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Prusa MK3Sでの手動多色印刷(2) 〜同一階層での色替え〜

2022/11/17に公開

Prusa MK3SにはMMU2S(Multi Material Upgrade 2S)という多色印刷用のアップグレードユニットがあります。しかし、このユニットがなくてもPrusaSlicerでは手動で多色印刷する設定が可能です。
今回はこの機能を用いて、同一積層面での色替えを行ってみます。これにより表現力が一気に増します。MMU2Sの機能を手動で行いますので、色替え回数が多くなければ(主観で10回以内なら)実用的だと思います。

1.題材は「スプリットフラップ」

題材

今回題材とするのは、筆者も作成したスプリットフラップ(Split-Flap)表示器の文字版です。かつて空港や新幹線の案内に使われていたパタパタ動く文字表示版です。
https://www.printables.com/model/69464-split-flap-display/files
1桁あたり45枚必要ですが、そのうちの1枚の

  • flap3_1.stl・・表面の文字(白でプリント)
  • Flap3.2.stl・・裏面の文字(白でプリント)
  • flap3.stl ・・文字枠および中間の層(黒でプリント)

を使います[1]
オリジナル通り、文字を白、文字の外枠を黒とし、2色印刷となります。

ちなみにflap1とflap2の桁は、片面が空白文字なので多色印刷の題材として物足りませんでした。flap3は文字「A」と「B」のそれぞれ上下の半分に相当します。

文字版の構造

本モデルは、積層ピッチ0.2mmで造形することを想定した5層構造になっています。下から1〜2層目で裏面の文字を、3層目は仕切りになり、4~5層目で表面の文字を造形します。3層目と文字の外枠は同じ色です。

なお、3層目の仕切りは全層を黒で、上下の白文字は2層でプリントします。もし逆にすると、仕切りが白1層分では裏面の黒文字が透けてしまでしょう。配色を変更する場合は、構造自体も変える必要がありそうです。

2.PrusaSlicerの初期設定

MMU2Sは用いていないので、プリンターのプリセットは通常のまま使いますが、いくつか初期設定が必要です。

エクストルーダーの追加

PrusaSlicerの「プリンター設定」で、「エクストルーダー」を2に設定します。使用する色の数に合わせます。MMU2Sは5色が上限ですが、労力をいとわないのなら10色でも20色でも可能です(理論上は)。

プレート表示に戻すと、なにやら怪しげな物体(ワイプタワー)がプレートに出現し、右側ペインにはフィラメントを2個表示しているのがわかります。

一時停止用のGコードを追加

再度「プリンター設定」を開き「カスタムGコード」を選択し、下の方にスクロールすると出てくる「ツールチェンジ用のGコード」に

M600

を追加します。

ツールチェンジとは、エクストルーダーを切り替えることを意味するようです。今回エクストルーダーを2個装備しているものとして設定しており、その切り替えのためのGコードをカスタムコードとして追加しました。

つまり前回「Prusa MK3Sでの手動多色印刷(1) 〜積層方向の色替え〜」で実施したように、Prusa MK3Sは色替えのたびにM600を実行してフィラメント交換を要求してきます。

3.STLの読み込み

PrusaSlicerの初期設定ができたらSTLファイルを読み込みます。このとき、3つのファイルすべてを指定して一度に読み込みます。エクスプローラーから3ファイルを選択してプレート表示にドラッグしても構いません。

3ファイルを読み込むと以下のようなダイアログが出ますので「はい」を選択します。これにより、3ファイルが3つのパーツから構成される1つのオブジェクトとして認識されます。さらに各パーツが適切な位置に配置されます。

4.スライス

色を設定してスライスしてみる

スライスする前に色指定します。まずはフィラメントの色です。右側ペイン上部にある2つのフィラメントの色部分をクリックすると、色指定できます。上から黒、白に指定しました。

続いて各パーツをプリントするエクストルーダを以下のように指定します。(クリックしてパーツを選択し、もう一度クリックするとエクストルーダを選択できる。Mac版ではマウス右ボタン)

  • flap3.stl ・・エクストルーダー1(黒)
  • flap3_1.stl・・エクストルーダー2(白)
  • Flap3.2.stl・・エクストルーダー2(白)

以上を設定してスライスすると以下のようになりました。

ワイプタワーの幅とブリムの変更

プレート画面で文字版右上に配置されているものがワイプタワー(Wipe Tower)です。パージタワー(Purge Tower)と呼ぶこともあります。色変更時にノズル内に残った古いフィラメントを排出するための、言わばゴミ捨て場です。配置や大きさも不自然なので変更してみます。

スライス前の3D編集画面にすれば、造形対象と同じように配置を変更できます。造形物の近くに配置すると良いでしょう。

デフォルトで設定されているワイプタワーの幅やブリムを、以下のように減らしてみます。

  • ワイプタワーの幅: 60mm → 40mm
  • ワイプタワーのブリム幅: 2mm → 0mm

再度スライスすると以下のようになりました。

パージ体積の調整

手動切り替えの場合、新しい色になるのを目視で確認しますので、ワイプタワーは最小限でいいはずです。PrusaSlicerの機能でワイプタワーの生成量も調整してみます。

右側のペインで「パージ体積」をクリックします。パージ量を調整するウインドウが開きます。

MMU2Sを意識しているのかフィラメントのロード/アンロード時のパージ量を個別に設定するようになっていますが、手動ではわかりにくいので「高度な設定を表示」に切り替えます。

そして、

  • 黒 → 白: 70 mm^3(デフォルト値の1/2)
  • 白 → 黒: 50 mm^3(デフォルト値の約1/3)

に設定してみました。濃い色から淡い色へは多めに、逆に淡い色から濃い色には少なめにしてみました。このようにマトリクスでパージ量を設定できます。今回は2色なので2×2ですが、MMU2Sのように5色まで扱えると5×5のマトリクスとなり、かなり複雑になります。

スライス後のGコードの修正

このままプリントすると、開始直後になぜかフィラメント交換を要求してきます。「ツールチェンジ」のためにGコード「M600」を挿入しましたが、プリント開始後にも余分に入ってしまいます。MMU2Sのための機能かもしれませんが、手動では不要です。

そこで生成されたGコードをエディタなどで(メモ帳でも可)開き、最初に出てくる「M600」の行を削除もしくは行頭に「;」を付加してコメントアウトしておきます。

 〜 省略 〜
G90 ; use absolute coordinates
M83 ; use relative distances for extrusion
;M600 ;この1行を削除するかコメントアウトしておく
T0
M900 K0.05 ; Filament gcode LA 1.5
 〜 省略 〜

5.実際にプリントしてみる

それでは実際にプリントしてみます。以下のように割り当てましたので、

  • エクストルーダー1:黒
  • エクストルーダー2:白

最初は黒のフィラメントを挿入します。最初から色を間違えると厄介ですので、念のためPrusaSlicerで1層目のノズルの動きを確認して、色が正しいことを確認した方が良いでしょう。

プリント時間は12分とのことですので、つきっきりでフィラメント交換を行います。黒から白へ色変更するときは少し多めにフィラメントを捨てたほうが色移りしなくてすみます。
Prusa MK3Sでの対応は、前回「Prusa MK3Sでの手動多色印刷(1) 〜積層方向の色替え〜」の「3.プリント手順」で示した通りです。

この通り、2色でうまくプリントできました。

裏面もきれいにプリントできています。

6.製作例

本機能を使った製作例をいくつか紹介します。

スプリットフラップ表示器の実物

本記事の題材としたスプリットフラップを製作してみました。オリジナルは10桁もある超大作ですが、まずは1桁作ってみました。


https://youtu.be/cK5e01MDVKo

オリジナルでは各桁をAruduino Nanoで制御し、そのうちの1台がWiFiモジュールのEPS-01を実装したマスターとなり全体を制御します。

とりあえず1桁だけ試したかったので、手持ちの関係で制御はM5Stackで行い、制御ソフトウェアはUIFlowで作成しました。M5Stackのオプションのキーボードで文字入力できるようにしています。

4桁くらい作成して時計でも作ろうと思っていましたが、1桁で息切れしてしまいその後は放置したままです。

3色名札

本記事冒頭の写真の3色名札です。諸元は以下の通りです。

  • 縦:40mm、横:80mm
  • ベースの厚さ:0.6mm、名前およびフチの厚さ:0.4mm、全体で1.0mm
  • ベース部分:白、名前:赤、フチ:黒の3色印刷
  • 積層ピッチは0.2mm

FUSION 360で設計し、ベース部分や各文字およびフチ部分は独立したボディとしておきます。

メッシュとして保存するとき、「ボディごとに1ファイル」を選択します。

これ以降は本記事と同様の手順でプリントします。3色ですので、「パージ体積」の設定は3×3のマトリクスになります。

ビルドプレートにスムーズPEIシートを使うと底面がなめらかになりますので、裏返してプリントすることにしました。

Gコードの手直し(最初のM600を削除)を忘れずに行ったら、プリントしてみます。3色なので色替えの際の色を間違えないようにしなければなりません。筆者は以下のような色遷移をメモしてからプリントしました。

  • 1層目:白 → 黒 → 赤
  • 2層目:赤 → 白 → 黒
  • 3層目:白
  • 4層目:白
  • 5層目:白

この通り想定通りに出来上がりました。

脚注
  1. Printablesサイトの「ALL MODEL FILES」から全ファイルを一括ダウンロードできるが、Flap3.2.stlが含まれていないので個別にダウンロードした。なお実際にプリントしたときは、9桁分でまとめてある3mfファイルの方を用いた。 ↩︎

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