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シリコンバレーのソフトウェアエンジニアは何が違うのか(5)

2025/01/26に公開

前回の投稿では「ソフトウェアエンジニアに必要な能力」ということについて投稿をしました。
今回は「チームビルディングの違い」と「プログラムマネージャーの違い」について触れていきたいと思います。

1.組織構造と意思決定の仕組み

日本も20年前に比べれば、随分と外国籍の人が職場に増えてきました。しかし世界的に見るとまだまだ少ないです。アメリカは国の成り立ちの歴史から見ても「移民の国」です。特にシリコンバレーには世界中から優秀な人達が集まります。
そうすると、チームや企業の組織構造も自然と変わってきます。

まず違うのは、日本は「ヒエラルキー(階層構造)」で、シリコンバレー企業は「フラットな構造」 という点です。
日本の場合、一般的に年功序列や職位による権限がはっきりしていて、何かを行おうとしても上長の許可を取らないとプロジェクトが進まない、ということがあります。
これは責任者がはっきりとして、組織全体としての合意を取りながら進むことができる、という良い面もありますが「スピード感が落ちる」「率直な意見が出にくい」などの弊害もあります。

シリコンバレー企業の場合、役職や上下関係よりも、個々の専門性やアイディアを尊重する文化があります。意思決定もフラットなチーム構成で行われます。新入社員と経営層が同じミーティングに参加して、新入社員が経営層に対して意見を出せることが一般的です。そして何よりも重視されるのが「スピード感」です。製品やサービスのリリースサイクルが早いので、必要ならすぐにチームを編成し、問題解決や新企画を進めるケースが多いです。

項目 日本 シリコンバレー
構造 階層構造(年功序列, 職位) フラット(年齢は影響しない)
意思決定の方法 上位の確認が必要・チーム全体の合意を重視 オーナーシップ制
意見の出しやすさ 上位の者を気にして発言しづらい環境になりやすい 新人でも意見を出しやすい
スピード感 時間がかかる 早く決まる

2.コミュニケーションとカルチャー

シリコンバレー企業の場合、基本的には「多民族の集団」です。もちろんアメリカ国内なので、やはりアメリカ人が多いわけですが、大規模になってくると海外からの人材も多く採用されて、多民族集団になってきます。出身国が分かれると文化や考え方も変わってきます。 シリコンバレー企業の強みは、この多様性です
民族の多様性を重視し、言語や習慣の差を理解してミーティングやドキュメントを英語ベースに統一するなど、全員が働きやすい環境を作る試みが盛んです。結果として多角的なアイディアが生まれやすく、イノベーションにつながっていきやすいです。
言葉や習慣、文化などが異なる人達をまとめるにはどうしたら良いでしょうか。

そこには「フラットな組織」であるということ、そして「ゴールを共有する」という2つの要素が重要になります。

フラットな組織

まずフラットな組織であるということについてです。
多民族集団であるからこそ、フラットな組織構造であることが重要です。上述した通り、考え方や文化そのものが違うので異なる意見が最初から存在します。お互いにベースとして持っている意見が違うことを認識したうえで発言をすることができるからこそ、イノベーションにつながります。これが特定の人種や特定の職位の人物だけが発言をしやすい環境だと、それ以外の人達が発言をする機会が減ってしまい、結果的に仕事を辞めていくことになります。これは企業にとってはマイナス要因でしかありません。それを防ぐために「心理的安全性(Psychological Safety)」が尊重されます。

ミッション、ビジョン、バリューの共有

そしてもう一つ重要なのが「ミッション・ビジョン・バリューを共有する」ことです。
人がやる気・パフォーマンスを最も発揮できるのは、「ゴールに向かっている過程を楽しめているとき」です。

例えばあなたがサッカーチームのメンバーなら、試合に勝つためが明確なゴールです。このゴールに向かって全員が力を合わせ、その過程を楽しむことで自然とモチベーションが高まります。

  • ミッション(使命)
    チームが「存在する理由」や「果たすべき役割」です。サッカーならば「地元の人に喜びを届けたい」「選手の能力を最大限に伸ばす環境を提供したい」などです。
  • ビジョン(将来像)
    「ミッションを果たすことで得られるもの」「将来どのような状態を実現したいのか」という理想像。サッカーなら「トーナメントを勝ち上がり、優勝する」、さらには「優勝を通じてファンを熱狂させ、サッカー界を盛り上げる」といった未来の姿です。
  • バリュー(行動指針/価値観)
    ミッションとビジョンを実現するために、個々のメンバーが「どのような価値観や行動指針をもって取り組むのか」ということです。サッカーなら「仲間をリスペクトし、声を掛け合う」「フェアプレーを徹底する」など、プレーやコミュニケーションのスタンスを示すものです。

シリコンバレー企業においても、企業の存在意義やビジョン(目指す世界観)、行動規範などを強く打ち出し、それに共感した人材を集めるという形が一般的です。従業員もミッション、ビジョン、バリューを理解し、自分の仕事と企業の目的の方向性を常に意識することで、チームが一丸となりやすくなります。

  • ミッション:企業が「何のために存在するのか」を明文化し、社内外に示す
  • ビジョン:そのミッションを果たした先に「どのような世界を作りたいのか」を描く
  • バリュー:日々の仕事の中で「どのように考え、行動するのか」を共有する

この3つを全員で理解し、自分の業務が企業のゴールや価値観にどうつながっているかを常に意識することで、チームワークが生まれ、成果にもつながりやすくなります。

例えばGoogleの場合

  • ミッション
    Googleの使命は、世界の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。
  • ビジョン
    明確な「ビジョン」という形では公表されていませんが、過去の発表や文化などから「人々が世界中の情報に瞬時にアクセスでき、役立てられる未来をつくること」がビジョンとして捉えられます。
  • バリュー
    Googleでは「Ten things we know to be true(Googleが信じる10の事実)」というガイドラインが長らく有名です。公式の企業行動指針としては必ずしも「Values」の呼称を使ってはいませんが、事実上これが価値観を示しています。

Google公式「About Google」より

3.チームビルディング

チームビルディングの方法も日本とシリコンバレー企業では大きくことなります。

定期的なオフサイト

シリコンバレー企業の場合では、定期的にチーム全員が社外(自然公園や研修施設など)に出かけ、ゲームやブレインストーミングなどを通じて交流を深めます。社外に出かけなくても、会社内にビリヤード台やダーツなどを設置して交流を深める機会を設けています。単に遊んでいるだけではなく、チームの目標の再確認や今後のアイディア出しなども同時に行います。

小規模チーム+成果での評価

シリコンバレー企業の場合、スクラムやアジャイル開発など小さなチームに分かれて、短いスプリントで目標を設定→成果を検証→次のスプリント、という流れで仕事を進めます。成果やデータをもとにチームの状態や課題を振り返ることで、チームの結束力を高めます。
そしてもう一つ重要なのが「ローンチは盛大に祝うこと」です。開発したプロジェクトの製品を初めて世の中に出すときに「製品をローンチする」「サービスをローンチする」といいます。このときには開発メンバーの苦労を労うためにパーティーを行います。お互いを称え合い、絆を深めることでチームの結束力をさらに高めます。

ピアフィードバックの文化

チームメンバー同士が定期的にフィードバックを交換します。日頃の仕事ぶりを称えたり、改善点を建設的に指摘し合ったりする文化が根づいています。周囲から感謝されれば誰でも気分が良くなりますし、また他の人を褒めればチーム内の雰囲気も良くなります。みなさんも気分良く働きたいですよね。

4.マネージャーの役割の違い

最後はプログラムマネージャーの違いについて少し触れましょう。名称は同じですが、企業文化や組織構造、ソフトウェア開発の進め方などの違いによって求められる範囲や責任が変わるケースが多いです。

日本におけるPM(プログラムマネージャー)

日本でのプログラムマネージャーは、複数のプロジェクトの進行管理・調整を担う役割が多いです。会社や組織として立てた計画を以下にスムーズに進めるか、各プロジェクトをつなぎ合わせて大きなプロジェクト群(プログラム)を完成させるか、ということに重点が置かれています。そこまでの規模ではなく、プロジェクトの進行管理役として Project Managerの略でPMとも呼ばれます。どちらにしても、スケジュール管理や、ステークホルダーとの合意形成・稟議などが多いです。

また権限や裁量が比較的「限定的」なのも特徴的です。経営や企画部門からの指示や方針などが明確に降りてくることが多く、その意思決定を受けてプログラムマネージャーがどうプロジェクトを進行させるか、ということに焦点が置かれています。

シリコンバレー企業におけるPgM(プログラムマネージャー)

シリコンバレー企業におけるPgMは、経営戦略を踏まえてビジネスゴールを達成するためのプログラム全体を設計・管理します。企業によっては事業戦略やロードマップの策定にも深く関与をします。

そしてここが一番大きく違う点ですが、シリコンバレー企業のPgMは「意思決定における裁量・オーナーシップが大きい」 ということです。PgM自体がプロジェクトとのプライオリティを決めたり、スケジュールや予算を含めた大きな意思決定に携わる裁量を与えられることが多いです。

この違いはどこから来るのか、それは「早く開発する」という、この一言にたどり着きます。
早く開発をすることの重要性については2回目の投稿「ビジネス面から見て、なぜ高速に開発をする必要があるのか」で既に触れていますね。

早く開発をする分、失敗をするかもしれませんが、小さく失敗をする分には小さく軌道修正やバグを修正すればよいです。でも大きく失敗をすると、直すのは大変かもしれませんし、そもそも直せないかもしれないのです。
なので、とにかく早く開発をする。そのためには意思決定や予算の使い道などについて、できるだけ無駄を省く、ということを追求した結果として、シリコンバレー企業のPgMには大きな裁量権が与えられています。

プログラムマネージャーについては、元GoogleのPgMを長年されてきた石原直樹氏が後日ブログを投稿してくれると思いますので、詳細はそちらに譲りたいと思います。

Greek Alphabet Software Academyでは何を教えているのか

今回は「チームビルディングの違い」と「プログラムマネージャーの違い」について紹介をしました。

  • 多様性を担保することでイノベーションを生まれやすくする
  • 早く開発をして早く製品をリリースする

この2つがシリコンバレー企業の大きな特徴です。Greek Alphabet Software Academyでは、主に元Googleエンジニア達を講師陣に、シリコンバレー流のプロダクト開発というのを中心に教えています。

Greek Alphabet Software Academyのミッション・ビジョン・バリュー

  • ミッション
    シリコンバレー流のプロダクト開発を日本のソフトウェアエンジニアに教えることで、エンジニア達に「開発は楽しい」ということを教える。
  • ビジョン
    神戸・関西エリアを中心に、東京に負けないくらいのソフトウェアエンジニア達を育てる。神戸・関西エリアにソフトウェアエンジニアが集まるようにしていく。
  • バリュー
    シリコンバレー流の開発を教えていく。ローカライズはしない。
    日本の企業では確かにシリコンバレー流の開発を直接取り込むのは難しいかもしれません。仕様書の書き方1つでも全く違います。でも我々はそれを日本とシリコンバレーの中間みたいな中途半端な証書の書き方は教えません。あくまでもシリコンバレー流として教えていきます。

この記事を読んで興味を持っていただいた方は、ぜひご連絡ください。

Greek Alphabet Software Academy

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