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[Snowflake Summit2025 参加記]小売業界におけるデータ・AI活用に関するセッション参加レポート

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はじめに

2025年のSnowflake Summitで開催されたセッション「The Future of Retail and Consumer Goods」に参加しました。このセッションでは、小売・消費財業界が直面する変革期において、データとAIを活用した実例が紹介されました。

本セッションは、Snowflakeの小売・消費財担当グローバルヘッドであるRosemary DeAragonさんが進行を務め、各セクションで業界のリーディングカンパニーのエキスパートがゲストスピーカーとして登場する構成で進行されました。

登壇者

  • Rosemary DeAragon (Global Head of Retail & Consumer, Snowflake)
  • Jim Warner (Global Field CTO of Retail, Snowflake)
  • Mahadev Konar (VP Engineering, Instacart)
  • Ray Bajaj (Global Chief Data & Technology Officer, Kimberly-Clark)
  • Sagar Balan(SVP and Chief Business Officer, Tredence)

セッション内容

1. 業界が直面する様々な危機

セッションのはじめに、小売業界が前例のない変革期にあることが議論されました。

業界では根本的な変化が起きているとのことです。57%のZ世代がインフルエンサーの推奨で商品購入を決定するなど、従来の伝統的メディアとは全く異なる購買行動が主流となってきているようです。一方で深刻な課題も山積しており、2025年にはサプライチェーンコストが1兆ドルに到達予定で、多くのサプライヤーが戦争地域に存在するリスクに直面していると語られました。

セッションでは、エルメスの歴史的変革事例が紹介されました。馬具製造業だったエルメスは自動車の発明で事業危機に直面しましたが、馬具製造の技術を活用して現在の高級ブランドへと変革を遂げました。この「イノベーションか死か」という選択は、AIがすべての職業と市場を破壊する現代においても同様に重要であると述べられました。

2. Snowflake Intelligence実践デモ

今回のSnowflake Summit 2025 Platform Keynoteで発表されたSnowflake Intelligence(Private Preview)が小売業界でどのように利用ができるかのデモが行われました。

Snoaflake Intelligence は、

  • データとLLMの安全な接続
  • 自社のデータを使ったより発展的な分析
  • Agentic AIをノーコードによる構築

の3つを実現する統合プラットフォームです

画像の説明

※ Snowflake Intelligenceに関しての詳細は以下をご覧ください
https://zenn.dev/finatext/articles/session-report-snowflake-summit-wn214b
https://zenn.dev/finatext/articles/db766782b40e2c

デモ概要

シナリオ: CPG企業「Lather and Leaf」のプロダクトマネージャーとして、夏向け新商品2種類(Beachwood BreezeとLemon Verbena Grove)の販売初週を分析

※ 以下は実際に行われたデモに基づいて作成していますが、翻訳・編集の都合により簡略化されているイメージになります。ご了承ください。

ユースケース1: 売上パフォーマンス分析

👤 質問: 「新しい2つの香りの売上はどうですか?」

🤖 Snowflake Intelligenceの処理:

  • POSデータ(実店舗)とEコマースデータを結合
  • 過去の商品初週データと統計的な比較
  • z-scoreによる有意性検定を実施

📊 回答結果:

Beachwood Breeze: 平均をわずかに上回る(+z-score、統計的有意性なし)
Lemon Verbena Grove: 平均をわずかに下回る(統計的有意性なし)

結論: 両商品とも通常範囲内のパフォーマンス。初週段階のため要継続観察。

ユースケース2: ソーシャルメディアセンチメント分析

👤 質問: 「2つの新しい香りは、オンラインで好意的な話題を集めていますか?」

🤖 Snowflake Intelligenceの処理:

  • 収集済みのEコマースレビュー、Facebook、Instagramコメントと商品データを結合
  • トピック分類とセンチメントスコアリングを実行
  • 過去商品の初週センチメントと比較分析

📊 回答結果:

Beachwood Breeze: 🔥 極めて好意的
- センチメントスコア: 高評価
- 主要フィードバック: "豪華な泡立ち" "魅力的な香り"
- 統計的に有意な好評価

Lemon Verbena Grove: 😐 混合的評価
- センチメントスコア: 平均的
- 特別な特徴なし

ユースケース3: 在庫予測と需要分析

👤 質問: 「Beachwood Breezeが過去のトップパフォーマンス商品のように売れた場合、12週間分の在庫は十分ですか?」

🤖 Snowflake Intelligenceの処理:

  • 歴史的トップセラー商品の売上パターンを分析
  • 現在の在庫データと配送センター別在庫を確認
  • 需要予測モデルを実行して12週間予測を算出

📊 回答結果:

現在在庫: 14,000ユニット
予測需要(12週間): 12,000ユニット

結論: ギリギリ充足可能
⚠️ 推奨: 配送センターネットワークの詳細確認が必要

ユースケース4: サプライチェーン最適化

👤 質問: 「安全のために16,000ユニットまで対応したい場合、余剰在庫を移転できる配送センターはありますか?」

🤖 Snowflake Intelligenceの処理:

  • 全配送センターの在庫状況を横断分析
  • 各センターの需要予測と余剰容量を計算
  • 最適な在庫移転戦略を立案

📊 回答結果:

移転推奨: 北東配送センター
- 利用可能ユニット: 最多
- 自社需要充足: ✅ 可能
- 他センター移転: ✅ 余裕あり

移転量: 2,000ユニット推奨

3. Instacart事例:170億アイテムを活用した大規模パーソナライゼーション

Instacart社のデータ基盤は、約170億点に及ぶ米国最大級の商品データを保有し、提携する小売各社の店舗在庫をリアルタイムで取り込み、データを統合しているそうです。講演では、このデータとAIを組み合わせて食料品ECの顧客体験と業務効率を向上させる取り組みが紹介されました。

パーソナライゼーション

Konar氏は「パーソナライゼーションは単なるレコメンド機能ではない」と述べ、Instacartのパーソナライゼーションに関して、ユーザーの静的な嗜好と、セッション中に観測される動的な行動の双方を活用しているとのことでした。

嗜好ベースの表示 — グルテンフリーや低脂肪などのユーザー設定を反映し、商品一覧を自動カスタマイズ。

リアルタイム意図推論 — セッション中に追加されたアイテムを解析して意図を推測し、「低炭水化物向けの商品をお探しですか?」など即時に提案を行う。

たとえば、ユーザーがチキンや肉をカートに追加しただけでは食事制限を判断できないものの、ヨーグルトを追加した瞬間に「ケトダイエット中である可能性が高い」と推定できるといいます。するとシステムは「低炭水化物ダイエット向けの商品をお探しですか?」といった的確な提案を提示しています。

データ民主化の実現

Q&Aセッションで「データアナリストを介さない意思決定」について質問が寄せられ、Konar氏は次のように回答しました。同社では"data packs"と呼ばれるメタデータテーブルをベースとした自然言語Q&Aシステムを構築しており、営業担当が「今週の売上はどうだった?」と尋ねるだけで自動的にレポート生成と可視化が行われます。

この仕組みにより数百名のデータアナリストは戦略的業務に集中でき、全社の意思決定スピードが飛躍的に向上したと報告されてました。

4. Kimberly‑Clark事例:グローバルデータ変革の軌跡

Kimberly‑ClarkのグローバルCDO、Ray Bajaj氏は、創業150年・176市場で事業を展開する同社がどのようにデータドリブン企業へ転換したかを語りました。世界人口の4人に1人が同社製品を使用し、競合8カテゴリのうち5カテゴリを自ら創出した"業界のパイオニア"です。

データソース統合とレポート最適化

かつて同社には500ものデータレイク(実態はサイロ化したデータリンク)が乱立し、レポートはピーク時3万件・実際に運用されていた定常レポートでも1.3万件にのぼっていたそうです。その結果、月次レポート作成に数週間を要し、部門ごとの定義不一致も深刻でした。

現在はSnowflakeを中核とする単一のエンタープライズデータレイクに統合し、レポート数は2,000件まで削減。経営層はワンクリックで最新KPIを確認できるようになり、データ準備に費やしていた時間を意思決定に割けるようになったとのことです。

自然言語Q&Aと生産性向上

同社は10万テーブルを対象とした自然言語Q&Aシステムを構築し、役員は「過去5年間の市場シェア推移は?」と質問するだけで、即座にグラフ付きの解説レポートを取得可能になっています。Bajaj氏は「最初は懐疑的だった役員も、実際に使うと『魔法だ』と驚いた」と述べています。

また、関税変更などの地政学リスクに対しては、ニュースが流れた瞬間に最適な製造・調達拠点を再計算。20〜30%の生産性向上100以上の機械学習プロダクトを実稼働させ、R&Dから生産・販売までデータ駆動の業務プロセスを実現しているそうです。

Brando:16,000人が使う製品コスト分析ツール

地域や工場によってばらつく"製品コスト"の算出を標準化すべく、同社はSnowflake上に内製アプリBrandoを開発。16,000名のユーザーがワンクリックで製品コストを国・工場・素材レベルまでドリルダウンできるため、Excelで数か月かかっていたベンチマークがリアルタイムで完了できるそうです。

業界特化AIエージェントの鍵

パートナー企業TredenceのCBO、Sagar Balan氏は「汎用AIエージェントではなく、業界特化LLMと知識グラフ+セマンティックレイヤーが不可欠」と強調しました。CPGではリードタイムだけでも5〜25の定義があるため、文脈を理解する専門モデルが実務適用のカギになると述べています。

Bajaj氏のメッセージ

  • 基盤データプラットフォームへの投資を惜しまないこと。
  • AI施策は必ずP&Lと結び付け、価値を測定すること。
  • 企業文化にAIを組み込み、データを「企業資産」として扱うこと。

まとめ

本セッションでは、小売・消費財サプライチェーンにおけるデータと AI 活用の実例が紹介されました。企業の事例からは、サイロを解消して定義を統一するデータ基盤の整備、現場が自然言語で即時に分析できるセルフサービス環境、そして顧客体験や業務効率を高めるAIの組み込みが、ビジネス価値を引き出す鍵であることが示されています。
特に印象的だったのは、Kimberly‑Clark が 500 ものデータソース を統合した取り組みです。こうした徹底したデータ基盤整理とガバナンスがあってこそ、LLM や AI を活用した高度な分析が組織全体に浸透し、迅速な意思決定につながることが改めて確認できました。

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