Palette3による多色印刷(3) 〜Canvas編補足〜
前回説明しきれなかった以下の項目を補足として追加しておきます。
- 色替え時のパージ量設定
- フィラメント融着のパラメータ調整機能
- その他の補足
動作環境など
動作環境
項目 | バージョンなど |
---|---|
PCのOS | Windows 10 Pro 22H1 |
スライサー | Canvas |
プリンター | Prusa MK3S+(MK3SからMK3S+へのアップグレード品) |
ノズル | kaika604 |
Palette | Palette3 Pro、ファームウェア:22.08.11.0 |
フィラメント | 無名ブランド4色PLAセット(250g×4、Amazonにて購入・当該品は販売終了) |
プリントサンプル
- flap3_1.stl・・表面の文字
- Flap3.2.stl・・裏面の文字(「ALL MODEL FILES」に含まれず個別ダウンロード)
- flap3.stl ・・文字枠および中間の層
読んでおいて欲しい記事
ここに至るまでの多色印刷記事をある程度目を通したものとして説明を簡略化した箇所があります。多色印刷に関しては手動でもPalette3でも共通の注意点がありますので、できるだけ目を通しておいてください。
1.色替え時のパージ量設定
パージ量設定のマトリクス
前回の実施例では、パージ量(色替え時にノズル内に残った前の色を排出する量)は一律デフォルトの105mmでした。しかし色の濃さに応じて、
- 淡色 → 濃色:パージ量少なめ
- 濃色 → 淡色:パージ量多め
のように設定すべきです。
Canvasでもフィラメント間のパージ量を個別に設定できます。Canvasのプロジェクト画面で「Splice and transition」を選択し、表示された画面で「Transition Lengths」「Use variable transition lengths」をクリックします。
この画面は簡易的な設定のようで、
- パージ量のMin/Maxを設定
- 各色の「弱め(淡い)」「普通」「強め(濃い)」を選択
すると、色の遷移時にいい感じにパージ量を設定してくれるらしいのですが、曖昧な設定は筆者の好みではないので、「Advanced configuration options」をクリックして以下のマトリクス表示にします。
PrusaSlicerと同様にfrom〜toの関係を表しており、各色間のパージ量を設定できるようになっています。
Transitionの比率設定
Canvasでは色替えを「Transition」、パージタワーを「Transition Tower」と表現しており、これらに対する設定が可能です。
プロジェクト画面右の「Project settings」をクリックし、「Transition」を選択します。
この中の設定値を変更することはあまりないのですが[1]、一つあるとすれば「Transition Target」でしょうか。
デフォルトの30%の場合、パージタワー内での1層目の色替えの様子を見ると以下のようになっています。赤から青への色変化が半分より手前で生じていることがわかります。ただし面積比で30%以上ありそうな気もしますが。
これを上限の60%に設定すると、たしかに後半で色変化しています。
50%の真ん中あたりで色変化した方が、マージンが多く誤色のリスクが減りそうです。一方前半で変化した方が色移りが減るのでその分パージ量を減らせます。デフォルトが30%なのはそのためだと思われます。
実際にプリントしてみて色変化が前半寄りになるよう調整するために、この機能があるのだと思います。ただし1層あたり2色の場合でないと判別は難しいので、この機能を使いこなすことができるのかやや疑問です。
2.フィラメント融着のパラメータ調整機能
フィラメント融着のパラメータとは
Palette3本体にはフィラメント融着のパラメータ調整機能が備わっています。パラメータ調整とは、前回とりあえず(4, 4, 4)に設定した以下の値です。
項目 | 設定値1あたりの増減 | 設定可能範囲 |
---|---|---|
温度(Heat factor) | 0.5秒 | -5 〜 8 |
圧力(Compression factor) | 0.5mm | -6 〜 6 |
冷却(Cooling factor) | 1秒 | -3 〜 23 |
デフォルトは(0, 0, 0)でしたので、(4, 4, 4)の設定では以下のように増したことになります。
- 加熱時間:2秒増
- 圧力:さらに2mm進めよう後ろから押し付ける
- 冷却時間:4秒増
Palette3本体で融着テストしてみる
これらの値の適正値はフィラメントの質に依存しますので,実際にPaltte3本体を使って確かめてみます。
Palette3のWelcome画面で「Controls」をタップし、それ以降「Splice Tuning」「Start」をタップします。
先入れと後入れのフィラメントの挿入口番号をそれぞれ指定します。
指示にしたがってフィラメントを挿入します。
温度、圧力、冷却のパラメータをそれぞれ入力します。ここでは(2, 2, 2)で試してみました。
融着したら1回のテストは終了で、自動的にフィラメントを排出します。
融着結果はこの通り。過剰に太くなっておらず、逆に細く伸びているようなところもないのですが、曲げると剥がれそうな感じもしました。実際このフィラメントでは(2, 2, 2)で剥がれたことがありました。Palette3の経路内で曲げに耐えられなかったのかもしれません。同じ色どうしでも順番による差異もあるようなので、逆順も試す必要はありそうです[2]。
ただし1回のテストで、先入れ:15cm、後入れ:65cmの合計80cmを消費しますので、テストを繰り返すとゴミの山を作ることになります。筆者はフィラメントの硬さに応じて、
- 柔らかめ:(2, 2, 2)
- 硬めの:(4, 4, 4)
の2種類だけで、ほぼ対応しています。失敗したらその都度修正しますが、融着で失敗することはごく僅かです(ゼロではない)。
なお以下のサポートページのStep 8以降に、融着の失敗事例と対策が詳しく書かれています。
3.その他の補足
HM値とPingについて
前回Palette3でプリントを開始する際、HM値をデフォルトの98%から100%に設定し直しました。これについて簡単に補足しておきます。
最初にPingについて説明します。Palette3は、Gコードから各色の消費量を予測してフィラメントを生成します。フィラメント出口のロータリーエンコーダーで実消費量を計測し、予測との差異を検出して生成側にフィードバックします。そのためのチェックポイントがPingです。
前回の例(スプリットフラップの文字版)では、全長171cmに対し3箇所にPingが挿入したようです。
Palette3は、Pingのたびに予測誤差を記録しておき、プリントが終了した際に予測誤差の累計を取ります。これを次回以降のプリントに反映させます。これがHM(Historical Modifier)です。プリントを重ねるごとに精度が高まっていくという考えのようです。
筆者の経験によると、98%のままでは
- 初回の色替えのタイミングが早くギリギリ
- 2回めの色替えでとうとう誤色
という症状がありましたので100%に設定し直しました。デフォルトの初期値が98%なのは謎です。
Palette3ではPingを検出したときの予測誤差を実行中に表示することができます。前回の実施例ではこの通りでした。(動作中に「Tools」「Pings」とタップすれば見られる)
何もありません。確かPingは3回あるはずだったのですが表示がないということは、1回もフィードバックが行われなかったのかしれません。このあたりも謎ですが、このモデルの場合、最初のフィラメント生成でほぼ総量に達しているので、フィードバックの余地はなかったようです。
USBカメラを試す
Palette3にUSBカメラを接続するとCanvasで表示できます。接続したらWelcome画面から「Settings」「Camera」とタップすると、カメラ映像を確認できます。
「Enable streaming to Canvas」をタップすればCanvas側で表示できます。
Canvas画面で「Devices」をクリックしCanvasに接続したPalette3を選択すれば表示できます。
Palette3やプリンターが離れた場所にある場合には便利かもしれません。
失敗したフィラメントの後始末
Palette3の使い始めは失敗の山で、1m前後のコマ切れのフィラメントがたくさん出ます。一連の記事の執筆のために久しぶりにCanvasを使ったら、このザマです。
最初のうちは怒りを込めて丸めて捨ててましたが、もったいないので通常のフィラメントとして使ってみました。コマ切れフィラメントでも、Prusa MK3Sならフィラメント切れ対策機能のおかげで継ぎ足しは可能です。
手前の2つは、以下のプロジェクトで生成したGコードをプリントしたものです。実験的なプリントには最適かもしれません。手前左のように、ニットの靴下のような柄ができて偶然に期待するのも面白いです。
Palette3には高性能のフィラメント融着器があるので、これを利用して完全な1本のフィラメントが作れたら良いのになぁと思うのは欲張りかもしれません。
そもそもこんな物を作らなくて済むのがベストなのですが、また今日も一つ増えてしまいました。
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