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【連載第4回】VR酔いゼロへの挑戦!180人全員が笑顔の秘密とは?

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1. はじめに:VR酔いが台無しにする「みんなの楽しさ」

こんにちは!DMC VR部隊です。

これまでの連載では、『VRだるま落とし』における 「共鳴体験」 のコンセプト、3つのステージの遊び方、そしてフィジカル・コンピューティングの技術について紹介してきました。

今回は連載第4回として、「みんなでワイワイ楽しむVR体験」を実現する上で、絶対に避けて通れない課題 である 「VR酔い」 を限り無くゼロにするためのUI/UX設計の秘訣をお届けします。(あくまで限りなくゼロを目指すのであって完全にゼロではないです・・・。そもそも3D酔いするのは避けられないんですよね・・・。)

VR酔いは、すべてを台無しにする

どれだけ面白いコンテンツでも、VR酔いが発生してしまえば楽しむどころではなくなってしまいます。特に、私たちが目指す「みんなでワイワイ楽しむ」体験においては、一人でも気分が悪くなる人がいれば周囲の盛り上がりまで台無しになってしまいます。

MFT2025での実績:小学生から70代まで、全員が笑顔で体験終了!

Maker Faire Tokyo 2025で、私たちは 約60組(合計180人程度) の方に『VRだるま落とし』を体験していただきました。体験者の年齢層は、小学生から70代まで実に幅広く、VR初心者の方も多数いらっしゃいました。

そして驚くべきことに、気持ち悪さを訴えたり、顔をしかめたりした方は一人もいませんでした。 全員が笑顔で体験を終え、「楽しかった!」「また遊びたい!」と言ってくださいました。

この「VR酔いゼロ」の実績は、偶然ではありません。VR酔いのメカニズムを理解し、前作 VR黒ひげ危機一発 等で培った経験も併せて、徹底的にVR酔いを排除する設計を行った結果です。

2. VR酔いの原因:ベクション酔いと予想外の移動

VR酔いの原因には諸説ありますが、私たちは主に次の2つが大きな原因だと考えています。

① ベクション酔い(感覚の不一致)

ベクション(Vection) とは、視覚情報によって引き起こされる「自己運動感覚」のことです。(隣の電車が走りだしたときに、自分の乗っている電車は動いていないのに動き始めたと錯覚するあれですね。)VR空間で加速・減速・横移動といった動きをすると、視覚は「動いている」と認識しますが、身体(前庭感覚、体性感覚)は「動いていない」と判断します。この感覚の不一致が、脳の混乱を招き、VR酔いを引き起こします。

特に、加速開始時、減速開始時、そして横移動(これも加速度の一種) といった、動きの変化が生じるタイミングでベクション酔いが発生しやすくなります。

② 予想外の移動

プレイヤーの意図しない、予測できないカメラの動きもVR酔いの大きな原因です。急にカメラが回転したり、意図しない方向に飛ばされたりすると、脳が状況を理解できず強い不快感につながります。

3. VR酔いをゼロにする3つの設計コツ

これらの原因を踏まえ、私たちは『VRだるま落とし』で次の3つのコツを徹底的に実践しました。

コツ① ベクション発生タイミングで、視聴覚以外の複数感覚を刺激する

ベクション酔いは、「視覚情報」と「身体感覚」の不一致から生まれます。ならば、視覚だけでなく 身体感覚も同時に刺激 すれば、感覚の不一致を解消できるはずです。

例えば、落下シーンでは椅子を物理的に落下させ、風を顔に当て、振動スピーカーで衝撃音を再生します。このように 視覚・前庭感覚・触覚・聴覚を同時に刺激 することで、脳の混乱を防ぎます。

また、前作『VR黒ひげ危機一発』で学んだ重要な知見として、「与える刺激だけでなく、あえて取り去る刺激」 の重要性があります。椅子が跳ね上がる瞬間に振動スピーカーの音を消すことで、接触感を失わせ、浮遊感を何倍にも増幅できるのです。

→ 詳細は次回(第5回)で解説します!

コツ② ベクションが発生しにくくなる設計

ベクション酔いが発生するのは、加速度が変化する瞬間 です。逆に言えば、等速運動や等加速度運動であれば酔いにくい ということです。

落下シーンでは重力加速度による等加速度運動を採用し、うちわで扇がれるシーンでは速度を一定に保つよう空気抵抗を調整しています。また、視界の近距離にモノを配置しない という空間設計も、ベクション自体を発生しにくくする重要な要素です。

→ 詳細は第6回で解説します!

コツ③ メインプレイヤー視点は、徹底的に物理法則に則った挙動をさせる

予想外の動き は、VR酔いの大きな原因です。だるまちゃんの動きによってカメラの起点座標は移動しますが、勝手に回転したり急に向きが変わったりすることは絶対に怒らないように制御しています。カメラ方向はVRゴーグルをかぶった人が向いた法く変える以外には絶対に勝手に動きません。

また、Unityの物理エンジンを使い、すべての動きを 現実の物理法則通り にすることで、プレイヤーの脳が「予測可能な動き」として受け入れやすくなります。

→ 詳細は第7回で解説します!

4. まとめ:次回から各コツを深掘り!

VR酔いをゼロにすることは、決して簡単ではありません。しかし、VR酔いのメカニズムを理解し、

  1. ベクション発生タイミングで視聴覚以外の複数感覚を刺激する
  2. ベクションが発生しにくくする設計(等速・等加速度運動など)
  3. メインプレイヤー視点を徹底的に物理法則に則った挙動にする

という3つのコツを徹底することで、小学生から70代まで、誰もが笑顔で楽しめるVR体験を実現できます。

次回(第5回)からは、これら3つのコツを1つずつ深掘りし、具体的な実装方法や、ハードウェアの選定・制御方法まで、より実践的な内容をお届けします!

この記事を読んで「なるほど!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひアカウントをフォローしてください。一緒に体験型VR開発を盛り上げていきましょう!


📚 VRだるま落とし 連載目次

  1. 第1回:MFT2025でVRが減った理由とは? 私たちが創った「みんなで楽しむVR」
  2. 第2回:VRだるま落とし大解剖!~みんなで楽しむ3つのステージの遊び方~
  3. 第3回:VRを「みんなの遊び」に変える!入力と出力のフィジカル・コンピューティング設計
  4. 第4回:VR酔いゼロへの挑戦!180人全員が笑顔の秘密とは?(本記事)
  5. 第5回:複数感覚の同時刺激でVR酔いを防ぐ!フィードバック設計の全技術
  6. 第6回:(準備中)ベクションが発生しにくい運動設計と空間設計
  7. 第7回:(準備中)物理法則に則ったカメラ制御の実装

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