AI 研究において欠かせない課題です。論文として提出することは、産業界の研究者に対しても「実際のユーザー課題に直結するアプローチ」として納得を得やすくする手段と考えています。


今後の方向性と協働への招待

これから進めたい活動は次の通りです。

  • MTP の論文化:学術的な場で提示し、再現性を検証する
  • 日本語プロンプト課題の定量的検証:曖昧さが応答に与える影響を明らかにする
  • 学際的なフレームワークの発展:HCI、認知科学、デザインを横断する新しい知見を積み重ねる

ただし、これは一人では実現できません。前に立って登壇するような役割を望んでいるわけではなく、一貫性を保つ舵取りにとどまります。
だからこそ、共同研究者や共著者を募集しています。
協働のなかでこそ、知識はより普遍的なものへと育っていくと考えています。


おわりに

AI 時代、デザイナーの私が何故 Zenn に記事を投稿するのか?
その答えは、AI という環境変化に対応しながら、人間と技術の新しい関係性を設計することにあります。

記事を通してアイデアを共有し、議論を呼び、協働の場を広げようと試みています。

Zenn はそのための適切な場所かもしれません。
AI 時代のデザインの可能性を、少しずつ形にしていければと思います。

Discussion