日本数学オリンピック(JMO)2022年予選解答私的解説 その2
はじめに
背景
その1に引き続き、第32回日本数学オリンピック予選(2022年1月10日実施分)の解説です。その1をまだご覧になってない場合は、そちらから読まれることをお勧めします。
参考情報
- その1 … 日本数学オリンピック(JMO)2022年予選解答私的解説 その1
- その3 … 日本数学オリンピック(JMO)2022年予選解答私的解説 その3(完)
- 問題公開先 … https://www.imojp.org/archive/mo2022/jmo2022/problems/jmo32yq.html
解説
それでは、今回の「その2」では、第7問~第10問の後半4問を解説していきます。
第7問
- 問題:
である直角二等辺三角形\angle BAC=90\degree, AB=AC=7 がある。辺ABC 上にそれぞれ点BC, CA, AB があり、D,E,F をみたしているとき、線分\angle EDF=90\degree, DE=5, DF=3 の長さを求めよ。BD - 答:
\frac {21\sqrt 2} 8
後半最初はまた幾何の問題で、図が付いてないので自分で描かないといけません。しかし、描いてイメージするのは比較的簡単な図面になっています。直角が2か所あるのをどう活かすか、という予感がします。
さて、このような場合、なんとなく垂線を引いてみたくなるものでしょう。
そうすると、元が直角二等辺三角形なので、
そうすると、色の同じ線分
今求めたいのは
さて一方で、色々と直角があると「合計が90°」となるような角の組み合わせが出てきます。
そうすると、相似な直角三角形が出てくるわけで、今回は
ということは、先ほど出てきた折れ線同士もこの長さの比になる、つまり、折れ線
先ほど、折れ線と
ということで、直角二等辺三角形
…なんとなく、前半にあった第4問の幾何より簡単なんじゃないかと思いますが、まあそういうこともあるのでしょう。
第8問
- 問題:
をみたす正の整数の組a_1\lt a_2\lt \cdots\lt a_{2022} であって、(a_1,a_2,\cdots,a\_2022)
a_1^2-6^2\ge a_2^2-7^2\ge\cdots\ge a_{2022}^2-2027^2
が成り立つものはいくつあるか。 - 答: 10個
西暦の2022にちなんだ予選3問目となる問題ですが、今度は数列と言いますか、規則性を元に考える問題と言えそうです。
なので、この「増分」に着目して攻めていきます。
では早速、増分を
d_k=a_{k+1}-a_k~~(k=1,2,\cdots,2021)
そうしておいて、問題の条件を書き換えます。
※この上限は
ところで、
つまり、一番上限が緩い
これにより、全ての
-
の場合d_k=1~~(k=1,2,\cdots,2021)
の6通りa_k=k~(k=1,2,\cdots,2021), a_k=k+1~(k=1,2,\cdots,2021), \cdots, a_k=k+5~(k=1,2,\cdots,2021)
残りは、
しかし
それを調べるために、
この形を見るだけでも、
-
となる項がある場合d_k=2
その項に対して 、すなわちk\le\frac{11-2^2}{2(2-1)}=3.5 k=1,2,3 -
となる項がある場合d_k=3
その項に対して 、この条件を満たすk\le\frac{11-3^2}{2(3-1)}=0.5 は既に存在しないk -
となる項がある場合d_k\ge 4
その項に対して、不等式右辺 なので、この条件を満たす\frac{11-d_k^2}{2(d_k-1)}\lt 0 は存在しないk
なんともう、1以外の
-
の場合d_1=2
1\le a_1\le\frac{2\cdot 1+11-2^2}{2\cdot 2}\Leftrightarrow 1\le a_1\le 2.25
よって、 次項とまとめるとa_1=1,2 このとき(a_1,a_2)=(1,3),(2,4) 4\le a_3 -
の場合d_2=2
2\le a_2\le\frac{2\cdot 2+11-2^2}{2\cdot 2}\Leftrightarrow 2\le a_2\le 2.75
よって、 次項とまとめるとa_2=2 (a_2,a_3)=(2,4) -
の場合d_3=2
3\le a_3\le\frac{2\cdot 3+11-2^2}{2\cdot 2}\Leftrightarrow 2\le a_2\le 3.25
よって、 次項とまとめるとa_3=3 (a_3,a_4)=(3,5)
整理された
なので、
a_1=1, a_k=k+1~~(k=2,3,\cdots,2022) a_1=2, a_k=k+2~~(k=2,3,\cdots,2022) a_1=1, a_2=2, a_k=k+1~~(k=3,4,\cdots,2022) a_1=1, a_2=2, a_3=3, a_k=k+1~~(k=4,5,\cdots,2022)
これで全通り出揃いました。
第9問
- 問題:
の並び替え1,2,\cdots,1000 であって、任意の1以上999以下の整数(p_1,p_2,\cdots,p_{1000}) に対して、i がp_i の倍数であるようなものはいくつあるか。i - 答: 504個
ここらへんになると初見でなかなか掴みどころが無くなってきます。しかし、扱う数が1~1000となると、なんらか規則性を見つけて小さな問題に落とし込む手腕を発揮せざるを得ないところかと考えます。
まず、並び替えとありますが、順番そのままの
そうすると、
具体的に見てみましょう。浮いている1000をどの
つまり、
と、候補は16通りです。ここで、
-
の場合p_{1000}=1000
残り を1\sim 999 となるようにi\ge p_i に割り当て、ということなので、並び替えのないp_1\sim p_{999} しかありません。つまり、残りの割り当てが1通りに確定します。p_i=i~(i=1,2,\cdots,999) -
の場合p_{1000}\ne 1000 - 例えば
の場合p_{200}=1000
未割当の に対して、使える大きな数が丁度p_{201}\sim p_{999} しか残ってません。201\sim 999
つまり、 が確定し、p_i=i~(i=201,202,\cdots,999) を1\sim 200 に割り当てる部分が未確定な分として残ります。p_1\sim p_{199}
※余った1個は に割り当てます。p_{1000} - 例えば
の場合p_{10}=1000
未割当の に対して、使える大きな数が丁度p_{11}\sim p_{999} しか残ってません。11\sim 999
つまり、 が確定し、p_i=i~(i=11,202,\cdots,999) を1\sim 10 に割り当てる部分が未確定な分として残ります。p_1\sim p_{9}
※余った1個は に割り当てます。p_{1000}
- 例えば
ここで着目したいのは、
元々の問題が「
とすると、これを利用して再帰的に条件をまとめることができます。
そのため、次のように、正整数
-
を各f(n)=1\sim n がp_i の倍数になるようにi に割り当てる(1つ余らせる)割り当て方の総数p_1\sim p_{n-1}
そうすると、この
- (この問題の答え)
=f(1000) - (
と割り当てた場合の残りの割り当て方の総数)p_{200}=1000 =f(200) - (
と割り当てた場合の残りの割り当て方の総数)p_{10}=1000 =f(10) - …
加えて、
f(1000)=f(1)+f(2)+f(4)+f(8)+f(10)+f(20)+f(25)+f(40)+f(50)+f(100)+f(125)+f(250)+f(500)+1
と、より小さな数での
-
( 特にf(n)=(\sum_{1\le i\lt n,~iはnの約数} f(i)) +1 )f(1)=1
という、これを一般化した漸化式が分かります。
では、ここからはこの漸化式を元に計算を進めていくわけですが、最終的な目標が
1000の持つ素因数は2,5の2種類なので、約数-倍数の関係を2次元的に表して整理することができます。ちょうど次の図のようになります。
漸化式については、次の図のように可視化できます。
なお、漸化式の形からして縦横の扱いが等価なので、縦横を逆にしても同じ値になることが分かります。
とは言え、このままだと足し算する項目が少し多くなるので、次の図のように少しだけ簡略化しておきます。
※もっと整理することは可能ですが、あくまで
あとは、
まず、一番下の段ですが、下からの加算分がないので、単純に倍々していくのと同じことになります。
次に下から二番目の段ですが、先に「縦横を逆にしても同じ値」ということを利用して、一番左の列を埋めておきます。その上で、漸化式を適用していきます。
その後同様に計算していきます。
最終的に、図の右上の隅、
第10問
- 問題: 1以上50以下の整数から相異なる25個の整数を選ぶ方法であって、選ばれたどの相異なる2つの整数についても、一方が他方の約数となることがないようなものは何通りあるか。
- 答: 1632通り
「何通り」と言われても、これも問題を見て途方にくれる問題です。しかし、解けるようにできている問題である以上、なにかポイントがあるはずで、そこに辿り着けるよう条件を整理していくところに気を使う問題かと思います。
問題となるのは「選ばれたどの相異なる2つの整数についても、一方が他方の約数となることがない」という条件です。
例えば、1~25の25個を選んだ場合、(1,2),(1,3),…や(5,25)といった「一方が他方の約数になる」という2つの整数の組み合わせが含まれるので、条件を満たしません。
24~48の25個でも(24,48)という組が含まれるので、やはり満たしません。
ところが、26~50の25個であれば、そういう組がないので条件を満たすことになります。
ここから、25個の中にある整数を採用したら、例えば14であれば、その約数である1,2,7、倍数である28,42、これら約数・倍数は採用できなくなるということが分かります。
しかし、「約数・倍数が採用できない」と言っても、では色々な選択肢がある中25個をどう選んでいくのか。割と途方に暮れるところです。なので、ここでちょっと単純化してみます。
約数・倍数の関係には推移性があり、例えば×3倍の関係に限定すると、次の45を先頭にする例のような系列を作ることができます。
※45の約数で9とか、15の倍数で30とか、5の約数で1とか、他にも倍数・約数になる数あるじゃないか、という考えは一旦押し込めておきます。あくまでここでは×3倍に着目している、ということです。
この系列の中でどの整数を採用するか考えてみると、そもそもどれも採用しないというパターンもありますが、どれか1つを採用するなら倍数・約数の関係にある他の数は自動的に不採用です。
つまり、系列中多くても1つしか採用できないということになります。
と、このように「系列」という考え方を準備しておいて、実際に1~50の数を×2倍の関係に着目して系列に分けてみます。そうすると、26~50の25個を先頭にした25系列ができるはずです。
※49,47等の奇数だと、×2倍の関係にある数がありませんが、それはそれで1個の数のみでの系列としておきます。
ここでやっと、問題で「25個」となっていた意図に気付きます。
1系列につき高々1個しか整数を採用できないので、25系列だと実はギリギリのところになっていて全系列から1個ずつ採用する以外にないということになるのです。
これで、一挙に選択肢を狭めることができました。以降、この系列に基づいて考えていきます。
まず、1個しか整数を含まない系列は、自動的に全部採用が決まります。
これは、27,29,…,49の奇数が該当します。
同時に、それらの約数である1,3,…,15の奇数は不採用となります。
続いて、不採用の数が出たことで、新たに30,26の2系列では、1個しか整数が残りません。なので、ここも自動的に採用が決まります。
※先ほど不採用が決まった数は、図からは既に取り除いています。
同時に、その約数である偶数2,6,10も不採用となります。( 奇数は既に不採用なので偶数のみ着目 )
ついでに4の不採用も決めておきます。6が不採用になったことで、48の系列の残りは全て4の倍数であって、4を採用するとこの系列自体が死んでしまうからです。
これで、14個が採用済みとなり、残り11系列をどうするか、というところまで整理できました。
ということで、残りを個別に見ていくことにします。
- 50,46,44,38,34の5系列
各系列、2個の整数があるのですが、どちらを選んでも他の系列の選択に影響を与えません。
つまり、それぞれ独立で完全に2択として考えて良いということになります。
そのため、ここの部分だけで 通りになります。2^5=32 - 42,28の2系列
他の系列への影響はないのですが、この2系列間で、42が14の3倍という約数・倍数の関係があるため、上の5系列のような完全2択ではありません。
しかし逆に言えば、その(42,14)の組だけ除外すれば済むので、 通りとして計算できます。2^2-1=3 - 48,40,36,32の4系列
この残り4系列の間には、×3倍、×5倍といった約数・倍数の関係があり、それなりに干渉しあいます。そのため、個別に状況を見る必要があります。が、それらの状況を合算すると17通りになることが分かります。- 8を採用する場合
連鎖的に8,12,18,20の採用が決まりますので、この場合は1通りのみです。 - 8不採用、12採用の場合
18は決定しますが、残った32,40の2系列は完全に2択です。そのため 通りです。2^2=4 - 8,12ともに不採用の場合
36,40の2系列が独立していて完全に2択、48,32の2系列は(48,16)のみ除いて3通りです。そのため、 通りです。2^2\times 3=12
- 8を採用する場合
これで各系列の状況が判明しました。
答えは、それぞれの場合の数を掛け合わせ、
おわりに
後半の4問を解説しました。ここに来ると、なかなか考えを整理する部分、難易度が上がってきているのを感じます。( ただし第7問の幾何は…? )
いよいよ残り、最後の2問です。
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