細胞の理論生物の学び方(学部後期・大学院編)
東大生産研 定量生物学研究室の小林です。
最近学部1,2年生向けに理論生物を学ぶのに必要となる数学・物理・計算機・生物学の主読本・副読本を独断の偏見に基づきまとめました(細胞の理論生物の学び方:学部前期向け)。
こちらはその続きです。前期向けとは異なり、卒論なり大学院なりで研究に取り組むことを前提として、特に細胞現象の決定論的・確率論的モデリングや解析、そして細胞の情報処理の研究に必要となる教科書や資料をまとめました。
したがってここで扱う本は、「初心者にわかりやすい本」というよりいわゆる「手元においておきたい本」的なものが学部前期編よりも圧倒的に増えてくるので気をつけてください。わかりにくければ自分にあった教科書を探すことを厭わないでください。
またリストが大きくなりすぎてしまうので、関連する数学・物理・情報・工学などの内容(例えば測度論や熱力学など)については、別立てでリストをそのうち作る予定です。
細胞の理論生物学・細胞の情報処理
細胞の理論生物や情報処理の理論に主眼があり、まず読んでおいたほうがよい教科書をまとめます。
これらの本の中では一部、力学系や確率過程の基礎などが省かれているところもあります。
その点についてはこのリストの後半で紹介する別の教科書で補完する必要があります。
モデリングから情報処理まで
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Stochastic Processes in Cell Biology: Paul C. Bressloff
- 細胞レベル・分子レベルでのいろいろな現象を確率過程として取り扱っています。カバーしている現象も広く、また確率過程の基本的な内容(非測度論的)も解説しているので、教科書として活用するのにもおすすめ。手法などでわからない部分は確率過程のもう少し詳しい専門書に当たると良い。
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Biophysics: W. Bialek
- 理論神経科学者のW. Bialekによる教科書。生体システムの情報処理を理論的に扱った教科書としては一番のおすすめ。扱う内容も、反応系による情報処理を中心としており、非常に良い。分厚いのが難点。数学的にそこまで難解ではないのも良い。
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Models of Life: K. Sneppen
- Bressloffの教科書同じく細胞レベルを中心とした色々な理論生物のトピックを扱う。必ずしも確率過程でのモデルに限定しておらず、分子だけでなくて集団や進化の内容も含む。このあたりは好み次第。
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Stochastic Analysis of Biochemical Systems:Anderson Kurtz
- Bressloffの教科書と比べると、測度論的な点過程の言葉ではじめから書かれているので、このあたりに慣れていない人にはおすすめはしない。ただ、細胞や反応現象にからめて測度論的な確率過程理論を展開している意味で珍しい本。数学系で測度論的確率過程でないと気持ち悪く感じてしまう人は、こちらのほうがいい。
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Physical Principles in Sensing and Signaling: With an Introduction to Modeling in Biology:Robert G. Endres
- 大腸菌の化学走性に対象を絞って、その情報処理を理論的に扱った本。薄いのでBialekの厚い教科書の代わりに読むのでもいいかもしれない。
化学反応論・化学熱力学
細胞ダイナミクスの記述の基本である化学反応系の理論は、普通の力学系とは異なり反応の離散性や熱力学的な制約を反映した少し特殊(だが面白い)ものになっています。このあたりを扱った教科書は多くないのです。
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Chemical Biophysics:Daniel A. Beard, Hong Qian
- 化学反応系の動態と熱力学との関連を扱った教科書。著者のH. Qianはこの分野に2000年前から継続的に貢献している。少し古いがこのトピックに取り組むのであれば必須の教科書。
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Foundations of Chemical Reaction Network Theory: Martin Feinberg
- 化学反応動態における代数構造制約やその帰結を扱った化学反応ネットワーク理論の教科書。理論の提唱者であるFeinbergによる執筆。比較的最近に出されており、反応系の代数構造の研究に取り組む上では、必読の教科書。
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Free Energy Transduction and Biochemical Cycle Kinetics: Terrell L. Hill
- 反応ネットワークのサイクル構造を使って非平衡反応系を特徴づけたHillの教科書。古典だが今でも非平衡反応系を扱う上では重要な教科書。
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Network theory of microscopic and macroscopic behavior of master equation systems: J. Schnakenberg
- Schnakenbergによる反応系のネットワーク的理論の総説。Hillの流れを汲んでおり、こちらも重要なreview。
上級者向け・副読本
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Stochastic Chemical Reaction Systems in Biology: Hong Qian, Hao Ge
- QianとGeによる最新の化学反応系の非平衡熱力学の教科書。数学的側面が強くなっている。上述の教科書とかを一度勉強したあとに進むほうがいいかもしれない。
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Mathematical Theory of Nonequilibrium Steady States: Da-Quan Jiang , Min Qian , Min-Ping Qian
- サイクルなどの概念もきっちり取り入れて、非平衡現象の数理構造を解説した教科書。かなり数学っぽいので、SchnakenbergらのReviewを見たあとの方がよい。
非線形・非平衡・複雑系の理論
生体のシステムは一般に非線形です。また物理的には非平衡系であり、環境と相互作用して情報処理や進化をするという側面もあります。したがって生体システムの解析で非線形や非平衡などの理論はとても重要な位置を占めます。
ここでは生物に限定せず非線形・非平衡などを理論的に取り扱う教科書を集めました。またその一つの発展形である複雑系についても本も紹介しています。(日本の)複雑系は生体現象に多くの動機づけを持っており参考になる部分が多々あります。
確率過程も理論生物学では非常に重要です。ただ自分が最もよく使う手法のため、関連教科書の数が多くなってしまったので、別の章として取り扱っています。
力学系・分岐理論・カオス
力学系を生物のモデルで実際に応用する時に最も活用する手法が分岐理論です。分岐理論をしっかりあつかった教科書はあまり多くは無いのですが、以下の本などで勉強ができます。
カオスは一世を風靡するしましたが、確率的な性質の強い細胞や細胞内の現象でカオスが本当に観測できるのか?またカオスに機能的な意味があるのか?が明らかでなく、特に細胞などミクロな現象に関して最近はではほとんど注目されることは無くなり廃れた感があります(個体群などマクロな系だと論文はまだそこそこ出ています)。ただこれらに関係する現象が見つかれば、そのうちリバイバルするんじゃないかと密かに思っています。
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非線形の力学とカオス: S. ウィギンス
- 私が力学系を勉強した時の教科書です。力学系から分岐理論を学ぶ上で必要なトピックのかなりの部分をカバーしています。本がでかいのが難点です。
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力学系 上・下: Clark Robinson
- ウィギンスよりは後に出てきた教科書。こちらも標準的でよい教科書だと思います。
上級者むけ & 副読本
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Elements of Applied Bifurcation Theory:Yuri Kuznetsov
- 分岐理論をさらに突き詰めようと思った時の定番の教科書です。
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Introduction to Functional Differential Equations:Jack Hale
- 時間遅れのある微分方程式(関数微分方程式になる)を扱うことになった時の標準的な教科書です。
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常微分方程式 : V.I.アーノルド
- 古典的な教科書です。今さら勉強するものではないかもしれませんが、個人的にはアーノルドの本が好きなので載せておきます。
振動現象・同期現象
振動現象やその同期は力学系理論の中でも非常に大きな体系を作っています。蔵本先生がパイオニアとして同期現象の理論を切り開いたこともあり、日本の研究者も層が厚いです。専門でないので多くはリストしませんが、教科書はこれ以外にも色々とあります。
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生物リズムと力学系:郡 宏・森田 善久
- 生体の振動現象系の理論を勉強する上で、日本語の標準的な教科書だと思います。概日リズムなどの研究で有名な郡さんらが執筆。
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同期現象の科学―位相記述によるアプローチ:蔵本 由紀, 河村 洋史
- 蔵元先生らによる教科書の改訂版。比較的最近のトピックなどもカバーしており、郡さん・森田さんの教科書と並んでおすすめできます。
上級者向け & 副読本
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The Geometry of Biological Time: Arthur T. Winfree
- 概日リズム研究・化学振動の理論分野を切り開いたA. Winfreeの教科書。今見ても非常に示唆的な内容も含み、振動現象に取り組むのであれば読んでおくことをおすすめしたい。
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同期理論の基礎と応用:ピコフスキーほか
- 振動子の同期現象に関する理論や応用を広く扱った教科書。理論部分の内容は少し薄いので郡さんや蔵本先生の本でちゃんと勉強してから、応用の参考に読むほうが良いかもしれない。
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Chemical Oscillations, Waves, and Turbulence:Yoshiki Kuramoto
- 蔵本先生の初期の有名な教科書。古典。
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生体リズムの動的モデルとその解析:川上 博
- 振動子ダイナミクスは単体でも多様で様々な分岐現象と関連するがその内容を扱う教科書がほとんど無い。神経を主な対象としているものの、日本語であればこの本が候補に挙がる。日本における力学系分岐理論の大家である川上先生による執筆。
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Dynamical Systems in Neuroscience:Eugene M. Izhikevich
- 上記の川上先生の本と同じく、振動周りの分岐現象を極めて詳細に扱った教科書。著者本人がPDFを公開している。
自己組織化・複雑系
カオスに続き自己組織化・複雑系も1990年代、理論系や生物系、そしてその他の分野にわたってものすごい流行りました。しかし、2000年に入り一気にその勢いはなくなり廃れた感があります(このあたりについては「複雑系はなぜ廃れてしまったのか(私的考察)」を参照)。
ただ研究が意味がなかったわけではもちろん無く、自己組織化で形成された理論は力学系や非線形物理の理論の一部としてしっかりと使われています。複雑系はどちらかというと何かを解決した、というよりは、カオス・自己組織化などの流れを受けて様々な問題、例えば高次元で非線形な現象を理解するとはどういうことか?などを提起したという側面があります。
提起された問題は今でも重要なものも多く、複雑系に触れたことのない世代も知っておいてもよいと思います。
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複雑系のカオス的シナリオ:金子 邦彦、津田 一郎
- 通称青本。カオス的遍歴などを中心とした金子さん・津田さんの独自の世界が展開される。
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複雑系の進化的シナリオ: 金子 邦彦、池上 高志
- 通称赤本。青本よりもより生物や進化を意識した内容になっている。この流れから派生して金子さんの細胞状態のアトラクター理論や普遍性生物学へとつながっていく。
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協同現象の数理:ハーマン・ハーケン
- ハーケンによる教科書。この時代の本にありがちな、色々なトピック(力学系、確率過程、化学反応、非平衡 etc)が雑多に含まれているので、この本で勉強する感じではない。当時の雰囲気を感じるには良いかと思う。amazonでも古本は極めて安い。
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情報と自己組織化:ハーマン・ハーケン
- こちらもハーケンのより後期の教科書。協同現象の数理と比較して、変分的な視点がより強調されており「情報最大原理」などが現れる。体系的な感じでないのは前回と同様。
参考資料
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散逸構造:G.ニコリス, I.プリゴジン
- 自己組織化・カオスなどが台頭する前は、反応系の確率的な性質などをマスター方程式などを使って解析する研究も盛んであった。その過渡期に書かれたこの本はその両者が共存している。確率反応系の理論はその後、カオスなどに圧倒され下火になったが2000年以降、システム生物学や確率熱力学などの文脈で再び表舞台に戻ってくる。このあたりの栄枯盛衰の歴史は興味深い。
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非線形な世界:大野 克嗣
- 比較的最近に書かれた非線形科学(複雑系もある程度含む)の本。教科書ではなく、非線形科学に伴う各種問題を議論する感じ。金子さん・津田さんらとは異なる視点からの複雑系哲学書だと思って読むのがいい。
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カオス的脳観:津田 一郎
- 津田さんによるエッセイ。カオスの観点から生体情報処理を考えるとどういうことが考えられるかなどを知ることができる。
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Self-reference engine:円城 塔
- この内容がわけがわからないと思ったらまだまだ勉強が足りない。自然と「なるほど複雑系や自己組織化などのあの概念をあつかっているんだな」とわかるようになってからが面白い。
集団動態・進化動態
自己複製や繁殖で増減する細胞や個体の集団のダイナミクスやその進化を表すモデルは、細胞内の反応系を表すモデルとまた違った性質があります。また、進化に根ざした関連した特有の問題意識などもあります。もし、細胞集団や個体集団の理論を扱うのであれば、一度はこのあたりの研究も押さえておくことが大事。
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進化のダイナミクス:MARTIN A.NOWAK
- 進化ダイナミクスの大家であるノバックの教科書の翻訳。 比較的最近(といっても10年以上前の翻訳)の本。
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進化ゲームと微分方程式:J.ホッフバウアー、K.シグムンド
- 進化ゲームの少し古い教科書。個体群系に伴う微分方程式(ロトカ・ヴォルテラ方程式・リプリケータ−包帯式)やその力学系としての性質について扱う。微分方程式の技術的な側面をちゃんと知りたい場合にはこちらが良いと思う。
参考資料
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進化する階層:ジョン・メイナード・スミス
- 進化生物学の大家であるメイナードスミスによる啓蒙書(半分生物哲学)。この本自体は生物やその進化に特化していて複雑系の話ではないが、話題として共通しているものもある。読んでみても悪くはない。
情報処理・学習の理論
情報理論
生体の情報処理を理論的に扱う場合、情報理論的な考え方は重要です。しかし、シャノンの後に形成されたいわゆる現代的な情報理論は、デジタルコンピューターや便利なメモリーなどを前提とした時間構造を陽には扱わないものです。
そのため、物理的・生物的拘束の中で経時的・動的に情報処理を行う生体情報処理とは極めて相性が悪く、過去の多くの理論研究も情報理論のアイディアを表面上借りてきただけや、とりあえず情報量(と呼ばれるなにか)を力学系などで測ってみる、みたいなものになります。
そのため、生体の情報処理の応用を前提とした情報理論の教科書などはほとんど無いのですが、それでも情報理論は一度学んでおくのが大事です。下記は、その中でLabの学生におすすめしているものになります。
ただし、古典に目を向けると一部教科書があります。特にStratonovichによる情報理論の教科書は、情報の価値や熱力学との関係を扱おうと試みており、非常に重要なものだと思います(生物に絡めては全くいませんが)。
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情報理論:甘利 俊一
- 情報幾何の甘利先生が若い時に書いた情報理論の教科書。シャノンの話だけでなく、もう少し歴史的に古い連続信号系の話も含まれている。実時間・連続信号を扱ったいわゆるアナログ通信系の情報理論のほうが生体情報処理には相性がいい。シャノン以後、情報理論というと(アナログ通信路の上の階層に抽象化された)デジタル通信路での情報理論の話が主流となってしまう。アナログ系の話はその後、むしろ制御とか確率過程の研究の中に取り込まれて行ったようにも思う(以下の推定理論・確率制御なども参照)。
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新板 情報理論の基礎―情報と学習の直観的理解のために:村田 昇
- 情報理論が情報幾何的な視点をベースに書かれていて見通しがよく、コンパクトな教科書。残念ながら絶版。
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情報理論 基礎と広がり: Thomas M.Cover ・Joy A.Thomas
- 情報理論の定番中の定番の教科書。解説も丁寧だし情報理論の教科書としては結局これでいいのではないかと思う。分厚いので部分部分を勉強してゆくのが良い。なお第一著者のCoverさんの名前がThomasで第二著者のThomasさんの名字と一緒なので紛らわしい。
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現代情報理論:有本 卓
- 有本-Blahut アルゴリズムなどで有名な有本先生による情報理論の教科書。扱う内容は標準的なものだが、一部に連続時間通信路のトピックが含まれる(ほんのちょっとだけれど)
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確率過程とエントロピー:井原 俊輔
- タイトルからは分かりづらいが、確率過程の観点から情報理論(というか通信路の問題)を扱っているレアな教科書。
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Theory of Information and its Value:Ruslan L. Stratonovich
- Stratonovich積分のStratonovichによる情報理論の教科書。 情報理論と情報の価値や熱力学などとの関係を積極的に扱った珍しい教科書。もともとはロシア語でつい最近翻訳された。Stratonovichは最適フィルターの理論を確立した研究者でもあり、動的な情報の理論における先駆者といえる。
上級者向け・参考図書
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Information Theory for Continuous Systems:Shunsuke Ihara
- 井原先生の英語の教科書。日本語と比べると数理的な部分が多い。測度論的な確率過程を用いるがそこまでゴリゴリの感じではない。
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通信の数学的理論:クロード・E.シャノン、ワレン・ウィーバー
- シャノンによる情報理論の本。この本で情報理論の基礎が築かれた。薄いし、情報理論を使うならば一度読んでみる価値はある
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新板 情報幾何学の新展開:甘利 俊一
- 情報幾何の考え方や見方は情報理論とも関連性が高いので、余裕があれば一度勉強するのが良い。昔の甘利先生の情報幾何の本よりも格段に読みやすい。
学習理論
生体のダイナミックな学習過程を捉える理論となると、強化学習があげられる。ただし、強化学習自体がそこまで理論体系や理論的基礎がしっかりているものでない。
以下、強化学習やその生物学的応用で標準的な教科書であるが、生体の適応や学習の理論をやるのであれば、強化学習がそもそも基礎としている、逐次推定(最適フィルター)、決定過程、最適制御などの数理を固めるのが良い。これらの教科書は確率過程のところにまとめてある。
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計算論的神経科学:田中宏和
- 最適制御・最適推定・確率制御・強化学習などのトピックを脳の情報処理にからめて概説した教科書。これらの手法の数理をこの本だけで学ぶことはできないが、どんな形で使われるかを理解するのには役に立つ。線形系を前提にかかれているが、取り上げられている理論は一般に非線形でも使える(非線形の場合については以下の「確率過程」に関する教科書紹介の部分を参照のこと)。
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Reinforcement Learning: An Introduction:Richard S. Sutton、Andrew G. Barto
- 強化学習の超定番の教科書。内容が古かったが内容を刷新した2nd editionが最近公開された。PDFが著者のページからダウンロードできる。
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これからの強化学習:
- 日本語で最近の強化学習の進展を理解するのに適当なレビュー本。
参考資料
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神経回路網の数理:甘利 俊一
- 甘利先生による教科書。古典。細胞の問題を扱っているわけではないが、一度眺めてみても損はないと思う。
確率現象の理論
確率現象の理論や確率過程の理論は、確率的な生体の振る舞いを記述・解析するだけではなく、その熱力学的な性質や情報処理的な側面を捉える上でも基礎になります。
理論生物や理論生物物理学では非測度論的な確率システムの解析が一般的です。以下では代表的な教科書を紹介します。合わせて関連する確率熱力学や情報熱力学も取り上げています。
非測度論的な確率システム理論
主に理論生物や理論物理で定番の教科書です。測度論は使わずに記述されています。物理や化学・生物向けの確率過程に関する日本語のいい本があまりなく、結局英語の教科書で勉強することになります。
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Stochastic Methods: A Handbook for the Natural and Social Sciences:Crispin Gardiner
- 定番中の定番。マスター方程式・確率微分方程式・フォッカープランク方程式、方程式近似や数値計算法までをカバーする。著者がマスター方程式の解をポアソン分布の重ね合わせで表現するポアソン表現の開発者なので、その項目が特徴的。ポアソン表現は第二量子化による確率過程の近似表現の話と対応している。
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Stochastic Processes in Physics and Chemistry: N.G. Van Kampen
- Gardinerと並ぶ定番の教科書。こちらは線形ノイズ近似法にかなりの部分を割いている点が特徴。確率的な化学反応方程式と決定論的な化学反応方程式の間の対応や化学フォッカープランクの妥当性などが主眼なんだろうが、個人的にはそのへんはこういうやり方でなく、マルチンゲールでみるのが一番だと思っている。
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Noise-Induced Transitions: W. Horsthemke, R. Lefever
- Gardiner・Kampenの教科書ほど有名ではないが、基礎部分では同じような範囲をカバーする教科書。タイトルにもあるように、著者はノイズ系における分岐現象(ノイズ励起転移)を1970年代に扱った研究者であることから、そのあたりの内容が豊富。ノイズ励起転移はシステム生物学でも再注目されている。なお、この手の研究は当時流行ったらしく、鈴木先生や金子先生も昔手をつけている。ノイズ励起転移は結局座標変換に不変な転移でないことがわかり、物理系の研究者は興味を失ったが、力学系的分岐の確率版を構成するArnoldのRandom Dynamical Systemsにつながる。
副読本
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Stochasticity in Processes Fundamentals and Applications to Chemistry and Biology:Peter Schuster
- 比較的最近(2016)の教科書。上述の教科書と比べると、確率・確率分布・統計量・測度論的確率ほか前半で基礎知識に関するかなり丁寧な導入がなされている。その分ページ数は多い。確率・統計の基礎をすでに別の本でやっている人は不要だと思うが、そのあたりから始めたい人には悪くないかもしれない。
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The Fokker-Planck Equation: Hannes Risken, Till Frank
- フォッカープランク方程式の解析法などについて色々調べたい時に参照する辞書的な本。マニア向け。
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Nonlinear Fokker-Planck Equations: Fundamentals and Applications:Frank, T.D.
- Fokker Plank方程式は、独立同一な個々の確率的システムのダイナミクスを分布(集団)として表したものだが、個々のシステムの間に平均場的な相互作用を考える場合、非線形のPFが現れる。こちらは非線形FPに特化した教科書。
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ミドルワールド:マーク・ホウ
- 物理・科学・生物に関連する確率現象を扱った啓蒙書。おすすめです。絶版ですが。
確率熱力学・情報熱力学
非測度論的な確率システム理論で紹介した教科書はあまり熱力学とか統計力学との接続は意識されて書かれていない。熱統計力学の基礎として確率過程を扱う教科書や、その発展としての確率・情報熱力学の教科書も多数ある。自分は専門ではないので以下は代表的で定番なものに限られる:
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Statistical Thermodynamics of Nonequilibrium Processes: Joel Keizer
- Gardiner, Kappen, Horsthemkeの教科書はあまり熱力学や統計力学の接続を意識したものではないが、こちらはそのあたりに主眼をおいて書かれた教科書。物理系の人はこちらでもいいかもしれない。
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ゆらぎのエネルギー論: 関本 謙
- 確率熱力学の古典であり定番の教科書。英語versionもある:Ken Sekimoto
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Thermodynamics of Information Processing in Small Systems:Takahiro Sagawa
- 東大沙川さんのD論。D論にして情報熱力学の定番。内容も簡潔だがわかりやすくとてもおすすめ。
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Stochastic Thermodynamics: An Introduction:Luca Peliti and Simone Pigolotti
- 確率熱力学の最新の教科書。基本的なところからも書かれているので、1から勉強するにはこちらも良いと思う。実はPrefaceに私の名前が載っている。
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An Introduction to Stochastic Thermodynamics: Naoto Shiraishi
- 白石さんによる最新の教科書。基本からの勉強にはこちらかLuca & Simoneのどちらかがおすすめ。
確率過程の理論
非測度論的な確率システムの理論だけでかなりのことはできるのですが、数学で一般的な測度論的な確率過程もちゃんと学んでおくと、使える手法や読める教科書の幅が大きく広がります。以下では比較的とっつきやすい教科書や、理論生物学と関連が深いトピックを扱った教科書などを紹介しています。
測度論的な確率過程論
測度論な確率微分方程式の教科書は日本語でも英語でも山のようにあるので、ここではあくまで自分の好み・使う本だけをあげている。最近だと測度論どころかまずマルチンゲールから入る教科書も多い。
理論生物学や物理系に読みやすいマルチンゲールや停止時間の教科書がどこかにないかなあといつも思っている。測度論の部分の勉強には、別記事の「数学:確率測度論(ルベーグ積分)」(執筆予定)を参照のこと。
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Stochastic Modeling: Nicolas Lanchier
- 生物系でも使われる確率過程手法の色々なトピックがわりとコンパクトにまとまっている。とりあえず、見てみるにはいい。分岐過程がはじめに出てきて、その後にマルコフ連鎖、ポアソン過程などとつながる順番はちょっと独特。パーコレーションやコンタクトプロセスまで含む。
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確率微分方程式とその応用:兼清泰明
- 測度論的な確率論から順に確率過程やそこに関わる基礎概念を丁寧に解説した教科書。最後は各種応用の内容にも触れている。個人的にはおすすめ。
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確率論の基礎と発展:飛田武幸
- 飛田先生の教科書。測度の基本的な部分も押さえて書かれており、良い教科書だと思う。ただ、それでも測度論や非測度論的な教科書を一度読んでから取り組んだほうがいい。
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数理手法VI(動画):楠岡成雄
- 楠岡先生の授業動画。教科書と合わせて参照してもいいかもしれない。
上級者向け・副読本
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Numerical Solutions of Stochastic Differential Equations:Peter E. Kloeden、Eckhard Platen
- 確率微分方程式のシミュレーションで困った時、統計量がなかなか収束しない時などに参照するが、実装が難しすぎて大概諦め、計算機の力技に頼ってしまう。
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Markov Processes, Brownian Motion, and Time Symmetry:
- マルコフ過程のと発展的な内容の教科書。Time-reversalの扱いなどでお世話になった。
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確率論ハンドブック:伊藤清、渡辺信三、重川一郎
- 確率過程系で何かを調べたくなった時に参照する辞書。各章の著者が違うのでこれで勉強するようなものでは無いと思う。
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Random Dynamical Systems:Ludwig Arnold
- 決定論的な力学系理論と確率過程理論の統合を目指したArnoldの著作(物理のV.Arnoldとは別人)。確率システムにおけるアトラクターとはなにか?分岐とはなにか?カオスとはなにか?が気になった人にはおすすめ。Horsthemkeの教科書を先に読んでおくことが前提。
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Smooth ergodic theory of random dynamical systems:Pei-Dong Liu、Min Qian
- Arnoldの本と比べてかなり薄い。Random Dynamical Systemsの枠組みをちょっとみてみるにはいいかも。
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確率論をめぐって: 高橋陽一郎・志賀
- カオスなども含めた80年代の確率論のあり方を力学系の観点から対話式で記述している。一度周辺事実を勉強してから読むと色々発見することがある。
点過程・セミマルコフ過程・待ち行列
点過程やセミマルコフ過程は、細胞内反応の確率モデリングや、有限サイズ個体群の確率モデルなどで基礎となります。待ち行列や分岐過程もこれらと関連が深いです。また点過程を見て比較することで、確率微分方程式で定義されていた各種の概念(マルチンゲールなど)の効用がわかる効果もあります。日本語の点過程の教科書は少ないですが英語では結構あります。
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点過程の時系列解析:近江 崇宏・野村 俊一
- 点過程を勉強したい人は今はまずこれを読むのがいい。元合原研の知り合い、点過程時系列解析の専門家である近江さんによる教科書。コンパクトで読みやすい。測度論もマルチンゲールも必要ない。
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待ち行列理論の基礎と応用:塩田 茂雄・河西 憲一・豊泉 洋・会田 雅樹
- 待ち行列関連の各種概念を広く押さえた教科書。点過程などとの関係も補遺にまとめられている。
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マルチンゲール理論による統計解析:西山陽一
- 確率過程の教科書でマルチンゲールのアイディアは、市場の無裁定条件などと絡めてしばしば紹介されるが、経済系などをやっていない人間からするとそのありがたみや意味がが分かりづらい。自然科学系のモデリングにおいては、ノイズの一般化と捉えるのが妥当だが、拡散過程ではすでにWiener過程がノイズとして導入されているので、単なる言い換えに見えてしまう。この本は点過程(計数過程)の統計推定のためにマルチンゲールを導入しており、そここころが比較的わかりやすく書かれていると思う。
上級者向け・副読本
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An Introduction to the Theory of Point Processes I,II: D. J. Daley、D. Vere-Jones
- 点過程の標準的な教科書。辞書的に使う。
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Point Processes and Queues: Martingale Dynamics:P. Bremaud
- マルチンゲールをベースにした点過程・待ち行列理論を勉強するには個人的におすすめの本。残念ながら絶版でなかなか手に入らない。
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Semi-Markov Chains and Hidden Semi-Markov Models toward Applications:Nikolaos LimniosVlad Stefan Barbu
- セミマルコフ過程の教科書。隠れセミマルコフやその推定も扱う。DNA配列を応用としてあつかっているが、他にもこの手の手法は1分子計測データの解析に応用できる。
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Elements of Queueing Theory: Palm Martingale Calculus and Stochastic Recurrences: Francois Baccelli, Pierre Bremaud
- 待ち行列は点過程と関連が深いが待ち行列をもう少ししっかり勉強したくなった時の本。
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Random point processes in time and space:Donald L. Snyder, Michael I.Miller
- かなり初期の点過程の教科書。昔は近江さんの教科書がなかったので、こういうのを掘り返して定式化のこころを読み解いたが、今は特に必要ない。
分岐過程・合祖過程・コンタクト過程
分岐過程(branching process)・合祖過程(coalescent process)などは生物特有の確率過程のトピックなのでとても重要ですが、日本語の良い教科書は知りません。以下は標準的な英語の教科書。もう少し包括的な本があってもいいはず。
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Branching Processes in Biology:Marek KimmelDavid E. Axelrod
- 分裂する細胞集団などを扱う分岐過程を初めて勉強する時の標準的な教科書。薄いのでまず勉強するのにお手軽。他にも、 Branching Processes: P. Hacou, P. Jagers, V.A. Vatutinなども入門には良い。
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Introduction to Coalescent Theory:Nordborg, M. (2001)
- Web上で公開されているテキスト。coalescentの教科書でいいものがあまりないので、まずはこちらからまず入るのがよい。
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Gene genealogies, variation and evolution: a primer in coalescent theory:Jotun Hein
- 標準的によく引用されるが、系統解析関係の流れで書かれているので、そちらの情報が多い。
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Interacting Particle Systems:Thomas M. Liggett
- コンタクトプロセスなどを扱う際の定番の教科書。しかし分厚くてちょっとしんどい。
上級者向け・副読本
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Feynman-Kac Formulae: Pierre Del Moral
- 分岐過程などの解析でよく使うファインマン-Kacの公式(確率過程の経路表現と測度変換)に関する辞書的な本。
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Combinatorial stochastic processes:Jim Pitman
- Pitmannによる教科書。分岐過程、Coagulationなどを扱うが、極めて高度で読み解くのは難しい。
大偏差理論
大偏差理論は主に確率過程におけるレアイベントの評価で重要な役割を持ちます。しかしその主要な役割のみならず、大偏差理論で用いられている変分的な手法、例えばDonsker-Varadhan variational formulaなどは、進化過程や確率過程の測度変換などと密接な関係を持ち、非常に重要な理論の一つになっています。
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Entropy, Large Deviations, and Statistical Mechanics: Richard S. Ellis
- Ellisによる大偏差理論の定番の教科書。
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Large Deviation Techniques and Applications:Amir DemboOfer Zeitouni
- こちらの教科書も大偏差理論では定番。
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Phenomenological Structure for the Large Deviation Princile in Time-Series Statistics: Takahiro Nemoto
- 根本さんのD論。ある確率過程においてレアなイベントが、典型的に現れる別の確率過程を求める方法論を扱う。数式が重く結構読むのはしんどいが、面白い内容。
確率システムの情報処理・制御の理論
確率過程を基礎として、確率的時系列の推定やそれに基づく意思決定、そして確率システムの制御などを扱う理論は、細胞や生体の情報処理を理論的に考える上でも有用です。
以下で取り上げているリストはいわゆる統計推定や制御分野での標準的な教科書とは異なっています。これは、細胞・生体システムは非線形で連続時間の確率システムであることが一般的なため、なるべく非線形な系と親和性があるものを取り上げているからです。
最適フィルター理論・推定理論・統計的決定理論
フィルター理論とは確率的なノイズが含まれた時系列観測から背後の変動を読み解く理論体系です。この分野はある意味二分されています。カルマンフィルターやその改良、粒子フィルターなど工学や統計の分野で扱われてきた内容がよく目にするものです。
他方で、確率過程理論の一部としての最適フィルターの理論があり、こちらも実はベイズフィルター(ただし連続時間)と基本的には同じものです。後者は日本語の教科書なども少なくあまり知られていませんが、連続時間でのモデル化が基本の細胞内システムなどにおいて、その情報復号などの問題を扱う上では連続時間の理論が欠かせません。その理論のオリジンは実は確率積分で有名なStratonovichにさかのぼります。また点過程などについてはP. Bremaudの教科書に一部記載があります。
そして、統計の分野では逐次決定理論(sequential decision theory)・統計的決定理論(statistica decision theory)において、統計推定に基づく何らかの決定とその最適性が扱われます。こちらも特に逐次決定理論は逐次推定と関連が深く、生物の問題では推定された情報の価値などの扱いで重要になります。
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非線形カルマンフィルター:片山 徹
- 工学的な範囲でのフィルター理論の定番の教科書。カルマンからベイズフィルター、粒子フィルターなどもカバーする。こちらで同じ題名の日本語reviewも見られる。
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確率過程の推定:國田寛
- 確率過程論に基づくフィルター理論の日本語による(まれな)教科書。この分野で著名な國田先生による。最適フィルターなどを読み解く場合にはこちらの理論的枠組が必要。
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Statistical Decision Theory and Bayesian Analysis:James O. Berger
- ベイズに基づく統計的決定理論の教科書。標準的だと思う。
上級者向け・副読本
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Fundamentals of stochastic filtering:Alan BainDan Crisan
- 英語での確率過程フィルター理論の標準的な教科書(だと思う)。少し分厚いのでこれで学ぶのは少ししんどいかもしれない。
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Conditional Markov Processes and Their Application to the Theory of Optimal Control: R. L. Stratonovich
- Stratonovichが初めて最適フィルターを提案した当時の書籍。これで勉強することがわかりやすいかというとそいういうことも無いが、歴史的な意味では大事な本だと思う。
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Transformation of Measure on Wiener Space:Ali Süleyman ÜstünelMoshe Zakai
- 最適フィルター理論のZakai方程式で有名なZakaiによる測度の変換に関してまとめた本。極めて数学的。
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捜索理論における確率モデル:宝崎 隆祐・飯田 耕司
- 捜索は推定を含むより広い課題で生物の問題とも関連性は深い。ただ体系化はされていないのでどちらかというとこの本も事例集的な側面が強い。
マルコフ決定過程理論・確率制御理論
マルコフ決定過程は確率最適制御理論や強化学習理論の基礎になっている。強化学習を学ぶにしても、まず確率最適制御とマルコフ決定過程の基礎を学ぶことが重要。
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確率システム入門:大住 晃
- 確率過程の推定問題や確率制御との関係までをカバーしている日本語の教科書。非測度論的なので読むのは難しくはない。
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マルコフ決定過程:中出 康一
- 日本語によるマルコフ決定過程の教科書。セミマルコフ過程や部分観測可能マルコフ決定過程までも含む。
上級者向け・副読本
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Deterministic and Stochastic Optimal Control:Wendell H. Fleming, Raymond W. Rishel
- 一般的な制御理論の教科書は線形系を基本としているため、あまり生物の話とは相性が良くない。著者のFlemingは非線形なCole-Hoph変換に基づき、非線形な推定問題と確率制御の関係を指摘した分野の大御所である。このあたりは近年Control as inferenceやKL controlなどとも接続しており、生物の問題への応用性も十分あると思っている。ただし、この本でその内容が特に扱われているわけではないことに注意。
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Controlled Markov Processes and Viscosity Solutions:Wendell H. Fleming, Halil Mete Soner
- こちらもFlemingによるマルコフ過程の制御についての教科書。advanced。
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Mathematical Control Theory:Eduardo D. Sontag
- こちらは決定論的システムの制御を扱う標準的な教科書。Sontagはシステム生物学の理論においても活動をしており、その観点からここでリストに加えた。
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Markov Decision Processes: Martin L. Puterman
- マルコフ決定過程の英語の教科書でよく引用されるものの一つ。フォントが読みづらいのが難点。
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Decision and Control in Uncertain Resource Systems:Marc Mangel
- 不確定なリソースの管理や制御を扱った理論の教科書。古い本だが、非線形な制御などの問題も扱い悪くないと思う。私がこの手の話題を初めて勉強した時の本。絶版だったが最近再販された。
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マルコフ決定過程:モデル化の基礎と応用事例:前田康成
- 理論より具体的な運用とどんなふうにマルコフ決定過程での計算がなされるかに焦点を当てた本。確かにマルコフ決定過程はいろんな要素が出てきて結構複雑。上述の教科書などでイメージが沸かないと思ったらこちらを見てもいいかもしれない。ただこれでもか、というくらい細かい所の計算(例えばmaxを取る時の中の変数の値とか)まで書かれているのでちゃんと追うのは大変。
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