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細胞の理論生物学の学び方(学部前期向け)

32 min read

東大生産研 定量生物学研究室の小林です。
研究室にゼミで参加する学部生や、見学などにいらっしゃる学部学生から聞かれることが多いので、理論生物学の教科書や、理論生物を学ぶのに必要となる数学・物理・計算機・生物学の主読本・副読本を独断の偏見に基づきまとめてみました。
トピックごとに整理し、難易度などを目安として載せる予定です(未作業)。学部1,2年生向けです。

学部後期、大学院向け(研究用)は教科書については、細胞の理論生物学の学び方(学部後期・大学院編)を参照してください。

はじめに

理論生物学も分野として対象とする現象は結構広いです。
進化・生態などのマクロな現象から、運動・探索などの個体の現象、発生や生理学などの組織スケールの現象、そして細胞や分子・ウィルスなどミクロな現象にもわたります。

ここでは主に私が専門とする細胞スケールの話を中心にカバーします。他のトピックについてはだれか執筆してくれると期待します。

数理(技術)と視点(考え方)のバランス

理論生物学では、数理の技術と考え方の2つのことをバランスよく学ぶことが肝要です。
数理技術は実験で言う顕微鏡などの機材に当たります。高度な数理を身につけるほど、高度な解析や研究が可能になりできることの幅が広がります。ただし実験と違って、予算が手に入れば誰でも使えるわけでなく、研究者自身が一つ一つ身につける必要があります。

一方、技術を適切に生物における問題に活用するには、どんな現象や問題をどう数理として切り取りあつかえばいいのか、という視点・考え方のトレーニングも必要になります。
これがないと「生物の論文にのっていた数式を持ってきて意味もわからず数理的にいじった研究」みたいなものになってしまいます。しかし他方で、視点やそれに付随する哲学ばかりに傾倒すると、色々評論はするが実際には研究はなにもできない人、にもなってしまいます。

以下では主読本は技術、副読本は主に視点を学ぶという分類で整理しました。

数理(技術)と視点(考え方)のバランスをとることが必須です。また使う数理・数学自体の背後にある概念を学ぶことも、数理を応用してゆく点では大事です。

独学をする時の注意点

ここに記載した教科書はあくまで目安です。
前提となる知識や定番の記法やお約束がわからずに教科書や論文を読んでも理解はできません。特に初学の場合は、自分に馴染みのある問題を手がかりにした教科書を探すほうが早いです。いきなり分野の名著を無理に読むより、学生向けに書いたテキストのほうがよっぽど理解は進みます。
また数学や物理の基礎の場合は、必ずしも最新の教科書がいいわけではなく、昔の教科書のほうが良いこともしばしばあります。今の自分にあった教科書を見つけられるのは自分だけなのです。

もし記載されている教科書を開いて見て「何言っているかわからない」「書いてある記法からしてわからない」 と思ったらもっと簡単な本を探すようにしてください。

数学基礎

理論生物学の教科書を読む場合、どうしても最低限必要となる数学(微分方程式・線形代数・ベクトル解析・確率統計など)があります。ここではその基礎的な数学をまとめます。
また志賀先生の30講シリーズは、数学的厳密さより各分野の気持ちを重点的に記載しており副読本として使うととてもよいです。

数学基礎:全部入り

各教科書は別々の著者によって書かれていて、相互の関係や記法なども統一はされておらず、読みにくいこともあります。ここでは一人の著者が関連するトピック全般を執筆している教科書やテキストを紹介します。速習したい、理解の確認をしたい、などにも好適です。ただこれらは学部3,4年の数学のトピックも一部含みます。

主読本

  • 数学:物理を学び楽しむために:田崎晴明
    • 学習院の田崎さんが執筆し公開している教科書。物理に必要な(したがって理論生物でも有用な)数学基礎のトピックを体系的に網羅しており、おすすめです。復習にも良いです。
  • これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版:千葉 逸人
    • 工学部で主に重視される数学基礎のトピックをまとめた教科書です。東北大学の有名数学者千葉さんが確か学生時代に書かれた教科書です。

副読本

  • 数学という学問 1-3:志賀 浩二
    • 数学の成り立ちの歴史を追った本です。高校数学から大学数学は大きく変化しますが、そこに至る歴史的背景にふれると少しは受け入れやすくなるかもしれません。
  • 物理数学の直観的方法:長沼 伸一郎
    • 概念などがわからなくて躓いた時にもしかすると助けになることがあるかもしれません。

数学基礎:微積分・微分方程式論と力学系

生物のモデリングでは微分方程式と力学系的解析は頻出するので、まずおさえておくべきトピックです。安定性解析などで線形代数も使うので線形代数と合わせて学ぶことが大事です。大まかに、常微分方程式論(とその解法)と力学系理論の入門の2つを順に学ぶといいと思います。
また力学で微分方程式の具体事例にある程度触れてから、勉強するのもよいと思います。

力学系(dynamical systems)は力学(mechanics)と紛らわしいですが、微分方程式・偏微分方程式系を扱った数学の分野です。力学も微分方程式を扱うので、力学系の例として力学の問題はよく出てきます。

主読本

  • 常微分方程式:矢嶋 信男
    • 標準的な微分方程式の解法などから入り、最後は力学系理論の入門的な内容をカバーする。初学者にはいいバランスだと思う。類書に「常微分方程式:竹之内 脩」がある。こちらのほうがもう少し数理的に踏み込んだ内容になっている。
  • 非線形ダイナミクスとカオス:ストロガッツ:
    • 力学系理論の大家による本。力学系は微分方程式の解の性質を微分方程式を解析的に解かずに求めるというポアンカレ以降の手法を体系化した分野です。基本的に理論生物で現れる微粉方程式のほとんどは解けないので、その解析に力学系は必須です。いろいろな例が取り入れられており、解説も詳しいので独習向きです。
  • 微分方程式と数理モデル:遠藤雅守・北林照幸
    • 微分方程式の解法からモデルの作り方までを一通りおさえている。ただし、扱うモデルは物理モデル・電気回路・化学反応など物理・化学系。力学系に関する内容は含まれていない。また解法についてはモデルに合わせて個別に導入されているので、解法を体系的に学ぶには不向きかもしれない。
  • 微分方程式入門 (基礎数学):高橋陽一郎
    • コンパクトですがその分内容が凝縮しています。復習として使うといいかもしれません。
  • 力学系入門 :Hirsch・Smale・Devaney
    • 力学系理論の標準的かつ定番の教科書です。少しページ数が多いですが、その分説明が多く丁寧になっているので、独習にはいいかと思います。

副読本

  • 微分・積分30講 (数学30講シリーズ) 志賀 浩二
    • 微分・積分の復習に
  • 解析入門30講 (数学30講シリーズ) 志賀 浩二
    • 物理と同じく理論生物でε-δ論法などを使うことはあまり無いですが、解析の基本的な項目をおさえるのに一度よんでおいたほうがいいと思います。
  • 微分方程式と線形代数:ストラング,ギルバート
    • かなり丁寧に書かれた微分方程式とそこに必要な線形代数の教科書。もし主読本で難しすぎるようであればここから始めるのも良い。ただ値段が高いのが玉に瑕。
  • 常微分方程式の解法 :新井 仁之, 小林 俊行他
    • 微分方程式は常に数値計算は可能ですが、直接解を求めることができればより詳しいことがわかります。微分方程式の色々な解法を知るのに一読する価値は有るかと思います。
  • 力学と微分方程式:高橋陽一郎
    • 力学が好きな人は、こちらのほうが力学系関連の概念をよりつかみやすいかもしれません。あっさり書かれてますが、微分方程式の解法から、力学系の基礎、解析力学関連の変分方など、結構内容は凝集しています。
  • 数理モデル入門齋藤誠慈
    • 微分方程式の解法とその事例がコンパクトにまとまった教科書。理論生物学のモデルも例としていくつか含む。説明は簡潔なので、独習にはあまり向かないかもしれない。
  • 微分方程式で数学モデルを作ろう:デヴィッド・バージェス モラグ・ボリー, 垣田 高夫他
    • 理論生物学において、微分方程式モデルは与えられて解くもの、だけではなくてしばしば自分でモデルを立てる必要があります。そのモデリングのセンスを磨くのは難しいですが、色々なモデル化の方法を知っておくのが一つの方法だと思います。こちらの本はモデリングのこころを比較的丁寧に書いてあります。一方で解析方法などについての内容は薄いです。

数学基礎:線形代数・ベクトル解析

線形代数はどこでも出てきます。本当にすべての基礎です。折に触れて繰り返し勉強するのが良いです。いつでも新しい発見があります。行列の種類・行列式・線形空間・線形作用素・逆行列・固有値あたりまでできればいいと思います。なおジョルダン標準形はよく教科書に出ますが、理論生物学で現れるのを見たことは未だありません。
ベクトル解析は微分方程式系の解釈にも大事ですが必ずしも1,2年生で必要ではないかもしれません。大学のカリキュラムによっては電磁気で触れるとは思います。形態形成などでは、テンソルなどを理解する必要があるので、そちらをやる場合にはその基礎として必須だと思います。

主読本

  • 線型代数入門:齋藤正彦
    • 歴史のある定番の教科書です。構成も標準的だと思います。
  • 基礎系 数学 線形代数I :室田 一雄, 杉原 正顯他
    • 少し工学よりの線形代数の入門書です。東大計数の先生の執筆です。線形空間などの導入の前に、先に各種の行列の導入などを行い、線形微分方程式だけでなく二次形式や特異値など最適化や統計・機械学習などを見据えた内容が網羅されています。後半は学部後期レベルになってきます。この本がカバーできれば学部レベルでは十二分だと思います。

副読本

  • 線形代数30講 (数学30講シリーズ)志賀 浩二
    • 線形代数の教科書を読んでいて、何をやっているのか、何をやりたいのかに迷ったら読んでみるといいかもしれません。
  • ベクトル解析30講 (数学30講シリーズ)志賀 浩二
    • テンソル代数・外積代数などを含むのでちょっとadvanceです。参考として読むといいかと思います。
  • 線型代数 生態と意味 :森 毅
    • 線形代数がどのように使われているのかを比較的平易に(しかしちゃんと数式はつかって)解説しています。一度線形代数を勉強したあとに読んでみるといいかと思います。
  • 線形代数:草場公邦
    • コンパクトでよくまとまった本です。線形空間などに主眼がおかれ、行列の種類などのトピックはありません。私は学部1年で草場先生に線形代数を習いました。残念ながら本は絶版です。
  • ストラング:線形代数イントロダクション:Gilbert Strang
    • カバーしているのはかなり初歩の初歩です。日本語の本は高額なので買う必要は無いですが、英語版は無料で公開されています。
  • ストラング:線形代数とその応用:Gilbert Strang
    • 海外の有名な教科書ですが、連立一次方程式から入り、行列式・固有値固有ベクトル程度で終わってしまう。あまりいい本だとは思わないが、行列数値計算や線形計画法などとの関係が乗っているのがちょっと特徴的。
  • Introduction to Applied Linear Algebra
    • 基本的な内容に加え、クラスタリングや最小二乗法の章を含むなど、機械学習への応用を意識した線形代数の教科書です。ネットでテキストが公開されています。
  • 行列代数あれこれ:山上 滋
    • 山上先生が公開されているテキスト。このテキストだけでも十分勉強できます。

数学基礎:確率・統計:

確率モデルは理論生物学での頻出項目です。
またモデルと様々なデータとを対応させる上で統計・機械学習の知識も今や必須となっています。
確率モデルは微分方程式を前提とするため、少しアドバンスなのでまずは標準的な統計の知識を身につけるのが良いかと思います。

確率・統計の学習で重要なポイントは2つあります。一つは確率・統計の概念や背後の哲学を理解すること、もう一つは現代的な確率論が古典的な確率論と数理的にどう関係しているかを把握することです。前者は考え方、後者は技術の側面が強いです。

前者については、確率や統計は数式を追うだけでなく、その基礎にある概念や発想を理解するのが大事です。確率とはそもそも何なのか?統計でデータから推定するというのはどういうことなのかというのは多分に哲学的な側面を含み、これが確率や統計をわかりにくくしています。このような側面は教科書だけで理解するのは難しいので、副読本などを一緒に読んで並行して理解を深めるのが大事だと思います。

後者については、理論生物や物理系の確率過程の本などでは古典的な確率論を元に教科書や論文が書かれていることが多いので必ずしもすべての人に必要なわけでは有りません。しかし生体の確率現象などを確率過程で扱うときには、確率過程の教科書を読むこともあります。その多くは現代的な確率論(測度論に基づく確率論)ではじめから書かれているのでこれを理解する必要があります。古典と現代をつなぐ本はそんなに多くないので、下記では副読本としていくつか取り上げています。

主読本

  • 統計学入門:東京大学教養学部統計学教室
    • 統計の入門として標準的かつ定番の教科書です。
  • 自然科学の統計学:東京大学教養学部統計学教室
    • 統計学入門をよんだあとにこちらも学習することをおすすめします。
  • 入門ベイズ統計:松原 望
    • ベイズ統計の学部向けの入門書です。副読本と合わせてベイズ特有の考え方も学ぶのがいいと思います。
  • 入門確率過程:松原 望
    • 確率的なモデルの一番簡単なものはマルコフ連鎖でそれだけでも色々理論生物では有用なのですが、どうしても一般の本だともう少し先の確率過程まで入ってしまいます。この本もそうですが、古典的な確率を元に議論を進めているので理解はしやすいと思います。7章くらいまで分かればまずはいいかもしれません。

副読本

  • 統計学とは何か―偶然を生かす:C.R.ラオ
    • 統計学の大家ラオによる統計学の思想や歴史についての解説。一度統計を学び、やっぱりよくわからんな、と思ってから読むと、やっぱり統計は色々難しい部分が有るのだ、というのがよく分かる。
  • 異端の統計学 ベイズ: シャロン・バーチュ・マグレイン
    • ベイズ統計やその歴史についての啓蒙書。最近は頻度主義・ベイズ主義の議論はおこらなくなったが、結果から原因を推測する、という行為の背後にある問題を理解するには役に立つ。これも一度ベイズ統計を学んでから読むと良い。
  • 新装改訂版 現代数理統計学:竹村 彰通
    • 非常に評価の高い統計の教科書。わからないことがあったらこちらを参照するのが良いと思う。
  • 確率と統計―情報学への架橋:渡辺 澄夫, 村田 昇
    • 情報系への接続を意識した確率・統計の本。薄くて読みやすいがその分内容は凝集しているので、一度統計を勉強してから手に取ると良い。
  • 確率モデル要論―確率論の基礎からマルコフ連鎖へ:尾畑 伸明
    • 確率論から確率過程までをカバーした適度な難易度の教科書です。「入門確率過程:松原 望」の変わりにこちらでもいいです。
  • 確率論入門 Math&Science: 赤攝也
    • 古典的な確率論(高校数学的な確率)から現代的な確率論までの間をつなぐ珍しい本。古典的な確率をある程度できるようになったあとに読むと、その先の現代的な確率論への入門が楽になると思う。
  • 眠れぬ夜の確率論:原 啓介
    • 確率とは何か?という問題にまつわる色々な話を集めた読み物。確率やベイズなどは前提としているので、やはり勉強してから読むと面白い。
  • マルコフ・チェーン:渡部 隆一
    • マルコフ連鎖を中心的に扱った珍しい本。残念ながら絶版。

数学基礎:その他、集合論、位相、代数、複素解析

集合論、位相などは理論生物学でほぼ現れません。しかしこれらは上述の基礎以上の数学を学ぶ上での共通言語で数学の教科書などで前提として現れるので、一度学んでおくことが必要です。ただ言葉や概念などを把握すれば、必要以上に踏み込まなくても大丈夫です。
群・環・体などの代数も理論生物学で頻出するわけでないのですが、基本的な概念をおさえておくことはその後の学習に役に立つので奨励します。また複素解析もあまり現れません。フーリエ解析などを理解するのに必要な複素数・複素平面くらいでもなんとかなりますが一度内容を概観しても損はありません。志賀先生の30講シリーズはこの目的でおすすめです。

主読本

理論生物学

理論生物学は数学や物理と違って各分野が完全に体系化されているわけでは有りません。そのためどうしても教科書よりは事例集という形になってしまいます。
各書籍にかかれているところを全部余さず読むというより、興味があるところを個別にピックアップするのが良いかと思います。また、力学系の本を読んで理論的な背景がある程度理解できた後にこれを読むとよいです。
理論生物も内部のコミュニティーに依存して、流派があります。進化・生態などの流れをくむ日本では一番歴史のある流れ。物理・生物物理・生化学の背景を持つ研究の流れ。工学・サイバネティクスや神経科学の背景を持つ計算論的生物学の流れなどです。
物理および計算論からの流れについては、独自の視点や哲学もあるので、カテゴリーを分けて見ました。

理論生物学:一般

物理系・計算論系などに偏らず、基本となる教科書などです。まずはここから見てゆくのがいいと思います。

主読本

  • 細胞の理論生物学:ダイナミクスの視点から :金子 邦彦, 澤井 哲他
    • 一番最近の本です。著者は物理系ですが、基本的な事項を網羅していると思います。
  • システム生物学入門 生物回路の設計原理 :Uri Alon
    • システム生物学の教科書として定番です。概念や考え方を重視し、数理的な部分はかなり省かれているので、そこを補完する必要があります。ただ、出版から時間が経っています。英語では第二版が出ているので、英語が見れる人はそちらを勧めます。
  • 理論生物学概論:望月 敦史
    • 京大の望月さんによる単著の教科書。細胞の理論生物学よりも少し広いが理論生物学で頻出のトピックを扱う。特に著者の研究である反応構造に基づく力学系解析の部分は充実している。
  • 生命科学の新しい潮流 理論生物学: 望月 敦史(編)
    • 日本の中堅研究者によるオムニバス的な書籍です。体系的に勉強するには難しいかもしれませんが、理論生物の様々なトピックを概観するのに良いとと思います。また著者の皆さんは研究室を持たれているのでその研究を日本語で知るのにも良いかと思います。
  • 数理生物学入門―生物社会のダイナミックスを探る:巌佐 庸
    • 日本の数理生物学の大家である巌佐先生の教科書です。こちらもオムニバス的です。進化や生態などのトピックが主で古いですが、使っている数理的な方法は力学系にかぎらず最適化やゲーム理論などとても多様です。それらを生物の問題にどう応用するのかを学ぶ上で、色褪せない非常に良い事例集だと思います。
  • 生命の数理:巌佐 庸
    • 数理生物学入門に続く教科書です。こちらのほうが細胞系の話が増えています。
  • マレー数理生物学入門
    • 数理生物学の代表的な英語の教科書の翻訳です。こちらも広いトピックをカバーしているので、興味があるものをピックアップしてみるのが良いと思います。
  • 演習で学ぶ生命科学 第2版:東京大学生命科学教科書編集委員会
    • 東大で編集された教科書です。誤植が多いとamazonにありますが、取り上げられている内容などは悪くないと思います。

私が知る中で日本で一番古い理論生物の教科書は、函數生物學:八木誠政・小泉淸明 1929年です。残念ながらまだ実物を見たことはありません。

副読本

生命現象を理論的に考える営みの解説や理論生物学と相性の良い問題。そして生命現象を理論的にとらえる視点や哲学を学べる本をいくつか取り上げています。

  • 定量生物学:小林徹也(編)
    • 定量的な計測に立脚する定量生物学は理論研究ととても相性が良いです。各章では異なる現象をあつかっているので、これで勉強するというより自分が興味が持てる現象を探すのに活用すると良いです。
  • 数学で生命の謎を解く:イアン・スチュアート
    • 理論生物学を扱った一般向け啓蒙書です。著者は有名な数学者です。
  • 自己組織化と進化の論理:スチュアート・カウフマン
    • 理論生物学・複雑系の専門家であるカウフマンによる一般向けの啓蒙書。金子さんなどの複雑系理論生物学者の考え方などがわかるかと思います。
  • SYNC:スティーヴン・ストロガッツ
    • 同期現象に特化していますが、振動現象に関わる読み物として面白いと思います。
  • これが生物学だ―マイアから21世紀の生物学者へ: エルンスト マイア
    • 生物哲学の本です。生物学の基本問題とは何なのか?という部分を議論しています。私自身もPD時代にこれを読んで、広い視点に触れることができたと思っています。
  • 生物学のすすめ: ジョン メイナード=スミス
    • 進化生物学の大御所による生物学の外観。こちらも細かい分子などの話よりは、何が問題なのか、という点を考えるきっかけになると思います。

理論生物学:物理系

生化学からの流れを組む理論生物学の研究は、進化・生態などのマクロからの研究と並んで理論生物学の大きな柱になっています。特に物理に立脚して生物を眺めたい人におすすめです。

主読本

  • 細胞の物理生物学:Rob Phillips, Jane Kondev他
    • 非常によくまとまった教科書です。版を重ねるごとに厚くなりすぎてしまっているのがちょっと難点でしょうか。 この本を元にしたCaltecの講義動画がここから視聴できます。
  • 数でとらえる細胞生物学:Ron Milo , Rob Phillips他
    • 細胞現象に関わる様々な計測量・物理量をまとめた教科書です。単なる数字のリストではなく、単体でも楽しめる書籍です。副読本にも最適です。
  • 生体分子の統計力学入門 :Daniel M.Zuckerman
    • 熱力学・統計力学の初歩と合わせて、生体、特に生体分子系のトピックを扱う教科書。細胞の物理生物学よりも薄くて、こちらから学習するのも有りかもしれない。

副読本

生物を「物理的に見る」という観点での副読本を集めてみました。

  • 生命とは何か―物理的にみた生細胞: シュレーディンガー, Erwin Schr¨odinger他
    • 量子力学で有名なシュレディンガーによる小冊子。生命現象を物理的にみるという点で古典中の古典。
  • 普遍生物学 物理に宿る生命、生命の紡ぐ物理 : 金子 邦彦
    • 日本における物理系理論生物学の大御所金子先生による著書。力学系・複雑系を基礎としており、必ずしも一般的な見方ではないですが、提起されている問題など非常に示唆に富む内容です。
  • 生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く: ポール・デイヴィス 、 水谷淳
    • 熱力学・情報熱力学などの視点から生命科学を扱った啓蒙書です。悪くは無いと思いますが、専門家による書ではないので結構勘違いして書いているところも多いです。
  • 数理生理学(上) 細胞生理学:J. P. キーナー J. シュナイド
    • 細胞内生化学反応やイオンチャンネル・カルシウム動態などミクロに細胞をモデル化するトピックをあつかい悪くない教科書です。ただし、残念ながら絶版です。
  • 生命現象と物理学 「生きもの」と「もの」の間:北原 和夫/田中 豊一
    • 生命現象を物理としてみるトピックが色々取り上げられています。絶版ですが、図書館などで見かけたら一読してみても良いかと思います。
  • 生命の物理:大沢 文夫, 寺本 英, 斎藤 信彦, 西尾 英之助
    • こちらも絶版の教科書。今は「細胞の物理生物学」があるのでそちらで良いですが、見かけたら一読してみても損はないかと思います。

理論生物学:システム・計算論系

生物系を見るのには最低でも2つの視点があります。一つは、自然科学として、生物がどんな物質・どんな物理的な法則に立脚してできているかを客観的に眺める視点です。
もう一つは、生物系は人間も含めある種の情報処理をするシステムであると考え、そのシステムがどう世界を認識しているのか、どれくらいよくできているのか、と考える視点です。
このシステム的・計算論的視点は脳科学研究の中で育まれましたが、それ以外の生命現象の理解においてもますます重要になっています。私はこの流れを汲む研究者です。

主読本

システム・計算論に基づく理論生物学に関して学部1,2年生に適切なレベルの主読本はいいものが有りません。3,4年で学ぶもう少し専門的な分野(情報理論や最適制御、強化学習)をベースにしているからです。
あえて言えば「システム生物学入門 生物回路の設計原理 :Uri Alon」が近いです。主読本に関してはまずは理論生物学(一般)のそれを勉強してもらえればいいかと思います。

  • 行動データの計算論モデリング
    • 理論生物学と少し方向性は外れますが、強化学習の入門として下記の本は学部1,2年生でも十分おえる内容になっています。

副読本

  • ウェットウェア 単細胞は生きたコンピューターである: デニス・ブレイ
    • 細胞を化学的なコンピューティングシステムと見る見方を解説する啓蒙書です。比較的新しく研究室に所属する学生には読むことを勧めています。ただ絶版なので中古で手に入れる必要があります。
  • 脳の大統一理論: 乾 敏郎/阪口 豊
    • Fristonによる自由エネルギー原理の概略を解説した本。自由エネルギー原理自体は個人的には微妙だと思っているが、この本の中で取り上げられている知覚・認知・記憶の問題は、脳に限らず生体情報処理に非常に重要です。問題意識を学ぶのに良いと思います。
  • サイバネティックス――動物と機械における制御と通信:ノーバート・ウィーナー
    • 1950年代の制御・通信・情報理論の発展を背景として、それらの基盤に立って生命現象をみる方法論を唱導した古典。数学的な議論もかなり含まれているので、ある程度勉強を進めたうえで戻ってきても楽しめると思う。
  • 生物から見た世界:ユクスキュル・クリサート
    • 生物から見た認知の世界、という視点を与えた古典的な本。出だしで生物機械説を否定しているが、むしろ現代的には生物をより高度な認知機械・システムとして見る上で示唆的な内容になっている点が面白い。
  • 生態学的視覚論:J. J. ギブソン
    • ヒトの視覚を対象として、認知の問題を扱った古典。考え方はヒトだけでなく広く生物の認知の問題に応用することができる。
  • ビジョン-視覚の計算理論と脳内表現:デビッド・マー
    • 計算論的神経科学の祖であるデビッド・マーの代表著書。数式は殆ど出てこないので学部前期でも十分読めると思う。
  • アフォーダンス-新しい認知の理論:佐々木正人
    • 認知において身体が重要な役割を果たし、両者が不可分であるというアフォーダンスの考え方は重要である。その概要を掴むのに良い。ただし著者は芸術系であり、理論系の研究者ではないのでその点は割り引いて読むこと。
  • 数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ: イーヴァル・エクランド
    • システムや計算論の観点で生物を眺めると、最適化もしくは変分という視点が基盤になる。これに対して「生物は最適化なんかしていない」というナイーブな批判があるが、翻って物理でも変分の概念は基礎となっており、そこでは「自然は最適化はしない」などという批判は少なくとも現代的には出てこない。その背景を解説した啓蒙書。生物の観点でも重要なのであえてここに副読本として入れている。

物理学基礎

定量的な計測や実験を元に、現象の背後に潜む法則を数理を使って書き出し、さらにそこから新たな現象を予測したり現象の本質的な理解を深めることに関して、古典的な物理は非常に良いお手本に溢れています。自分は物理には興味はないと思わずに、ちゃんと物理を勉強すると理論生物学の研究でも多大な恩恵を受けることができます。そのため、物理出身で物理の教育を受けた人は理論生物学への馴染みも非常に早いと思っています。

物理基礎:力学

微分方程式やそこに付随する保存則や対称性などの構造を理解することや、「現象を数式でモデル化する」というプロセスの学習にも力学は最適です。

主読本

  • 考える力学:兵頭 俊夫
    • 高校物理の次に勉強するのに適した力学の教科書。非常に評判のいいです。
  • 力学 (物理入門コース 新装版):戸田 盛和
    • かなり簡単にかかれているので、高校で物理を勉強しなかった人はこちらからでもいいかと思います。
  • よくわかる初等力学:前野 昌弘
    • こちらも丁寧で評判が良い力学の教科書です。

副読本

  • 力学(三訂版):原島 鮮
    • 発展的内容を含む教科書で、参考として使うのが良いかと思います。
  • 基幹講座 物理学 力学 (基幹講座物理学):篠本滋, 坂口英継
    • 例題としてパラメトリック振動など発展的な内容を含む教科書です。そのような例に触れるのに良いかと思います。
  • 力学―新しい視点にたって:V.D.バージャー, M.G.オルソン
    • 通常の物理教科書とは様相の異なるオリジナルな例題が多数掲載された教科書です。またコマなどの剛体運動に関するトピックも他書より豊富です。私はこの演習問題が学部時代に気に入って結構使いました。
  • 古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ :山本 義隆
    • 力学は物理の単元の中でもかなりストレートに内容がわかるので余り必要はないかもしれませんが、歴史を知るのもいいと思います。

物理基礎:熱力学・統計力学

熱力学・統計力学は理論生物において、特に生体分子や細胞現象のモデル化で頻出します。また統計力学はそこで使われる数理的方法は、群れの運動や生態などよりマクロな系でも使われます。力学に次いで重要なトピックです。
ただ特に熱力学は「理解できた」というところに到達するのが非常に難しいです(というかそういう人はいるんでしょうか?)。理解するつもりで勉強するのはもちろんですが、完全に理解できることにこだわり時間をかけすぎないようにしましょう。むしろ折に触れて、何度も勉強し直す、というのがよい分野だと思います。

主読本

  • よくわかる熱力学:前野 昌弘
    • 非常に詳しく書いてあり初学者の独習に向く教科書だと思います。
  • 化学熱力学 (物理化学入門シリーズ):原田 義也
    • 化学熱力学で定評のある教科書です。
  • 熱力学―現代的な視点から:田崎 晴明
    • 日本で評価の高い教科書です。操作性の観点から熱力学を構築することを目指しています。丁寧に書かれているので、しっかりと読めば学部生でも十分追えると思います。この教科書とよく対比されるものとして、エントロピーを起点として熱力学を構築する清水の「熱力学の基礎」もあります。
  • 統計物理-バークレイ物理学コース-
    • 統計物理に関する入門書。直感的議論から始めて、最終的には統計物理の基本的な内容をカバーする。読みやすく内容も初歩的で初学者むき。でも内容はとてもすばらしく、分かりやすい。問題も豊富でいろいろな例を扱っている。

副読本

  • 熱学思想の史的展開:山本義隆
    • 熱力学という分野が成立する歴史的過程を追った本です。熱力学のわからなさをわかるのに歴史を追うのも一つのやり方だと思います。
  • 熱力学で理解する化学反応のしくみ:平山令明
    • あまり数式には踏み込まず、化学反応系で使われる熱力学の概念を解説しています。教科書を読んでいて、道に迷ったりした時に、さっと読んで見るのもいいかと思います。

物理基礎:振動・波動

時空間的な振動現象は生体システムで頻繁に観測される現象です。そのため、振動のモデリングや解析も理論生物学での頻出事項です。物理の振動・波動論はその基礎として学んでおく価値は高いです。

主読本

  • 振動・波動: 小形正男
    • 振動波動論の定番的な教科書。
  • 生物リズムと力学系: 郡 宏, 森田 善久
    • 少しアドバンスドだが生物のリズムに関連させたその道の専門家による良い教科書。

副読本

物理基礎:その他

学部で学ぶ電磁気学は直接その知識が生物で現れることは稀です。ただベクトル解析の非常に良い例題になっているので、機会があれば電磁気学は一度は学んでおくことは損でないと思います。必須では有りません。
力学の発展として、流体力学・連続体力学などはもし形態形成など発生系の研究をやりたい場合には早めに勉強を初めてもいいかもしれません。

主読本

副読本

  • 電磁気学―新しい視点にたって〈1,2〉:V.D. バーガー, M.G. オルソン
    • 電磁気学を一通り勉強したあとに試してみると良い本です。応用系の問題が多数のっています。私はこれで勉強しました。
  • 理論電磁気学:砂川 重信
    • 数学者の砂川先生による電磁気の本です。数学的にかなり高度なので、理論生物学をやるに当たりあえてやる必要は無いのですが、数学方面から物理を理解したい(むしろ物理の人の議論は分かりづらい)と思っている人は試してみるのもいいかと思います。

計算機科学・プログラミング

理論生物学においても、プログラミングと数値計算は必須の技術です。言語を扱えるだけでなく、特に数値計算などを行う上で気をつけることなどを早いうちに学ぶと良いです。

計算機基礎:プログラミング言語

とりあえず、手続き型プログラミング言語をC, Python, Java, Juliaあたりで一つ学ぶこと。2種類くらい学ぶと理解が深まります。Pythonなどが流行りですが、個人的にはCをおすすめします。
演算・型・繰り返し・配列・関数・ポインターに加え、メモリーの取り扱い・再帰・ファイル処理までは学んでいたほうがいいと思います。

主読本

自分の気に入った本を一通りやればいいと思います。特にこれだ、という本は無いです。好きなもので始めるといいと思います。
またプログラミングに関してはオンラインマテリアルでもいくつか見つけることができます。例えば

副読本

計算機基礎:アルゴリズム・科学計算

数値計算などを行いその結果を可視化するなどが研究では必要です。科学計算系の言語Python、Matlab, Mathematicaあたりで一つ学んでおくべきである。こちらでの主眼は、各種科学計算ライブラリーを活用してプログラムを組み、データなどの可視化や保存までができるようになることである。

主読本

  • いますぐ始める数理生命科学:佐藤 純 (単行本)
    • 前半はかなり基礎的なMatlabの使い方。後半は理論生物で現れる色々なモデルの概説とコードが掲載されている。実際に理論生物学で現れる様々なモデルを実際にシミュレーションしてみるプラクティスになると思う。ただモデルの説明などは最小限なので、他の教科書で補う必要がある。
  • 数値計算の常識:伊理 正夫
    • 古典的な名著です。ぜひ一度よんでおくのが良いです。
  • 問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造:大槻 兼資
    • アルゴリズムやデータ構造に関する基本をまとめた教科書で評判が良いです。もちろんコードも公開されています。

副読本

計算機基礎:その他

大学1,2年生のうちに、科学系のタイプライティング、図の作成などを学ぶといいと思います。
Web上のマテリアルなどでも学べるところはあると思います。

  • オフィス系:Word・Google document系・Excel系・Google spreadsheet系
    • 一通りどんな機能がありどんなことができるのかを本などで見ておくと良いです。
  • 科学執筆系:Tex
    • 理論生物学では数式を扱うのでTexを早めにできるようになっておくべきです。今ではoverleafなどで、環境を構築しなくてもすぐに試すことができるようになります。
  • 作図系:Illustratorなど
    • 作図は色々なところで出てきます。一度やり方を学ぶと良いです。特にIllustratorによるトレーシングなどを練習すると、格段に図のクオリティなどが上がります。

生物学 (非生物系の人向け)

生物系で教育を受けている人はここは必要が有りません。
理論生物学を始める段階で必要な生物の知識は、実は高校生物程度で十分です。どんな生命現象をやるかを決めてから初めて、その分野の詳しい分子などを学ぶというのがよくあるパターンです。実際、生物学では既知の知見が極めて早く更新されるので、すぐに知識が古くなってしまい、研究をするには最先端の内容を教科書ではなく論文などで学ぶことがほとんどです。
ですので基礎的な生物の知識を土台として、まずは色々な生命現象の面白い側面などを学び、自分がどんな現象に興味を持つのかを探索して見るのがいいかと思います。以下では副読本にそういう本を色々と見繕ってみました。

主読本

副読本

副読本は科学読み物的なものです。この手の書籍は色々ありますが、なるべくその分野の専門家による本を選ぶほうが良いです。サイエンスライターや分野外の人が書いた本などは、認識が間違っていたり、場合によってはその人の思い込みとかが書かれているものも散見されます。
また、生物は情報更新が早いので、副読本はあくまで面白そうなトピックを見つける手がかりとして使い、実際に取り組む場合には最新の論文などを参照することが必須になります。下記は古い絶版になっているものも取り上げています。

英語

英作文・英会話については様々な書籍やマテリアルが出ています。ここでは理系の本を読んだり、科学的な文章を書いたりする上で役に立つ参考書を主に紹介します。

主読本

  • 数学のための英語教本:原田 なをみ・David Croydon
    • 数学で現れる文章などを元に数学特有の言い回しや関連する文法などを解説している。特に英語で数学を使った文章を書く時などに役に立つ。

謝辞

このメモを作成するに当たり、以下の方にコメントを頂きました。感謝します。

  • 慶応大学 舟橋 啓
  • 東京大学 鈴木 誉保氏
  • 奈良県立医大 高木拓明
  • 東京大学 山口尚人 氏

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