クラウド導入の戦略(CAF for Azure)
はじめに
Cloud Adoption Framework for Azure(CAF)の「戦略」ステージについて記載します。CAFについては、以前投稿した「CAFってなに?」を参照してください。
クラウド導入戦略とは
CAFの「戦略」では、クラウドを導入する"動機"を明確にし、クラウドによってどんなビジネス成果を達成したいのか"目的"を定義することで、クラウドの導入自体が目的にならないようにします。
例えば、クラウドに移行する動機が「取締役会(またはCIOや経営幹部)からクラウドに移行するように言われた」の場合、こうした企業がクラウド導入で成功することは困難です。
クラウド導入の動機
クラウド導入は「移行」と「革新」の2つがあり、各々で動機があります。重要なビジネスイベントと「移行」、「革新」の動機について下図に示します。
ビジネス成果の定義
クラウド導入の「移行」あるいは「革新」の"動機"を明確にしたら、次にクラウド導入によってどんなビジネス成果を達成したいのか、クラウド導入の"目的"を明確にします。ビジネス成果は主に以下6つに分類されます。
# | ビジネス成果 | 例 |
---|---|---|
1 | 財務成果 | クラウドによる DX を行うことで収益増加を図りたい。 |
2 | 機敏性成果 | 未開拓の市場セグメントに競合他社よりも早く市場参入したい。 |
3 | 到達性成果 | GDPR などデータ主権のコンプライアンスに準拠してデータを保持したい。 |
4 | 顧客エンゲージメントの成果 | データ分析することで、顧客のニーズに合わせたサービス提供、あるいは社内業務の革新を図りたい。 |
5 | パフォーマンス成果 | 災害対策やランサムウェアなどからのデータ保護を強化し、ビジネス継続性への対策を取りたい。 |
6 | 持続可能性の成果 | 二酸化炭素排出量を削減しているクラウドへオンプレミスのシステムを移行することで、持続可能性の目標達成、および健全な企業ブランドを確立する。 |
ビジネス成果の成果指標
クラウド導入によって達成したいビジネス成果の達成率を測定するため、成果指標を策定する必要があります。指標の種類には、"OKR(Objectives and Key Results)"と"KPI(Key Performance Indicator)"があります。企業性質やプロジェクト性質を考慮し、適切と判断した方を採用します。
OKRとKPIについて
OKRでは、目的に対する達成率は60~70%が理想とし、KPIでは達成率100%を目指します。また、OKR は1~3ヶ月の単位で目的を見直しますが、KPIはプロジェクトごとに変動します。OKRは目的管理であるのに対し、KPIは目標に向けた達成度を測るプロセス管理が目的で設定します。
項目 | OKR | KPI |
---|---|---|
意味 | 目的とその達成のための主要な成果 | 主要業績成果指標 |
目的 | 「何を目指すのか」、「どうなりたいのか」の明確化を目的としたフレームワーク | 最終目標達成の過程において、何を達成する必要があるのかを定義 |
理想の達成率 | 60~70% | 100% |
見直し頻度 | 1~3ヶ月 | プロジェクトごとに変動 |
メリット | 組織全体で進むべき方向性を共有できる、業務内容と組織目標を紐づけやすい、失敗を恐れず挑戦する文化醸成 | 進捗の測定、管理に役立つ、業績のモニタリングに役立つ |
デメリット | 関係者全員が共有認識を持たない場合、うまく機能しないケースがある | 数字だけを追ってしまい、本来目指すべき目的を見失うケースがある |
OKRの設定例
OKRは、"1つの目的"と"2~5個の重要な結果指標"で構成します。設定した複数の結果指標が平均60~70%達成できるよう設定します。「財務成果」におけるOKRの設定例を以下に示します。
- 目的(Objectives)
クラウドによる DX を行うことで収益を倍増する - 重要な結果指標(Key Results)
1.年間新規ユーザー1万人
2.年間10億円の売上
3.業務工数30%削減
KPIの設定例
KPIは、"事業成功の鍵を数値目標で表した指標"です。KPIを設定するには、KGI(key Goal Indicator)とCSF(Critical Success Factor)を定義する必要があります。なお、重要な鍵は1つのため、1つの数値目標を設定して100%達成を目指します。KPIの設定例を以下に示します。
KGI | CSF | KPI |
---|---|---|
年間売上100億円 | 提案数(CSF) × 受注率 × 平均製品単価 | 年間提案数 1万件 |
経営層によるリーダーシップ
クラウド導入の戦略は、経営層が率先してクラウド導入による革新を推進し、利害関係者やキーマンを巻き込み、会議を繰り返してビジョンを定め、それを支持し実践する従業員には褒賞を与えるなど、組織全体で意識を合わせる必要があります。
そのためにも、OKRやKPIによって目的/目標を定め、達成率を測定する仕組みが必要となります。
おわりに
CAF for Azureの「戦略」は、まさにDXコンサルのメソッドです。DXしないといけないからICTツールを導入する、といったDX失敗例と同様、クラウド導入しないといけないからクラウドを導入する、といった目的のない、戦略のないデジタル変革は成功しません。
「戦略」はかなりのボリュームで読み解くのが難しいですが、全体像を理解して、必要なときに辞書のようにして詳細を読み参考にする、といった使い方が良いかと思います。
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