日本数学オリンピック(JMO)2024年予選解答私的解説 その2
はじめに
背景
さる2024年1月8日(月,祝)実施された、第34回日本数学オリンピック予選の解説の続きです。
参考情報
- その1 … https://zenn.dev/angel_p_57/articles/7375a989e85be2
- その3 … https://zenn.dev/angel_p_57/articles/72c9dda63af6e9
- 問題公開先 … https://www.imojp.org/archive/mo2024/problems/jmo34yqa.pdf
解説
それでは、今回の「その2」では、第7問~第10問の4問を解説していきます。
第7問
- 問題: 次の条件をみたす3以上の素数
と1以上2024以下の整数p の組a の個数を求めよ。(p,a)
であり、a\lt p^4 が平方数となる。ap^4+2p^3+2p^2+1 - 答: 16個
後半最初はなにやら計算を頑張る必要がありそうな問題です。取り敢えずmodを見て条件を整理するのが鉄板そうに見えるので、その路線で攻めていきます。
まず平方数という条件がありますから、次のような整数
-
…①r^2=ap^4+2p^3+2p^2+1
そして、modを見る前に大きさを見積もっておきます。
- 最小 (
)a=1
から大きさを見積もります。r^2=p^4+2p^3+2p^2+1
※実際に となるかは気にしませんa=1 (p^4+2p^3+2p^2+1)-(p^2+p)^2=p^2+1\gt 0 (p^2+p+1)^2-(p^4+2p^3+2p^2+1)=p^2+2p\gt 0 - 以上より、
(p^2+p)^2\lt p^4+2p^3+2p^2+1\lt(p^2+p+1)^2
- 最大 (
)a=p^4-1
から大きさを見積もります。r^2=p^4(p^4-1)+2p^3+2p^2+1
※実際に となるかは気にしませんa=p^4-1 (p^4(p^4-1)+2p^3+2p^2+1)-(p^4-1)^2=p^4+2p^3+2p^2\gt 0 (p^4)^2-(p^4(p^4-1)+2p^3+2p^2+1)=(p-3)(p^3+p^2+5p+15)+44\gt 0~~\because p\ge 3 - 以上より、
(p^4-1)^2\lt p^4(p^4-1)+2p^3+2p^2+1\lt(p^4)^2
これで最小・最大での大きさを細かく見積もりましたので ( 他の条件があるという前提のもと )
-
…②p^2+p+1\le r\le p^4-1
そうしておいて、いよいよmodの条件を見ていきます。
※単純に平方根とっていいの? と気になるかもしれませんが、
話を戻して、
-
…③r=tp^2+s,~~s=\pm 1~~~~(~s^2=1~)
これを改めて①に代入して更に整理します。
※何気なく
以上から更に
-
…④r=up^4+s(p^3+p^2+1),~~s=\pm 1~~~~(~s^2=1~)
また、上での式変形を
以上より、
-
…⑤a=u^2p^4+(p+1)^2+2us(p^3+p^2+1)
さて、
-
…②p^2+p+1\le r\le p^4-1 -
…④r=up^4+s(p^3+p^2+1),~~s=\pm 1~~~~(~s^2=1~)
再掲したこの2条件を改めて見ると、
-
のとき(s,u)=(1,0) よりr=p^3+p^2+1 r-(p^2+p+1)=p^3-p=p(p^2-1)\ge 0 -
のとき(s,u)=(-1,1) よりr=p^4-(p^3+p^2+1)
r-(p^2+p+1)=p^4-p^3-2p^2-p-1=(p-3)(p^3+2p^2+4p+11)+32\ge 0
ということで、最終的に⑤に
-
のとき、(s,u)=(1,0) a=(p+1)^2 -
のとき、(s,u)=(-1,1) a=p^4+(p+1)^2-2(p^3+p^2+1)=p^4-2p^3-p^2+2p-1
この中で
ちょっと途中式の形が面倒に見えますが、信じて計算を続ければ、という感じの問題でした。
第8問
- 問題: 非負整数に対して定義され整数値をとる関数
が、任意の非負整数f に対してm,n
f(m+n)^2=f(m|f(n)|)+f(n^2)
をみたしているとき、整数の組 としてありうるものはいくつあるか(f(0),f(1),\cdots,f(2024)) - 答:
個2^{990}+1
今度は整数の関数の問題です。取り敢えずよく分からないところですが、小さなm,nから調べていって全体を探るという地道な方法で行くことにします。
まず、定番として
このとき
ただ、
ということで、残りとして
-
…①f(m)^2=f(2m)+2 -
…②f(n)^2=f(n^2)+2
ついでに、①の
-
…③f(n^2)=f(2n)
更に②で
すると、
ところが、
大分煮詰まってきたところで、今度は
-
…④f(m+1)^2=f(2m)+2
よく見ると、これは①と右辺の形が同じです。これより
後は①,③から
改めてまとめると、偶数または平方数の
このとき、
以上で
- 定数関数
の場合f(x)=0
全て 0 の組で 1個 -
、|f(x)|=2 が偶数または平方数の時に限りx の場合f(x)=2
の中の奇数 1012個から、平方数1\sim 2024 の22個を除いた990個の1^2,3^2,5^2,\cdots,43^2 に対してx でf(x)=\pm 2 個2^{990}
この合計で
第9問
- 問題: 円に内接する四角形
があり、ABCD をみたしている。AB=7,~BC=18 の二等分線と辺BCが点\angle CDA で交わっており、また線分E 状の点DE がF をみたしている。\angle AED=\angle FCD のとき、線分BE=5,~EF=3 の長さを求めよ。DF - 答:
\frac{17}{3}
こちらが最後の図形問題になりますが、例によって図は示されていません。
そこでどのように図を描いていくか、というところですが、問題文にある全条件を盛り込むと次図左のようになるところ、CBとDAを延長した交点 ( Pとする ) を導入するのが決め手になります。
なお、図の上側 ( A,Bの側 ) ではなく下の方に交点ができる可能性はないの? と気になるところではありますが、計算してみると長さの条件で不整合が起こるため、可能性無しとして除外できます。( 詳細は割愛します )
ついでに、各線分の長さとして
こんなに文字をたくさん使って収拾付くか心配かも知れませんが、意外となんとかなります。
このようにすることで、次図のように円に内接する四角形に関連した相似形と、角の二等分線による長さの比の条件と、両方活かすことができ、一石二鳥なのです。
すなわち、左側を見ると、四角形が円に内接していることから
右側を見ると、
前者から
後者から
改めて比を整理すると、
その上で、更に相似と角の二等分線を活用します。
左側、相似の別の条件として
今度、右側は等しい角を
この2式の6倍・5倍を辺々差し引くことで
最後に、今まで置き去りにしてきたF (
見るからに三角形の相似
これで条件が出そろいました。改めて挙げると、次の3つです。
6ps=77a x^2=30(s^2-a^2) x^2-3x-30s^2+6ps=0
すると都合の良いことに、
すなわち、3番目の式に1番目・2番目を代入して、
最終的に求めるのは
第10問
-
問題: 100×100のマス目の各マスにJ,M,Oのいずれか1文字を書き込むことを考える。2×2のマス目であって次のいずれかをみたしているものを良いブロックとよぶこととする。
- その4マスに書き込まれた文字がちょうど1種類である。
- その4マスに書き込まれた文字がちょうど2種類であり、その2種類の文字はそれぞれ2つずつ書き込まれている。
- その4マスに書き込まれた文字がちょうど3種類であり、左下と右上のマスに同じ文字が書き込まれている。
このとき、次の条件をともにみたすような書き込み方はいくつあるか。
- どの2×2のマス目も良いブロックである。
- 辺を共有して隣りあう2マスの組であって書き込まれた文字が異なるものはちょうど10000組存在する。ただし、マスの順番を入れ替えただけの組は同じものとみなす。
ただし、回転や裏返しによって一致する書き込み方も異なるものとして数える。
-
答:
通り~_{198}C_{100}\cdot 3\cdot 2^{100}
いよいよ2ケタ台の問題です。最後の程難しくなる傾向に違わず、問題文を眺めただけではさっぱり方針が立ちません。そもそも 100×100 なんて描いて細かく調べる気にもなりません。
取り敢えず、手がかりである良いブロックがどんなものであるか、そこから把握することにしましょう。列挙すると次図のような5パターンになるはずです。
これでもまだ見えてこないのですが、ふと2×1のマスが同じ文字の場合を想像してみます。
そうすると上の図の通り、同じ文字の2×1のマスが続くことになりますから、もし異なる文字のマスの間に境界線を引いた場合、境界線が途中で途切れることなく端々でつながることになります。
しかも、これは縦横入れ替えても成り立つ話です。ということは、次図のようにマス全体が端々の境界線で区画に分けられると分かります。
これで大分見通しが良くなりました。
続いて「辺を共有して隣りあう2マスの組であって書き込まれた文字が異なるものはちょうど10000組存在する」という条件を思い出します。
区画の境界線は ( 全体が100×100マスであるため ) 1本あればその側に100組の文字の異なる隣接マスの組ができます。そのため境界線が縦横合わせて100本あると分かります。
そうしましたら、もう少し「良いブロック」の条件を精査します。具体的には次の図のように縦横の境界線の交差点付近の状況に着目します。
境界線を挟んで異なる文字のマスが隣り合ってる部分ですから、2文字種のクロスか3文字種のブロック状況に絞られますが、いずれも/の方向に同じ文字種の区画が続くことになります。ということは、全体では縦横合わせて100本の境界から、同じ文字種の区画が斜めの縞模様として101本分できると分かります。
しかも、これは縦横の境界線の本数の内訳に依りません。
これで状況が整いました。
使える文字種は J,M,O の3種だけなので、片方の端の縞が3通り、そこから次々隣の縞を決めていくのは各2通りで、
これは、境界線の配置を固定した時の話で、実際は縦横99か所ずつ計198か所に100本の境界線を配置しますから、更に
そのため、最終的な答えは
境界線のことに気付けば、一気に見通しが明るくなる問題でした。
おわりに
ということで、難易度の上がった後半の4問分を解説しました。
状況を整理できればなんとかなるところではないでしょうか。残りは ( おそらく ) 最難関の2問です。
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