Palette3による多色印刷(2) 〜Canvas編〜
Mosaic社のPalette3 Proを用いた多色印刷の具体的手順を説明します。今回はMosaic社純正のスライス&制御WEBアプリである「Canvas」を用いた例です。
動作環境など
動作環境
項目 | バージョンなど |
---|---|
PCのOS | Windows 10 Pro 22H1 |
スライサー | Canvas |
プリンター | Prusa MK3S+(MK3SからMK3S+へのアップグレード品) |
ノズル | kaika604 |
Palette | Palette3 Pro、ファームウェア:22.08.11.0 |
フィラメント | 無名ブランド4色PLAセット(250g×4、Amazonにて購入・当該品は販売終了) |
プリントサンプル
- flap3_1.stl・・表面の文字
- Flap3.2.stl・・裏面の文字(「ALL MODEL FILES」に含まれず個別ダウンロード)
- flap3.stl ・・文字枠および中間の層
読んでおいて欲しい記事
ここに至るまでの多色印刷記事をある程度目を通したものとして説明を簡略化した箇所があります。多色印刷に関しては手動でもPalette3でも共通の注意点がありますので、できるだけ目を通しておいてください。
1.初期設定
Canvasの登録とログイン
Canvasの利用に際しては登録が必要です。メールアドレスとパスワードを用意してログイン画面から行います。登録後ログインしたら以下の初期設定を行います。
- Devices・・Palette3と接続
- Printers・・プリンターの登録
- Materials・・フィラメントの登録
以下順に説明します。
デバイス(Palette3)と接続
あらかじめWiFiもしくはLANケーブルでネットワークに接続しておきます。Palette3の操作パネルから「・・・」「Canvas」「Link to Canvas」とタップします。
Canvasと接続するためのコードが表示されます。
次にブラウザのCanvas画面で「Devices」「Connect device」をクリックします。
コード入力画面になりますので、Palette3に表示された4桁を入力します。
接続できると以下のような画面になります。デフォルトの装置名はPalette3のシリアル番号になりますので、ここでは右上の鉛筆マークからリネームしておきました。
プリンターの登録
つづいてCanvas画面で「Printers」「+ New priner」「Preset」と順にクリックします。
Prusa MK3Sを選択し「Create」をクリックします。
登録すると「Standard」というプロファイルが作成されます。PrusaSlicerの「プリント設定」に相当し、積層ピッチやインフィルなどのデフォルト値が設定されています。複数のプロファイルを作成することもできますし、スライス時に設定を変更することもできます。ここではデフォルトのままとしておきます。
フィラメントの登録
Canvas画面で「Materials」「+ New material」をクリックします。フィラメントの名称変更や素材選択ができます。ここでは名称を「MyPLA」として「Save material」で保存します。
なおフィラメント登録しなくてもスライスはできますが、後ほどフィラメント融着のパラメータ調整で必要になりますので、ここで登録しておきます。
2.STLの読み込み
STLファイルの読み込みと機種の選択
Canvas画面左上の「New project」をクリックします。3Dデータや各種設定はプロジェクトとしてクラウドに保存されます。
画面左上の「Add models」をクリックし、Add modelsのペインに、先の3ファイルをドラッグします。もしくは、この領域をクリックしてファイル選択することもできます。
いずれにしても3ファイルまとめて読み込ませることが必要で、1ファイルずつ読み込むと1つのオブジェクトとして認識してくれません。
画面右上の「None」となっている項目から機種名の「3 Pro」(Palette3 Pro)を選択します。
各色へのフィラメント割り当て
画面左の「Materials」に8色表示されていますので、これにフィラメントを割り当てます。
最初に「Blue」を選択し、フィラメントを先程登録した「PLA | MyPLA」にします。
同様に赤も設定し、3番めLight Greenは、色もBlackにします。
色の指定
それでは各パーツの色指定を行います。文字枠は赤にしますので、「Red]を選択して文字枠部分にドラッグします。
同様に表面の文字を黒を指定します、
裏面の文字はもともと青のはずですが、もし異なっていたら「Blue」をドラッグします。
すでに述べたようにこのモデルは最小サイズに達していないので、少し大きくします。オブジェクトを選択して「Toolbox」の「Scale」で3方向を120%ほどにしておきます。
スライス条件の設定
画面右上から「Project settings」をクリックすると、スライスの各種条件を変更できます。プリンター登録したときのプロフィル「Standard」がデフォルト値となりますが、プロジェクトごとに変更できその値を保存できます。
今回は1層目とそれ以降のノズル温度だけ変更し、その他はデフォルトのままとしました。修正して保存すると、変更した項目数が表示されており気が利いてます。
フィラメント融着のパラメータ調整
Palette3のキモとなるのがフィラメント融着です。筆者環境ではデフォルト設定のままでは融着が弱く、簡単に剥がれてしまいました。複数のPLAでも同様であり、デフォルト設定は少し「弱め」のようなので調整します。
プロジェクト画面左のMaterialsの下にある「Splice and transition」をクリックし、「Splice Settings」の「Material combination」で登録したフィラメント「PLA | MyPLA」を選択します。
以下の3種類のパラメータの初期値は0でしたが、それぞれ4に設定し「Save」で保存します。
- 温度(Heat factor): 4
- 圧力(Compression factor): 4
- 冷却(Cooling factor): 4
スライスと結果の確認
画面右下の「Slice」をクリックしてスライスします。画面左上で結果を確認できます。
主要項目は以下の通りです。
- Filament Length: 1.71m
150cm以上あり最小長を満たしています。 - Total Splices: 5
Spliceとは融着した断片の数で、5本あり4回融着します。 - Total Pings: 3
Pingとは予測誤差累積を計測するチェックポイントです。3回行っています。Pingに関しては後の回で詳しく説明します。
なおZ方向も120%にしたので、オリジナルに比べZ方向が1層増えました。増えたのは中間の仕切りとなる層でした。
3.実際にプリントしてみる
CanvasとPalette3が接続していれば、プロジェクト画面(前出の画像)右下の「Send to Palette」でスライス後のデータをPalette3に送信できます。これ以降の手順はPalette3で行います。
ファイルを選択してプリント開始
Palette3のWelcome画面で「Start Print」をタップし、それ以降下図の順にタップしてプリントするファイルを選択します。
初回はプリンターのプロファイルを作成
Palette3に接続したプリンターのプロファイルを作成します。作成後の設定値変更は可能ですが、作成そのものはプリント開始を指示した初回だけのようです。
以下の手順でPrusa MK3Sを指定します。4番目の「Extruder Modification」では、エクストルダー回りが純正と異なるか否か聞いてきます。後述のLO(Loading Offset)値に影響し、純正の場合はデフォルト値が用いられ、そうでない場合はユーザーが計測した値を入力します。
ここでは「No」(純正)を選択します。
これ以降は確認画面が延々と続きます。
注意点は以下の3つです。
- ガイドチューブ(Outgoing Tube)を固定するチューブクリップをエクストルーダーに取り付けておく
- ガイドチューブは添付品最短の57cmにした方がいい
(生成フィラメント長の予測誤差が少なくなりより良い結果になります) - ガイドチューブは、この時点ではエクストルーダーに取り付けない
一旦戻ってHM値を修正
「Ready!」画面まで到達したのでプリンターのプロファイルが出来上がりました。しかし適切ではないと思われる値が設定されているので、プリントを開始せず一旦キャンセルします。
「Back」をタップして「Print Cancelled」まで戻ったら「Skip」をタップしてWelcome画面に戻ります。(キャンセル時にフィラメントを取り込んでいたら「Clear」で排出できる)
Welcome画面で「Printers」つづいて「Prusa MK3S」をタップするとCalibration画面になります。この中のHistorical Modifier(HM)が98%となっています。これは生成するフィラメント長に影響する値で、初期値としては100%であるべきと考えます。
(HMについてはPing/Pongの概念とともに後ほどの記事で説明予定です)
「Historical Modifier(HM)」をタップして100%に変更します。
以上でプリンターのプロファイルが作成できました。今後Canvasで作成し送信したデータは、自動的に今回のプロファイルを利用することになります[1]。
ようやくプリント開始
Welcome画面に戻ったら、最初の手順通りファイルを選択してプリントを開始します。プリンターのプロファイルは作成済みなので、すぐにもフィラメント挿入の画面になります。指示にしたがって挿入します。
いくつかのスプライスを作成し、ガイドチューブの先から2cm程度フィラメントが出てくると思います。Prusa MK3Sの場合若干足りないので、手で1cmほど引き出しエクストルーダーのギアに接したら、「Smart Load」をタップします[2]。フィラメントがエクストルーダーに引き込まれたのを確認したら、ガイドチューブをチューブクリップに差し込んで固定します。
エクストルーダーへの取り込みが終了し、ノズルからフィラメントが少し出てきたのを確認したら「Start Printing」でプリントを開始します。いつも通りオートベッドレベリングの後、プリントが始まります。
パージタワーの色替え箇所を目視確認
プリント中はフィラメントの融着が適切か気になりますが、それ以外にも色替えが正しく行われているか観察します。
色替えはパージタワー内で行われますので、Canvasでスライスした後と実際を比較してみます。以下は1層目で赤から青の色替えです。
これは2層目で青から赤です。
どちらの層もスライス時の想定通りです。パージタワーの1層内の前半寄りで色が変化しているのがわかります。これが極端に端に寄っていると、誤差が累積していずれ破綻するかもしれません。その場合にはHM値を見直すことになりますが、この値以外にも見直す項目はいくつかあります。後の記事で対処法を説明するつもりです。
完成
ようやく完成です。なお実行中の残り時間表示(Remaining)は、あまりあてになりません。
各面ともに色の誤り「誤色」や色がにじむ「色移り」はなく、うまくプリントできました。
補足は次回記事で
Palette3+Canvasでの多色印刷について最小限の手順を書いたつもりでしたが、かなりの長文になってしまいました。しかしこれでも足りないので、次回の記事で以下の内容を補足しておきます。
- 色替え時のパージ量設定
- フィラメント融着のパラメータ調整機能
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