フィードバックを”受ける”技術
フィードバックを”受ける”技術
はじめに
マネジメントなどにおける成長支援の一貫で、フィードバックという行為があります。
フィードバックの中でも「ネガティブフィードバック」、相手に対して耳の痛い話をしなければならない状況には頭を抱えた経験がある方も多いのではないでしょうか。
私自身もフィードバックはとても難しい行為として捉えており、特にフィードバックの成否が「フィードバックする相手に一定依存する」のは悩ましいポイントです。受け手の気持ちはそもそもアンコントローラブルであり、信頼関係も簡単には作れません。
そこで、この記事ではフィードバックを”する”側ではなく、”受ける”側のマインドセットや、それに伴う技術の一片を記しています。日常的に受けるフィードバックに対して「ちょっと苦手だな…」という方が、少しでも前向きに成長支援を受けられるようになることを願っています。
コーチャブルであるかを認知する
フィードバックを受けるにあたって、受け手にはコーチャビリティというものがあります。
「コーチャブルである」とは、「個人がフィードバックや指導を受け入れ、それを自身の成長やスキル向上のために活用する意欲と能力を持っている状態」です。
フィードバックを受けることが苦手な方は、まず自身がどういった状態なのかを一度理解するのはいかがでしょうか。
「成長意欲」と「フィードバックへの抵抗」
フィードバックの目的は「成長支援」であり、コーチャブルの定義は「他者の意見を受け入れ、活用できる状態」です。よって、「成長意欲」と「フィードバックへの抵抗」がキーワードになります。
成長意欲 = 成長欲求 * 成長できる環境
注意したいのが、「成長意欲が低い = 本人だけに問題がある」ということではありません。フィードバックには、「そもそも成長できる業務にアサインできていることが前提」となるため、コンフォートゾーンやパニックゾーンと呼ばれる成長しづらい環境に自身が置かれていないかも知っておく必要があります。
↓の図は「成長欲求」と「成長できる環境」のマトリクスです。まずはこの図の中で右上に近い位置にいるかが大切です。右上以外にいる場合は基本的にはマネージャーに相談する必要があります。
「成長意欲」と「フィードバックへの抵抗」
さらに、↓の図は「成長意欲」と「フィードバックへの抵抗」のマトリクスです。
図を見るとわかる通り、「成長意欲(成長欲求 * 成長できる環境)」と「フィードバックへの抵抗力」によってコーチャビリティは成り立ちます。
自身が図のどのあたりに位置しているかをまずは理解してみてはいかがでしょう。
フィードバックへの抵抗はどこからくるのか?
上の図で下方に位置するのはフィードバックに対して抵抗がある状態です。では、この抵抗心はどこからくるのでしょうか。
固定と成長のマインドセット
フィードバックに限らず、人間には固定と成長のマインドセットが存在します。
- 固定のマインドセット
- 能力は固定的であると考えフィードバックに対しても評価に近いイメージを持つ人です。建設的にフィードバックが行われても自分を否定されているように受け取ってしまいます
- 成長のマインドセット
- 能力や才能は時間をかけて伸ばすことができると考えている人です。フィードバックを前向きに受け止め、次に取り組むべきことを決め、その後またフィードバックを求めます。
当然ながら、後者のほうがフィードバックを受けやすいことは自明です。
認知の歪み
心理学的学説に基づいた認知の歪みというものがあります。歪みは10パターン存在します。
ネガティブフィードバックをされるときにはこうしたバイアスが働いています。認知の歪み自体を認知するだけでも、相手の意見をフラットに傾聴することの手助けになるでしょう。
上の「固定と成長のマインドセット」は、「全か無か思想」や「マイナス化思考」にも近いですね。
認知の歪み | 説明 |
---|---|
全か無かの思想 | グレーがなく物事の全てを白か黒かで認識するという、誤った二極化をすること |
~すべき思考 | 他人に対し、その人が直面しているケース(状況・状態)に関係なく、道徳的に「すべきである」、「しなければならない」と期待すること |
行き過ぎた一般化 | 経験や根拠が不十分なまま早まった一般化を下すこと。 ひとつの事例や、単一の証拠を元に、非常に幅広く一般化した結論を下すこと |
心のフィルター | 選択的抽象化ともされ、物事全体のうち、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまうこと |
マイナス化思考 | 上手くいったら「これはまぐれだ」と思い、上手くいかなかったら「やっぱりそうなんだ」と考える。良い事があったことを無視してしまうばかりか、それを悪い方にすり替えてしまう。 |
結論の飛躍 | 「心の読みすぎ」と「先読みの誤り」の二種類が存在する。「心の読みすぎ」は、他人の行動や非言語的コミュニケーションから、ネガティブな可能性を推測すること。「先読みの誤り」は物事が悪い結果をもたらすと推測すること |
拡大(過小)解釈 | 失敗、弱み、脅威について、実際よりも過大に受け取ったり、一方で成功、強み、チャンスについて実際よりも過小に考える |
感情の理由づけ | 単なる感情のみを根拠として、自分の考えが正しいと結論を下すこと |
レッテル貼り | 行き過ぎた一般化のより深刻なケースである。偶発性・外因性の出来事であるのに、それを誰かの人物像やこれまでの行動に帰属させて、ネガティブなレッテルを張ること |
個人化 | 自分がコントロールできないような結果が起こった時、それを自分の個人的責任として帰属させること |
フィードバックに対する抵抗心に打ち勝つ
では、強力な抵抗心とどのように向き合えば良いのでしょうか。
残念ながら銀の弾丸はありませんが、いくつかプラクティスは存在します。
否定的な自分に反論を行う
フィードバックを受けたとき、上に記載した認知の歪みを思い浮かべて内省を行います。否定的な自分に対して反論ができるようにできれば、今までとは少し違う受け方ができるかもしれません。
例:
- フィードバックの内容
- 「先日の会議のアジェンダが的外れで効率が悪化していた。今後の会議での振る舞いをもう少し是正してほしい」
- 正直に感じたこと
- 「時間がない中でアサインをしてきたのはあなたですよね?」
- 「参加者ももう少し協力的であるべきでは?」
- 「また失敗するだろうな。ああ、なんでいつもこうなんだろう」
- 介在する認知の歪み
- 感情の理由づけ
- ~すべき思考
- マイナス化思考
- 向き直り
- 「参加者からのサポートを得られなかったのは自分の準備が不足していたのもある。もう少し会議の予定を先にずらし、内容を整理してから望めば今回よりは上手にできるかも。この時間を使って会議の内容について上司に相談してみよう」
「誰が言っているのか」と「何を言っているのか」を分ける
フィードバックをする側の人間にはつらい現実ですが、伝える内容がいかに正しくとも、「誰が言っているのか」によって受け取り方は変わります。しかし、フィードバックの受け方によっては一定の信頼関係がなくとも良い時間にすることが可能です。
ネガティブフィードバックを受けるときに、「誰が言っているのか」と「何を言っているのか」を分けてみましょう。フィードバックと個人の感情は別の問題であるはずです。相手へのバイアスをそっと脇に置いて、まず意見を理解しましょう。聞いた上で納得し、実際に行動を変えるかは別で判断すれば良いのです。
おわりに
この記事は、フィードバックに対して「ちょっと苦手だな…」という方が、少しでも前向きに成長支援を受けられるようになることを願って書いています。
一人でも成長はできますが、人の成長は他者からの支援を受けることで加速します。会社によっては評価も近いこの時期、明日からでも使える方法であるため、手助けできていたら幸いです。
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