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日本数学オリンピック(JMO)2022年予選解答私的解説 その1

2022/01/17に公開

はじめに

背景

さる2022年1月10日(月,祝)実施された、第32回日本数学オリンピック予選につき、公開された問題を解いてみました。一応全問解けたので、解説を挙げてみようと思います。
予選は全部で12問あり、最初の方が簡単で最後の2問位はかなり難易度が高いです。解説する分量にも偏りが出るので、3回くらいにわけて解説しようと思います。
※ちなみに試験時間は3時間、計算の過程や根拠等は省き答のみを記入する形式で、例年半分の6問正答前後が合格のボーダーラインです。

参考情報

解説

それでは、今回の「その1」では、前半の6問を解説していきます。

第1問

  • 問題: 2022より大きい4桁の3の倍数であって、千の位、百の位、十の位、一の位に現れる数字がちょうど2種類であるようなもののうち、最小のものを求めよ。
  • 答: 2112

まずは第1問です。例年、西暦の数字にちなんだもので、かつそれほど難しくない問題が出る傾向があり、まあボーナス問題と見れば良いと思います。
今回「最小のもの」と言われているので、愚直に小さい方から候補を探していくことにします。

まず「2022より大きい4桁」と言われているので、20XXの形を考えてみます。
ところが、「(各桁に現れる)数字がちょうど2種類」で最大の数が2022なので、「2022より大きい」を満たすことができません。なので、この形は候補から外れます。

では次に小さい21XXの形を考えてみます。
そうすると、「(各桁に現れる)数字がちょうど2種類」なのは2111,2112,2121,2122の4個、この中に「3の倍数」に該当する数として2112,2121が見つかりますので、これで探し終えたことになります。
答えは、この2つの候補のうち小さい方の2112です。

第2問

  • 問題: 辺ADと辺BCが平行であり、角Bと角Cが鋭角であるような台形ABCDに半径3の円が内接している。AB=7, CD=8のとき台形ABCDの面積を求めよ。

  • 答: 45

続いては幾何の問題ですが、これは問題文に図が添付されているのでまだイメージしやすいところでしょう。( 後の問題になると図を自分で描いて考える必要がある )
「内接円」があるので、至る所接線と直交する半径が出てくるのがポイントになるところです。

さて、問題で求められているのは「台形の面積」であり、ご存知の通り「\text{\(\frac 1 2\)}×(上底+下底)×高さ」で計算することができます。このそれぞれの要素について、次のように図を整理することで値を割り出していきます。

まず高さです。これは図の左側の通り、1つの直径が上底AD・下底BCに直交しますから、これがそのまま高さであり、高さ=6と分かります。

次に(上底+下底)です。図の右側のように、円が内接していることで、同色でまとめられている4組分、「斜辺の長さが等しく、もう1つの辺の長さが半径3で等しい、合同な直角三角形」ができることになります。そのため、台形の各辺が図中のa~dで表されるような、長さの等しい組のパーツに分かれます。
ここから、以下の計算で(上底+下底)=15と分かります。

\begin{align*} 上底+下底&=AD+BC \\ ~&=(a+d)+(b+c) \\ ~&=(a+b)+(c+d) \\ ~&=AB+CD \\ ~&=7+8=15 \end{align*}

結局、面積は \text{\(\frac 1 2\)}\times 15\times 6=45 ということで、この45が答えです。
※1/17追記: 別に台形という条件がなくても実は同じ答えになるのですが、まあ折角なので台形の面積の求め方に沿っているということで。

第3問

  • 問題: 正六角形の各頂点にマスA,B,C,D,E,Fがあり、各マスからは隣り合う頂点にあるマスか、向かいあう頂点にあるマスのいずれかに移動できる。マスAから始めて、マスAを途中で訪れることなくそれ以外のマスをちょうど1回ずつ訪れて、マスAに戻ってくるように移動する方法は何通りあるか。
  • 答: 12通り

規模が小さいので、全通り数え上げても十分に間に合います。( 最初Aから3通り、途中のマスからは後戻りできないことを考えると各2通り、全部のマスを巡るので高々48通り )
まあなので、本番であれば不格好でも良いので確実に数え上げることを考えれば良いと思いますが、一応ここでは対称性を活用することでちょっと労力を節約します。

ということで、Aの次のマス、また最後にAにどのマスから戻るかで、次の図のように2通りに場合分けして数え上げます。

まずパターン1です。これは、A\rightarrow B\rightarrow\cdots\rightarrow F\rightarrow Aと、Aの出入りを共に隣接マス移動にするもので、これは1経路を調べれば、経路逆転パターンを併せて2倍の経路を調べたことになります。

さて、肝心の経路ですが、全マス辿る前にFAに戻る経路はN.G.なので、以下のような2経路しかありません。なので、2倍も加味するとこのパターンで4通りになります。

そしてパターン2です。これは、A\rightarrow B\rightarrow\cdots\rightarrow D\rightarrow Aと、Aの出入りに対向マス移動を含めたもので、これは1経路を調べれば、経路逆転・左右反転パターンを併せて4倍の経路を調べたことになります。

こちらのパターンも、同じようにN.G.な経路に気を付けると、先ほどと同じ数の以下の2経路のみとなります。なので、4倍も加味してこのパターンで8通りです。

最終的に、両パターン分足し合わせ、4+8=12で12通りが答えとなります。

第4問

  • 問題: 凸四角形ABCDとその内部の点Pがあり、直線APと直線AD、直線BPと直線CDはそれぞれ直行する。AB=7, AP=3, BP=6, AD=5, CD=10 のとき、三角形ABCの面積を求めよ。
  • 答: \text{\(\frac {245} 6\)}

ここから図無しの幾何となります。問題文を眺めてるだけではなかなかイメージすることも難しいので、いかに重要な特徴が見える図を描けるかが大事なポイントかなと思います。

今回は、直角三角形APDから描き始めて、そこに\triangle ABPをつなげていくのが分かり易いかなと思います。なお、(直交する)BPCDの交点には独自にHという名前を付けています。
あと、問題を解く上で意識する必要はありませんが、\triangle ABPにおいて\angle Pは実は鈍角です。

では、図を描いたところでまず注目すべきところですが、それは2つの直角\angle A, \angle Dです。これにより\square APHD に外接する円があることが分かります。
※これは「向かい合う角の和が180°の四角形には外接する円がある」の典型パターンです。\triangle APD, \triangle HPDの外接円が一致する、と言い換えても良いです。
そうすると、円に内接する四角形の性質として、外角P=\angle D まで分かります。

実はここまで気付けば、もう半分以上解けたも同然です。与えられた長さから、比AP:BP=AD:CD=1:2を見てああ、と。先ほどの\angle P=\angle Dも併せると、なるほど相似かと。
つまり、\triangle ACDは、\triangle ABPを、A中心の90°回転+\text{\(\frac 5 3\)}倍に拡大した相似形になっていることが分かります。

ここでようやく「何を計算するんだったっけ…」と思い出しますと、\triangle ABCの面積でした。

先ほどの相似形の話から、\angle Aが直角(90°回転させた形から)で、ACの長さも\text{\(\frac 5 3\)}倍で分かってますから、後は計算するだけです。
\text{\(\frac 1 2\)}\times 7\times(7\times\text{\(\frac 5 3\)})=\text{\(\frac {245} 6\)} が答えとなります。
振り返ってみると、「四角形に外接する円」から相似に気付ければ瞬殺という問題でした。

第5問

  • 問題: 1以上2022以下の整数の組(m,n)であって、次の条件をみたすものはいくつあるか。
     
     任意の正の整数Nについて、ある非負整数kとあるNより大きい整数dであって、\text{\(\frac {m-k^2} d\)}\text{\(\frac {n+2k} d\)} がともに整数となるものが存在する。
  • 答: 44個

こちらも2022年にちなんだ問題です。が、ただ探せば良かった第1問とは違い、論理を整理していく必要があります。

まずもってN,dがあり「ともに整数となるものが…」とか、このままでは訳が分かりません。
しかし実は、「ともに整数」というのは、「dm-k^2, n+2kの公約数」ということであり、条件全体としては、
 「適切な非負整数kを選べば、幾らでも大きなm-k^2, n+2kの公約数が作れるよ」
ということを言っているに過ぎません。
※これは「任意の数が公約数にできるよ」ではなく「公約数になる数に上限はないよ」という意味なのに注意してください

ということで、公約数と言えばユークリッドの互除法、その手順を参考に攻めていくことにします。
具体的には、gcd(a,b)=gcd(a+xb,b) という変形です。なお、gcd(a,b)は「a,bの最大公約数」のことです。今のままでは k が入ったままで公約数を考えることになり先が見えないので、この変形で消去していこうということです。

まず、次のような g_0, g_1 を定義します。

  • g_0=gcd(m-k^2,n+2k)
  • g_1=gcd(2(m-k^2),n+2k)

後者は、最大公約数を考える数の片方を2倍してるだけなので、明らかに「g_0g_1の約数」です。この後者の式を変形していきます。

\begin{align*} g_1&=gcd(2(m-k^2),n+2k) \\ ~&=gcd(2(m-k^2)+k(n+2k),n+2k) \\ ~&=gcd(2m+nk,n+2k) \end{align*}

まだkが残ってます。なので、もう1つg_2を定義します。

  • g_2=gcd(2(2m+nk),n+2k)

先ほどのg_0, g_1の時と同様、これも片側を2倍して公約数を考えているだけなので、「g_1g_2の約数」です。約数には推移関係がありますから、「g_0g_2の約数」でもあります。
そうしてまた変形を行います。

\begin{align*} g_2&=gcd(2(2m+nk),n+2k) \\ ~&=gcd(2(2m+nk)+(-n)(n+2k),n+2k) \\ ~&=gcd(4m-n^2,n+2k) \end{align*}

これで(gcdを考える数の一方から)kの消えた形を作り出せました。ここまでの条件を整理すると、次のようになります。

  • g_0=gcd(m-k^2,n+2k)
  • g_2=gcd(4m-n^2,n+2k)
  • g_0g_2の約数

さて、g_2に関して、gcdを考える一方の数はkに依存しない、いわば定数です。
ここで 4m-n^2\neq 0だとどうなるでしょうか? (背理法)
その場合、g_2の大きさは\lvert 4m-n^2\rvert を超えることができません。ひいてはg_0の値にも上限ができることになり、最初に整理した「幾らでも大きなm-k^2, n+2kの公約数が作れるよ」という条件が満たせないことになります。
ということで、4m-n^2=0必要条件だと分かります。

この条件は、正整数 t を導入することで、(m,n)=(t^2,2t) と言い換えることができますが、この時逆に「幾らでも大きな公約数が作れるよ」を満たせるか(十分条件か)、吟味してみます。

そうすると、2数を以下のように変形することで、t,kの値に関わらず t+k が公約数となることが分かります。

  • m-k^2=t^2-k^2=(t-k)(t+k)
  • n+2k=2t+2k=2(t+k)

この結果から、tの値に関わらず、適切にkを選ぶことで「幾らでも大きな公約数が作れる」を満たすことは可能です。
ということで、(m,n)=(t^2,2t)必要十分条件であることが分かりました。

最終的には、そのような(m,n)が何個(何組)あるか、が問われています。1\le n,m \le 2022 に注意すると、1\le t\le 44 と分かりますので、答えは44個となります。

第6問

  • 問題: 一辺の長さが1である正三角形のタイルが36枚あり、それらを組み合わせて図のような盤面を作る。このとき●で示されている30個の点を「良い点」とよぶ。

    この盤面において、それぞれのタイルを赤または青のいずれか1色に塗る方法であって、以下の条件をみたすものは何通りあるか。
     
     どの良い点についても、それを頂点にもつタイルのうち、赤で塗られているものと青で塗られているものの枚数が等しい。
     
    ただし、盤面を回転したり裏返したりして一致する塗り方は区別して数える。
  • 答: 68通り

取り敢えず盤面が広すぎて、どう塗るのか最初は皆目見当もつきません。そこでなるべく同じ形のパターンに分割しつつ、選択肢が狭いところから攻めて、周りに視野を広げていくように考えることにします。

ということで、まずは次の図のように、盤面を6つの領域「エリア」に分けてみます。

続いて、1つのエリアに注目し、その外側のタイルの状況を考えます。なぜ外側かと言うと、パネルが2枚しか集まってなくて選択肢が狭いからです。
具体的には次の図の箇所ですが、外側は赤-青-赤か、青-赤-青の2択になるはずです。ついでにこの(エリア外側の状況の)2択に、赤型、青型という名前を付けておきます。

つまり、全てのエリアが赤型、青型どちらかになることは分かりました。
次に考えるのは、それらが隣接した時どのような状況になるかです。ひとまず同じ状況として赤型が隣接した場合を考えます。
※青型同士でも、色が逆なだけで話としては同じになるはずです。

そうするとどうなるか。次の図のような順番で、未定部分のパネルの色 ( 緑色の点に集まるパネルの内黄色網掛けのもの ) を考えることで、両エリアとも赤・青交互にパネルが並ぶことが分かります。

エリアの真ん中の点に6枚パネルが集まっていることから、もともと赤3枚+青3枚になるわけですが、それが赤-青-赤-青-赤-青と並ぶということです。
この交互の状態のエリアには完全交互という名前を付けておきます。
分かったことを一旦整理すると、次のようになります。

  • どのエリアも赤型・青型いずれかになる。
  • 赤型同士、青型同士のエリアが隣接すると、両方共に完全交互になる。

さて。では赤型・青型と違うタイプが隣接した場合。ここまで劇的に状況は決まりません。
なので、次に考えるのは赤型の完全交互に青型が隣接するとどうなるか、という限定された状況です。
※もちろん、赤・青を入れ替えても話としては同じになるはずです。

こちらも先ほどと同様に、順々に未定部分のパネルの色を考えていきます。そうすると、あたかも隣接エリアに感染するかのように、隣接エリアも完全交互となることが分かります。

ということは、赤型・青型が一致してもしなくても、どこかのエリアが完全交互なら全エリアに波及するということです。盤面の状況が非常に分かり易く、かつかなり限定されることがこれで分かりました。
またここまでで、完全交互同士の場合、赤型・青型の組み合わせは問題にならないことも分かっています。つまり、赤型か青型かは完全な2択です。そのため、部分的に何通りあるかもわかってしまいます。

  • 完全交互なエリアがあるパターンは、全エリアが完全交互で赤型・青型の2択であり、2^6=64通り

では残りは、完全交互が全くないパターンを考えれば終わりになります。
このパターンは、次の図のように赤型・青型のエリアが互い違いに並んでいるはずです。

注意が必要なのは、盤面の中央部分の6枚のパネルです。
各エリア赤3枚+青3枚なので、中央部分の色が逆になると、完全交互になってしまい、前提と食い違いが出てしまうため、図のように決定します。

そうすると、12枚のパネルが未定となっているわけですが、しかしこれは1エリア分の2枚のパネル、赤-青/青-赤の2択だけで決まることが分かります。( 詳細は割愛します )

ということで、残りのパターンが何通りあるか、これで分かりました。

  • 完全交互なエリアがないパターンは、エリア1が赤型・青型かの2択と、12枚の未定パネルを決める2択とで、2\times 2=4通り

結局、答えは完全交互あり・なし、両パターン分を足して、64+4=68通りとなります。

おわりに

ということで、前半は比較的難易度が低めの問題が集まっているので、一気に半分を解説しました。ポイントを押さえれば比較的直ぐに答えに辿り着けるのではないでしょうか。
後半については、4問分と2問分に分けて解説していこうと思います。

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