ソースコードを公開したソフトウェアで収益を得ている会社
ソースコードを公開したソフトウェアで収益を得ている会社をまとめる。いわゆる「オープンソースソフトウェア(OSS)」という有名な言葉を使わなかったのは、OSS の定義に当てはまらない、またはその可能性があるものが含まれているため。
この記事では "OSS" の定義に当てはまらないものも含め、主要な事業を構成するソフトウェアを一定のライセンスの下で公開している会社をまとめていく。このようにソースコードを公開して利用者やフィードバックを集めるビジネスモデルは open core
とか COSS: Commercial Open Source Software
と呼ばれているようだ。
企業が「ソースコードが公開されているソフトウェア」を利用するメリットとしては、主に以下の2つがあると考えられる。
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コア機能の開発に集中できる
- 自社のビジネスの核となるソフトウェアの開発に集中し、それ以外の機能的・非機能的要件を「ソースコードが公開されているソフトウェア」で補うことができる
- ソースコードが一定のライセンスで公開されている場合はバグや新機能のフィードバックが upstream で行われるので、その分だけ自社で投下するリソースが少なくて済む
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自社でカスタマイズできる
- 導入したソフトウェアについてバグなど何か問題があれば、ソースコードは公開されているため(ライセンスを守れば)自社で修正ができる
- 有名なソフトウェアであれば、その経験者を採用することも期待できる
「ソースコードを公開する」側の開発企業はこれに応じ、以下の方法を組み合わせて収益をあげていることが多い。
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追加機能を備えた有償版とサポートを提供する
- GitLab, HashiCorp, Red Hat など
- エンタープライズ向けにセキュリティや権限周りの機能を追加したり、無償・有償機能のサポートをしたり
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マネージドサービス
- Redis, MongoDB など
- 一部のクラウドベンダーと競争関係にある場合、ライセンスで対抗することが多い
注意
以下、数字を表す単位として
- 1M = 1 million = 1,000,000
- 1B = 1 billion = 1,000,000,000
とする。
GitLab
Git を通じた開発を end-to-end で支援するソフトウェアを MIT ライセンスで公開している。
普通に使うと Self-managed 版 GitHub だが、エンタープライズ向けの機能が充実しており大企業や public sector でよく使われている。
主な収益源は追加機能を備えた EE(Enterprise Edition) のライセンス収入とサポートで、最近は SaaS 事業が伸びてきているようだ。
FY2021/1 の売上は $152M で、前年比 +87.3% の急成長をしている。時価総額は本記事の公開時点でおよそ $14B で、2018年にマイクロソフトが GitHub を買った時の買収額は $7.5B だったことからそれだけ GitLab への期待が大きいことが分かる。
- Community EditionとEnterprise Editionの違い
- GitLab vs. GitHub
- What to consider with an open source business model
- GitLab が上場するので Form S-1 を読んだ話
HashiCorp
ソフトウェアを動かすインフラ構成や運用を自動化するためのソフトウェアを提供している。Vagrant のみ MIT ライセンスで、その他は MPL-2.0 ライセンスで公開されている。
主な収益源は追加機能を備えた Terraform / Vault 有償版のライセンス収入とサポートで、最近は HashiCorp Cloud Platform というマネージドサービスが伸びてきているようだ。
FY2021/1 の売上は $212M で YoY+75% の急成長をしている。上場申請済みで、時価総額は $10B に達すると見込まれている。
Vercel
Vercel というホスティングサービスを提供している。
React アプリに直感的なページルーティングや良い感じの SSR/SSG/ISR を追加してくれる Next.js というフレームワークを MIT ライセンスで公開している。Vercel は Next.js アプリのパフォーマンスを引き出すために便利な機能が多い。
直近のシリーズDでの資金調達時のリリースによると、 Next.js のダウンロードは週間200万件を超えており、 Vercel Edge Network のトラフィックは2020年4月のシリーズA以降+700%以上増加しているらしい。
財務情報は公開されていないが、主な収益源は自社が運営する Vercel の利用料と考えられる。2021年6月に $1.1B の valuation で $102M の資金を調達し、2021年11月に $2.5B の valuation で $150M の資金を調達した。
- Vercel raises $102M Series C for its front-end development platform
- Announcing $150M to build the end-to-end platform for the modern Web
- The Future of React & Next.js – The Web’s SDK (Keynote, Next.js Conf October 2021)
Grafana Labs
サーバーの CPU やメモリ、 HTTP リクエスト/レスポンス等の統計情報を可視化するためのダッシュボードを AGPL-3.0 ライセンスで提供している。以前は Apache-2.0 で提供されていた。
財務情報は公開されていないが、主な収益源は追加機能を備えたマネージドサービス Grafana Cloud や、より可用性・機密性の高い Grafana Enterprise Stack の利用料、さらにエキスパートによるサポート料金と考えられる。
2021年8月に $3B の valuation で $220M の資金を調達した。
- Grafana, Loki, and Tempo will be relicensed to AGPLv3
- Grafana Labs Raises $220M to Accelerate Global Adoption and Development of Open Source Visualization and Observability Platform
Redis
Redis というインメモリ型の NoSQL データベースを 3-Clause-BSD ライセンスで提供している。
一般的にインメモリ型の DBMS はデータを主にメモリ上で取り扱いディスクへのアクセスを減らすため、ディスクベースの DBMS と比較して性能面で優れていることが多い(ただし、永続化されるまでにクラッシュやハードウェア障害などが起きるとデータが吹き飛ぶかもしれない)。
財務情報は公開されていないが、シリーズG調達時のプレスリリースによると2021年1月期までの3年間で売上が年平均+54%成長し顧客は8,000社以上で Net Retention Rate が120%以上という数字が発表されているので、事業は順調らしい。
主な収益源はマネージドサービスの Redis Enterprise Cloud の利用料や、エンタープライズ向けの追加機能を備えた Redis Enterprise Software のライセンス料およびサポート収入と考えられる。
2021年4月に $2B の valuation で $110M の資金を調達した。この後8月に社名が Redis Labs から Redis に変わった。
- Redis Labs Raises $110 Million Led by Tiger Global Management
- Redis Labs Becomes, Simply, Redis
- Redis Licensing Overview
Elastic
検索エンジン Elasticsearch とログのモニタリング、視覚化、調査ツールである Kibana を SSPL と Elastic License-2.0 のデュアルライセンスという独特な方法で提供している。以前は Apache-2.0 で提供されていたが、 Amazon Elasticsearch Service への対抗策としてライセンスを変更した。
主な収益源はマネージドサービスである Elastic Cloud の利用料や、エンタープライズ向けの追加機能を Self-managed 環境で顧客が運用する場合のライセンス料及びサポート・メンテナンス費用であり、FY2021/4 の売上は $608M で YoY+40% 以上の成長を続けている。
Elastic CLoud は FY2021 で総売上の 27% を占めているが、2年前の FY2019 は売上の 17% なので大きく成長している。
本記事公開時点の時価総額はおよそ $14B で、 GitLab 社とほぼ同じ。
Automattic
WordPress という Content management system(CMS)とそれをホスティングするサービスを開発している。世界の Web サイトの約 40% が WordPress 製と言われている。WordPress は GPL v2 で公開されている。
財務情報は公開されていないが、主要な収益源は WordPress のマネージドサービスである WordPress.com、エンタープライズ向けのサービスである WPVIP、および WordPress で EC サイトを構築するプラグインである WooCommerce のマネージドサービスである WooCommerce.com の利用料と考えられる。
2021年2月に $288M の資金を調達した。評価額は $7.5B。この会社の資本政策(?)は特徴的で、直近10年全ての資金調達を普通株で行っており、議決権は全て創業者に委ねられている。また、全ての株主が四半期ごとにその時点の評価額で会社に株を売ることができる。
- Usage statistics of content management systems
- Automattic: Funding, Buyback, and Hiring
- Make WordPress
- WordPress の歴史
Automattic 社は WordPress を商業化するために WordPress の Founder が作った会社であり、 WordPress そのものは Automattic が作ったソフトウェアではない(hidetaka okamoto さんご指摘ありがとうございます)。
下記の文章を automattic.com: Press より引用します。
Automattic owns and operates WordPress.com, which is a hosted version of the open source WordPress software with added features for security, speed and support. Please append “.com” when referencing our product name.
WordPress is open source software, which is written, maintained, and supported by thousands of independent contributors worldwide. Automattic is a major contributor to the WordPress open source project. If you would like to contribute to the WordPress open source project, learn more at make.wordpress.org.
Docker
Docker という、ソフトウェアを「コンテナ」と呼ばれるパッケージにまとめる(仮想化する)ためのソフトウェアを Apache-2.0 ライセンスで公開している。
Docker 社はこの技術を収益化するための Enterprise 向け事業を運営していたが Kubernetes の公開と普及によってコンテナ技術それ自体の商業化がうまくいかず、2019年11月に Mirantis 社に売却した(金額非公開)。
その後リストラや経営陣の何度かの交代を経て、現在はコンテナ技術を利用する Developer 向けに開発ツール(Docker Hub および Docker Desktop)を売る会社になっている。2021年3月に $23M の資金を調達した。valuation は非公開だが、2015年4月の資金調達時は $1B と見られていた。
- Docker Advances the Software Containerization Movement with Two New Collaborative Projects
- TechCrunch: Mirantis acquires Docker Enterprise
- Docker Raises $23 Million to Capitalize on Accelerating Demand for Modern Apps and to Increase Developer Velocity
- Publickey: Dockerコンテナ時代の第一章の終わり、そして第二章の展望など
- Docker Products
MongoDB
MongoDB というクロスプラットフォームのドキュメント指向データベースを Server Side Public License(SSPL) で公開している。以前は AGPL v3 で公開されていた。
ドキュメント指向データベースは一般的なリレーショナルデータベースと比較してスキーマの制約が緩く、アプリケーションのデータモデルを柔軟に表現できるという特徴がある。リレーショナルデータベースと相対的に比較して「スキーマレス」と言われることがあるが、スキーマが無いわけではない。一方で、リレーションの概念がなく JOIN もできないのでデータ同士の関係の整合性を保つことが難しいケースもありそうだ(それで困るようなケースではそもそも採用されないだろうが...)。
FY2021/1 の売上は $590M で、 YoY+40% 成長している。主要な収益源はマネージドサービスの MongoDB Atlas と有償機能・サポートを含んだ MongoDB Enterprise Advanced の売上で、 FY2021/1 では Atlas が全売上の 46%、Enterprise Advanced が 43% を占めている。2年前の FY2019/1 では Atlas が 23% で Enterprise Advanced が 56% だったので、収益源が急速にマネージドサービスに移行しているようだ。
時価総額は本記事公開時点で約 $34B で、本記事内の会社ではほぼ最大。
- MongoDB SEC Filings
- MongoDB Licensing
- MongoDB Issues New Server Side Public License for MongoDB Community Server
Confluent
Apache Kafka という Apache-2.0 で公開されている分散メッセージキューのソフトウェアを使った製品を提供している。Confluent は Apache Kafka の開発者が集まって設立した会社。
Kafka が有用なケースとしては、複数の分散したサービス間で大量のデータを受け渡したり、大量のセンサーから生成したデータをリアルタイムで処理する際のバッファとして使う等が挙げられる。
FY2020/12 の売上は $237M で、 YoY+58% 成長している。開示によると主要な収益源は Apache Kafka を運用・管理するためのソフトウェアの Subscription で、収益の 88% を占めている。
Subscription 収益にはマネージドサービスである Confluent Cloud と企業向けの Self-managed のソフトウェアとして提供される Confluent Platform が含まれている。 FY2020/12 の売上ベースでは Confluent Platform が Subscription 収益の 85% (つまり収益全体の 75% 程度)を占めている。 FY2019/12 では Subscription 収益に対する Confluent Platform の収益割合は 89% だったので、 Confluent Cloud の方が伸びているようだ。
2021年6月に上場し、時価総額は本記事公開時点で $21B。Form S-1 によると顧客数 2,500+, ARR $100K 以上の顧客数が 560+, ARR $1M 以上の顧客数が 60 とのことなので、顧客はそれなりに大きな会社が多そうだ。
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Confluent Form S-1
- 86 ページの ARR Contribution by Cohort がすごい
- YouTube: What is Apache Kafka®? (A Confluent Lightboard by Tim Berglund) + ksqlDB
- License Changes for Confluent Platform
- Confluent Community License FAQ
- Qiita: Apache Kafka の概要とアーキテクチャ
Red Hat
Linux ディストリビューションである Red Hat Enterprise Linux を公開している。
2019年7月に IBM に $34B で買収された。買収される直前期である FY2019/2 の売上は $3.3B。
主な収益源は Subscription で、これにはサポート、セキュリティアップデートや機能拡張、認定ハードウェア・ソフトウェアとの互換性保証、 Red Hat が提供する OSS に関する知的財産侵害訴訟に対する支援などの提供が含まれている。
FY2019/2 で Subscription 売上の 63.4% は Red Hat Enterprise Linux 及びその関連の売上であり、 24.3% が Red Hat OpenShift, Red Hat Ansible Automation Platform, Red Hat OpenStack Platform などの新興製品によるもので、残り 12.3% はトレーニングやコンサルティングによる収入だった。
Canonical
Linux ディストリビューションである Ubuntu を公開している。
主な収益源は Red Hat と同様、エンタープライズ向けのサポートや有償ライセンスの Subscription と考えられる。
同社は上場企業ではないが、英国の Companies Act に基づき毎年 Group of companies' accounts という財務報告資料を Companies House という役所に提出している。
これによると、 FY2020/12 の売上は $141M で、 YoY+16% 成長している。営業利益は $5.3M で、従業員数は平均 441 人(福利厚生含めた役員除く人件費が $66M なので、実質的な平均年収は一人当たり $150K くらい)。
MariaDB
MariaDB という MySQL から fork したリレーショナルデータベースを GPL v2.0 で公開している。一部のプラグインは BSL という一定期間で GPL v2.0 (またはそれ以降)となる独特なライセンスで公開されている。
MariaDB の開発者は MySQL の創始者の一人である Michael Widenius で、2009年4月に MySQL (を買収した Sun Microsystems)が Oracle に買収されたことを懸念して fork した。ちなみに Maria という名前は彼の娘の名前で、実は2007年頃から MySQL 6.0 で使われる予定のストレージエンジンとして "Maria" を開発していたらしい(MariaDB との関連は調べてません)。
財務情報は公開されていないが、主要な収益源は MariaDB Enterprise, MariaDB Cloud(SkySQL) 及び有償サポートであると考えられる。
2020年7月に $25M の資金を調達した。調達総額は $125M で、評価額は非公開だが €600M と見られている。
- Applying the Business Source Licensing (BSL)
- Introducing MaxScale 2.0 Beta Release
- MariaDB Business Source License Frequently Asked Questions
- MariaDB Announces $25 Million Funding Round to Scale SkySQL Operations
Cockroach Labs
CockroachDB という凄い名前の分散 SQL データベースを BSL で公開している。
地球規模で多数のサーバーにデータを分散しつつ(ACID 特性をサポートして)データ間の整合性を保つことで、強力なスケーラビリティと耐障害性を実現している。
財務情報は公開されていないが、主要な収益源はエンタープライズ向けの有償機能及びサポートとマネージドサービスである CockroachCloud の利用料と考えられる。2021年1月に $2B の valuation で $160M の資金を調達した。
- YouTube: The architecture of a Distributed SQL Database
- TechCrunch: Cockroach Labs scores $160M Series E on $2B valuation
- Qiita: 2020年現在の NewSQL について
Yugabyte
CockroachDB と同様に分散 SQL データベースを Apache-2.0 と Polyform Free Trial License 1.0.0. で公開している。
財務情報は公開されていないが、 CockroachDB と同様に有償機能、サポート、マネージドサービスで収益をあげていると考えられる。2021年10月に $1.3B の valuation で $188M の資金を調達した。
- What is Distributed SQL
- Yugabyte Raises $188 Million Series C to Make Distributed SQL Ubiquitous
- YugabyteDB vs CockroachDB
- OSS ライセンスの最近の潮流: PolyForm License について
Apollo
Apollo Server という GraphQL サーバーの実装と、その API をクライアントから呼んだりアプリケーションの状態管理をするのに便利な Apollo Client を MIT ライセンスで公開している。
GraphQL の実装を複数のバックエンドサービスに分割して統一的なインターフェースでデータを取得するための Federation というソフトウェアもあり、こちらは Elastic License-2.0 で公開されている(一部は MIT)。
財務情報は公開されていないが、主要な収益源は Apollo Client/Server/Federation を利用した開発を行うための開発者ツールである Apollo Studio の有償機能および Studio/Server/Client/Federation 各製品のサポートと考えられる。2021年8月に $1.5B の valuation で $130M を調達した。
Prisma
Prisma という TypeScript Friendly な ORM を Apache-2.0 で公開している。
主な収益源は Prisma Enterprise と Prisma Data Platform のようだ。
2020年6月にシリーズAで $12M の資金を調達した。毎日のように TypeScript で別の ORM を使っている人間としてはとても期待しているので頑張ってほしい。ちなみに Vercel や Cockroach Labs の CEO が出資している。
- Prisma Raises $12M to Build the Next Generation of Database Tools
- What is Prisma?
- Zenn: Prisma: Node.js & TypeScript向けの完璧なORM
JetBrains
IntelliJ IDEA という JVM 上で動作するプログラミング言語の IDE (の Community Edition)を Apache-2.0 で公開している。
また、 Kotlin を Apache-2.0 で公開している。Android 開発に使われることが多いが、モダンな機能や Java の資産を活かしてサーバーサイドの開発に採用されることもある。
主な収益源は IntelliJ IDEA や GoLand, PyCharm など IDE 製品群の有償版ライセンスの販売と考えられる。また、 JetBrains Space という CI/CD, Document, ToDo リスト, パッケージレジストリ等を備えたチーム開発ツールも販売している。
2020年の Annual Highlights によると、同社のツールを利用するユニーク active user 数は 10.1M 人だそうだ。
Equity での資金調達や株式上場は(知られている限り)行っていないが、 CEO である Shafirov 氏への Bloomberg のインタビューによると、2020年は税引前利益が $200M で、これは前年から 10% 以上増加する見込みとのこと。また、 JetBrains の user は約 20% が有料顧客らしい。
- Space is Here
- JetBrains Annual Highlights 2020
- Bloomberg: Czech Startup Founders Turn Billionaires Without VC Help
最近できた会社
seed, early stage での投資家として有名な Y Combinator が幾つか「ソースコードを公開している」会社に投資していたので挙げてみた。
Expo
React Native でモバイルアプリや Web アプリを作るための便利なツールやワークフローを備えた SDK を MIT ライセンスで公開している。
最近は EAS という新しいサービスを始めており、 Expo 製アプリをクラウド上でビルド、署名して配布できたりアプリストアにそのまま提出できたりする。
PostHog
ユーザーが製品をどのように使用しているか示すデータを閲覧・分析するためのトラッキングツールを MIT ライセンス(と PostHog Enterprise License という独自ライセンス)で公開している。
行動データの可視化やセッションの録画、結果を SQL で分析したりできる。余談だが、従業員向けの Handbook がとても充実しておりビジネスモデルが解説されていたりする。ソースコードだけでなく会社運営もオープンだ。
Chatwoot
ZenDesk や Intercom のようなカスタマーサポートのソフトウェアを OSS として MIT ライセンスで公開している。
元々は OSS ではなく、2017年に最初の製品をリリースした。その後解約が多すぎて開発者のモチベーションがなくなり結局は事業を畳んだのだが、2年ほど経って GDPR 等でカスタマーサポートソフトウェアのセルフホストの需要が高まったのを機に、ライブチャット機能を追加して OSS として公開することにしたらしい(History of Chatwoot)。会社自体は2020年に登記されたのでまだ1年くらいしか経っていない。
Papercups
カスタマーサポート用のライブチャットアプリを MIT ライセンスで公開している。Elixir で書かれている。
こちらは Chatwoot と違って何かに組み込んで使われることを想定しているようで、 Slack から SMS やメールの返信ができたり React/React Native のコンポーネントや Flutter のウィジェットとしてライブチャットを埋め込んだりできる。
SigNoz
Datadog のような APM を MIT ライセンスで公開している。
Prometheus と Jaeger を足してシームレスに使えるようなソフトウェアを目指しているらしい。
Iteration
Bazel というビルドツールの remote cache や log viewer を MIT ライセンス(と BuildBuddy Enterprise License という独自ライセンス)で公開している。
Elastic 社が公開している Kibana の開発で使われているらしい。
Supabase
supabase という Open source 版の Firebase を Apache-2.0 で公開している。
アルファ版(v0.0.4)が公開されたのは2020年7月だが、そこから1年ちょっとで GitHub のスターが 24.5K と物凄い勢いを感じる。
最後に
いかがでしたか?ソフトウェアの価値はユーザーが決めるものであり投資家が決めることではありませんが、ここまでソースコードを公開している会社にたくさん投資が集まって市場から評価されるというのは OSS の将来にとって良いことではないでしょうか。
本記事内の誤りや「この素晴らしい会社を忘れてるよ!」というご指摘があれば、コメント等でいただけるとありがたいです。
Discussion
ほかの有名なところだとIntelliJ IDEA CommunityとPyCharm CommunityがOSSでそれぞれの有料版と前者の別言語用IDEを作ってるJetBrainsなんかも該当しますよね。
コメントありがとうございます!JetBrains を追記しました。
OSSではないが積極的にソースコードを公開してる事例、ゲームエンジンのUnreal Engineも当てはまるかなと思います
ありがとうございます!名前はかろうじて知っていたのですが、(ソースコードを公開していることも Fortnite の会社がこれを作ってることも)知りませんでした。
開発されたゲームが総収益 $1M を超えた後、それを除く総収益の5%を支払うという収益モデルが興味深いですね。
この中にはないもので,NginxやInfluxDBも思いつきました.
ありがとうございます!確かに Nginx もそうでした。
2019年に F5 Networks という会社が $670M で買ったんですね。買収の9ヶ月前に $103M の評価額で $43M の資金を調達しているので、9ヶ月で評価が6倍になっています。
買収時の資産の開示を見る限りでは Nginx 社はお金に困ってなさそうですが、一方の F5 Networks 社は数年ひと桁%の成長なので、成長する事業(Nginx の追加機能や有償サポート)が欲しくてたくさんお金を積んだということみたいですね。
時系列データベースの InfluxDB を開発している InfluxData 社、収益源はマネージドサービスの InfluxDB Cloud と InfluxD Enterprise で、2019年2月にシリーズDで $60M の資金を調達してますね。
時系列データベース全く分からないのですが興味あるので勉強させていただきます!
Canonical(Ubuntu)を Red Hat の次に追記した。
WordPressはAutomatticがリリースしているプロダクトではありません・・・
Automatticはあくまで、WordPressを作った人が創業者なだけの、1WordPressホスティング企業です。
コミュニティの中でも時々誤解される事柄ですので、お手数ですが訂正お願いします。
ご指摘ありがとうございます!
その趣旨に沿うと、Confluent も同じですね(Apache Kafka を LinkedIn 等で作っていたメンバーが創業した企業だが、 Confluent 社が Apache Kafka を作ったわけではない)。両者ともその旨の記述を追加しておきます。
自然言語処理向けのライブラリである spaCy の開発元である Explosion も候補に入るでしょうか?自然言語処理好きからすると、自然言語処理で、オープンソースを軸に飯を食べているように見えて、非常に憧れる会社の一つです。
おお、こんな会社があったんですね。教えていただきありがとうございます!
2021年9月に $120M の評価額で $6M の資金を調達したようです。調達時の会社の発表がなかなか興味深いですね。
baserCMS / catchup も入れていただけるとー
コメントありがとうございます。日本にも OSS で収益をあげている会社があるので、別の機会にまとめようと思います!
インフラ方面だと監視ツールのZabbixとかよく聞きますね。