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【Maker Faire Tokyo 2025】MFT2025でVRが減った理由とは? 私たちが創った「みんなで楽しむVR」

に公開

1. 導入:従来のVRの限界と、私たちの挑戦

Maker Faire Tokyo 2025(MFT 2025)お疲れさまでした!
主催企業が変わり若干不安だったのですが、来場者も多くとても盛り上がっていましたね。

私たちのチーム 「DMC VR部隊」は今年、 『VRだるま落とし』 を出展しました。常に 20分以上 の待ち行列ができるほどの大盛況となり、2日間で 約60組 (合計180人程度)の方に体験いただきました。3-4歳のお子さんから70代のおじい様まで、幅広い世代に楽しんでいただき、我々も元気をもらいました。体験いただいた皆様、本当にありがとうございました!

本作品は、巨大だるまの上にとらわれた小さなだるまちゃんを救出することを目的とした、みんなで楽しむ 「協力型VRパーティゲーム」 です。

今年はVR作品がほぼ全滅・・・

さて、会場で多くの人に楽しんでいただけた一方で、今年は体験型のVR作品が全くと言っていいほど見当たりませんでした。(出展に忙しく、全部は回れていないので見落としているかもしれませんが・・・。)

おそらく、VR作品は私たち以外にもう一組の展示があっただけでした。そこも体験型というよりは、HMDに代わる球面スクリーンへの映像投影というデバイスの提案でした。

単に流行が終わっただけなのかもしれませんが、従来のVRの進化のベクトルが 「いかにHMDの没入感を高めるか」に偏りすぎた結果、「VRゴーグルを装着した人だけが楽しむ孤独な体験」 になりがちだったことに起因すると、私たちは考えています。

この方向性は素晴らしいものの、みんなで楽しむには全員がVRゴーグルをかぶらざるを得ず、会場で「ワイワイ楽しめない」という弱点となってしまい、MFTの会場から体験型VR作品が姿を消す一因になったのかもしれません。

私たちはこの課題を解決すべく、『VRだるま落とし』で、VRの没入感を活かしつつ、周囲の人を巻き込んで一体となって盛り上がれる新しい体験を追求しました。

2. 【VRだるま落としの核】「孤独」を「共鳴」に変える3つの工夫

MFTで盛況をいただけた最大の理由は、従来のVRの「孤独な没入体験」という限界を破り、観衆を含めた「共鳴体験」に変えたことにあります。

私たちの設計思想は、「現実のコミュニケーション・物理的なモノ・仮想空間」を融合させ、小さなだるまちゃんを救出するという共通の目的を軸に、新しい遊びを創り出すことでした。

① 「役割の非対称性」が生む、強制的なコミュニケーション

作品設計で最も重視したのは、VRゴーグルを被れない小さな子供や高齢の方も含め、全員でワイワイと遊べる空間づくりです。

VRメインプレイヤー(指示役): 全体の状況は把握できるが、操作権限はない。周りのプレイヤーに「あそこに飛んで!」「浮き輪を動かして!」と指示を出すことしかできません。

サポートプレイヤー(実行役): 三人称視点の画面で部分的な状況が分かるが、視覚的な情報が制限されている。メインプレイヤーの助言に従って直感的な操作を実行します。

この情報と権限の「非対称性」によって、プレイヤー同士が言葉で連携せざるを得なくなり、自然な会話、協力、そして予想外の面白さが生まれました。

② 「現実のモノ」による直感的なフィジカル入力

高機能なゲームコントローラーを使わず、誰もが使い方を知っている 「現実のモノ」 を、仮想空間に干渉するインターフェースとして採用しました。

ピコピコハンマーで椅子を叩く 🡲 フィールドが崩壊し、だるまちゃんが下に落ちる

うちわで扇ぐ 🡲 主人公(だるまちゃん)がそちらに飛んでいく

フラフープを動かす 🡲 海の浮き輪が連動して動き、主人公をキャッチできる

これにより、ゲームに不慣れな人でも、「うちわを扇ぐ」という直感的なアクションで、仮想空間にダイレクトに干渉する楽しさを提供できました。(あと、見てる人たちも盛り上がっていました。)

③ 外部画面による「同時共有」の空間づくり(共有型体験のための空間設計)

VR体験にありがちな「見ている人だけが疎外される」状態を防ぐため、外部画面の配置に徹底的にこだわりました。

私たちは、プレイヤー側(VRメイン・サポート役)と観衆側に、それぞれディスプレイを背中合わせで二台設置しました。この配置が生み出す効果が、ブースの一体感を決定づけました。

プレイヤー側の画面: プレイ中の画面の向こう側に、ゲームを見守り、指示を出す観衆の熱狂が見えます。これにより、プレイヤーは孤独ではなく、観衆の存在を常に感じてプレイできます。

観衆側の画面: 画面の中の主人公(だるまちゃん)の大冒険と、必死にうちわを扇いだりハンマーを振ったりしているプレイヤーの身体的な努力が同時に見えます。

この結果、仮想空間の出来事だけでなく、現実空間での人々のリアクションとアクションが同時に共有されることで、ブース全体が一体となり、盛り上がりの相乗効果を最大化しました。

3. 結び:連載の予告とVR開発を始める仲間へ

私たちは、上記のように「コミュニケーション」「フィジカルな操作」「共有空間」の3要素を同時に融合させた、この新しい体験の領域を今後も追求していきます。

この新しい「みんなで楽しむVR」の実現には、PCVRシステムを用いながら、自作で安価なフィジカル・コンピューティングやモーションプラットフォーム設計とUnity/C#実装のノウハウが不可欠です。

今後、このZenn連載では、『VRだるま落とし』や『VR黒ひげ危機一発』で培った、この共有型体験をコストパフォーマンス高く作るための具体的なノウハウを公開していきます。

【今後の連載予定テーマ】

  • フィジカル・コンピューティングとVRをシームレスに連携させる設計思想
  • VR酔いをゼロにするための具体的なUX/UIテクニック
  • MRとは異なる、現実と仮想の融合手法

この記事をきっかけに、VR開発の楽しさを知り、新しい「VR体験」を一緒に創る仲間が増えることを願っています。

ぜひ、アカウントをフォローしていただき、体験型VR開発を一緒に盛り上げていきましょう!


📚 VRだるま落とし 連載目次

  1. 第1回:MFT2025でVRが減った理由とは? 私たちが創った「みんなで楽しむVR」(本記事)
  2. 第2回:VRだるま落とし大解剖!~みんなで楽しむ3つのステージの遊び方~
  3. 第3回:VRを「みんなの遊び」に変える!入力と出力のフィジカル・コンピューティング設計
  4. 第4回:VR酔いゼロへの挑戦!180人全員が笑顔の秘密とは?
  5. 第5回:複数感覚の同時刺激でVR酔いを防ぐ!フィードバック設計の全技術

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