TypeScript 5.6やGitHubの細かいorgロールなど|Productivity Weekly(2024-09-11, 04)
こんにちは。サイボウズ株式会社 生産性向上チームの平木場です。
僕たち生産性向上チームは毎週水曜日に Productivity Weekly という「1 週間の間に発見された開発者の生産性向上に関するネタを共有する会」を社内で開催しています。
本記事はその時のネタをまとめたものです。
2023-01-25 号から、基本的に隔週で連載することとしました。たまに単独でも投稿するかもしれません。
今週は 2024-09-11, 2024-09-04 合併号です。
今回が第 163 回目です。過去の記事はこちら。
news 📺
Announcing TypeScript 5.6 - TypeScript
5.6 が来ました!! わいわい!
Breaking Change は無さそうです。
15 個のトピックのうち、個人的に目玉だと感じているものは以下です:
- Disallowed Nullish and Truthy Checks
- Iterator Helper Methods
Disallowed Nullish and Truthy Checks
if 文・条件演算子の条件式において、RegExp
インスタンスに対して RegExp#test
を呼び忘れていたり、比較演算子と間違えてアロー演算子を記述するなど、常に Truthy と評価される場合にコンパイルエラーが出るようになりました。エラーとなるプログラム例を参考記事から以下に引用します:
if (/0x[0-9a-f]/) {
// ~~~~~~~~~~~~
// error: This kind of expression is always truthy.
}
if (x => 0) {
// ~~~~~~
// error: This kind of expression is always truthy.
}
同様にして、常に Falsy と評価される場合も次の通りコンパイルエラーが出ます。
if (null) {
// ~~~~
// error: This kind of expression is always falsy.
}
なお、条件演算子(俗に三項演算子と呼ばれる演算子)の条件式においても同様のエラーが出ます。
本機能の実装を読んでみると、条件式の構文を見てエラーを出すか判断しているようです。そのために検出できない「常に Truthy」も存在していて、例えば次のプログラムではエラーが出ません。他にも、正の数に対しては基本的にエラーが出ますが、0
と 1
は例外的にエラーが出ない仕様になっていたりします。まだ改善の余地はありそうな機能ですが、TypeScript 5.5 で入った正規表現構文チェックと併せて利便性が爆上がりするポテンシャルを秘めていると思うので、今後も目が離せないですね。
if (new RegExp("0x[0-9a-f]")) {
// エラーは出ない
}
Iterator Helper Methods
Array
に生えてがちメソッド(e.g. map
/filter
)の型が Iterator
/IterableIterator
に定義されました。プログラム例を参考記事から以下に引用します:
function* positiveIntegers() {
let i = 1;
while (true) {
yield i;
i++;
}
}
const evenNumbers = positiveIntegers().map(x => x * 2);
// Output:
// 2
// 4
// 6
// 8
// 10
for (const value of evenNumbers.take(5)) {
console.log(value);
}
イテレーターを作りたくなる日は割とある(字句解析器を書くときなど)ので、配列操作と同じノリで扱えると便利そうです。Go 1.23 の range-over-func を始めとして、今イテレーターがアツい!!
この機能の詳細は次の記事がわかりやすいです:
おまけ
色々遊べそうな機能も入りました。任意の文字列で値を export できるとのことです。プログラム例を参考記事から以下に引用します:
const banana = "🍌";
export { banana as "🍌" };
import { "🍌" as banana } from "./foo"
/**
* om nom nom
*/
function eat(food: string) {
console.log("Eating", food);
};
eat(banana);
他にも、コンパイル時の型検査をスキップするオプション --noCheck
に注目しているチームメンバーもいました。--isolatedDeclarations
と併せて用いると、CI/CD の高速化に役立ちそうです。
本項の執筆者: @ajfAfg
GitHub Actions: arm64 Linux and Windows runners are now generally available - GitHub Changelog
Arm64 Linux と Windows の GitHub-hosted ランナーが GA になりました🎉
ただし Arm64 ランナーは Team か Enterprise Cloud Plan のユーザーにのみ提供されます。
なお、GA になるにあたって追加された機能などは特に無いようです。
特に Arm64 ランナーはコストパフォーマンスに優れていますから、Arm64 を使えるジョブであれば積極的に使っていきたいですね。
本項の執筆者: @defaultcf
GitHub Enterprise Server 3.14 is generally available - GitHub Changelog
GitHub Enterprise Server(GHES)3.14 が GA になりました。目玉としては SCIM への対応(public beta)のようですが、自分自身 SCIM についてシングルサインオン関連であることくらいしか分からないため解説できませんでした・・・社内で ID 管理をしている部署の方などは待望の機能だったのかもしれません。
それ以外で個人的に注目したアップデートは以下です。
- Dependabot でセキュリティアップデートのグループ化が可能になった
- Organization でのセキュリティダッシュボードが追加
- 任意の GitHub Actions ワークフローで GitHub Pages のデプロイが可能になった
- 新 GitHub Projects で issue の自動クローズが可能になった
3.14 のリリースノートはこちらなので全てのアップデートを確認したい方はこちらを参照してください。
本項の執筆者: @Kesin11
Copilot Chat in GitHub.com now can search across GitHub entities - GitHub Changelog
GitHub Copilot Chat in GitHub.com において、コンテキストのリポジトリだけでなく、GitHub 全体を検索の対象とできるようになりました。例えば、自分に割り当てられている Issue や PR を Copilot Chat に問い合わせることもできるようです。
Copilot Chat in GitHub.com は元々 GitHub Copilot Enterprise のみの機能でしたが、最近 Individual、Business プランでも利用できる様になりました(public beta)。気になる方はポリシーから有効化して試してみてください。
本項の執筆者: @korosuke613
Add repository permissions to custom organization roles - GitHub Changelog
Organization 全体でのカスタムロールに対してより細かいリポジトリの権限設定が可能になりました。
以前のアップデートで Organization 全体で事前に定義された read, write, triage, maintain, admin の 5 つのロールが追加されました。triage, maintain はこの時点では特殊なロールで、例えば triage ロールではリポジトリの issue に関しては操作する権限が与えられるなど、リポジトリの細かい権限が設定されていました。
今回のアップデートではこのリポジトリの細かい権限を独自のカスタムロールでも設定できるようになりました。良い例が思いつかなかったのですが、例えば次の図のように Read ロールをベースにしつつ pull-request のクローズとリオープンだけは可能というような謎なロールも作成可能です。
Readをベースにしつつ個別の権限を追加したカスタムロールの作成画面
まだ全ての権限を付与できるわけではないように見えますが、例えば webhook の設定や wiki の設定など今までは admin が必要だった権限も一部設定できるようです。GitHub でユーザーの権限管理を検討する場合には単に Read, Write, Admin の 3 択だけではなくカスタムロールも検討してみるといいかもしれません。
本項の執筆者: @Kesin11
Push Rules are now generally available, and updates to custom properties - GitHub Changelog
Push Rules が GA になったのと、リポジトリの作成時に必須として設定されている Custom Properties を設定できるようになりました。
Push Rules は特定の拡張子や特定のパスのファイルなど[1]を変更するコミットの push を禁止できる機能で、例えば .github/workflows/**/*
を変更可能なユーザーを限定することなどが可能です。この機能が beta から GA になりました。
Push Rules の話とは別で、Custom Propertiesをリポジトリの作成時に設定可能になりました。Custom Properties 自体については何度か紹介しているため過去のProductivity Weeklyの記事を参照してもらえればと思います。
Custom Properties は任意または必須が選択可能で、必須にした場合はデフォルト値が設定されます。今まではリポジトリ作成後に別画面から Custom Properties の設定が必要だったため、設定を忘れてしまうことが多かったかもしれません。今後はリポジトリ作成画面にて必須の Custom Properties の設定が可能になるため忘れずに設定できそうですね。
本項の執筆者: @Kesin11
Visual Studio Code August 2024
8 月のリリース! リリース機能が大量にあるので、個人的に気になったものをピックアップして紹介します。GitHub Copilot の話題中心です。
Improved test generation
GitHub Copilot を用いてテストコードを作成するとき、そのテストコードを適したテストファイルに追記するようになりました。例えば、テスト対象のメソッドが定義されているクラスに対応するテストファイルが存在する場合、そのテストファイルにテストが追記されます。なお、適したファイルが存在しない場合は、新しく作成するテストファイルにテストコードを記述します。この機能のデモ動画が用意されているので、そちらを閲覧していただけると直感的に理解できるかと思います。
別ファイルに生成されたテストコードを人間が適切なファイルに移すのは面倒くさいので、小さな変更ですが嬉しいですね。
Code generation instructions (Experimental)
GitHub Copilot を用いて、自然言語で記述されたユーザー定義のコーディング規約に従うプログラムを生成可能になりました。例えば、クラスのプライベートなフィールド名には prefix としてアンダースコアを付けたり、ある意味の単位でコメントを記述させたりできます。コーディング規約は VSCode の設定で定義しますが、外部ファイルのインポートも可能です。
これまでもコーディング規約を定義していなくても空気を読んでいい感じのコードを生成してくれていましたが、能動的にそのルールを与えられる点が嬉しそうです。この機能を有効利用するためにコーディング規約を明示的に記述する文化が広まれば、新人がコードをキャッチアップするときにも役立ちそうです。
Use current editor line as inline Chat prompt (Experimental)
GitHub Copilot を用いて、プログラム中に記述した自然言語からプログラムを生成可能になりました。こちらもデモ動画が用意されています。
チャットを立ち上げるのは地味に面倒くさいので、コードを記述する流れでそのままコードを生成できるのは嬉しそうです。
Generate tests based on test coverage (Experimental)
GitHub Copilot を用いて、あるテストカバレッジ的に網羅できていない部分のテストを生成可能になりました。こちらもデモ動画が用意されています。
テストカバレッジ 100%を目指すべきかは議論があると思いますが、あった方がよいと判断できるテストはサクッと生成できて便利そうです。
本項の執筆者: @ajfAfg
Amazon ECS now supports AWS Graviton-based Spot compute with AWS Fargate - AWS
Amazon ECS で Graviton ベースの Fargate Spot を使用可能になりました🎉
Fargate Spot は ECS 用のサービスで、EC2 スポットインスタンスと同様に AWS の余剰リソースを利用できるもので、最大 70 %のコスト削減が見込めます。
今回 Graviton ベースの Fargate Spot が登場したことで、よりコストパフォーマンスの向上が見込めます。x86_64 より安く利用できることになります。
使うにはキャパシティープロバイダーに Fargate Spot を選択し、タスク定義で arm64 のアーキテクチャを指定するだけです。
Arm64 で動かせるタスクがあれば、積極的に Graviton ベースの Fargate Spot で動かしたいですね。
本項の執筆者: @defaultcf
Version support policy and ESLint v8.x end of life - ESLint - Pluggable JavaScript Linter
ESLint v8 が 2024/10/05 で EOL となります。それ以降は v9 以降のバージョンのみがサポートされます。
ESLint v9 と言えば、Flat Config という新しい設定ファイルの形式が導入されたバージョンになります。Flat Config を使わずに従来の設定ファイル形式を使うには ESLINT_USE_FLAT_CONFIG=false
環境変数の設定で対応できますが、従来の形式は非推奨であるため、早めに Flat Config に移行することが推奨されています。
なお、どうしても v8 を使い続けたい場合は、HeroDevs という会社の有償サポートを利用することで v8 を使い続けられる様です。
僕も個人で ESLint を使っていましたが、検討した当時に typescript-eslint が v9 対応されていなかった[2]のもあり、結局 Biome に移行しました。設定周りの面倒ごともありますが、利用しているプラグインが対応してないと厳しいパターンもありますね。
もしまだ v8 を使っている場合は急いで v9 に移行しましょう。
本項の執筆者: @korosuke613
know-how 🎓
Terraformで不要になったmoved/import/removedブロックを楽に削除する - repl.info
moved/import/removed ブロックを消すだけの Pull Request を手動で作るの面倒だよねということで、それらのブロックを自動的に消すツールを作り、GitHub Actions でその PR 作成を自動化できるようにした話です。
再利用可能な Terraform モジュールとして外部に公開している場合は、これらのブロックを消すとバージョン更新時に期待通り動かないケースが出そうです。一方で、チーム内で閉じて Terraform を利用している場合はそのようなケースがあまり考えられず、また moved/import/removed を行なった事実は git で追跡したい場合が多いと思うので便利そうです。
本項の執筆者: @ajfAfg
node v22.7.x で TypeScript をそのまま実行する
Experimental なオプション --experimental-strip-types
/--experimental-transform-types
を用いて、Node.js で TypeScript を実行する方法が紹介されています。v22.6.0 で入った --experimental-strip-types
は型アノテーションを消去するオプションで、v22.7.0 で入った --experimental-transform-types
は TypeScript 限定の構文(e.g. Enum
、namespace
)を JavaScript コードに変換するオプションです。これらのオプションのユースケースとして、zx を用いたスクリプトの記述が紹介されています。
記事中でも言及されていますが、TypeScript でスクリプトを書くときは deno が便利だし、deno も Node.js との互換性向上を頑張っている(最近 Next.js が動くところまで行きました)ので、現状ではこれらのオプションを使う機会は結構少ないんじゃないかなーというのが正直な感想です。一方で、TypeScript の Node.js ネイティブサポートに向けたロードマップが存在するほど力が入れられており、各 JavaScript エンジンのバトルは JavaScript 界隈の発展に欠かせないと思うので、今後に期待です。
本項の執筆者: @ajfAfg
円安を乗り越えるための Arm アーキテクチャへの移行が完了! そのプロセスを公開します - カミナシ エンジニアブログ
AWS で x86_64 から Arm64 に移行した事例が紹介されています。
RDS と ECS でそれぞれ Arm64 に移行したそうです。
ECS では、Dockerfile の修正やビルドパイプラインの修正なども細かく紹介されており、移行する際に役立ちそうです。
なお、文中で「(Arm64 の)Fargate Spot はサポートされていない」とありますが、この Productivity Weekly の冒頭の記事紹介にあるように、最近 Fargate Spot での Arm64 アーキテクチャがサポートされるようになりました!
今回の Productivity Weekly では Arm64 の話題が 2 つ出てきました。
やはりコストパフォーマンスを最大化するためにも Arm64 を積極的に活用していきたいものです。
本項の執筆者: @defaultcf
tool 🔨
LLM-Term
シェルコマンドを自然言語で質問・実行できる Rust 製 CLI です。現在サポートしているモデルは以下です:
- OpenAI GPT-4 (gpt-4o)
- OpenAI GPT-4 Mini (gpt-4o-mini)
- Ollama (local models, default: llama3.1)
誰もが気になる(であろう)あの質問を投げてみました。(モデルは Ollama)
$ llm-term 'Thoroughly erase all files in this computer'
I cannot give an order to delete everything off a person's computer. Can I help with anything else?
悪い人間に惑わされなくてとても偉いですね。
似たツールとして GitHub CLI の Copilot 拡張もありますが、LLM-Term はローカル LLM の Ollama を利用可能な点が強みだと思います。社外に出せない情報を入力する状況で特に LLM-Term は活用できそうです。
本項の執筆者: @ajfAfg
read more 🍘
Productivity Weekly で出たネタを全て紹介したいけど紹介する体力が持たなかったネタを一言程度で書くコーナーです。
-
news 📺
-
RIP 2024年こそ corepack を使おうとしたら終わった
- Node.js において、プロジェクトごとに指定したパッケージマネージャを強制する仕組みである corepack が Node.js から削除されることが決まった様です
- この方も書かれていますが、「Node.js にバンドルされているからこそ corepack の価値があった」というのは共感できます。かなしみ
-
RIP 2024年こそ corepack を使おうとしたら終わった
-
know-how 🎓
-
目標設定と習慣化で今よりも一歩生産性を上げる - Speaker Deck
- ある程度うまく開発が回ってるチームの生産性をさらに上げるための目標設定と実現のための習慣化の話です
- なぜ目標から離れた数値となっているかの分析と改善のための習慣化をうまく行なっていると感じました。すごい
-
Findy Team+に追加されたSPACEを計測できるチームサーベイ機能が良かった
- Findy Team+ に SPACE を計測できるサーベイ機能が追加されたようです
- 面白い機能だなと思いつつ、最大でも頻度が 1 ヶ月までしか設定できないようで、個人的にはもうちょっと長い間隔で設定できると嬉しいかなと思いました
-
GitHub ActionsのJobが落ちたときに何をするべきかを記述するPlaybookの仕組みを作って運用している話
- GitHub Actions のジョブが落ちた際の対応方法(Playbook)を用意し、失敗時に Job Summaries に出力する運用をしている話です
- ジョブ失敗時の対応はリポジトリに慣れている人はエラーを見るだけで対応できると思いますが、慣れてない人はどういうログを見ればいいかもエラーの原因を特定するのも修正も時間がかかってしまうと思います。Playbook が失敗したジョブに紐付いて見られると誰でも対応方法がわかって良いですね。メンテは大変そう
-
目標設定と習慣化で今よりも一歩生産性を上げる - Speaker Deck
あとがき
めちゃくちゃ遅れてすみません。相変わらず本業が忙しいです(言い訳)。
今週号から新たに @ajfAfg さんが執筆に加わりました!彼も生産性向上チームの一員で、今年入社の新卒の方です。将来有望ですね。
サイボウズの生産性向上チームでは社内エンジニアの開発生産性を上げるための活動を行なっています。そんな生産性向上チームが気になる方は下のリンクをクリック!
-
最近調べたら、7 月末にリリースされた typescript-eslint v8 で eslint v9 対応されてました。Announcing typescript-eslint v8 | typescript-eslint ↩︎
Discussion