🎤

はじめての障害当事者インタビュー ―聴覚障害者編―

2023/12/05に公開

この記事はアクセシビリティ Advent Calendar 2023 4日目の記事です。


こんにちは、株式会社ヤマップの齋藤ヒデです。

この度、ヤマップでは「アクセシビリティリサーチチーム」と称して、アクセシビリティ上の課題を発見し改善提案を行うチームを立ち上げました。アクセシビリティ上の本質的な課題を考える上で欠かせない当事者の声を拾い上げ、改善につなげることを主な目的としています。

先日、その活動の第一弾として聴覚障害当事者へのユーザーインタビューを実施しました。本稿ではその企画から実施までの段取り、得られたノウハウをご紹介できればと思います。

インタビュー実施の背景

アクセシビリティの普及推進を進める中で、その対象となるユーザーとの関わりのなさがネックになることは当初から分かっていました。当事者と関われば誰もが「自分ごと化」できるわけではありませんが、少なくとも自分の取り組みが誰に届くのかがイメージできない状況では施策の精度やモチベーションを保つことはなかなか難しくなってきます。これはアクセシビリティに限らずプロダクト開発一般について言えることだと思います。

さらに、YAMAP ではご自身の障害をユーザープロフィールに記載している方も多いのですが、そういったユーザーさんに取り立てて関心を寄せてこなかったという現実があります。

「障害」の検索結果 | ユーザー検索 | YAMAP / ヤマップ

ヤマップでは 地球とつながるよろこび。 というパーパスを掲げていますが、これは文字通りすべての人を包摂する概念です(と解釈しています、個人的に…)。であるならば、これも文字通り「誰一人」排除してはならないことになります。まずは「ほとんどない」ことにされているそういった方々の存在を可視化し、私たちのユーザーであることを社内に認識してもらうことが重要であると考え、インタビューを実施することにしました。

対象者のリクルーティングについて

今回はたまたま弊社メンバーに聴覚障害のあるユーザーさんとのつながりがあったため、リクルーティングについて問題になることはありませんでした。

ユーザーリサーチにおける対象者のリクルーティング一般については他の資料に譲りますが、特に障害当事者を対象とする場合は全国の障害者連盟に協力を仰ぐという方法もある、ということを手話通訳者の方から伺いました。企業単独で障害当事者のリクルーティングを行うハードルは高いため、ヤマップでも今後検討したいと考えています。

障害者連盟の例

対象者との調整事項

対象者にインタビューを承諾頂いたら、実施の詳細について調整を行います。日時や謝礼といった一般的な内容に加えて、特に配慮が必要なことがないかを伺います。聴覚障害者の方であれば手話通訳が必要かどうかを必ず伺います。

手話通訳者の手配

今回は難聴者の方で手話通訳を希望されたため、手話通訳者の手配を行うことになりました。まずは自分の住む都道府県に手話通訳者を派遣してくれる事業所があるかどうかを調べます。

今回は東京と福岡を結んでのオンラインインタビューとなったため、筆者の住む東京の東京手話通訳等派遣センター(以下、センター)に依頼しました。

費用について

費用ページに明確に記載されています。オンライン通訳の場合、その参加者数や録画による二次利用の有無等によって料金が変動します。今回は録画はするものの、あくまで社内利用に限るという内容だったため、追加のフィーは特に発生しませんでした。

依頼方法について

基本的には HP の申し込みフォームから依頼すれば後日メールで返信があります。
依頼に当たっては以下のような留意事項があります。

センターを繋ぐ形でのオンライン通訳はできない

センターにはオンライン通訳に対応するための設備等がないため、リモート通訳のようなことはできません。

会場や機材等はすべてこちらで用意する必要がある

センターではオンライン通訳に際する設備の手配等は行っていないため、必要な機材や環境等はすべてこちらで用意する必要があります。

依頼者側から最低1名が帯同する必要がある

通訳の開始から終了まで、依頼者側から最低でも1名の担当者が帯同する必要があります。

通訳内容の事前提供

スムーズな通訳を行うため、当日使用する資料等があれば事前に共有しておくことが望ましいです。インタビューであれば、例えば以下のような項目が挙げられます。

  • 参加者の氏名、読み方
  • 会話中に出現し得るテクニカルターム
  • 質問リスト

上記に加えて、当日投影するスライドも共有しました。資料が詳細であればあるほど通訳の精度が高くなります。もっとも遅くても前日までには共有するのがベターです。

インタビュー当日

インタビュー当日の留意事項や環境、流れ等についてです。

留意事項

事前に以下の点に留意して頂くようメンバーにアナウンスしました。

  • 特別な事情がある場合を除き、マスクの着用はしないこと
  • 口元が映るような画角を確保すること
  • 手で口元を覆うような仕草は極力避けること
  • 発言を希望する際は Zoom の挙手機能や物理的な挙手で視覚的に分かるようにすること
  • 過度に障害を意識せず、純粋に人同士のコミュニケーションを楽しむこと

聴覚障害者にとって口の動きは重要な情報源となるため、はっきりと画面に映るようにして頂くことをお願いしました。また、障害を過度にセンシティブのものとして捉えてほしくなかったため、その点は特に強調してお伝えしました。

環境

当日は以下のような環境を用意しました。

  • 司会者(自分)用の PC
  • 手話通訳用 PC x 2(メイン + バックアップ用)
  • 音声の外部出力用のスピーカー
  • Zoom(手話通訳ビューを使用)

一定時間以上の手話通訳は通訳者の負担軽減のために2名以上の体制となることに注意が必要です。念のため別々の PC からそれぞれ参加できるようセットアップを行っていましたが、今回は1台の PC を交代でご利用頂く形になりました。

オンライン通訳にあたっては上半身がまんべんなく画面に収まる画角を確保することが重要になるのですが、今回 PC の高さ調節ができるような用意をしていなかったことが反省点です。下の写真ではホワイトボードのイレーザーを急ごしらえのスタンドにしている様子が分かると思いますが、これは通訳者の方が機転を利かせてくださったものです。

会議室のテーブルに置かれたPCに向かって2人の手話通訳者が並んでいる様子
当日の実施場所である弊社会議室の様子。汚くてすいません。

「Zoom の手話通訳ビュー」はご存知ない方も多いのではないでしょうか。僕も今回のインタビューを実施するにあたり初めて知ったのですが、リモート環境で手話通訳を使用したインタビューを行う際の選択肢としては現状これ一択と言っても過言ではありません。利用方法はやや煩雑なため、以下の記事を参考にされてください。

オンライン手話通訳のための Zoom の設定と Tips | Zenn

Zoom画面のスクリーンショット。上部に参加者のビュー、右端に手話通訳者のビューが表示されている
インタビュー中の Zoom 画面。手話通訳者用のビューがフローティングウインドウで表示されている。

インタビューの流れ

詳しい内容を掲載することはできませんが、おおむね以下のような流れで約1時間30分程度のインタビューとなりました。

  • アイスブレイク
    • メンバーからの自己紹介
    • ユーザーさんからの自己紹介
  • サービスに関する一般的な質問
  • 障害に関する質問
    • サービスの利用にあたっての困りごと
    • サービス以外に山で感じる困りごと
  • ご意見・ご要望等ざっくばらんに

手話通訳者の方々からのフィードバック

終了後、手話通訳者の方々から以下のようなフィードバックを頂きました。

  • なるべく具体的な表現を使って話すとよい
  • 漠然とした質問内容は避けたほうがよい
  • 話す速度は特に気にしなくてよい

こうして見ると基本的に非母国語話者と音声言語でコミュニケートする際に気をつけるべきことと何ら変わらないことに気付き、手話がひとつの言語であることを再認識させられます。曖昧な表現を避けて具体的な内容を訊くことで通訳の精度が上がり、結果としてインタビューの成果が最大化されるという点は強く意識していきたいところです。

ふりかえり

後日参加メンバーで行ったふりかえりでは以下のような感想が出ました。

  • 障害当事者へのインタビューのハードルがすごく下がったと感じた
  • 非障害者のユーザーにインタビューするのと同じ感覚だった
  • 当たり前だけどみんな同じ人間なんだなという気づきがあった
  • 対象ユーザーの存在を身近に感じるきっかけになった

実は今回、「障害があっても自分たちと何ら変わらない一人の人間であること」を感じてもらうという裏の目的がありました。インタビューの成果が出せたことはもちろんですが、その目的がしっかりと達成できたことが何より嬉しいことでした。

また、ご協力頂いたユーザーさんからも「愛用しているサービスの中の人と自分の障害について話すことができて嬉しかった」という大変ありがたい感想を頂きました。

まとめ

反省点や改善すべき点は多くありますが、誰もアクセシビリティの話をしていなかった1年前からここまで辿り着けたことに単純に喜びを感じています。プロダクトが改善されて初めて成果となるという点は意識しつつも、まず当事者の声を拾い上げ、可視化するという入り口に立ったことの意義は大きいはずです。これを第一歩として、今後も継続的にインタビューをはじめとしたアクセシビリティリサーチを実施していきたいと思います。

YAMAP テックブログ

Discussion