【連載第3回】VRを「みんなの遊び」に変える!入力と出力のフィジカル・コンピューティング設計
1. はじめに:体験設計を支えるフィジカル・コンピューティング
こんにちは!DMC VR部隊です。
これまでの連載では、『VRだるま落とし』が目指した 「共鳴体験」 というコンセプトと、その具体的な 遊び方 を紹介してきました。
今回は連載第3回として、私たちの作品の心臓部である 「フィジカル・コンピューティング」 について、具体的な技術や設計思想を解説します。これは、私たちが目指す「異なる視点から同じ体験を共有し、一体となって盛り上がる」という体験設計を実現するための、重要な要素の一つです。
2. フィジカル・コンピューティングとは? 3つの役割
難しそうな言葉ですが、一言でいうと 「現実世界の物理的な『モノ』とデジタル情報を連携させ、新しい体験を創り出す技術」 のことです。 私たちの作品では、フィジカル・コンピューティングの役割は、大きく分けて次の3つです。
- 入力(Input): プレイヤーの現実世界でのアクションを、VR空間に反映させる。
- 出力(Output): VR空間での出来事を、五感への刺激としてプレイヤーにフィードバックする。
- 運用(Operation): 展示運用者がスムーズにゲームを管理・操作する。

VRだるま落としを支えるフィジカル・コンピューティング技術の全体像
この「入力」と「出力」を組み合わせることで、現実と仮想の境界を曖昧にし、より深く、直感的な体験を創り出しています。
3. 【入力編】現実のアクションをVR世界へ
プレイヤーの動きをVR空間に伝えるための「入力」には、大きく2つのアプローチを採用しています。
① トラッカー利用:現実のモノの動きをそのまま反映
VIVE Trackerのような3次元座標を把握できるデバイスを現実のモノに取り付けることで、その動きを直接VR空間に反映させます。自分でハードウェアを作らなくていいので楽でいいですね。ただし、位置しかセンシング出来ないことと、値段が高いことはネックですね。
- ハンマー型コントローラ: ピコピコハンマーにトラッカーを装着。ハンマーを振る動きが、そのままVR空間の巨大ハンマーの動きと連動します。
- フラフープ型コントローラ: フラフープにトラッカーを装着。左右に動かすと、VR空間の浮き輪が同じように動きます。
この方法の利点は、「現実のモノの使い方が、そのまま操作方法になる」 ことです。説明不要で、誰でも直感的に参加できるのが強みです。
② オンボードマイコン利用:物理現象をデジタル信号に変換
Arduinoのような安価なマイコンボードを使い、現実世界の物理的な変化をセンサーで読み取り、デジタル信号としてPCに送ります。工夫次第であらゆる物理現象を入力にできることが利点ですね。その代わり、回路の知識とUnity⇔基盤間の通信方法を理解/実装する知識が必要になります。(時間があったらまた解説しますね)
- 風力測定式コントローラ: うちわで扇ぐと、その風でプロペラが回転します。エンコーダというセンサーが回転数を測定し、その値をマイコン経由でPCに送信。VR空間のだるまちゃんが風の強さに応じて飛んでいきます。
この方法を使えば、トラッカーだけでは難しい、より多様なインタラクションを実現できます。前作のVR黒ひげ危機一発では、ナイフが樽に刺さっているかどうかをボタンを使ってセンシングしていました。
4. 【出力編】VR世界の出来事を身体で感じる
VRの映像だけでなく、身体で「感じる」フィードバックを返すことで、没入感は飛躍的に高まります。ワイワイ楽しむVRではありますが、VR体験がチープではやっぱりガッカリしてしまいますからね。あと、VR体験者のリアクションが大きくなるので、サポート役や観衆の盛り上がりも全然違います!
私たちの装置では、フィードバックを大きく2種類に分けて設計しています。
① プレイヤーの操作と一体化した物理フィードバック
プレイヤーの操作が、そのままダイレクトな物理フィードバックになる設計です。これにより、プレイヤーは自身の行動が世界に影響を与えていることを直感的に理解できます。
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ハンマーによる打撃音: サポートプレイヤーが椅子をピコピコハンマーで叩くと、その 「バンッ」という物理的な打撃音 がダイレクトに聞こえます。これは最もシンプルで直感的なフィードバックです。
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うちわによる風: サポートプレイヤーがうちわで扇ぐと、その 本物の風 がVRゴーグルを付けたメインプレイヤーに届きます。VR空間の状況と現実の感覚が一致し、体験のリアリティが向上します。
② ゲームイベントと連動した演出フィードバック
こちらは、ゲーム内の特定のイベントに同期して、装置側が能動的に刺激を提示するものです。体験をより迫力のある演出にする役割を担います。当然ですがタイミングがとても重要です。
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音響による振動増幅: ハンマーの打撃に合わせて、椅子に設置した 振動スピーカー から衝撃音を再生します。これにより、①の物理的な打撃音が何倍にも増幅され、ピコピコハンマーとは思えない迫力のある「手応え」を生み出します。(あとは水に潜っているときに低周波を出して水に入った感が出ます。これは・・・体験しないと伝わらないですけど結構すごいですよ。)
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マイコン制御の風と落下: 落下シーンで扇風機から風を送ったり、ガスシリンダー式の装置でプレイヤーが座る椅子を物理的に落下させたりします。これらはArduinoのようなマイコンで制御され、視覚情報と身体感覚を強烈に結びつけ、VR酔いの軽減にも貢献します。特にこの落下時の下方向への並進運動はとても重要です。加速感を感じる耳石をダイレクトに矛盾なく刺激するため、自然に感じるだけでなく、落下時の迫真性が増し、VR酔いを低減する効果があります。
5. 【運用編】スマートなイベント運営を支える縁の下の力持ち
忘れてはならないのが、3つ目の役割である「運用」のための入力です。Maker Faireのようなイベントでは、次から次へと体験者が訪れます。その中で、ゲームの状態を素早くリセットしたり、不測の事態に対応したりする必要があります。
もちろん、これらの操作はキーボードのショートカットでも実現できます。しかし、私たちはArduinoに接続した物理的な「リセットボタン」を別途用意しました。
これにより、PCから離れた場所でも操作でき、ボタンの形状や配置を工夫することで、手元を見なくても確実に操作できるというメリットが生まれます。例えば、ゲームが終了したら大きなボタンを押して即座に初期状態に戻したり、VR内でプレイヤーが方向を見失った際に、視界を強制的に正面に戻すイベントを発生させたりといった具合です。
こうした小さな工夫が、イベント全体の運営を格段にスマートにし、体験の待ち時間を短縮することにも繋がるのです。
6. まとめ:アイデアと工夫でVRはもっと面白くなる
このように『VRだるま落とし』では、高価な機材だけでなく、ピコピコハンマーや事務椅子、扇風機といった身の回りにあるモノと、Arduinoのような安価な電子工作を組み合わせることで、ユニークな体験を創り出しています。
フィジカル・コンピューティングは、アイデア次第で無限の可能性を秘めています。
次回は、「VR酔いをゼロにするための具体的なUX/UIテクニック」 について、さらに深掘りしていきます。
この記事を読んで「面白そう!」「自分も作ってみたい!」と感じていただけたら幸いです。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今後の連載では、さらに深い内容をお届けするため、毎週日曜日に1本のペースで更新していく予定です。
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