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個人の「行動」を組織の「学び」に変える。インプロセスQAチームの共有会設計

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こんにちは! atama plus で QA エンジニアをしている atsushi です。
この記事は atama plus Advent Calendar 2025 の12月11日の記事です!

弊社のQA組織は、大きく 「横断QA」 (自動テストなどの横断的なテーマを扱うQAの集合)と 「プロダクトQA」 (インプロセスQAの集合)に分かれており、私は後者の取りまとめを担当しています。

QAメンバーが各開発チームに分散する「インプロセスQA」は、開発速度と品質を両立しやすい反面、「QA間の連携」や「組織的な価値の最大化」が難しいという課題があります。

本記事では、この課題に対し、「個人の学び」を「組織の学び」に還元させる場を新設した事例を紹介します。

背景と課題:事務的な共有だけでは埋まらない溝

プロダクトQAチームでは、以前から週一の定例会を実施しており、現在も「リリース予定の確認」や「業務負荷の調整」といった事務的な連絡のために継続しています。

しかし、プロダクトや技術が多様化する中で、プロダクトQA個々人が携わるフェーズや取り組むタスクがバラバラになり、事務連絡だけでは以下の課題が浮き彫りになってきました。

  • 視点・視座が固定化する
    多角的なフィードバックを受ける機会が少なく、各メンバーの気づきが限定的になる。
  • ナレッジがチームに還元されづらい
    成功体験や知見がチームに還元されず、再現性のない「個人のファインプレー」に留まってしまう。

解決策:「Value Sync会」の新設

そこで、事務連絡やレトロスペクティブとは目的を分けた 「Value Sync会」 を新設しました。
今はトライアル的に実施しており、2,3週おきに、30分/回の開催としています。

「価値の同期」を意味するこの会で目指したのは、プロダクトQA間の目線を揃え、質の高い「気づき」や「学び」を抽出するサイクルを作ることです。そのためのひと工夫として、視座を一段引き上げた会話をするために 「事業貢献」 を意識する設計にしました。

ミーティングの流れ

Miroを使用し、以下の流れで実施しています。

1. 事前準備:付箋の書き出し

事前準備として、各自で付箋を書き出します。
ルールは、単なる事実ではなく 「組織目標に対して、どんな意図で、どんな行動をしたのか」 を明記することです。

  • Umm… : 「機能Aのテスト設計を実施」(行動のみが記載されている)
  • Good!! : 「機能Aの離脱率改善のため、異常系を重点的に設計」(目標と紐付けられた意図 + 行動が記載されている)

これは「事業貢献」をアピールするためというより、「意図(Why)」を共有することで書き手・読み手双方の解像度を上げ、フィードバックの質を高めることが目的です。

プロダクト開発プロセスにおけるAI活用の取り組みに関する付箋
(例:プロダクト開発プロセスにおけるAI活用の取り組みに関する付箋)

2. "無言"のコメントタイム(5分間)

全員でボードを閲覧し、気になったものに付箋でコメントを書き込みます。
口頭よりもハードルが低いため、「この観点は他でも使えそう」「具体的にどうやったの?」といった多角的なフィードバックが短時間で集まります。

3. ディスカッション(20分間)

ファシリテーターが「コメントが付いたトピック」をピックアップし、口頭で深掘りします。
限られた時間内で、参加者の関心が高いトピックや、組織としてレバレッジが効く話題に絞って議論を深めます。

4. チェックアウト

最後に「心に残ったこと」や「今後取り組みたいこと」を一言ずつ共有して終了です。

メンバーからの反応

Value Sync会を実施してみて、メンバーからはポジティブな反応が得られています。

  • 「みんなの思いを知ることで、自分も事業ミッションに貢献する種を見つけやすくなった」
  • 「他メンバーが何を意識しているかを知れて、参考になる」
  • 「『事業にどう貢献するか?』という視点は、職種にとらわれず動くための良いフレームワーク」

会を通じて他メンバーの思考プロセス(Why)に触れることで、「自分の行動にどう活かせるか?」というきっかけが生まれているのを感じます。

やってみて感じた「難しさ」と「工夫」

一方で、実際に回を重ねていく中で、いくつかの難しさにも直面しました。

難しさ①:継続的なネタ出しのハードル

日々の業務すべてで「学び」や「貢献」を強く意識できているかと言えば、常にそうとは限りません。
回を重ねると「ネタ切れしちゃいそう…」という声もあがりました。

そこで、「自分が何をやったか」をアウトプットするだけでなく、「みんなならこんな時どうする?」という相談コーナーを用意してみました。直近では「生成AI活用の困りごと」などを相互にコメントし合う付箋が生まれ、そこから新たな知見が共有されています。
生成AI活用の困りごとに関する付箋
(例:生成AI活用の困りごとに関する付箋)

また、「次回のネタどうしようかな」と悩みながらも、この会があることで 「自分は何をアウトプットできるのか?」と定期的にストイックに向き合うこと自体が、自分の思考を磨くことにつながる。 そんな共通認識も生まれつつあります。

難しさ②:「事業貢献」を考えると、仰々しく感じてしまい付箋が出しづらい

視点を高く保つために「事業貢献」という言葉を使っていますが、これによって「仰々しくて書きづらい」と感じてしまうこともありました。

そこで、 「事業貢献を身近に引き寄せること」 が重要だという認識をチーム内で会話しました。自分からするとみんなができていると感じるような行動も、立派な貢献です。

重要なのは「凄いことを書く」ことではなく、「些細な行動が何に繋がっているのか」を意識し、そこから学びや再現性を抽出することだと捉えています。

今後に向けて

Value Sync会の開催によって、これまで埋もれていた学びが発見され、参考にし合う土壌が形成されつつあります。
一方で、会を開催しっぱなしだともったいない、という欲も芽生えつつあります。

今後は、会から抽出された学び・知見を仕組みやナレッジに落とし込み、私を含めた各メンバーが容易にそれにアクセスできる状態を目指したいです。

おわりに

インプロセスQAは、ともすれば「個人の戦い」になりかねません。
しかし、私たちは 「個々が自律しつつも、チームとして強さを獲得し続ける」組織 でありたいと考えています。

運用を続ける中で、「Value Sync」という言葉には、2つの意味が重なるようになってきました。

  1. QAメンバー同士で視座やナレッジを合わせる 「横の同期」
  2. 個人の日々の行動を事業価値に紐づける 「縦の同期」

この 「縦と横の同期」 が噛み合うことで、組織としての価値が最大化されるのではないか、と感じています。

今回紹介した「Value Sync会」も、まだ完成形ではありません。
事務的な連絡は効率的に済ませ、浮いた時間で「どうすればもっと事業に貢献できるか」を泥臭く語り合う。そんな時間を積み重ねることで、組織としての足腰を強くしていければと思います。

この記事が、同じ悩みを持つチームのヒントになれば嬉しいです。

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